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番外編5 こぼれ話
10 クリスマスメニューの相談
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「クリスマスディナー、どんなメニューにしようかな」
マリアンヌが眠ったのを見届けた後、レンは寝室をそうっと出、キッチンでホットコーヒーを二つ淹れてサンルームに向かった。
午後十時。秋の夜は冷える。サンルームにはストーブを置き、椅子の下には絨毯を敷いてある。おかげで足元はあたたかい。
一人がけの椅子にかけながら星空を眺めていたルイスは、思いつくままに言った。
「クリスマスか。ミートボールスパゲティとマッケンチーズでいいよ」
レンは苦笑しながら隣に掛けた。ルイスは隙あらばこの二つをリクエストする。
湯気のたつコーヒーをテーブルに置き、それぞれ口をつける。
「よほど祖国が恋しいようですねぇ」
「レンだってアメリカに行ったら、きっと毎日、梅干し入りのおにぎりと味噌汁が食べたくなるに違いない。賭けてもいい」
「それは確かに」
「マリーは寝たね」
ルイスはリビングを振り返り、人影がないことを確認する。
「うん」
と、コーヒー味のキスをした。
舌を絡めると体温が欲しくなるので、程々で離れた。といっても後ほど、ルイスは部屋にやってくるに違いないとレンは思う。レンの中にも、熾火のように熱が生じている。触れ合わなければおさまらないものだ。
だがもう少しこの時間を大切にしたい。
誤魔化すようにレンは言った。
「ローストビーフにしようかな」
「いいね。ターキーもいい」
「リブローストもいいよね。あとは、マッシュポテト。グレイビーソースで。クリスマスプディングにシュガークッキー」
「いいね。楽しみだ。とはいえ、無理はしないでね。お誕生日だから外でもいいんだ」
「仕事だからね。なんだかんだ、華やかなほうがうけるだろうなぁ。去年も、ふつうのメニューも出したけれど、クリスマスメニューのほうがよく出たし……恭介にも考えてもらおう」
レンがよぞらで出すメニューの話しをしていることに気づき、ルイスはやや肩を落とした。
「なんだ、お店のメニューのことですか」
「ああ、おうちのメニューは、マリーのリクエストで、リースサラダ、ブラウンシチュー、ガーリックバゲット、ローストしたポテトと芽キャベツ、ブッシュドノエルだよ。デザインまで作ってあってびっくりしちゃった」
先日、クリスマスに何を食べたいかマリアンヌに質問したところ、レシピを作るので待ってくれと言われ、楽しみに待っていたら、思いがけず本格的なものが出てきた。
リースサラダには星型のチーズとハムがのっていたし、バゲットにはオイルとパセリがかかっており、ブッシュドノエルには煙突とサンタまで描かれていた。
「食いしん坊だね」
「俺ぐらい食べるもんね」
「レンが少食なのか、マリーが食べ過ぎなのか……気をつけないと」
「運動もするから、マリーは大丈夫だよ。かけっこではいつも一位だし」
「おや? マリーは、というと、他に誰のことを心配しているのかな?」
「そりゃ、野菜嫌いで肉と炭水化物と脂質ばかり食べているカロリー過多な誰かさんのお腹周りのことだよ」
最近、ルイスは少し太った。食べてばかりいるせいである。
「言うね。たしかに運動が必要だ」
コーヒーを飲みきって、ルイスは立ち上がった。
そしてレンに向かって手のひらを差し出す。
「さあ、早速、運動しにいこう。付き合ってもらうよ。見届け人が必要だから」
レンは手を取って立ち上がりつつ呟いた。
「エロ公爵」
「今夜は寝かさないよ。かなり運動不足だものね」
「一日やそこらでは落ちないよ」
「では今夜からクリスマスまで毎晩だね。さて、欲しいものはなにかな」
「わかっているくせに」
「お誕生日プレゼントの話だよ」
先走って甘く口づけていると、物音がして慌てて離れる。
マリアンヌがトイレに起きたところだった。
「お父さんおしっこ」
「今行くね」
「一緒に寝てくれなきゃいやよ」
「わかった」
レンはルイスと顔を見合わせた。
「ですって」
「ご指名ですね。でも僕も一緒に寝てくれなきゃ嫌ですよ。マリーと寝ちゃうでしょレン。待ちぼうけなんですよ、いつも」
唇を尖らせるルイスに、レンは笑った。
「がんばって起きて、行きますから」
「頼みますよ。レンのせいでなかなか痩せられないんですよね」
ルイスはレンのせいにすることにした。
そもそもミートボールスパゲティとマッケンチーズが美味しいのも太った原因である。ジャスミンやエマが作ったものよりもはるかに美味しいせいなのである。
〈クリスマスメニューの相談 終わり〉
マリアンヌが眠ったのを見届けた後、レンは寝室をそうっと出、キッチンでホットコーヒーを二つ淹れてサンルームに向かった。
午後十時。秋の夜は冷える。サンルームにはストーブを置き、椅子の下には絨毯を敷いてある。おかげで足元はあたたかい。
