溺愛社長とおいしい夜食屋

みつきみつか

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三年目の春の話

五 ランチの話

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 レンはよぞらのシャッターを外側から静かに上げた。
 土曜日。午前十時。
 いい天気になった。春の快晴の空は、どこかけぶっている。薄くかすんだみたいな、透明のような春特有のやわらかい青だ。
 店内に入って掃除をして仕込みをしていると、恭介が起きてきた。

「おはようございます」
「おはよう。ごめん、起こした?」
「いや、目覚ましです」

 しばらくのあいだ、レンはひとりで作業をする。試作したものを簡単に重箱に盛り付ける。季節の野菜を使った和惣菜八種類と、細切りの大葉とほぐした鮭と白ゴマを混ぜたおにぎりを二つ。同じものを二セット。小さな片手鍋で卵とネギのスープを作る。
 スープジャーにスープをよそっていると恭介がキッチンに入ってきた。
 重箱の内容を確認しつつ、恭介が言う。

「ランチ、重箱ですか」
「ううん。出すときはワンプレートかな」
「ワンプレートいいですよね」
「準備も片づけも楽だよね」
「日替わりだと大変ですから、固定のほうがいいと思うんですよ。たとえば和食プレートと洋食プレートで」
「賛成。洋食のメニュー案、出してもらってもいい?」
「おれが? いいんですか?」
「俺も出すから、出し合おう。洋惣菜八種類プラス主食とスープ。少ないかな、多いかな」
「ランチはとくに客層が女性に偏りそうなので、色んなものちょっとずつ食べたいと思います。だから量より種類で」
「あ、あとさ、お皿。カタログあるから」
「木皿、白、柄物……、仕切りより平皿ですよね。おしゃれなのがいいです」

 恭介は張り切って仕込みを手伝おうとする。レンは苦笑しつつ止める。

「まだ早いよ、働きすぎだよ、恭介。夜もあるんだし……」

 と、そのときだ。引き戸が開いて、人が入ってきた。

「こんにちはー。レン兄、いる?」

 現れたのはクリスティナだ。

「クリスちゃん」
「クリスさん。こんにちは。いらっしゃいませ」

 レンは笑顔で迎え入れる。来てくれてほっとした。昨日、帰り際のクリスティナをなんとか引き留めて、レンは今日の昼食の予定を取り付けたのである。
 クリスティナはなんとなくいつもの席に掛けつつ、客席の明かりを落とした昼間の店という空間にそわそわする。レンも恭介も私服であるし、普段と雰囲気が異なる。

「土曜日、やってるの?」
「いえ、試作中なんです。よかったら、お花見でもしませんか。試作品の感想を聞かせていただけると助かります」
「いいの?」
「はい。ぜひ」
「レンさん、あとはおれがやっておくので。試作もしたいんですけど、材料使ってもいいですか」
「いいよ。使ったものはメモしておいて、気になることがあったら相談して」
「了解っす」

 恭介にあとを任せて、レンはクリスティナと一緒に、用意した重箱とスープジャーを持って表から外に出た。
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