94 / 136
番外編3
三 14歳の夏の話③
しおりを挟む
花火の音がする。
あんまりうるさいと警察が来るぞ。そう思いながら、ふと目を開ける。夜の空が広がっている。なんだか、ずいぶん時間が経ったみたいだ。目が冴えている。
気持ち悪いのも落ち着いてきた。
ベンチから身を起こす。後頭部をがしがし掻く。
「おー、淳弥、起きたか」
「もう線香花火だぞ。クライマックスだぞ」
「俺はいいよ……」
花火の光が目にまぶしい。
公園の時計を見ると、十時過ぎだ。レンは片づけて帰ったかな。たぶん、帰ったんだろうな。あの非現実的な男と一緒に暮らしてるんだったっけ。だいぶ前に、引っ越すって言ってたから、引っ越したんだろうな。
近所みたいだけど、居場所、教えてもらってない。それもそうだわ。当たり前だ。
俺はひとりごちた。
「なんで、間違ってんのに、進むことができるんだよ」
そうだ、昔のことを思い出したんだった。
レンと初めて関係を持ったときのことだ。
流血して布団に血がついて大変だった。なにせ俺は怪我してるものだから、血がついているのが親にバレたら、傷口がひらいたと思われてしまう。
レンとは、親の目を盗んで、何回か、そういうことをした。なんか間違ってると思いながら。
だって、間違ってるだろ。男同士なんて。
だから女子ともしまくったけど、レンとのそれは、やめられなかった。女子は最初こそ痛そうだけど、回数を重ねるうちに気持ちよさそうになる。
でもレンはいつまで経っても痛いみたいだった。そりゃそうだよな、濡れもしないし。
だけど、痛みに泣きながらも、必死で俺を受け入れるレンを見ると、たまらなくなる。
こいつとやりたい。やめたほうがいい。わかってる。なんの生産性もないし。
ちょっとした遊びみたいなものだ。だから時々でいい。でも忘れられないもんだから、定期的にやりたくなる。おかしいってわかってる。だけど、戻ってしまう。
大の大人が六人集まって、線香花火が佳境を迎える。ぽたぽたと光の粒が落ちて、おしまい。
「おーい、淳弥。そろそろ俺ら帰るけどー」
「ああ。悪かったな、今日」
「俺らはいいけど反省しろよ。すぐじゃなくていいから、そのうちレンと仲直りしたら」
「駄目だろ。二度と会うなって王子様に釘刺されてたじゃん」
「そうだったわ。王子、怖そうだな……」
「もういいんじゃね? 淳弥、レンのことは忘れろよ。謝りたくなったら、俺らが伝えといてやるからさ」
好き勝手言いやがって。お前らいいヤツらすぎるだろ。
もういいよ。レンなんか知らないし、あの男に言われなくとも、会うつもりなんかない。レンと会ったって、やりたくなるだけだ。その衝動に振り回されるし。いいことなんか何もないじゃん。
俺には俺の人生があって、今の彼女から結婚をせっつかれてるもんだから、そのうち親に紹介したり、ふつうの、ごくふつうの人生を歩まないといけないわけ。
そうしたら、レンとの過去なんか、邪魔でしかない。
考えるだけ無駄だ。
……もし、レンと、あのとき、そういう関係にならなければ。
もしくは、レンとの関係を、後ろめたく思わずに、もっと大切にしていたら。
気持ちに向き合っていたならば――――どうなったっていうんだ。
友達がいなくなった公園で、俺は一人、ベンチに掛けて項垂れる。
「なんで、間違ったまま、進むことができるんだよ……」
似たような環境で生まれて、育って、これからもなんとなくずっとここで、こんな距離感で生きていくのだとばかり思っていた。
三十になっても、五十になっても、七十になっても、死ぬまで、近所に住んで、所帯もって、ふつうに。テレビみたり、ゲームしたり、飯食ったり、アイス食ったりしながら。
<番外編3 終わり。三年目の秋の話に続く>
あんまりうるさいと警察が来るぞ。そう思いながら、ふと目を開ける。夜の空が広がっている。なんだか、ずいぶん時間が経ったみたいだ。目が冴えている。
