119 / 136
三年目の冬の話
八 何も知らない
しおりを挟む
午後八時。
外は大雪だった。エマに呼び出され、ルイスとレンはマリアンヌを連れて、近くのファミリーレストランにやってきた。客は非常に少なく、スタッフの方が多いくらいだ。
そこで初めて出会った、目の前に掛けている青年は、レンの目に、まだ少年のようにも見えた。彼は一人で来た。そして、ミシェルがマリアンヌを産んで死んだというエマの説明を黙って聞いていた。
「では、ミシェルとの子で間違いない?」
「……はい。産んでいたのは、知りませんでしたが」
学校内の情報を頼りに、エマは彼を見つけた。日本人の男子学生だ。ミシェルは留学していて、学校で出会ったという。一年ほど付き合っていて、ある日、子どもができたといわれて、ミシェルはおろすと言ってそのまま消えたと彼は言った。
真実かはわからない。ミシェルはもういない。
野生のような眼差しの少年だった。不良のようではないが、家庭環境があまりよくないらしい。
レンは窓際の席でマリアンヌを抱き、彼女を軽く揺らしたりしながら、対面の彼の話を聞いていた。聞くだけだ。
彼との話は、レンの隣のエマとその向こうのルイスに任せている。
「すみません、ちょっとトイレ」
と彼が席を立つ。
三人と小さな一人になって、エマがため息を吐いた。
「親御さんと話さないとねー……」
そこでルイスが顔をあげて気づいた。
「おい、待ちなさい。待て!」
ルイスが立ち上がる。大声をあげて止める。
レンも顔をあげる。
青年はお手洗いではなく、出入口のドアを出て行こうとしていた。ふらふらと。彼のリュックさえ置き去りだ。
ルイスが追いかける。エマもその場に立つ。
レンはマリアンヌがいるので、席を離れられない。外は大雪だ。出ていけない。助けられない。事の成り行きを見守るしかない。ルイスに任せるしかない。
彼ならなんとかなる、とレンは思った。
窓際の席から見える。駐車場に出て、雪道をふらふらと出ていく青年を、走っていったルイスが捕まえる。
腕を掴んだ瞬間、青年がその場に座り込んだ。
外は大雪だった。エマに呼び出され、ルイスとレンはマリアンヌを連れて、近くのファミリーレストランにやってきた。客は非常に少なく、スタッフの方が多いくらいだ。
そこで初めて出会った、目の前に掛けている青年は、レンの目に、まだ少年のようにも見えた。彼は一人で来た。そして、ミシェルがマリアンヌを産んで死んだというエマの説明を黙って聞いていた。
「では、ミシェルとの子で間違いない?」
「……はい。産んでいたのは、知りませんでしたが」
学校内の情報を頼りに、エマは彼を見つけた。日本人の男子学生だ。ミシェルは留学していて、学校で出会ったという。一年ほど付き合っていて、ある日、子どもができたといわれて、ミシェルはおろすと言ってそのまま消えたと彼は言った。
真実かはわからない。ミシェルはもういない。
野生のような眼差しの少年だった。不良のようではないが、家庭環境があまりよくないらしい。
レンは窓際の席でマリアンヌを抱き、彼女を軽く揺らしたりしながら、対面の彼の話を聞いていた。聞くだけだ。
彼との話は、レンの隣のエマとその向こうのルイスに任せている。
「すみません、ちょっとトイレ」
と彼が席を立つ。
三人と小さな一人になって、エマがため息を吐いた。
「親御さんと話さないとねー……」
そこでルイスが顔をあげて気づいた。
「おい、待ちなさい。待て!」
ルイスが立ち上がる。大声をあげて止める。
レンも顔をあげる。
青年はお手洗いではなく、出入口のドアを出て行こうとしていた。ふらふらと。彼のリュックさえ置き去りだ。
ルイスが追いかける。エマもその場に立つ。
レンはマリアンヌがいるので、席を離れられない。外は大雪だ。出ていけない。助けられない。事の成り行きを見守るしかない。ルイスに任せるしかない。
彼ならなんとかなる、とレンは思った。
窓際の席から見える。駐車場に出て、雪道をふらふらと出ていく青年を、走っていったルイスが捕まえる。
腕を掴んだ瞬間、青年がその場に座り込んだ。
37
お気に入りに追加
1,222
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる