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秋の話
七 デートプランがない
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リビングの窓の外には、秋晴れの空が広がっている。雲一つない鮮やかな青は、ルイスの瞳のようだとレンは思った。
見晴らしを味わうことができるリビングと一続きのダイニングキッチンで、レンは朝食を用意しようとしたものの、この家には鍋もフライパンもないことが判明した。
クリスマスに七面鳥を焼くこともできそうな最高級のビルトインオーブンがありながら、他の家電といえば電気ポットと電子レンジだけなのだ。時々使うらしい。備え付けのIHクッキングヒーターは使われている形跡が一切ない。
冷蔵庫に入っているのは主にミネラルウォーターで、他には目薬がひとつ入っていた。薬を入れる点になんとなく親近感はわくものの、肝心の食べ物はない。あいにく昨日持ってきたものは、昨晩のうちに全て食べ切ってしまった。
キッチンに立つのを諦め、レンはモデルルームのように片づいているリビングのやたら大きなソファに座って空を眺めているルイスの隣に座った。
ルイスはすでに着替えている。シンプルな長袖シャツとチノパン。やたら似合う。たぶん何を着ても似合う。
ルイスは考えごとをしている様子なのでレンは遠慮してしまう。ルイスの考えていることが、レンとの同棲であるとは知る由もない。
少し距離を開けたのに、ルイスに肩を抱かれて、引き寄せられる。
「ルイスさん、何か買ってきて食べますか。それとも外で食べましょうか。今日、どうしましょうね」
「レンはどうしたいですか?」
「せっかくの日曜ですし、天気もよさそうなので、出掛けましょうか」
ルイスと出掛けるのは初めてだ。
「では、そうしましょう。外で食べて、散歩でもしましょう。どこか行きたいところがあれば歩いて行きましょうか。何か見たいものでもありますか?」
「みたいもの……映画とかですか?」
映画だと暗がりである。スクリーンを観ている必要がある。まるで時間潰しのようで嫌だとルイスは思う。
たとえ映画を選んでも、自分は、映画鑑賞しているレンの横顔ばかり見ているだろうという謎の自信がある。次々と変わる映画の内容よりも、レンの表情の些細な変化を鑑賞したい。
「んー、映画でもいいですし、神社仏閣とか、アートとか。買い物もいいですね。うちにはキッチン用品がないんでしたか」
必要がないので、困ったことがなかった。
レンは珍しく不服そうに、唇を尖らせている。
「包丁もまな板もありません。お皿もないし、コップが二つしかないです。フォーク一本、スプーン一本だけ。お箸も菜箸もないです」
フライパンや鍋どころの騒ぎではない。
「ないものだらけですね。買いに行きましょうか」
「……でも、ルイスさんにとって必要ではないなら、持たなくてもいいと思います」
「レンにとって必要なら僕にも必要ということです」
「……」
デートプラン的なものを練っておく必要があったことをルイスは悔やんだ。レンと一緒にいられるとばかりにとらわれてしまっていた。レンを退屈させてはならない。買い物のひとつくらいしなくては。
だが――。
ルイスは肩を抱いているレンのこめかみに唇を寄せる。
「レン」
「はい、ルイスさん」
レンの髪に鼻を埋めながら、ルイスはすりすりする。レンが戸惑っていることは理解しているのだが、こうしている時間が幸せすぎて、他のことを考えたくない。レンのことだけを考えていたい。ルイスは、そんな不思議な感覚に襲われていた。出掛けるのは、もう少しレンを嗅いでからがいい。
見晴らしを味わうことができるリビングと一続きのダイニングキッチンで、レンは朝食を用意しようとしたものの、この家には鍋もフライパンもないことが判明した。
クリスマスに七面鳥を焼くこともできそうな最高級のビルトインオーブンがありながら、他の家電といえば電気ポットと電子レンジだけなのだ。時々使うらしい。備え付けのIHクッキングヒーターは使われている形跡が一切ない。
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キッチンに立つのを諦め、レンはモデルルームのように片づいているリビングのやたら大きなソファに座って空を眺めているルイスの隣に座った。
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ルイスは考えごとをしている様子なのでレンは遠慮してしまう。ルイスの考えていることが、レンとの同棲であるとは知る由もない。
少し距離を開けたのに、ルイスに肩を抱かれて、引き寄せられる。
「ルイスさん、何か買ってきて食べますか。それとも外で食べましょうか。今日、どうしましょうね」
「レンはどうしたいですか?」
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ルイスと出掛けるのは初めてだ。
「では、そうしましょう。外で食べて、散歩でもしましょう。どこか行きたいところがあれば歩いて行きましょうか。何か見たいものでもありますか?」
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たとえ映画を選んでも、自分は、映画鑑賞しているレンの横顔ばかり見ているだろうという謎の自信がある。次々と変わる映画の内容よりも、レンの表情の些細な変化を鑑賞したい。
「んー、映画でもいいですし、神社仏閣とか、アートとか。買い物もいいですね。うちにはキッチン用品がないんでしたか」
必要がないので、困ったことがなかった。
レンは珍しく不服そうに、唇を尖らせている。
「包丁もまな板もありません。お皿もないし、コップが二つしかないです。フォーク一本、スプーン一本だけ。お箸も菜箸もないです」
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「ないものだらけですね。買いに行きましょうか」
「……でも、ルイスさんにとって必要ではないなら、持たなくてもいいと思います」
「レンにとって必要なら僕にも必要ということです」
「……」
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だが――。
ルイスは肩を抱いているレンのこめかみに唇を寄せる。
「レン」
「はい、ルイスさん」
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