溺愛社長とおいしい夜食屋

みつきみつか

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二年目の秋の話

二 彼シャツ

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 シャワーを浴びたあと、寝間着に着替える。九月の下旬に差し掛かり、少しずつ肌寒くなってきたので薄手の長袖だ。
 先に風呂を出たレンは、同じシャツのサイズ違いのため、間違えてルイスの服を着てしまった。なんだかぶかぶかだと思っていたが、あとから出てきたルイスがタオルで身体を拭いたあとに気づく。

「レン、僕の着てます」

 そこでレンはぶかぶかの理由を理解する。

「あ、こっちルイスさんの」
「はい」
「すみません、脱ぎます」

 ルイスはレンを見て目を細めた。なんだか真剣な顔になっている。

「いや、そのまま着ていてください。僕は新しいシャツを出しますので」

 といって、手早くかごから新しいシャツを用意している。

「え? 着たばっかで、汚してないですよ」
「彼シャツって、いいですよねえ」

 ルイスはなんだか満足げだ。何をしみじみ言っているのか、レンにはわからない。

「すみません、よくわかりません……」

 ルイスは自分よりも日本語に精通しているとレンは思う。米国籍だが日本育ちだと聞いたことがある。見た目は完全に欧米人だが、中身は日本人なのかもしれない。
 ルイスは、レンと服をシェアすることを思いつき、わくわくしている。レンはいつも似たようなモノトーンの服なので、いろいろ着せてみたい。

「あの、ルイスさん。ネクタイ、汚れてなかったですか。汗とか、涙とか、皮脂とか。シミになりませんか?」

 ハイブランドのネクタイをプレイに利用するなんて信じられない。ネクタイのほうだって、本来の用途だけで手一杯だろう。目的外使用甚だしい。

「大丈夫ですよ。クリーニングに出しておきますし」
「そうしてください……」

 レンに呆れられるのを恐れ、レンの体液なら別に構わないと口にするのをルイスはやめた。
 レンは脱力しながら、シャツを着替える。サイズが合わなくてぶかぶかだと、隙間があって寒いのである。ルイスは残念だが、レンが寒さを感じてはいけないので我慢する。

「レンの髪、乾かしてもいい?」
「いいんですか?」
「うん。好きです」
「うん?」

 ルイスはレンの髪の毛を乾かすのが好きだ。レンを観察しやすい。
 たまに明るく染めているが生え際は黒、毛は少し長くて髪質はしっかりしており、頭皮が青白い。耳たぶのピアス痕。細い首筋。うなじ。
 レンは油断していて、ぼんやりと気持ちよさそうに乾かされている。そして時々後ろ頭にキスをしたい。そんな衝動に任せてキスをする。

「んー」

 レンは後頭部に触れるルイスの唇の感触で意識を取り戻し、手の甲で目をごしごし擦る。

「は。なんか気持ちよくて寝てました」
「今日はお休みのところ、お手伝いありがとう」

 レンの髪の毛を乾かし終えて、ルイスは自分で自分の髪を乾かす。
 レンは苦笑した。

「何もしてません」

 引っ越しを手伝ってほしいと言われたので、張り切って動きやすい格好でやってきたのだが、ほぼすべて業者がおこなった。軽トラで転居する友達の手伝いみたいな感覚だったが、間違いだった。
 レンは邪魔にならない位置に直立し、作業員に、「これどこにしましょうか」と聞かれたことについて、ルイスに確認の上で「このへんでお願いします」などと指示していただけだ。

「いるだけでいいんです。僕の癒しだから」

 ルイスの言うことは、レンには本当にわからない。でもまあ、ルイスが喜んでいるならいいかとも思う。
 ルイスは居場所に困っているレンの様子や、それでも何か自分にできることをしようと目を配っていたレンの健気さを気に入っている。

「先に寝室に行っていてください」
「はい」

 レンは寝室に向かう。新しいので冒険のような気持ちだ。新しい部屋のにおいがする。
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