熊の魚

蓬屋 月餅

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登場人物について(本編読了後推奨)

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『彼』の実の姉。
 両親、5つ年下の弟と共に漁業地域で暮らしていました。

 両親はあまり自分達の過去について語ることはありませんでしたが、彼女は周りの人達の話から察し、両親が他の国からやってきたのだと知っていました。
 そしてそういった経緯が子供である自分達姉弟に対する教育に影響していることも分かっていました。
 他の家族、親子とは違っている関係性を苦しく思いつつも、両親の境遇を思えば仕方のないことかと考えていた彼女。
 しかし、何も知らない弟は『男だから』という理由で彼女よりも厳しい扱いを受けていて、次第にこのままではいけないと思うようになります。

 金銭ではなく、ほとんどが物々交換で成り立っている陸国。
 両親は他の地域と親族的なつながりも、友人もないことから野菜や肉などをもらってくることを遠慮していて、食事はもっぱら作業していれば手に入る魚が中心でした。
 「育ち盛りの弟にはそれではいけない」と考えた彼女は、配達のために行った先の地域で食堂に立ち寄ったりして食事を確保し、彼にこっそりと食べさせるなどして常に気遣います。
 そして「他の家族とは違う」と疎外感を感じている彼に沢山の愛情を注ぎました。

 そんな彼女の温和で大人しい性格をさらに優しく包み込んだのが酪農地域に暮らす男でした。
 配達の度に顔を合わせるうち、いつしか心惹かれていた2人。
 彼は彼女と同い年でありながらもすでに天涯孤独の身で、体が弱く、あまり力仕事などもできない人でしたが、それでも彼女の苦労や家庭事情を知って「一緒に暮らしてはどうか」と持ちかけます。
 初めは「かえって迷惑になるのでは」と躊躇した彼女でしたが、彼から「君と弟さんのことを守りたいんだ」と真摯に打ち明けられ、彼女もついに首を縦に振りました。
 両親に話す前に弟へ「共に酪農地域で暮らそう」と言ったのですが、弟は「そうだね…それも悪くないよね」と話した数日後、彼女に置き手紙だけを残して姿を消します。
 手紙には今までの感謝と自分のことは気にしないでほしいということ、これからの幸せを祈るということのみが書かれていました。
 
 弟が姿を消した後の彼女はとても落ち込んでいましたが、さらにそれにとどめを刺したのは両親の態度でした。
 「勝手にいなくなったのなら放っておけばいい」「周りに迷惑をかけなければそれでいい」と捜そうともせず、突き放すようなその様子に衝撃を受けた彼女は、男がきちんと形式的に挨拶をして連れ出してくれるまで塞ぎ込んでいました。

 数年後、彼女と夫の間に娘が産まれます。
 彼女は「これだけ時が経てば両親も変わっているかもしれない」「なにか弟の消息が分かるかもしれない」と期待して夫と共に娘の顔を見せに行きましたが、弟に関する情報は何もなかったばかりか、そこでまたもや冷たい言葉をかけられます。

「あなたに子供が育てられるの?」

 孫の誕生を喜ぶのでもなく、まさかそんなことを言われると思ってもいなかった彼女はひどく打ちのめされ、もう2度とここへは来まいと心に決めます。
 夫も彼女に寄り添い、2人で娘の成長を見守りながら今までに受けてきた彼女の心の傷を癒やしていました。
 しかし、元々体の弱かった夫はそれからすぐに他界。
 娘も父親の体の弱さを引き継いだのか熱を出すことなどはしょっちゅうで、実家に頼ることもできない彼女は「娘が少しでも穏やかな場所で暮らせるように」とかかりつけだった医者が紹介してくれた農業地域の奥地にある家へ移り住みます。
 このかかりつけ医の長男が『陸国調薬物語』の『伯父』です。
 それから娘と2人暮らしを続け、娘が18歳になった頃に亡くなりました。
 彼女の娘はそれからもその家に住み、数年後に孤児を引き取って実の娘のように育てることになりますが、この孤児が『陸国調香物語』の主人公です。
 つまり、『陸国調香物語』の主人公の育ての母が『魚』の姪にあたる子となっています。

 彼女は長年行方知れずの弟である『魚』を捜し続けていましたが、ついに再会は叶わないままでした。
 彼女の娘も血の繋がった子供を残していないため、彼女の家系は【本編では】完全に途絶えたことになります。

 ちなみに、両親は周りの目を非常に気にしていましたが、これは元々住んでいた国全体がそういった傾向にあったようです。
 陸国の人達は彼女一家に対して純粋に温かな心で接していましたが、それを「自分達が余所者だからだ」という風にしか思えなかった両親も、辛い境遇の被害者…なのでしょう。
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