牧草地の白馬

蓬屋 月餅

文字の大きさ
上 下
47 / 47
神々とその側仕え達について(物語読了後推奨)

争いの神/???

しおりを挟む
・争いの神

 賭け事や喧嘩を眺めることを好む神。
 『争いの神』として周知されていますが、その正体は【天界】のさらに上にある【上天界】から降りてきたであり、男女の区別が無い特殊な存在であるとされています。
 【上天界】とは太陽神や月の神、山の神に大地の神、さらにはといった世界のすべてを司るような神々の住む世界で、陸国のみを加護する【天界】の神々とは比べ物にならないほどの神力と神格を備えた神のための世界です。
 人間にとっての『神』がほとんどの場合【天界】の神々を指すなら、【天界】に住む者にとっての『神』はこの【上天界】の神々ということになるでしょう。
(おそらく、【天界】の神はというような存在なのだと思われます)

 そんな【上天界】から降りてきたというは実際はとてつもなく強大な神力を内に秘めており、本来であれば隠しきれるものではない神力や神格の強さを誇っていますが、かえって力が強大過ぎるためにそれらを抑え込むことができているという、まさに他とは比べ物にならない存在であるようです。
 その強大な力のために自らの姿を男神にも女神にも自由自在に変化させることができ、時と場所によってどちらか適した方に変化させているのだとか…
 そのため、【天界】の神々はそれぞれどの姿を目にしたことがあるかによってとは『男神だ』『女神だ』もしくは『争いを司る夫婦神だ』と認識しています。
 現に、牧草地の神は未だ女神の姿しか目にしたことがないために『争いの神はである』と思っています。
(しかし、森の神とその側仕えの梟はなんとなく察している模様)

 【上天界】でどのようなことがあったのか…とにかくはある日『ここにいてもつまらないだけだ、下の【天界】に降りる』と宣言し、自ら【天界】行きを決めます。
 【上天界】から一度そうして降りてしまうと戻ってくることは容易ではないため他の神々はなんとか考え直させようと止めたようですが『それで構わん。それでこの身が消えたとてそれもまた一興だ』『賭け事こそ最大の楽しみだろう?いいじゃないか、我が身を賭けてみよう』と言ってさっさと降りていってしまいました。
 降りた先は、まだ陸国が興って目醒めたばかりだった真新しい【天界】。
 長い旅路の果てにようやく新天地に辿り着いた人間達は疲弊しており、賭け事などしようもなく賭け事の神は退屈していましたが、そこに目醒めたばかりの『争いの神』が近づいてきたことをきっかけに『争いの神』に目をつけます。
 争いの神はとても荒っぽく、戦やいさかいを好むような神だったため、そのまま野放しにしておけば人々の間に諍いをもたらしてついには殺戮まで引き起こし、陸国をたちまち滅ぼしてしまうというのは明らかでした。
 賭け事の神は『表情豊かなこの陸国の人間達が賭け事に興じれば絶対に楽しいものになる』と直感しており、争いの神によって陸国が滅ぼされてしまうことはなんとしても防ぎたかったようです。
 そこで賭け事の神は上手く唆して争いの神を創ったばかりの自らの屋敷に連れ込み、を強大な神力を使って張ることで事実上監禁してしまいました。
 怒り狂う争いの神に「1つ、我と賭けをしないか」と持ちかけた賭け事の神。

「君は人間を滅ぼしたいんだろうが、そのためにはこの屋敷から出る必要がある。しかしこの結界は絶対に君には破ることはできないぞ、分かるだろう?君と我とではが違うんだ。我が自ら結界を解かない限り、君は囚われのままということだな。…しかしまぁ、それでは面白くないから」

「我と争って、そのときは自由にしてやろう。陸国を滅ぼすなりなんなり好きにすればいい、陸国がなくなればこの【天界】も消えてここに住む我ら神も滅びることになるが…はは、そんなのは君にとっては問題ではないんだろう。我も滅びることになるから、君にとっては良い復讐にもなるんじゃないのかな」

 挑発するようなその言い方に余計に怒りを滾らせた争いの神はそのに応じましたが、その賭けの内容というのは『どちらが先に』というものであり、一見すれば争いの神に勝ち目があるようでも、実際には賭け事の神が勝つに決まっているという理不尽なものでもありました。
 時間の制限がない【天界】で、囚われの身である争いの神。
 当初は賭け事の神が憎くてたまらず(服従などするはずがない)と思っていた争いの神でしたが、賭け事の神は狡猾にも争いの神に迫り、徐々にその心を屈服させていきます。
 中でも最も効果的だったのが賭け事の神による『色仕掛け』でしょう。
 美しい女神の姿にも変化することができる賭け事の神は争いの神がであったために好みだと思われるその姿で争いの神に迫りましたが、それではあまりにも簡単に心をほだすことができてつまらなかったため、やがて男神の姿で争いの神に迫り、強引に抱いてしまいます。
 争いの神にとってそれはひどく屈辱的なことであり、一時は嫌悪も凄まじいほどにまでなっていましたが、強引に抱かれるうちにやがて神力の相性には抗いきれなくなり、抵抗しながらも受け入れるまでになっていきました。
 ついに目が合うと睨むのではなくパッと顔を背けるようになった争いの神。
 ある日、賭け事の神は言います。

「どうだ、陸国はこれからさらに国らしくなって栄えていきそうだけど、やはり君は滅ぼしたいか?」

「永遠に1つの賭け事ばかりしていても仕方がないからな、ここらで潮時だろう」

 賭け事の神の言葉を俯いて聞いていた争いの神でしたが、やがて「もう…そんな気も失せてしまった」と小さく呟き、ほとんど自身の負けを認めました。
 それは人間や神々の争う姿を見るのが楽しみであったはずの争いの神が賭け事の神に服従した瞬間であり、その後「それでは、賭けは我の勝ちということだな」と言った賭け事の神に頷いて答えたことで決定的となりました。

 すでに賭け事の神は『争いの神』として【天界】の他の神々に周知されていて本来の『争いの神』という存在を説明するのが難しかったということと、『争いの神』の神の本質がというものであるために気軽に出歩けば周囲に影響をもたらしてしまうだろうということから、賭け事の神は争いの神と屋敷の外に出る際は争いの神の姿を動物や装身具に変えさせることでそばに連れて歩くことにします。
 他の神々は『争いの神(実際には賭け事の神)』を見かけた際にそばにいる動物を側仕えだと思っているようですが、本当はその動物こそが『争いの神』であるということです。
 たとえ動物を伴っていなくても、必ず『争いの神(実際には賭け事の神)』はどこかに漆黒の簪や帯などの装身具を身に着けているでしょう。
 その装身具こそが『争いの神』です。

 賭け事の神は神や人間の喧嘩などにも『どのようにして相手と渡り合うか』という駆け引きを賭けの一環として楽しむために見に行きますが、どうやら争いごとが好きな争いの神のためにそれらをわざわざ見に行っているということもありそうです。

 なんだかんだ言って争いの神のことを愛しており、【上天界】を降りたことに対する後悔はなく、むしろ自身の身を賭けた甲斐があったと自負してもいます。
 また、争いの神との賭けについては初めから完全に自身の方に勝算があったため、公平な賭けではないことは理解していましたが、むしろそうした中での争いの神の反応が面白くて堪らなかったことから内容には満足しているようです。
 本来は【賭けとは双方互いが公平な上に成り立っていなければならない】という信条があるらしく、そこに発生する駆け引きや やり取りを眺めることを何よりも好ましく感じているのだとか。

 漆黒の髪に漆黒の衣姿をした、なんとも麗しい神です。
 男神姿も女神姿も少々衣が薄いようで…いやがおうにも妖艶さが目立っています。
 『賭け事を好む気質』というのは つまり賭け事に興じている神や人間同士の関わり合いを好んでいるということでもあるため、賭け事の神もすべての神や人間達のことを無条件に好ましく、愛らしく思っているのだとか。
 【天界】で他の神を見つけるとすぐさま賭け事をしようと迫り、何度も何度も繰り返し賭けに付き合わせたりすることも…よくあるようです。
 

ーーーーーーー

・???

