溺愛社長とおいしい夜食屋

みつきみつか

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春の話

四 閉店後

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 午前一時。
 終電間近でやってきて、軽いものを食べて帰っていく五十代後半のおじさんが帰るのがいつも最後なのだが、今夜は最後ではなかった。おじさんを見送ったあとも、カウンター席に、まだルイスがいる。
 しかもビールを十杯以上も飲んで、つまみを食べ、うつらうつらとしていた。

「あのー、お兄さん、閉店時間なんですが、大丈夫ですか?」
「えっ、もうそんな時間?」
「ええ」

 頷いて、キッチンの上にある時計を示す。午前一時が閉店時間だ。一分過ぎた。
 彼は大慌てでスラックスのポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。

「クリスティナ……! 『帰宅済みです』……はあ」

 と肩をがっくりと落としている。レンは苦笑した。

「よかったですね。無事帰りついて」
「そう、そうですね。たしかに、そうともいえます。ではお会計お願いします」

 クレジットカードを差し出される。黒い。ブラックカードなんて初めて見たため、レンは驚いた。ふつうに差せば通るのだろうか。ピピ、と鳴る。通った。
 会計を済ませたあと、ルイスは立ち上がる。だがその足取りは相当きている。

「あのー大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫」

 と言いながら、持ってきたやたら高そうなビジネスバッグを足元に置き去りだ。
 先ほどのブラックカードが入った財布も、置いてけぼりのビジネスバッグの中だ。まったくもって大丈夫ではない。

「えーと、電車……。駅どっちでした?」
「南口を出て右ですが、終電終わってますよ」
「困ったな。隣町なんだけども」
「タクシーを呼びましょうか」
「うーん、タクシーか……。このあいだタクシーに乗ったら財布をなくして……」

 この分では、また失くすだろうと思われた。
 あまりにふらふらなのでレンは肩を貸した。ルイスは眠りつつある。ルイスがぼそぼそといった住所は、レンの自宅の近くでもあった。レンはいつも歩いて通勤している。徒歩でも可能の距離だ。そう遠くない。

「そのあたりなら、あとで送るので、ちょっと待っていてもらってもいいですか。片づけるので」
「はあい」

 頑張ってルイスを二階に押し上げた。倉庫兼休憩場所として使っており、住める設備は整っている。和室六畳が二つと風呂場がついている。遅いときなどに泊まることがあり、布団も一組だがある。
 埃っぽくないだろうかと考えながら、敷いてルイスを寝かせた。
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