溺愛社長とおいしい夜食屋

みつきみつか

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三年目の春の話

三 独占欲(※)

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 レンが時計を見ると、午前五時過ぎだった。
 ベッドに自分以外いない。ご冗談を、とレンは思う。午前三時に帰宅してシャワーを浴び、午前五時には起きている生活に、レンは付き合えない。
 渋々起きる。身体がいうことをきかないのを、精神力だけで起きる。身体が震える。
 ルイスはやはり起きて、着替えているらしい。着替え部屋として使っている洋室で物音がする。レンは洗面所で歯を磨いて、台所に立った。
 ルイスはふだん朝食を摂らないが、昼でもなんでもいいので、無理にでも持たせたい。
 だが、冷蔵庫の中を眺めていても、顔がひんやりするだけで思考できない。目がしょぼしょぼする。立ちながら寝そうだ。

「レン、起きたの。何か食べるの?」

 気づけば、ルイスが部屋から出てきていた。寝間着のままで、着替えていない。

「あれ、お出かけでは」
「いや……。ああ、僕が出掛けると思って、レンも起きてきたんですね。僕、もう一度寝ますよ。レンも寝ましょうね」

 ルイスはレンの手を引いて、寝室へ向かった。レンは洋室の前に、キャリーケースを置いてあるのを見つける。どこかへ行くのだろう。少し起きて用意をしていただけだった。
 まだぬくもりの残るベッドに、二人でふたたび寝転がる。レンにとって、傍らに人がいるあたたかさが嬉しい。
 ルイスはレンの髪を撫でる。気づくと髪が伸びている。それくらい、ちゃんと見ていなかった。レンの前髪を寄せて、あらわになった額に口づけた。

「午前中は休みます。午後に出ます」

 ルイスはレンを後ろから抱えなおした。レンの背中を抱く。こちらのほうが距離が近い感じがする。レンの後ろ頭だったり、耳の裏に鼻を寄せる。嗅いだり舐めたり、耳朶を食んだりしながら、ルイスは言った。

「少し触ってもいい?」
「ん、はい」

 ルイスはレンのシャツを捲った。下のほうから手をいれて、レンの腹部や胸、脇腹を撫でる。肌が触れると気持ちいい。久しぶりの感覚だ。レンのほうも、やさしい触れ方はとても心地好い。
 レンは、ふと意識が途切れた。もう一度起きる。気づくと、ズボンを脱がされている。へんな感じがしたと思ったら。

「ルイスさん、触ってもいいってそこですか?」
「どこまでOKでどこからNGか、線引きが難しいので、とりあえず外側は全部OKと」

 ルイスは拡大解釈が著しい。
 レンの下着の中に手を入れてみる。まだ柔らかい。
 自分も下着以外脱いで、レンの背中に口づけた。
 肩甲骨や背筋を舐める。ときどきかじる。ちょっと吸う。痕をつけすぎていた肌も、すっかりきれいに治った。ごめんと思いながら、肌のやわらかいところに、新しい痕をつけようとする。
 唇が触れて本格的に吸われる予感に、レンは慌てた。

「首はだめです」
「ここ、見える?」

 ちょうど、肩を揉むときの親指くらいの位置だ。

「屈んだら見えるかも。最近、女性客が多いんです。なんだか、すごく見られます」
「ふうん」
「恭介との関係を、面白がられてるみたいなんです」
「どういうこと?」

 レンは、ネットの有名人によぞらが紹介されたことと、元同じ職場の先輩と後輩が二人きりで営業していると書かれたことを説明する。
 ルイスは言った。

「思わぬ伏兵です」
「……伏兵?」
「僕は原則として、レンの口から他の男性の名前が出るのが嫌です」

 男性の名前くらい、仕事して生活していたらふつうに出るだろうとレンは呆れる。
 ルイスとしては、恭介のことは仕方ないと納得はしている。

「俺の周りって基本男しかいないんですが。女性ならいいんですか?」
「女性の名前が出るのも、もちろん嫌ですよ」
「何言ってんですか……」

 その調子でルイスとの会話に気をつけていたら話すことがなくなるのではないか。毎日仕事しかしていないのに。

「そういえば、レンは、女の子とお付き合いしたことは?」
「え……少しだけ」
「へえ。あるんですか。いつごろ?」
「って……えー……あ、中学とか、高校で……でも何も……すぐ振られちゃったし」
「どうして付き合ったの?」
「告白されて、断る理由なくて、そのまま普通に……」

 レンはあらゆる意味で流されやすい。
 睡眠不足で判断能力が欠如しているレンは、情報を掘られていることに気づかない。ルイスはいつだってレンのことを知りたいのである。

