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番外編5 こぼれ話
7 ルイスとレンがただ微睡んでいるだけの話
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ある曇り空の朝。
レンがマリアンヌを幼稚園に送って自宅のマンションに戻ってくると、ルイスはまだ起きていなかった。
レンは寝室に向かう。音を立てないようにドアを開け、暗い寝室のベッドで寝息を立てていると確認して、起こしたほうがいいのだろうかと考えながら入っていく。ベッドの傍に近づく。
レンは、ルイスの顔を覗き込める位置に膝をついた。
昨晩、レンが帰宅したときには、ルイスはまだ書斎で仕事をしていて、レンは先に眠った。ルイスがベッドに入ってきたのは明け方だったと思う。
顔をしかめて寝ている。どんな夢を見ているのだろう。無理をしないでほしいと思いながら、レンがしばらく眺めていると、ルイスは目覚めた。
瞬きをして眉根を寄せつつ、目頭を押さえている。
「ああ、レン。おはよう。起きます……」
「お仕事、大変だったんでしょう。まだ休みませんか。もう起きないといけませんか」
レンがそう言うと、仕事の進捗について頭の中で巡らせた後、ルイスはまた目を閉じた。腕を伸ばして、手探りでレンの頬を撫でる。
「雨の音がする……」
ルイスは呟いた。
撫でられる心地好さに身を任せていたレンも気づいた。
「あっ、洗濯物を干したときに開けて……」
天気がよくないので、サンルームの中で洗濯物を干した。そのときに小窓を開けておいた。
とうとう降り出したらしい。湿度が一気に高くなる。初夏に差し掛かり、長袖を着ていれば肌寒さはない。
立ち上がろうとしたレンの腕を掴んで、ルイスは引き留めた。
「レン。傍にいてください」
レンは苦笑しつつ、ベッドに腰掛ける。ルイスの顔を覗き込んで口づける。
「いますよ」
「もっと近くに来て」
「はい」
ルイスの隣にもぐりこむ。仰向けのルイスにもたれかかりすぎないように、ルイスの胸に額をすりつける。温かい。心音を肌で感じ、耳を傾ける。
ルイスはレンの前髪を分けて、額に唇を寄せる。ちゅ、と音を立てる。
「ジェイミー、寒くない?」
「レンがいるから、温かいよ。大丈夫」
「じゃあこうしていよう」
「レン。むかしの夢を見たんだ」
目を閉じてレンを抱き寄せながらルイスは言った。
「どんな?」
「レンと出会う前の夢。日本に来てすぐの頃。レンがいなくて探したよ」
「います」
「おかえり。今日は午後からにしよう……もうひと眠りしたい」
「ええ、そうしましょう」
ルイスが微睡んでいるのにつられて、レンのほうも眠くなる。瞼が落ちてくる。
お互いの体温を感じながら、雨の朝、ふたたび眠ることにした。
<ちょっと続く>
レンがマリアンヌを幼稚園に送って自宅のマンションに戻ってくると、ルイスはまだ起きていなかった。
レンは寝室に向かう。音を立てないようにドアを開け、暗い寝室のベッドで寝息を立てていると確認して、起こしたほうがいいのだろうかと考えながら入っていく。ベッドの傍に近づく。
レンは、ルイスの顔を覗き込める位置に膝をついた。
昨晩、レンが帰宅したときには、ルイスはまだ書斎で仕事をしていて、レンは先に眠った。ルイスがベッドに入ってきたのは明け方だったと思う。
顔をしかめて寝ている。どんな夢を見ているのだろう。無理をしないでほしいと思いながら、レンがしばらく眺めていると、ルイスは目覚めた。
瞬きをして眉根を寄せつつ、目頭を押さえている。
「ああ、レン。おはよう。起きます……」
「お仕事、大変だったんでしょう。まだ休みませんか。もう起きないといけませんか」
レンがそう言うと、仕事の進捗について頭の中で巡らせた後、ルイスはまた目を閉じた。腕を伸ばして、手探りでレンの頬を撫でる。
「雨の音がする……」
ルイスは呟いた。
撫でられる心地好さに身を任せていたレンも気づいた。
「あっ、洗濯物を干したときに開けて……」
天気がよくないので、サンルームの中で洗濯物を干した。そのときに小窓を開けておいた。
とうとう降り出したらしい。湿度が一気に高くなる。初夏に差し掛かり、長袖を着ていれば肌寒さはない。
立ち上がろうとしたレンの腕を掴んで、ルイスは引き留めた。
「レン。傍にいてください」
レンは苦笑しつつ、ベッドに腰掛ける。ルイスの顔を覗き込んで口づける。
「いますよ」
「もっと近くに来て」
「はい」
ルイスの隣にもぐりこむ。仰向けのルイスにもたれかかりすぎないように、ルイスの胸に額をすりつける。温かい。心音を肌で感じ、耳を傾ける。
ルイスはレンの前髪を分けて、額に唇を寄せる。ちゅ、と音を立てる。
「ジェイミー、寒くない?」
「レンがいるから、温かいよ。大丈夫」
「じゃあこうしていよう」
「レン。むかしの夢を見たんだ」
目を閉じてレンを抱き寄せながらルイスは言った。
「どんな?」
「レンと出会う前の夢。日本に来てすぐの頃。レンがいなくて探したよ」
「います」
「おかえり。今日は午後からにしよう……もうひと眠りしたい」
「ええ、そうしましょう」
ルイスが微睡んでいるのにつられて、レンのほうも眠くなる。瞼が落ちてくる。
お互いの体温を感じながら、雨の朝、ふたたび眠ることにした。
<ちょっと続く>
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