 本来は戦やいさかいなどを司る男神。
 陸国という国を新たに興そうとしている人間達によって一番初めに【天界】で目醒めさせられた神でした。
 自身が『争いの神』だと理解してすぐに人間達を互いに争わせて滅ぼそうとしていましたが、賭け事の神に見つかり、監禁された挙句 賭けに誘われたことによって結果的にその務めを放棄することになります。
 それはつまり、陸国に安寧をもたらすということでもありました。

 初めは賭け事の神に翻弄されて煮え滾る怒りと憎しみの気持ちでいっぱいだったものの、やがて長い年月を過ごすうちに文字通り屈服させられ、ついに自ら賭けへの負けを認めます。
 おそらくですが…陸国の人々が諍いに関しての想いを届けることがなくなったため、自然と神力が弱まり、弱体化していくらか気性が柔らかくなったということもあったでしょう。
 神力が人々から届けられなくなった神は消滅してしまうものですが、争いの神の場合は常に賭け事の神がそばにいて神力を分け与えているため、消滅してしまうことはないのだと思われます。
 また、【天界】に住む男神とその側仕え(夫神)は精霊を生み出すことができますが、それは側仕え達が転生をして【天界】での神格を得たことによって可能になったことであり、出身が【上天界】という異なる世界である賭け事の神とは争いの神は精霊を生み出すことができません。
 きっとこの先も2人、ひっそりと【天界】に佇む屋敷で暮らしていくでしょう。

 屋敷の外に出る際は賭け事の神によって姿を変えられていますが、それは『器』に魄を移されているのとは異なりただ単に『変化』させられているというだけなので、賭け事の神や争いの神の気分によって姿はその時々で変わっているようです。
(ある時は大きな漆黒の山犬、またある時は大きな漆黒の烏、など…)

 関係の始まりは最悪極まりなかったものの、今ではすっかり賭け事の神を受け入れ、愛してさえもいるのだとか。
 武芸などの他には特に興味を持つものがなかった争いの神ですが、賭け事の神と共に目にするものにはなんでも関心を寄せているようです。

 賭け事の神同様に漆黒の髪と漆黒の衣をしているそうです。
 射るような目つき、そしてというような強靭な体つきで本来は近寄りがたい雰囲気を漂わせていますが…その姿を目にしたことのある者はただ一柱、賭け事の神のみです。
 【地界】では時折小さな諍いも起きるようですが、そこには争いの神の神力となるような強烈な想いがこもっていることは『ない』とはっきりと言ってもいいくらいなので、これからも賭け事の神とは運命共同体というような形で日々を過ごしていくでしょう。

 実は…
 陸国は余所の国から1、2回ほど侵略のためらしい装備をした遠征隊を送られたことがあるようですが、それらはすべて争いの神と賭け事の神によってもれなく始末されています。
 資源などを巡ってなのか、侵略を試みた国があったのでしょう。
 相手方にも戦の神がついてきたことがありましたが、陸国を守護する神々はそれをはるかに上回る強さを誇っており、遠征隊は陸国に到着することすらできませんでした。
 以降どの国からも遠征隊がやってくることはなく、陸国は平和を保っています。
 陸国は何しろ広く、他の地域がそれぞれ『他の国』といった感じのため…人々も特に余所の国に関心を示すことがないようです。
 武芸に秀でた争いの神と【上天界】から降りてきた強大な力を持つ賭け事の神が守護している以上、陸国はこの先もずっと安泰であるということは疑うまでもないこと、確実です。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

処理中です...