一人がけの椅子にかけながら星空を眺めていたルイスは、思いつくままに言った。
「クリスマスか。ミートボールスパゲティとマッケンチーズでいいよ」
レンは苦笑しながら隣に掛けた。ルイスは隙あらばこの二つをリクエストする。
湯気のたつコーヒーをテーブルに置き、それぞれ口をつける。
「よほど祖国が恋しいようですねぇ」
「レンだってアメリカに行ったら、きっと毎日、梅干し入りのおにぎりと味噌汁が食べたくなるに違いない。賭けてもいい」
「それは確かに」
「マリーは寝たね」
ルイスはリビングを振り返り、人影がないことを確認する。
「うん」
と、コーヒー味のキスをした。
舌を絡めると体温が欲しくなるので、程々で離れた。といっても後ほど、ルイスは部屋にやってくるに違いないとレンは思う。レンの中にも、熾火のように熱が生じている。触れ合わなければおさまらないものだ。
だがもう少しこの時間を大切にしたい。
誤魔化すようにレンは言った。
「ローストビーフにしようかな」
「いいね。ターキーもいい」
「リブローストもいいよね。あとは、マッシュポテト。グレイビーソースで。クリスマスプディングにシュガークッキー」
「いいね。楽しみだ。とはいえ、無理はしないでね。お誕生日だから外でもいいんだ」
「仕事だからね。なんだかんだ、華やかなほうがうけるだろうなぁ。去年も、ふつうのメニューも出したけれど、クリスマスメニューのほうがよく出たし……恭介にも考えてもらおう」
レンがよぞらで出すメニューの話しをしていることに気づき、ルイスはやや肩を落とした。
「なんだ、お店のメニューのことですか」
「ああ、おうちのメニューは、マリーのリクエストで、リースサラダ、ブラウンシチュー、ガーリックバゲット、ローストしたポテトと芽キャベツ、ブッシュドノエルだよ。デザインまで作ってあってびっくりしちゃった」
先日、クリスマスに何を食べたいかマリアンヌに質問したところ、レシピを作るので待ってくれと言われ、楽しみに待っていたら、思いがけず本格的なものが出てきた。
リースサラダには星型のチーズとハムがのっていたし、バゲットにはオイルとパセリがかかっており、ブッシュドノエルには煙突とサンタまで描かれていた。
「食いしん坊だね」
「俺ぐらい食べるもんね」
「レンが少食なのか、マリーが食べ過ぎなのか……気をつけないと」
「運動もするから、マリーは大丈夫だよ。かけっこではいつも一位だし」
「おや? マリーは、というと、他に誰のことを心配しているのかな?」
「そりゃ、野菜嫌いで肉と炭水化物と脂質ばかり食べているカロリー過多な誰かさんのお腹周りのことだよ」
最近、ルイスは少し太った。食べてばかりいるせいである。
「言うね。たしかに運動が必要だ」
コーヒーを飲みきって、ルイスは立ち上がった。
そしてレンに向かって手のひらを差し出す。
「さあ、早速、運動しにいこう。付き合ってもらうよ。見届け人が必要だから」
レンは手を取って立ち上がりつつ呟いた。
「エロ公爵」
「今夜は寝かさないよ。かなり運動不足だものね」
「一日やそこらでは落ちないよ」
「では今夜からクリスマスまで毎晩だね。さて、欲しいものはなにかな」
「わかっているくせに」
「お誕生日プレゼントの話だよ」
先走って甘く口づけていると、物音がして慌てて離れる。
マリアンヌがトイレに起きたところだった。
「お父さんおしっこ」
「今行くね」
「一緒に寝てくれなきゃいやよ」
「わかった」
レンはルイスと顔を見合わせた。
「ですって」
「ご指名ですね。でも僕も一緒に寝てくれなきゃ嫌ですよ。マリーと寝ちゃうでしょレン。待ちぼうけなんですよ、いつも」
唇を尖らせるルイスに、レンは笑った。
「がんばって起きて、行きますから」
「頼みますよ。レンのせいでなかなか痩せられないんですよね」
ルイスはレンのせいにすることにした。
そもそもミートボールスパゲティとマッケンチーズが美味しいのも太った原因である。ジャスミンやエマが作ったものよりもはるかに美味しいせいなのである。
〈クリスマスメニューの相談 終わり〉
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本作は、あまあまカップルでお送りしております。
だいぶ前に書いた拙い作品ですが、好きとおっしゃっていただけると、書いてよかった〜と思います。
大家族に生まれながらも母を亡くして欠落感のあるルイスと、健全な家庭で育ったものの家族を亡くしてひとりになったレンが、それぞれの道で生きながらも家族になっていく話……というイメージで書いていました。
クロスオーバーも楽しんでもらえてよかった!笑
お読みいただき、ご感想までいただけて、励みになります。ありがとうございました!
まぁや様
こんばんはー! 笑わせてもらっておいてお返事失念してましたスミマセン汗
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