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番外編3

一 14歳の夏の話①(淳弥視点)

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「レン、そうだったかー」

 誰かの声が聞こえる。
 たぶん、渡辺だ。なべ。他にも何人かいるらしい。よくわからない。
 ベンチに寝転がって、意識が遠のいている。ぐるぐるする。飲みすぎた。頭上には夜空が広がっている。夏だから公園で寝たって平気だろ。
 はあ。気持ち悪い。

「気づいてた?」
「んー、まあ、そういわれてみれば……って感じ」
「モテるわりに女っ気なかったもんな」

 まず、レンが女の子に興味がないのは、周知の事実だ。レンは、男女問わずみんなとそれなりに仲が良い。線引きしていて、踏み込ませない。だからある意味、誰とも真に仲良くはない。俺以外は。
 女の子を性の対象としていなさそうなのは顕著だった。人畜無害な雰囲気が、かえってモテていた。
 かといって、男にも興味なさそうに見えた。
 何もかもどうでもよさそうというか。

「そういや、レンって、中学んとき、体育の先生に狙われてなかったっけ」
「覚えてる。あのときやばかったな。追いかけ回されてて」
「そうそう。あれ、レンめっちゃ逃げてたよなあ」
「可哀相だったけど、なんだろ。先生、レンに感じるものがあったんかね」
「まあでも、いうて中学生男子だからな。あれに追い回されるとか恐怖だよな」

 ああ、懐かしいな。
 中学一年生のとき、レンときたら、赴任してきたばかりの体育の男性教師に付け狙われて、怯えて、どこに行くにも俺についてきてた。
 一人になりたくないと言って常に俺といたのは、一人が苦手なのではなくて、俺といるのが好きなのでもなくて、一人になると身が危険だったせいだ。
 男なのに連れションかよって笑ってたけど、レンはへらへら笑いながらも、切実だったんだろうな。何も言わなかったけど。
 なにせものすごい巨躯で色黒のスポーツ選手みたいな男だったし。体育教師だし。いくら実は男が好きっていってもあれは中学生向けじゃない。
 ベンチから少し離れた場所で、友達が好き勝手喋ってる。

「淳弥、レンとヤったことあんのか……」
「まあ、もうそれ、忘れてやったほうがいいんじゃない。あいつらのためにも」
「つーか、淳弥なんかヤリチンなんだから、かなりの数の女子とヤりまくってたろ。レンとヤっててもおかしくないわな。レンといた時間が一番長そうだし。淳弥は俺様だし、レンは流されやすいし」
「言えてるわ」
「おい、淳弥、起きてんのー?」

 声を掛けられて、不機嫌に返事をする。

「うるせえよ」
「あ、起きてやがる。なあ、花火しねえ?」
「いいね」
「おー、じゃあ俺買ってくるわ」

 すぐそこに二十四時間営業のスーパーがある。そこに売ってるだろう。ただし、交番も近くにあるので、騒いでいるとすぐに来る。
 残った面子は、煙草を吸いながら思い思いに話す。

「レン、面食いだな。淳弥もツラだけはイケメンだもんな」
「すごかったなー、レンの、婚約者? びびったわ。なにあれ」
「あんな正統派の王子様、存在するのか~」
「しかも会社社長とか玉の輿じゃん」
「あれがレン一筋って。周りが放っておかないだろ。どんな美女でも侍らすことできそうなのに、もったいねえよ」
「世の中わからんもんだな……」

 胡散臭えよ。あんなのありかよ。
 お前らは知らないだろうけど、米国でも有数の企業の御曹司なんだぞ。もらった名刺、検索してみろよ。桁違いのエリートだぞ。
 どうしてそんなのが日本にいて、レンの婚約者だなんて抜け抜けといってんだよ。
 おかしいだろ。どう考えても騙されてるだろ。レン、判断能力失ってるだろ。冷静になれよ。
 ハーバード卒で、大手コンサルファーム出身で、MBAホルダーで、若手実業家って、実在するのかよ。ありえねえだろ。芸能人よりも遭遇しないだろ。
 レンとは、生まれたときから一緒に過ごしてたんだ。ただの食堂の息子だよ。生まれも育ちも下町商店街の、生粋の地元民だよ。両親は商売人で、どっちのじいさんもばあさんも百姓だよ。
 レンは一人っ子で、俺は兄貴と弟がいて、そのへんの水路で遊んで落ちたこともあるし、秘密基地だって作ったし、中学のときは煙草吸って警察に叱られたし、高校でピアス開けたときは両親に雷落とされたっけ。保育園から高校まで全部近所の公立だし。
 アルバムのほとんどで、隣にレンがいる。そういう関係だったのに、いつの間に友達じゃなくなったんだろう。

「花火買ってきたー」
「おー、サンキュー」
「おい、淳弥。酔い覚ましに、ほら、ビール」
「迎え酒じゃん」
「ほら。反省しろよ。もうレンに絡んでやるなよ。あの王子様に任せとけよ」

 気怠く受け取って、身を起こして口をつける。脳が痺れる。はあ。少しだけ気分がマシになってくる。麻痺してるだけだ。
 なんだっけ。

「レンのほうは大丈夫なんかなー」
「大丈夫っしょ。王子様いるし」
「レン、わりと立ち直り早いしな」
「言えてるー」

 そうなんだよ。繊細そうな見かけのくせに結構大胆で、図太いんだよな、レン。
 そうだ、あれは中学二年生のときのことだ――。
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