「男が好きだって気づいたのはいつ?」
「それは……」

 だが淳弥の話は、ルイスが嫌うので避けるべきだとわかっている。なぜ嫌なのに聞きたがるのかレンにとって不思議でならない。

「……ルイスさんは、どうなんです? どうして俺ばっか」
「僕のほうが独占欲が強いからです。嫉妬します」
「それって開き直ってますよね」

 あまり聞かないでほしい。いい思い出ばかりではないし、今が幸せなので思い出すこともとくにない。
 ルイスはレンの後ろに、いきなり指を入れた。

「うあっ」

 逃げようとするレンを背後から捕まえて、指をぐにぐにと動かす。そうしながら、身体を密着して、耳朶を食んだり、耳元に息を吹きかける。
 レンはルイスの腕の中でされるがままだ。体内でうごめく執拗な指先の感覚や、耳元の愛撫に、次第に声が甘くなる。

「やっ、っ、あっ、っ、んん」

 ルイスはくすくすと意地悪く笑った。

「こんな女の子みたいに鳴くのに、過去に女性と付き合ったこともあるんですねえ」
「っ……そういう、あなたは、どうなんです。聞いていると、女性を相手にしたご経験がありそう、です……」

 レンは反撃しようとした。その間にもルイスはレンの中で指を動かすので、レンは吐息を洩らしたり、喘ぎ声になったりする。声を我慢しようとして肩が震える。

「んんっ、っ、あ……」

 ルイスはレンの質問には回答しない。

「さあ、どうでもいいことです」

 ルイスも、女性に言い寄られるので交際経験はあるが、それらしいことをあまりしないので、最終的には去られる。まったくもってレンと同様である。
 レンと異なる点は、人数の桁だ。面倒臭くなって最初に断る方針に切り替えるまでだから、ルイスにはそういう経験が数十人分ある。

「ひどいです、ルイスさん、自分のことはろくすっぽ言わないくせに」
「だって、男だろうが女だろうが、僕はレン以外は今後抱きませんし」
「そういう問題ですか」
「結婚相手には貞操を誓うものでしょう。過去のことは仕方ありません。いや、許しがたい者もいますが、過ぎたこと……納得はいきませんが……」

 ルイスは、レンのひくつく後孔に指を出し入れしながら、レンの細い顎をつかみ、顔だけを振り向かせて口づける。

「過去に戻れるのならば、中学生のレンをさらってしまいたいです。少年性愛の趣味はないので、大きくなるまでちゃんと育てることにします」
「言いたい、放題、ん」
「先に言っておきますが、浮気したら一生許さないです」
「そんなの、しませんよ」

 だがルイスには、レンを放置している自覚があるので、心配ではある。身勝手だが、黙って待っていてほしい。たとえどれほど一人ぼっちのレンが気の毒でも、絶対に手放したくない。
 もし浮気でもしようものなら、監禁することになるとルイスは思う。逃げ出さないように、二度と外に出さない。
 そしてさすがに、こう思っていることはレンに言わない。

「レン、僕一人で我慢できますね?」
「ルイスさん一人だけで、俺、すでにキャパオーバーです……」

 レンにとって、ルイスは相当重たい。
 自分には天職があって、仕事が楽しい。恋人というのは本来、二の次だ。仕事しかしていない期間のほうが長い。まともに誰かと付き合ったのはルイスが初めてだ。
 考えれば考えるほど、レンは不思議な気分になる。
 安アパートに住んで、一人きりで、親から継いだ定食屋をやっていただけの自分が、なぜ、年齢や立場どころか人種さえ違う男に異常ともいえる愛情を注がれることになり、こんな身の丈に合わない部屋で二人暮らしをし、ベッドではめちゃくちゃに抱かれて、将来の約束までしているのか。

「レン、中も触っていい?」
「もう、指を、入れてるじゃないですか」

 レンが言うと、ルイスはレンの耳元に唇を寄せる。そうしながら、指を抜いて、自分の欲望をレンの秘部にすりつける。
 耳元で囁いた。

「もっと深くです」

 返事も聞かずに、背後から容赦なく挿入をはかる。レンは飲み込んでいく。

「あっ、も、待って、いきなり、いれたら、っ」
「僕の可愛いレン。君は一生、僕だけのものです」

 ルイスはそう言って、逃げようとするレンを羽交い絞めにし、奥まで一息に挿入した。

「っ、あああっ」

 レンは抗おうにも抗えない。そうされるのを望んでいたからだ。
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