気持ち悪いのも落ち着いてきた。
ベンチから身を起こす。後頭部をがしがし掻く。
「おー、淳弥、起きたか」
「もう線香花火だぞ。クライマックスだぞ」
「俺はいいよ……」
花火の光が目にまぶしい。
公園の時計を見ると、十時過ぎだ。レンは片づけて帰ったかな。たぶん、帰ったんだろうな。あの非現実的な男と一緒に暮らしてるんだったっけ。だいぶ前に、引っ越すって言ってたから、引っ越したんだろうな。
近所みたいだけど、居場所、教えてもらってない。それもそうだわ。当たり前だ。
俺はひとりごちた。
「なんで、間違ってんのに、進むことができるんだよ」
そうだ、昔のことを思い出したんだった。
レンと初めて関係を持ったときのことだ。
流血して布団に血がついて大変だった。なにせ俺は怪我してるものだから、血がついているのが親にバレたら、傷口がひらいたと思われてしまう。
レンとは、親の目を盗んで、何回か、そういうことをした。なんか間違ってると思いながら。
だって、間違ってるだろ。男同士なんて。
だから女子ともしまくったけど、レンとのそれは、やめられなかった。女子は最初こそ痛そうだけど、回数を重ねるうちに気持ちよさそうになる。
でもレンはいつまで経っても痛いみたいだった。そりゃそうだよな、濡れもしないし。
だけど、痛みに泣きながらも、必死で俺を受け入れるレンを見ると、たまらなくなる。
こいつとやりたい。やめたほうがいい。わかってる。なんの生産性もないし。
ちょっとした遊びみたいなものだ。だから時々でいい。でも忘れられないもんだから、定期的にやりたくなる。おかしいってわかってる。だけど、戻ってしまう。
大の大人が六人集まって、線香花火が佳境を迎える。ぽたぽたと光の粒が落ちて、おしまい。
「おーい、淳弥。そろそろ俺ら帰るけどー」
「ああ。悪かったな、今日」
「俺らはいいけど反省しろよ。すぐじゃなくていいから、そのうちレンと仲直りしたら」
「駄目だろ。二度と会うなって王子様に釘刺されてたじゃん」
「そうだったわ。王子、怖そうだな……」
「もういいんじゃね? 淳弥、レンのことは忘れろよ。謝りたくなったら、俺らが伝えといてやるからさ」
好き勝手言いやがって。お前らいいヤツらすぎるだろ。
もういいよ。レンなんか知らないし、あの男に言われなくとも、会うつもりなんかない。レンと会ったって、やりたくなるだけだ。その衝動に振り回されるし。いいことなんか何もないじゃん。
俺には俺の人生があって、今の彼女から結婚をせっつかれてるもんだから、そのうち親に紹介したり、ふつうの、ごくふつうの人生を歩まないといけないわけ。
そうしたら、レンとの過去なんか、邪魔でしかない。
考えるだけ無駄だ。
……もし、レンと、あのとき、そういう関係にならなければ。
もしくは、レンとの関係を、後ろめたく思わずに、もっと大切にしていたら。
気持ちに向き合っていたならば――――どうなったっていうんだ。
友達がいなくなった公園で、俺は一人、ベンチに掛けて項垂れる。
「なんで、間違ったまま、進むことができるんだよ……」
似たような環境で生まれて、育って、これからもなんとなくずっとここで、こんな距離感で生きていくのだとばかり思っていた。
三十になっても、五十になっても、七十になっても、死ぬまで、近所に住んで、所帯もって、ふつうに。テレビみたり、ゲームしたり、飯食ったり、アイス食ったりしながら。
<番外編3 終わり。三年目の秋の話に続く>
41
お気に入りに追加
1,222
あなたにおすすめの小説



【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。



禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる