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外伝
「浴室」
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農業地域の奥地、特に人気の少ないところ。
そこにその家はひっそりと建っている。
建ってからの長い年月を感じさせる重厚な木の色が美しい、立派な造りをした2階建てのその家。
しばらくの間、最低限の灯りしかついていなかったような家だったのだが、今はそこに2人の男が住んでいる。
ーーーーーー
夏の盛り過ぎたある日の夜。
彼は2階にある大きく開け放たれた窓枠に腰掛け、酒の入った盃を傾けながら眼下に遠くまで広がる小麦畑を眺めていた。
小麦のよく伸びた葉が風で涼し気な音を立てる中、その光景の美しさや香りと共に芳醇な酒を味わう彼。
風通しが良いおかげで、残暑とはいえとても過ごしやすい宵だ。
(はぁ…すごくいいな)
この窓から見える風景はいたって素朴なものだが、彼の1番のお気に入りでもある。
目の前から続く道を少し行ったところに控えめな灯りのついた家が一軒。
その他に見えるのは道端にある1本の大きな桃の木と、周りを取り囲む青々とした小麦畑、それと森だけだ。
彼は陸国の中心地や繁華街のにぎやかな様子も好きだったのだが、今ではこの穏やかな静けさに満ちた場所こそが1番だと確信している。
木々のざわめきや草木の香りを感じ、夜風に衣をそよがせながら盃を呷る。
美酒を味わうにはこれ以上ないというほど、素晴らしい夜だ。
「冴、湯の支度が……」
階下から階段を上がってきた霙は窓際にいる彼の姿を見つけるなり思わず言葉を切る。
そこにいたのは、まるで女神と見紛うほどに美しい人間だった。
窓のへりに伸ばされた足
立てた片膝の上に乗せている盃を持った腕
軽く束ねた肩まである長さの髪…
片膝を立てて酒を呷る姿は男らしいものであるはずなのに、彼にかかれば楚々とした姿になる。
同じ人間で同じ男。女神とは何もかもが異なるはずだが、それでもきっとこの姿を見れば誰もが彼のことを女神だと思うに違いない。
「ん、霙」
振り向き、霙に向けて笑顔を見せる彼。
その笑み1つだけでも心を射止めるには充分すぎるほどで、霙は鼓動が速くなったのを隠そうとするかのように「また酒を呑んでたのか」とため息をついた。
「父さん…なんで冴に酒なんかやったんだ。いくら自分がもう呑まないからっていったって、まったく」
「ふふっ、いいじゃん~大切にしてたお酒を全部僕に譲ってくださったんだよ?それってなんだかすごく特別な感じがしない?それにさ、お義父さんと僕は好みがよく合うんだよね。このお酒もすごく美味しいよ、霙も1杯どう?」
「俺は呑まない」
「ふん、つれないなぁ」
霙は机の上にある水差しを手に取り、彼が空にした盃に水をなみなみと注いで飲むように促す。
「ほら、水を飲んで」
「はぁ…分かったってば、飲めばいいんでしょ……っん、ほら」
「もう一杯」
有無を言わさず再び なみなみにされた盃を仕方なく空にする彼。
だが3度もそれを繰り返したところで彼は「もういいってば!」と盃を突っ返した。
「お酒は1杯しか呑んでないし、そもそもこんなにたくさんは注いでないから!お水はもういいよ、湯を浴びに行く」
「だめだろ、酒呑んだ後すぐに湯浴みなんて」
腕を掴んで引き留めようとする霙に彼は眉根を寄せて反論する。
「本当にちょっとだけだよ、あんなくらいでどうにかなるんなら誰もお酒なんか呑めないって!まったくもう、心配しすぎるんだから」
「じゃあ、せめてあとこの水を一杯飲んでから」
「はぁ…もう」
頑なに譲ろうとしない霙に折れた彼は、その盃に口をつけようとする。
だがそれを空にする前に1言「どうしてこんなに水を飲ませたがるの?」と片眉をあげて言った。
「水を沢山飲ませたい理由が他にあったりして」
「そんなのない、体が心配なだけだ」
「ふーん…どうだか」
霙を細めた目で見つつ水を飲み干した彼は「ほら、全部飲んだからね」と盃を逆さに振って見せる。
「これでいいでしょ」
「あぁ」
「ねぇ、一緒に湯浴みする?っていうか、するでしょ?」
「それは………」
「ふふ、先に入って待ってるね」
彼は持っていた盃を霙に預けると、「それじゃまた後で」と霙の頬に軽く口づけてから階下にある浴室へ向かって階段を降りていった。
ーーーーーー
灯りを大きくする工夫がされた油灯があちこちを明るく照らす浴室。
体を浸けるための大きな浴槽が中央に1つと、体を流すための湯を貯めておく大きな湯槽が端に1つあるこの浴室は、陸国のほとんどの地域にみられるごく一般的な浴室だ。
よく手入れのされた滑らかな木の床板は水が流れるとすぐさまそれらを弾き、側溝を通じて外へと送り出していく。
彼の実家の浴室は石造りだったため、この木の温もりがある浴室は一目で彼の心を射止めていた。
彼が洗い場で全身をくまなく、隅々まで洗い、洗い粉の爽やかな良い香りで浴室をいっぱいにし終えた頃。
ちょうど脱衣場から霙が衣を脱ぐ音が聞こえてきたのに気づいた彼は、満面の笑みを浮かべながら肩まで浴槽に浸かり、霙が戸を開けて入ってくるのを大人しく待つ。
「ありがとう霙、盃とか洗わせちゃってごめんね」
浴槽の中からにこやかに霙を迎え入れる彼。
霙は浴室に入ってすぐ手桶に汲んだかけ湯を2杯分体にかけ、「いや、別にあんなくらいどうってことないし」と彼に背を向けたまま言う。
「冴は母屋で洗い物をしてたりするだろ、この家では俺がやる」
少々無愛想な言い方をした霙だが、黙々とかけ湯を汲んで体にかける霙の耳たぶはふっくらと紅くなっている。
湯が床に流れていく中、そんな霙の後ろ姿に心をほぐされた彼は「ねぇ、湯を流すの、僕がやってあげるよ」と浴槽の縁に腕をかけた。
「その湯桶、こっちにちょうだい」
彼が手を差し出して催促すると、霙はかけ湯を汲んでいた手桶を彼に手渡し、そのまま洗い粉を軽く泡立てて体を洗い始めた。
口数が少なく、やけに寡黙な空気を醸し出している霙。
彼は今の霙がなんとかして体を綺麗に洗いあげることだけに集中しようとしていることを理解している。
霙が存分に体を洗うことができるよう、彼は受け取った手桶を浴槽の端にかけ、浴槽にザボンと全身を浸けたり湯の中で伸びをしたりして待った。
洗い粉のいい香りが霙から漂ってくる。
ふと目を向けてみると、そこには細かな白い泡で覆われた霙の背やうなじがあった。
肌を擦る度に泡がさわさわと心地良い音を立てて弾け、さらに良い香りを濃くさせる。
(うわ…うわうわ、本当……すっごい……)
彼は霙がこちらに背を向けているのを良いことに、そのままじっと目の前に広がる絶景を眺めた。
ただでさえ筋肉の起伏が素晴らしい霙の背部は、泡を纏っていることによって思わず息を呑んでしまうほどの美しさになっている。
元々彼は霙の肉体美がこの上なく好きだが、この泡にまみれた姿はより官能的で堪らない。
(あの背中…唇を押しつけて、思いっきり吸いたい。跡はなかなかつかないんだよね、筋肉がしっかりしてるから。そもそもこうやって背中を見ることも少なかったりして…うーん…もったいないな……お腹とか胸も良いけど、だけどやっぱりこの背中ってすごい………)
「冴?」
「あっ、うん」
ぼぅっと見惚れていた彼は霙からの声がけで我に返ると、隣のかけ湯槽から湯を汲んで霙の体を流していく。
美しい泡を流すのはもったいないなと思いながら湯をかけたのだが、泡が筋肉の起伏だけを残して滑り落ちていくのを見るのもなかなかの絶景だった。
頭の先から十分に湯をかけ終えたところで、彼は霙が湯に浸かれるよう浴槽の片側に身を寄せる。
霙は自分でも頭から湯をかぶって完全に洗い粉を落とし終えると、空いている浴槽の片側へゆっくりと体を浸けた。
この家にある浴槽は普通よりも随分と大きな物なのだが、彼がいくらか小柄だとはいえ、やはり大の大人が2人も入るには多少窮屈だ。
浴槽の両端にそれぞれ凭れて向かい合うと2人の足が絡み合う。
彼は胸まで湯に浸かりながら、向かい側で濡れた髪をかきあげる霙をじっと見た。
「湯加減はどうだ、今日は暑かったから少しぬるめにしたんだけど」
「うん…そうだね、ちょうどいいよ」
「それなら良かった。あんまり熱いとその後がだるくなるからさ」
話している霙を真正面からじっと見る彼。
少しの身じろぎで揺れる水面はすっかり見慣れたはずの霙の胸や腕、鎖骨を艶めかしく魅せていて、彼はすっかりそこへ釘付けになってしまう。
「冴?」
話し続けていても彼からの返答がないのを心配し、霙は彼の様子を窺うような視線を向けてきた。
かきあげたところから落ちた一房の前髪は先端から雫を滴らせ、浴槽に小さな波紋を広げる。
霙の仕草や視線。
そのすべてが好みで堪らず、彼は唐突に、なんの脈絡もなく、ただ1言「かっこいい」と声に出した。
「かっこいい、霙が」
「………」
言葉もなくただ彼を見つめる霙に、彼は構わず続ける。
「はぁ…もう、本当にどこもかしこもかっこいい、何をしててもかっこいい。どうしてそんなにかっこいいの?完璧じゃん。非の打ち所がないよ」
「突然何を…」
「全身かっこいいってなんなの…はぁ……ねぇねぇ、1個お願いがあるんだけどさ。ちょっとだけ後ろを向いてくれない?…良いからいいから、ね。ちょっとだけ、お願い」
強引に霙を後ろ向きにさせた彼は、目の前に現れたあの立派な美しい背に感嘆のため息をもらす。
筋骨隆々というわけではないが、引き締まっていて少しも無駄な部分を感じさせない肩と背。
筋肉の固さを包み込む皮膚は所々に左右対称の滑らかな線を描いている。
彼はその線の1本を指でなぞったり、肩周りの大きな筋肉を手のひらで撫でたりしながら「すっご………」と呟いてさらにそこへ近付いた。
「わぁ…固いのに柔らかいんだよ、不思議……同じような生活をしてても なかなかこうはなれないよね?…ねぇ、『ちゅっ』てしていい?」
「止めろよ、もういいだろ」
「1回、1回だけ!あっ、待ってよ、じゃあ せめてもう少し見させて!それくらい良いでしょ?じっくり霙の背中を見る機会って少ないんだから こういう時だけでも……」
彼が言い終わる前に霙は身を翻してまた彼と向かい合う。
背をぴったりと浴槽につけた霙に、彼は頬を膨らませて「ずるいな、ケチ」と抗議した。
「いいじゃん、減るもんじゃないんだし」
「いつも後ろから抱きついてくるときは好きにさせてるだろ。なにも今じゃなくったって」
「分かってないなぁ霙、衣越しとじゃ全然違うんだよ。…まったく、不平等だな。霙は僕の好きな所を好きなだけ見れるくせに、自分のは僕に見せないなんて。それこそ背中なんか僕をうつ伏せにさせればいくらでも見ながらできるじゃん、僕は霙の背中を見ながらはできないのにさ」
拗ねて横を向いた彼。
霙はそんな彼に「分かったよ、悪かったって」と言いながら腕を掴んで引き寄せ、そのまま彼を後ろから抱きしめる。
さらに「機嫌直して」と耳元に軽く音を立てて口づけてきた。
霙に抱き寄せられた彼が上機嫌にならないわけもなく、彼はそのまま霙の胸に寄りかかって「ほんと、ずるい」と微笑む。
「僕が見たいところは隠すくせに、拗ねたらすぐ謝ってくる。僕を振り回して楽しんでるんでしょ?ほんっと、悪い男だな……」
霙の血管が浮き出た大きな手を取り、その指の1本1本に自らの指を絡ませて遊ぶ彼。
するとしばらくしてから、霙は「…この1年、俺にはあっという間だった」と穏やかに話し始めた。
「冴とここで寝起きするようになって、父さんの仕事を引き継いで、禾が結婚して家を出ていって…毎日それなりに忙しくて大変だったけど、それでいて楽しい1年だったんだ。俺にとっては」
しみじみとしたその語り口と『俺にとっては』という言葉がやけに響いて聞こえた彼は「僕もそうだよ」と言って霙の手を握った。
「…ほら、僕はそれこそ畑仕事なんかしたこともなかったし、まさかこういう暮らしになるとも思ってなかったからさ…来てすぐの時とかはやっぱり慣れないこともあって、大変っちゃ大変だったんだ。でもお義父さんもお義母さんも禾ちゃんも、皆 僕にすごく良くしてくれて…『僕は本当にここにいて良いんだ』って『霙と一緒に居て良いんだ』って思えて、今は毎日がすごく…楽しくて嬉しい」
そう話す彼は心からの笑みを浮かべている。
霙はそんな彼の頬に手を添えると、流れるような所作で口づけをしてきた。
突然の口づけに照れと嬉しさが混じり、彼はふふっと笑う。
霙もつられて微かに笑みを浮かべたのを見た彼は、満足そうに目を閉じてさらに口づけを交わすと、体を動かして霙の太ももの上に跨った。
湯の中で肌が触れ合う感覚は密着力があがっているかのようで、欲を煽る。
「っ、はぁ霙…」
「冴…ありがとう、俺についてきてくれて……この家で俺と暮らしてくれて」
「うんんっ…僕こそ……霙…みぞれ、ありがとう……僕を……僕を愛してくれて」
激しさを増していく口づけの途中で交わし合う途切れ途切れの言葉は甘い響きに満ちている。
濡れた浴室は途端にそこら中がちゅっ、という軽い音や唾液を飲み込む喉の音でいっぱいになった。
「冴…わざとだな」
「ん…なにが?」
「とぼけても無駄だ」
「んん…こうやって霙に両腕を回してること?唇がくっつくギリギリで話してること?それとも……」
「冴…」
「ふふ、耳真っ赤」
彼は霙に擦り寄る。
彼の下半身は霙の下半身とぴったりと重なり合っていた。
2人分のそれはグイグイと押し合い、すでに刺激を与え合っている。
「そうだよ…わざとしてる。手を使わずに、腰だけで霙をその気にさせたくて」
「そんなことをする必要なんかないだろ」
「んん…そう?」
さらに股間のものを押しつぶすかのようにして腰を動かす彼は「ねぇ……今日もシてくれるでしょ?」と挑発的な声音で囁く。
「僕は毎日だって霙とこうしたいんだって…この1年間ずっと教えてきたつもりだよ、でしょ?うん…?」
「冴…」
「ふふ……反応しちゃって、かわいー……ねぇ、今夜も僕が気を失うくらい激しく攻めてよ……んっ…しつこく何度もなんども……僕をよがらせてヒクつかせて…使いものにならなくなるんじゃないかってくらいに……いっぱい………はぁ…っ」
霙の手はすでに彼の秘部をほぐしにかかっているが、一緒に湯を浴びると決まった時からこうなることを期待していた彼はすでに中の洗浄と共にほぐしを一通り終えており、挿し込まれた指を1本ならず2本 やすやすと呑み込めるほどになっている。
腹の奥底から込み上げてくるムズムズとした疼きを感じながら、彼は「どこでする…?」と霙の耳たぶをかじった。
「部屋…?部屋行って寝台に寝っ転がる?それとも…」
「このまま移動なんかできないだろ」
「あっ、んっ…ふふ…そうだよね…もう、今夜はここでしちゃお……」
浴槽の中、足を伸ばした霙の上に跨る彼は霙の首に両腕を回して容赦なく激しい口づけを浴びせる。
どれだけ興奮を煽ってもまだ足りないというように彼は腰を霙に擦り付け、今夜はまだ1度も手で触れていない霙の肉棒がはっきりとその存在を知らしめてくるのを感じながら熱い吐息を吐いた。
こうして肉棒を擦り付け合うといかに霙のそれが長く立派なのかが分かる。
なにせ彼のへそまで届くほどなのだ。
(これをすべて下に呑み込んだら)と考えるだけで彼の全身を快感が駆け巡っていく。
「はぁっ…はやくほしいよ、霙、みぞれぇ……いっぱいシてほしい……僕のなか、ぐちゃぐちゃにかき回して……」
はぁっ、はぁっ、という吐息の合間に囁く彼。
霙を焚き付けるためにあらゆる手を尽くし、いつ日が変わったのかも分からないというほど滅茶苦茶になるまで自らを求めさせるのが彼の狙いのようだ。
きっと息を荒らげた霙は今に洗い場の床へと彼を連れ出し、押し倒し、そして彼に膝を抱えさせたところでその中心にこの立派なものを呑み込ませてくるに違いない。
「ほら……ねぇ、っん……みぞれの、こんなにおっきくなってる……このままぎゅっとし合うので満足しちゃうなんて…うそでしょ?いつまで焦らすの…もう僕、ほしくてたまらないのに……」
霙の我慢がそろそろ限界を迎えるらしいということを悟った彼が肩を舐めるようにしながら口づけると、それまで彼の秘部や腰を撫で回していた霙がついに動き出した。
尻を一撫でしたかと思いきや、その小さく引き締まった尻の肉を両手でぐいっと持ち上げ、彼を前のめりにさせる霙。
そうしてわずかにできた下の空間に自らの肉棒を導くと、なんと霙はそのまま彼の秘部にその熱く猛ったものをあてがった。
秘部から伝わってくるその感覚に驚いた彼は「えっ、ま、待って霙」と身を起こそうとする。
「ここでするって、そ、そういうこと?この中で…あ、洗い場に…せめて湯からあがってしようよ…!」
「煽ってきたのは冴だろ」
「んぅ、それは…!だ、だってこの中でしちゃったら湯が汚れちゃうじゃん!僕は洗い場でっていうつもりで…あっ!!」
彼の戸惑いもよそにどんどんと彼の中へ挿入していく霙。
待ち望んでいたその感覚に身を震わせながら、彼は「ねぇ…汚しちゃうってば…」と眉をひそめて言う。
「どうすんの…まだ今からでも床に……」
「冴も興奮してるだろ」
「うぅん…っ、だから、それは…あっ、ああぁっ!!」
下から強く突き上げられ、彼はそれ以上抵抗できなくなった。
奥の方までほぐすように、じっくり、ゆっくりと。
間隔を空けての抽挿に反応した彼の身体は、中にいる霙のそれをキツく締めつけてさらに奥へと誘う。
だが、やがてそのゆっくりとした動きに焦れったくなってきた彼は、霙の肩を掴むと自ら動きを早めて体を上下させ始めた。
湯が波打ち、浴槽のフチからこぼれ落ちていく。
寝台でするときのものとは異なる音が、さらに2人の興奮を煽った。
「はぁっ、あっ、あんん…すっご……イイっ…これ……」
吐息ばかりだったような彼の喘ぎ声は次第にはっきりとした声が混ざるようになり、表情も恍惚としたものから苦しげに眉根をよせたものになる。
ガクガクとした震えが走り始める彼の身体をしっかりと抱き寄せながら、霙は「ほら…もうイキそうなんだろ」と再び彼を下から突き上げた。
「前のを触ってないのにビクついて……ナカだけでこんなになるなんて、すごいな冴」
「うぅぅんっ、みぞれ…みぞれ…っ」
「自分で腰振って先にイクって、そんなにこれがイイのか」
霙の囁きに呼応するかのように激しさを増していく彼の喘ぎ声。
「はぁ…ああっ、も、もう、だめ、みぞれっ……」
「冴…」
「い、イキそうっ…ぅぅぼくもうイキそうだから…ふぅっ、ううんっ…ん…~~~ッ」
彼はそれから間もなく、白濁を散らさずに絶頂を迎えた。
小刻みな体の震えによって生じた繊細な波が水面に美しく広がっていく。
荒い吐息だけが響く浴室の中、彼は霙にしがみついて呼吸を整えながら「……みぞれ」と囁きかけた。
「みぞれ……すごいよ、うぅん……ぼく…すっごくきもちいい……中だけでもう……イッちゃった……」
潤んだ艶やかな目で霙を見つめる彼。
霙は彼の頭に手を添えて深く口づけると、そのまま彼を反対側の浴槽の端に向けて押し倒した。
フチに頭を載せられた彼は霙の頬を一撫でしてから浴槽の両脇へ手をかける。
木の軋む音がするほどしっかりとそこを握った彼は、まだ力の入りきらない腹と太ももを水中で持ち上げ、自らの下腹部と霙のものを呑み込んだままの秘部を余すところなく曝け出した。
水面に揺らめいて不鮮明だったその光景は、霙が彼の膝裏を持ち上げて浴槽のフチに載せたことではっきりとする。
四肢で浴槽のフチに掴まる彼の体は下腹部だけが水中にあって、胸や太ももはしっとりと水に濡れている。
「うぅん…みぞれ……」
霙は彼の濃い桃色に色づいた両胸の尖りを摘み、脇腹と胸とを手のひらで覆って愛撫すると、2度ほど感触をたしかめるように中を攻めた。
彼の中はたった1度の絶頂では満足しない。
先ほどよりも熱く、うねるような動きで霙のそれを咥え込み、けっして離さないというかのように絡みつく彼の秘部。
彼から甘い吐息がもれた部分を逃さず、霙は徐々に腰の動きを早めて抽挿を再開させた。
「あっ、あっみぞれ、これ……おなか…変に…ヘンになっちゃう……」
頭を反らしながら息も絶え絶えに言う彼は「あっ…や、やだっ…これ……いやぁ…うぅ……」と眉根を寄せる。
「おなかのなか……お湯が……お湯がはいってきちゃって…うぅんんっ、んっ!はぁぁぅ、かき回されてるぅ……っ」
体内を渦巻く妙な感覚に彼は微かな戸惑いさえ覚える。
自らが上になっていた時よりも大きく股を開いた今の彼の秘部は、激しさを増していく霙の抽挿によって浴槽の湯までもを中に飲み込んでいた。
白濁や薬草から取り出した粘液とは違うものが霙の動きによって腹の奥へと溜められていくそれは、彼に羞恥をもたらす。
水中で行為をしているということが、ありありと感じられるためだろう。
激しい抽挿は一向に止まず、中だけで絶頂を迎えている彼はやがて痛いほどに勃起している先端からとろりと白濁をにじませて苦しげな表情を浮かべだした。
体を支えるために浴槽を握りしめているせいで、自らのものへ手を伸ばすことができない彼。
「だ…だしたい…もう、うぅ……だしたい………」と喉奥から絞り出すように言う彼を見かね、霙は腹につきそうなほどしっかりと反り勃っている彼のそれへ触れる。
霙が自らの動きに合わせてそこを握りながら刺激すると、ほどなくして大きく喘ぎながら体を跳ねらせた彼は濃く粘つく白濁を自らの胸元に飛ばした。
濡れた肌にべっとりとついたその白濁は波に揺られて妖しく湯の中を漂い、浴槽へ拡がっていく。
さらなる絶頂を迎えた彼の中は収縮を繰り返し、中にいる霙の肉棒の射精を促すようにキツく締めつけた。
そんな強すぎるほどの刺激に抗うことなど到底できるはずもなく、彼の腰を引き寄せた霙は「冴……出すからな」と囁きかけ、歯を食いしばる。
「俺も…俺もイキそうだ、冴………」
「はぁっ……きて……みぞれ……みぞれぇっ……!!!」
「………っ!」
激しい動きによって生まれた大きな波は浴槽の湯をまとめてフチから溢れ出させた。
元々浴槽の半分以上は溜められていた湯だが、一連の動きによって随分な量がこぼされ、今は目に見えてかさが減っている。
勢いを失って穏やかになっていく波が汗ばんだ胸元や腕を撫でていくのを感じながら、2人は昂ぶっていた気を落ち着かせ、やがてぽつりぽつりと言葉を交わし始めた。
「もう……汚しちゃったじゃん…お湯……」
「…そうだな」
「……どうすんの、これ…大きいから洗うのが大変なのに……いっぱい洗わなきゃ、綺麗になんないんじゃないの……」
「これくらい…すぐだ。冴は心配するな、俺がやるから」
「んん……そうなの…?僕が汚しちゃったのを……霙が綺麗にしてくれるの……?」
「当たり前だろ」
「ふふ…そうなんだ……」
はぁはぁと息をつきながら片手で霙の濡れた前髪をかきあげる彼。
果てたばかりの興奮がおさまりきっていない霙の瞳は彼の心を強く捉えて離さず、さらなる欲情まで煽ってくるようだ。
彼は霙を引き寄せて深く口づける。
「霙は…僕がこんなにしちゃっても、嫌いにならないんだね」
「なんだそれ…どうして嫌うとかって話になるんだ」
「うぅんん…だって普通はこんなの……汚いもん。こんなので汚しちゃったのを霙に綺麗にさせる僕は……ひどいでしょ」
伏し目がちな彼のその言葉を聞いた霙は両手を彼の背へ回し、唇が触れるか触れないかというところを彷徨いながら「ひどいか?」と囁きかける。
「それなら、汚させた俺は?」
「うーん…?それは……」
「冴を浴槽から逃さずに、散々突いてよがらせて、喘がせた俺は?」
次々と飛び出す赤面するような言葉に照れてくすくすと笑う彼。
すると霙は「悪いな、冴」とさらに続けて言った。
「俺、抱くのが上手くて」
鼻先を合わせながらいたずらっぽい笑みを浮かべる霙。
至近距離で見るその表情は、可愛らしく、かっこよく、そして妖艶だ。
その笑みにすっかり胸を鷲掴みにされた彼は思わず吹き出して「なにそれ…!」と笑う。
「霙、自信満々すぎ…ふふっ……あははっ!!抱くの上手くて、って……自分で言っちゃうの……ふふふっ」
「笑えよ、いくらでも。事実だろ、俺が上手いせいで冴はよがるんだし、こうしてあちこち汚すんだから。浴室も寝台も机も……」
「んんっ、もう!」
霙に抱きしめられながら ちゅっ と軽く口づけ合う。
すると今度は彼がいたずらっぽい笑みを見せながら「ごめんね、霙」と口を開いた。
「僕、イキやすくって」
目を細め、軽く唇を噛みながら彼はさらに続ける。
「霙に触られるとすぐに気持ちよくなっちゃってさ…何回もイッちゃうんだよ…耳も手も口も、どこでも……こうやって中に来てくれるだけでもすっごくイイし…そう、むしろ男の子のコレをギュってされるのだけじゃ物足りないんだ…中のイイところを霙のでいっぱい気持ちよくしてほしいって、思っちゃう……」
背をしっかりと支えられている彼は両腕を浴槽のフチから霙のうなじへと伸ばす。
「いつも……霙がイクのを待てない、先に何度もイッちゃって…ごめん」
「冴…」
「でも…そうだな、やっぱり霙が上手すぎるのが良くないよ…だから僕はたくさんイッちゃうし、毎日でもしたくなるんだから。…ほんと、僕とするまで誰ともしたことなかったなんて、童貞だったなんて信じらんないよ…こんなに上手い男なんだもん、僕が女の子だったら…絶対に1回で赤ちゃんできてたよね…しつこいってくらいに気持ちよくさせて、奥をこじ開けて、それでそこにいっぱい注いで……んんっ」
今夜すでに数え切れない何度目かの深い口づけを交わし、彼はさらに言う。
「ねぇ霙…僕達、相性が良すぎるよ…だってこんなに気持ち良くなれるなんて、おかしいもん…んっ……ふぅっ、はぁぁ……好き……霙のこと、大好き……もっと、もっと気持ちよくさせて……?」
「よく煽るな冴、クタクタだろ」
「僕が?まさか……まだまだ足んないよ…こんな1回2回くらいじゃ……ね」
中に挿入ったままの霙がまたわずかに奥を擦る。
彼は霙に抱きつきながら静かになっていた欲が充分に起き上がってくるのを感じ、「ねぇ…霙」と囁きかけた。
「この体勢もなかなか良いけど…やっぱり寝っ転がりたいよ……寝っ転がって霙に全身でしがみつきたい……」
彼の望みを聞き入れた霙は名残惜しむようにもう1度だけ彼の中を強く突き上げると、中に挿入っていたものを引き抜き、彼の手を取って浴槽からあがった。
霙が浴槽の栓を抜いたことで浴室の床には湯が流れ出し、いくらか冷えていたのをじんわりと温めていく。
そこへ押し倒された彼は自らの膝裏をしっかりと掴んで秘部を晒し、出ていってしまったばかりのあの素晴らしい肉棒が再びあてがわれるのを嬉々として迎え入れた。
霙が腰を動かすと彼の中から湯と白濁が混ざったものが溢れ出す。
床を流れていく湯がピチャピチャと音を立てる中、2人はさらに激しく絡み合って互いに快感を貪り始めた。
「あぁぁっ…っ!!きもちい……イイっ、ううんっん、んぅっ、はぁっ、あぁあっ!!!」
彼は四肢を霙に絡みつけながらなんの躊躇いもなく喘ぎ声を響かせ、ただひたすらに全身で快感を得る。
たとえ何があろうとも、すべての恥を捨て去って睦み合うことだけに集中しているこの2人を止めることはできないだろう。
夏の夜風が吹き抜ける宵。
美しい星達が瞬くその下に、季節とは関係のない熱気で満たされた1つの浴室があった。
ーーーーーーーーーーー
次話の更新は9月末頃を予定しています。
そこにその家はひっそりと建っている。
建ってからの長い年月を感じさせる重厚な木の色が美しい、立派な造りをした2階建てのその家。
しばらくの間、最低限の灯りしかついていなかったような家だったのだが、今はそこに2人の男が住んでいる。
ーーーーーー
夏の盛り過ぎたある日の夜。
彼は2階にある大きく開け放たれた窓枠に腰掛け、酒の入った盃を傾けながら眼下に遠くまで広がる小麦畑を眺めていた。
小麦のよく伸びた葉が風で涼し気な音を立てる中、その光景の美しさや香りと共に芳醇な酒を味わう彼。
風通しが良いおかげで、残暑とはいえとても過ごしやすい宵だ。
(はぁ…すごくいいな)
この窓から見える風景はいたって素朴なものだが、彼の1番のお気に入りでもある。
目の前から続く道を少し行ったところに控えめな灯りのついた家が一軒。
その他に見えるのは道端にある1本の大きな桃の木と、周りを取り囲む青々とした小麦畑、それと森だけだ。
彼は陸国の中心地や繁華街のにぎやかな様子も好きだったのだが、今ではこの穏やかな静けさに満ちた場所こそが1番だと確信している。
木々のざわめきや草木の香りを感じ、夜風に衣をそよがせながら盃を呷る。
美酒を味わうにはこれ以上ないというほど、素晴らしい夜だ。
「冴、湯の支度が……」
階下から階段を上がってきた霙は窓際にいる彼の姿を見つけるなり思わず言葉を切る。
そこにいたのは、まるで女神と見紛うほどに美しい人間だった。
窓のへりに伸ばされた足
立てた片膝の上に乗せている盃を持った腕
軽く束ねた肩まである長さの髪…
片膝を立てて酒を呷る姿は男らしいものであるはずなのに、彼にかかれば楚々とした姿になる。
同じ人間で同じ男。女神とは何もかもが異なるはずだが、それでもきっとこの姿を見れば誰もが彼のことを女神だと思うに違いない。
「ん、霙」
振り向き、霙に向けて笑顔を見せる彼。
その笑み1つだけでも心を射止めるには充分すぎるほどで、霙は鼓動が速くなったのを隠そうとするかのように「また酒を呑んでたのか」とため息をついた。
「父さん…なんで冴に酒なんかやったんだ。いくら自分がもう呑まないからっていったって、まったく」
「ふふっ、いいじゃん~大切にしてたお酒を全部僕に譲ってくださったんだよ?それってなんだかすごく特別な感じがしない?それにさ、お義父さんと僕は好みがよく合うんだよね。このお酒もすごく美味しいよ、霙も1杯どう?」
「俺は呑まない」
「ふん、つれないなぁ」
霙は机の上にある水差しを手に取り、彼が空にした盃に水をなみなみと注いで飲むように促す。
「ほら、水を飲んで」
「はぁ…分かったってば、飲めばいいんでしょ……っん、ほら」
「もう一杯」
有無を言わさず再び なみなみにされた盃を仕方なく空にする彼。
だが3度もそれを繰り返したところで彼は「もういいってば!」と盃を突っ返した。
「お酒は1杯しか呑んでないし、そもそもこんなにたくさんは注いでないから!お水はもういいよ、湯を浴びに行く」
「だめだろ、酒呑んだ後すぐに湯浴みなんて」
腕を掴んで引き留めようとする霙に彼は眉根を寄せて反論する。
「本当にちょっとだけだよ、あんなくらいでどうにかなるんなら誰もお酒なんか呑めないって!まったくもう、心配しすぎるんだから」
「じゃあ、せめてあとこの水を一杯飲んでから」
「はぁ…もう」
頑なに譲ろうとしない霙に折れた彼は、その盃に口をつけようとする。
だがそれを空にする前に1言「どうしてこんなに水を飲ませたがるの?」と片眉をあげて言った。
「水を沢山飲ませたい理由が他にあったりして」
「そんなのない、体が心配なだけだ」
「ふーん…どうだか」
霙を細めた目で見つつ水を飲み干した彼は「ほら、全部飲んだからね」と盃を逆さに振って見せる。
「これでいいでしょ」
「あぁ」
「ねぇ、一緒に湯浴みする?っていうか、するでしょ?」
「それは………」
「ふふ、先に入って待ってるね」
彼は持っていた盃を霙に預けると、「それじゃまた後で」と霙の頬に軽く口づけてから階下にある浴室へ向かって階段を降りていった。
ーーーーーー
灯りを大きくする工夫がされた油灯があちこちを明るく照らす浴室。
体を浸けるための大きな浴槽が中央に1つと、体を流すための湯を貯めておく大きな湯槽が端に1つあるこの浴室は、陸国のほとんどの地域にみられるごく一般的な浴室だ。
よく手入れのされた滑らかな木の床板は水が流れるとすぐさまそれらを弾き、側溝を通じて外へと送り出していく。
彼の実家の浴室は石造りだったため、この木の温もりがある浴室は一目で彼の心を射止めていた。
彼が洗い場で全身をくまなく、隅々まで洗い、洗い粉の爽やかな良い香りで浴室をいっぱいにし終えた頃。
ちょうど脱衣場から霙が衣を脱ぐ音が聞こえてきたのに気づいた彼は、満面の笑みを浮かべながら肩まで浴槽に浸かり、霙が戸を開けて入ってくるのを大人しく待つ。
「ありがとう霙、盃とか洗わせちゃってごめんね」
浴槽の中からにこやかに霙を迎え入れる彼。
霙は浴室に入ってすぐ手桶に汲んだかけ湯を2杯分体にかけ、「いや、別にあんなくらいどうってことないし」と彼に背を向けたまま言う。
「冴は母屋で洗い物をしてたりするだろ、この家では俺がやる」
少々無愛想な言い方をした霙だが、黙々とかけ湯を汲んで体にかける霙の耳たぶはふっくらと紅くなっている。
湯が床に流れていく中、そんな霙の後ろ姿に心をほぐされた彼は「ねぇ、湯を流すの、僕がやってあげるよ」と浴槽の縁に腕をかけた。
「その湯桶、こっちにちょうだい」
彼が手を差し出して催促すると、霙はかけ湯を汲んでいた手桶を彼に手渡し、そのまま洗い粉を軽く泡立てて体を洗い始めた。
口数が少なく、やけに寡黙な空気を醸し出している霙。
彼は今の霙がなんとかして体を綺麗に洗いあげることだけに集中しようとしていることを理解している。
霙が存分に体を洗うことができるよう、彼は受け取った手桶を浴槽の端にかけ、浴槽にザボンと全身を浸けたり湯の中で伸びをしたりして待った。
洗い粉のいい香りが霙から漂ってくる。
ふと目を向けてみると、そこには細かな白い泡で覆われた霙の背やうなじがあった。
肌を擦る度に泡がさわさわと心地良い音を立てて弾け、さらに良い香りを濃くさせる。
(うわ…うわうわ、本当……すっごい……)
彼は霙がこちらに背を向けているのを良いことに、そのままじっと目の前に広がる絶景を眺めた。
ただでさえ筋肉の起伏が素晴らしい霙の背部は、泡を纏っていることによって思わず息を呑んでしまうほどの美しさになっている。
元々彼は霙の肉体美がこの上なく好きだが、この泡にまみれた姿はより官能的で堪らない。
(あの背中…唇を押しつけて、思いっきり吸いたい。跡はなかなかつかないんだよね、筋肉がしっかりしてるから。そもそもこうやって背中を見ることも少なかったりして…うーん…もったいないな……お腹とか胸も良いけど、だけどやっぱりこの背中ってすごい………)
「冴?」
「あっ、うん」
ぼぅっと見惚れていた彼は霙からの声がけで我に返ると、隣のかけ湯槽から湯を汲んで霙の体を流していく。
美しい泡を流すのはもったいないなと思いながら湯をかけたのだが、泡が筋肉の起伏だけを残して滑り落ちていくのを見るのもなかなかの絶景だった。
頭の先から十分に湯をかけ終えたところで、彼は霙が湯に浸かれるよう浴槽の片側に身を寄せる。
霙は自分でも頭から湯をかぶって完全に洗い粉を落とし終えると、空いている浴槽の片側へゆっくりと体を浸けた。
この家にある浴槽は普通よりも随分と大きな物なのだが、彼がいくらか小柄だとはいえ、やはり大の大人が2人も入るには多少窮屈だ。
浴槽の両端にそれぞれ凭れて向かい合うと2人の足が絡み合う。
彼は胸まで湯に浸かりながら、向かい側で濡れた髪をかきあげる霙をじっと見た。
「湯加減はどうだ、今日は暑かったから少しぬるめにしたんだけど」
「うん…そうだね、ちょうどいいよ」
「それなら良かった。あんまり熱いとその後がだるくなるからさ」
話している霙を真正面からじっと見る彼。
少しの身じろぎで揺れる水面はすっかり見慣れたはずの霙の胸や腕、鎖骨を艶めかしく魅せていて、彼はすっかりそこへ釘付けになってしまう。
「冴?」
話し続けていても彼からの返答がないのを心配し、霙は彼の様子を窺うような視線を向けてきた。
かきあげたところから落ちた一房の前髪は先端から雫を滴らせ、浴槽に小さな波紋を広げる。
霙の仕草や視線。
そのすべてが好みで堪らず、彼は唐突に、なんの脈絡もなく、ただ1言「かっこいい」と声に出した。
「かっこいい、霙が」
「………」
言葉もなくただ彼を見つめる霙に、彼は構わず続ける。
「はぁ…もう、本当にどこもかしこもかっこいい、何をしててもかっこいい。どうしてそんなにかっこいいの?完璧じゃん。非の打ち所がないよ」
「突然何を…」
「全身かっこいいってなんなの…はぁ……ねぇねぇ、1個お願いがあるんだけどさ。ちょっとだけ後ろを向いてくれない?…良いからいいから、ね。ちょっとだけ、お願い」
強引に霙を後ろ向きにさせた彼は、目の前に現れたあの立派な美しい背に感嘆のため息をもらす。
筋骨隆々というわけではないが、引き締まっていて少しも無駄な部分を感じさせない肩と背。
筋肉の固さを包み込む皮膚は所々に左右対称の滑らかな線を描いている。
彼はその線の1本を指でなぞったり、肩周りの大きな筋肉を手のひらで撫でたりしながら「すっご………」と呟いてさらにそこへ近付いた。
「わぁ…固いのに柔らかいんだよ、不思議……同じような生活をしてても なかなかこうはなれないよね?…ねぇ、『ちゅっ』てしていい?」
「止めろよ、もういいだろ」
「1回、1回だけ!あっ、待ってよ、じゃあ せめてもう少し見させて!それくらい良いでしょ?じっくり霙の背中を見る機会って少ないんだから こういう時だけでも……」
彼が言い終わる前に霙は身を翻してまた彼と向かい合う。
背をぴったりと浴槽につけた霙に、彼は頬を膨らませて「ずるいな、ケチ」と抗議した。
「いいじゃん、減るもんじゃないんだし」
「いつも後ろから抱きついてくるときは好きにさせてるだろ。なにも今じゃなくったって」
「分かってないなぁ霙、衣越しとじゃ全然違うんだよ。…まったく、不平等だな。霙は僕の好きな所を好きなだけ見れるくせに、自分のは僕に見せないなんて。それこそ背中なんか僕をうつ伏せにさせればいくらでも見ながらできるじゃん、僕は霙の背中を見ながらはできないのにさ」
拗ねて横を向いた彼。
霙はそんな彼に「分かったよ、悪かったって」と言いながら腕を掴んで引き寄せ、そのまま彼を後ろから抱きしめる。
さらに「機嫌直して」と耳元に軽く音を立てて口づけてきた。
霙に抱き寄せられた彼が上機嫌にならないわけもなく、彼はそのまま霙の胸に寄りかかって「ほんと、ずるい」と微笑む。
「僕が見たいところは隠すくせに、拗ねたらすぐ謝ってくる。僕を振り回して楽しんでるんでしょ?ほんっと、悪い男だな……」
霙の血管が浮き出た大きな手を取り、その指の1本1本に自らの指を絡ませて遊ぶ彼。
するとしばらくしてから、霙は「…この1年、俺にはあっという間だった」と穏やかに話し始めた。
「冴とここで寝起きするようになって、父さんの仕事を引き継いで、禾が結婚して家を出ていって…毎日それなりに忙しくて大変だったけど、それでいて楽しい1年だったんだ。俺にとっては」
しみじみとしたその語り口と『俺にとっては』という言葉がやけに響いて聞こえた彼は「僕もそうだよ」と言って霙の手を握った。
「…ほら、僕はそれこそ畑仕事なんかしたこともなかったし、まさかこういう暮らしになるとも思ってなかったからさ…来てすぐの時とかはやっぱり慣れないこともあって、大変っちゃ大変だったんだ。でもお義父さんもお義母さんも禾ちゃんも、皆 僕にすごく良くしてくれて…『僕は本当にここにいて良いんだ』って『霙と一緒に居て良いんだ』って思えて、今は毎日がすごく…楽しくて嬉しい」
そう話す彼は心からの笑みを浮かべている。
霙はそんな彼の頬に手を添えると、流れるような所作で口づけをしてきた。
突然の口づけに照れと嬉しさが混じり、彼はふふっと笑う。
霙もつられて微かに笑みを浮かべたのを見た彼は、満足そうに目を閉じてさらに口づけを交わすと、体を動かして霙の太ももの上に跨った。
湯の中で肌が触れ合う感覚は密着力があがっているかのようで、欲を煽る。
「っ、はぁ霙…」
「冴…ありがとう、俺についてきてくれて……この家で俺と暮らしてくれて」
「うんんっ…僕こそ……霙…みぞれ、ありがとう……僕を……僕を愛してくれて」
激しさを増していく口づけの途中で交わし合う途切れ途切れの言葉は甘い響きに満ちている。
濡れた浴室は途端にそこら中がちゅっ、という軽い音や唾液を飲み込む喉の音でいっぱいになった。
「冴…わざとだな」
「ん…なにが?」
「とぼけても無駄だ」
「んん…こうやって霙に両腕を回してること?唇がくっつくギリギリで話してること?それとも……」
「冴…」
「ふふ、耳真っ赤」
彼は霙に擦り寄る。
彼の下半身は霙の下半身とぴったりと重なり合っていた。
2人分のそれはグイグイと押し合い、すでに刺激を与え合っている。
「そうだよ…わざとしてる。手を使わずに、腰だけで霙をその気にさせたくて」
「そんなことをする必要なんかないだろ」
「んん…そう?」
さらに股間のものを押しつぶすかのようにして腰を動かす彼は「ねぇ……今日もシてくれるでしょ?」と挑発的な声音で囁く。
「僕は毎日だって霙とこうしたいんだって…この1年間ずっと教えてきたつもりだよ、でしょ?うん…?」
「冴…」
「ふふ……反応しちゃって、かわいー……ねぇ、今夜も僕が気を失うくらい激しく攻めてよ……んっ…しつこく何度もなんども……僕をよがらせてヒクつかせて…使いものにならなくなるんじゃないかってくらいに……いっぱい………はぁ…っ」
霙の手はすでに彼の秘部をほぐしにかかっているが、一緒に湯を浴びると決まった時からこうなることを期待していた彼はすでに中の洗浄と共にほぐしを一通り終えており、挿し込まれた指を1本ならず2本 やすやすと呑み込めるほどになっている。
腹の奥底から込み上げてくるムズムズとした疼きを感じながら、彼は「どこでする…?」と霙の耳たぶをかじった。
「部屋…?部屋行って寝台に寝っ転がる?それとも…」
「このまま移動なんかできないだろ」
「あっ、んっ…ふふ…そうだよね…もう、今夜はここでしちゃお……」
浴槽の中、足を伸ばした霙の上に跨る彼は霙の首に両腕を回して容赦なく激しい口づけを浴びせる。
どれだけ興奮を煽ってもまだ足りないというように彼は腰を霙に擦り付け、今夜はまだ1度も手で触れていない霙の肉棒がはっきりとその存在を知らしめてくるのを感じながら熱い吐息を吐いた。
こうして肉棒を擦り付け合うといかに霙のそれが長く立派なのかが分かる。
なにせ彼のへそまで届くほどなのだ。
(これをすべて下に呑み込んだら)と考えるだけで彼の全身を快感が駆け巡っていく。
「はぁっ…はやくほしいよ、霙、みぞれぇ……いっぱいシてほしい……僕のなか、ぐちゃぐちゃにかき回して……」
はぁっ、はぁっ、という吐息の合間に囁く彼。
霙を焚き付けるためにあらゆる手を尽くし、いつ日が変わったのかも分からないというほど滅茶苦茶になるまで自らを求めさせるのが彼の狙いのようだ。
きっと息を荒らげた霙は今に洗い場の床へと彼を連れ出し、押し倒し、そして彼に膝を抱えさせたところでその中心にこの立派なものを呑み込ませてくるに違いない。
「ほら……ねぇ、っん……みぞれの、こんなにおっきくなってる……このままぎゅっとし合うので満足しちゃうなんて…うそでしょ?いつまで焦らすの…もう僕、ほしくてたまらないのに……」
霙の我慢がそろそろ限界を迎えるらしいということを悟った彼が肩を舐めるようにしながら口づけると、それまで彼の秘部や腰を撫で回していた霙がついに動き出した。
尻を一撫でしたかと思いきや、その小さく引き締まった尻の肉を両手でぐいっと持ち上げ、彼を前のめりにさせる霙。
そうしてわずかにできた下の空間に自らの肉棒を導くと、なんと霙はそのまま彼の秘部にその熱く猛ったものをあてがった。
秘部から伝わってくるその感覚に驚いた彼は「えっ、ま、待って霙」と身を起こそうとする。
「ここでするって、そ、そういうこと?この中で…あ、洗い場に…せめて湯からあがってしようよ…!」
「煽ってきたのは冴だろ」
「んぅ、それは…!だ、だってこの中でしちゃったら湯が汚れちゃうじゃん!僕は洗い場でっていうつもりで…あっ!!」
彼の戸惑いもよそにどんどんと彼の中へ挿入していく霙。
待ち望んでいたその感覚に身を震わせながら、彼は「ねぇ…汚しちゃうってば…」と眉をひそめて言う。
「どうすんの…まだ今からでも床に……」
「冴も興奮してるだろ」
「うぅん…っ、だから、それは…あっ、ああぁっ!!」
下から強く突き上げられ、彼はそれ以上抵抗できなくなった。
奥の方までほぐすように、じっくり、ゆっくりと。
間隔を空けての抽挿に反応した彼の身体は、中にいる霙のそれをキツく締めつけてさらに奥へと誘う。
だが、やがてそのゆっくりとした動きに焦れったくなってきた彼は、霙の肩を掴むと自ら動きを早めて体を上下させ始めた。
湯が波打ち、浴槽のフチからこぼれ落ちていく。
寝台でするときのものとは異なる音が、さらに2人の興奮を煽った。
「はぁっ、あっ、あんん…すっご……イイっ…これ……」
吐息ばかりだったような彼の喘ぎ声は次第にはっきりとした声が混ざるようになり、表情も恍惚としたものから苦しげに眉根をよせたものになる。
ガクガクとした震えが走り始める彼の身体をしっかりと抱き寄せながら、霙は「ほら…もうイキそうなんだろ」と再び彼を下から突き上げた。
「前のを触ってないのにビクついて……ナカだけでこんなになるなんて、すごいな冴」
「うぅぅんっ、みぞれ…みぞれ…っ」
「自分で腰振って先にイクって、そんなにこれがイイのか」
霙の囁きに呼応するかのように激しさを増していく彼の喘ぎ声。
「はぁ…ああっ、も、もう、だめ、みぞれっ……」
「冴…」
「い、イキそうっ…ぅぅぼくもうイキそうだから…ふぅっ、ううんっ…ん…~~~ッ」
彼はそれから間もなく、白濁を散らさずに絶頂を迎えた。
小刻みな体の震えによって生じた繊細な波が水面に美しく広がっていく。
荒い吐息だけが響く浴室の中、彼は霙にしがみついて呼吸を整えながら「……みぞれ」と囁きかけた。
「みぞれ……すごいよ、うぅん……ぼく…すっごくきもちいい……中だけでもう……イッちゃった……」
潤んだ艶やかな目で霙を見つめる彼。
霙は彼の頭に手を添えて深く口づけると、そのまま彼を反対側の浴槽の端に向けて押し倒した。
フチに頭を載せられた彼は霙の頬を一撫でしてから浴槽の両脇へ手をかける。
木の軋む音がするほどしっかりとそこを握った彼は、まだ力の入りきらない腹と太ももを水中で持ち上げ、自らの下腹部と霙のものを呑み込んだままの秘部を余すところなく曝け出した。
水面に揺らめいて不鮮明だったその光景は、霙が彼の膝裏を持ち上げて浴槽のフチに載せたことではっきりとする。
四肢で浴槽のフチに掴まる彼の体は下腹部だけが水中にあって、胸や太ももはしっとりと水に濡れている。
「うぅん…みぞれ……」
霙は彼の濃い桃色に色づいた両胸の尖りを摘み、脇腹と胸とを手のひらで覆って愛撫すると、2度ほど感触をたしかめるように中を攻めた。
彼の中はたった1度の絶頂では満足しない。
先ほどよりも熱く、うねるような動きで霙のそれを咥え込み、けっして離さないというかのように絡みつく彼の秘部。
彼から甘い吐息がもれた部分を逃さず、霙は徐々に腰の動きを早めて抽挿を再開させた。
「あっ、あっみぞれ、これ……おなか…変に…ヘンになっちゃう……」
頭を反らしながら息も絶え絶えに言う彼は「あっ…や、やだっ…これ……いやぁ…うぅ……」と眉根を寄せる。
「おなかのなか……お湯が……お湯がはいってきちゃって…うぅんんっ、んっ!はぁぁぅ、かき回されてるぅ……っ」
体内を渦巻く妙な感覚に彼は微かな戸惑いさえ覚える。
自らが上になっていた時よりも大きく股を開いた今の彼の秘部は、激しさを増していく霙の抽挿によって浴槽の湯までもを中に飲み込んでいた。
白濁や薬草から取り出した粘液とは違うものが霙の動きによって腹の奥へと溜められていくそれは、彼に羞恥をもたらす。
水中で行為をしているということが、ありありと感じられるためだろう。
激しい抽挿は一向に止まず、中だけで絶頂を迎えている彼はやがて痛いほどに勃起している先端からとろりと白濁をにじませて苦しげな表情を浮かべだした。
体を支えるために浴槽を握りしめているせいで、自らのものへ手を伸ばすことができない彼。
「だ…だしたい…もう、うぅ……だしたい………」と喉奥から絞り出すように言う彼を見かね、霙は腹につきそうなほどしっかりと反り勃っている彼のそれへ触れる。
霙が自らの動きに合わせてそこを握りながら刺激すると、ほどなくして大きく喘ぎながら体を跳ねらせた彼は濃く粘つく白濁を自らの胸元に飛ばした。
濡れた肌にべっとりとついたその白濁は波に揺られて妖しく湯の中を漂い、浴槽へ拡がっていく。
さらなる絶頂を迎えた彼の中は収縮を繰り返し、中にいる霙の肉棒の射精を促すようにキツく締めつけた。
そんな強すぎるほどの刺激に抗うことなど到底できるはずもなく、彼の腰を引き寄せた霙は「冴……出すからな」と囁きかけ、歯を食いしばる。
「俺も…俺もイキそうだ、冴………」
「はぁっ……きて……みぞれ……みぞれぇっ……!!!」
「………っ!」
激しい動きによって生まれた大きな波は浴槽の湯をまとめてフチから溢れ出させた。
元々浴槽の半分以上は溜められていた湯だが、一連の動きによって随分な量がこぼされ、今は目に見えてかさが減っている。
勢いを失って穏やかになっていく波が汗ばんだ胸元や腕を撫でていくのを感じながら、2人は昂ぶっていた気を落ち着かせ、やがてぽつりぽつりと言葉を交わし始めた。
「もう……汚しちゃったじゃん…お湯……」
「…そうだな」
「……どうすんの、これ…大きいから洗うのが大変なのに……いっぱい洗わなきゃ、綺麗になんないんじゃないの……」
「これくらい…すぐだ。冴は心配するな、俺がやるから」
「んん……そうなの…?僕が汚しちゃったのを……霙が綺麗にしてくれるの……?」
「当たり前だろ」
「ふふ…そうなんだ……」
はぁはぁと息をつきながら片手で霙の濡れた前髪をかきあげる彼。
果てたばかりの興奮がおさまりきっていない霙の瞳は彼の心を強く捉えて離さず、さらなる欲情まで煽ってくるようだ。
彼は霙を引き寄せて深く口づける。
「霙は…僕がこんなにしちゃっても、嫌いにならないんだね」
「なんだそれ…どうして嫌うとかって話になるんだ」
「うぅんん…だって普通はこんなの……汚いもん。こんなので汚しちゃったのを霙に綺麗にさせる僕は……ひどいでしょ」
伏し目がちな彼のその言葉を聞いた霙は両手を彼の背へ回し、唇が触れるか触れないかというところを彷徨いながら「ひどいか?」と囁きかける。
「それなら、汚させた俺は?」
「うーん…?それは……」
「冴を浴槽から逃さずに、散々突いてよがらせて、喘がせた俺は?」
次々と飛び出す赤面するような言葉に照れてくすくすと笑う彼。
すると霙は「悪いな、冴」とさらに続けて言った。
「俺、抱くのが上手くて」
鼻先を合わせながらいたずらっぽい笑みを浮かべる霙。
至近距離で見るその表情は、可愛らしく、かっこよく、そして妖艶だ。
その笑みにすっかり胸を鷲掴みにされた彼は思わず吹き出して「なにそれ…!」と笑う。
「霙、自信満々すぎ…ふふっ……あははっ!!抱くの上手くて、って……自分で言っちゃうの……ふふふっ」
「笑えよ、いくらでも。事実だろ、俺が上手いせいで冴はよがるんだし、こうしてあちこち汚すんだから。浴室も寝台も机も……」
「んんっ、もう!」
霙に抱きしめられながら ちゅっ と軽く口づけ合う。
すると今度は彼がいたずらっぽい笑みを見せながら「ごめんね、霙」と口を開いた。
「僕、イキやすくって」
目を細め、軽く唇を噛みながら彼はさらに続ける。
「霙に触られるとすぐに気持ちよくなっちゃってさ…何回もイッちゃうんだよ…耳も手も口も、どこでも……こうやって中に来てくれるだけでもすっごくイイし…そう、むしろ男の子のコレをギュってされるのだけじゃ物足りないんだ…中のイイところを霙のでいっぱい気持ちよくしてほしいって、思っちゃう……」
背をしっかりと支えられている彼は両腕を浴槽のフチから霙のうなじへと伸ばす。
「いつも……霙がイクのを待てない、先に何度もイッちゃって…ごめん」
「冴…」
「でも…そうだな、やっぱり霙が上手すぎるのが良くないよ…だから僕はたくさんイッちゃうし、毎日でもしたくなるんだから。…ほんと、僕とするまで誰ともしたことなかったなんて、童貞だったなんて信じらんないよ…こんなに上手い男なんだもん、僕が女の子だったら…絶対に1回で赤ちゃんできてたよね…しつこいってくらいに気持ちよくさせて、奥をこじ開けて、それでそこにいっぱい注いで……んんっ」
今夜すでに数え切れない何度目かの深い口づけを交わし、彼はさらに言う。
「ねぇ霙…僕達、相性が良すぎるよ…だってこんなに気持ち良くなれるなんて、おかしいもん…んっ……ふぅっ、はぁぁ……好き……霙のこと、大好き……もっと、もっと気持ちよくさせて……?」
「よく煽るな冴、クタクタだろ」
「僕が?まさか……まだまだ足んないよ…こんな1回2回くらいじゃ……ね」
中に挿入ったままの霙がまたわずかに奥を擦る。
彼は霙に抱きつきながら静かになっていた欲が充分に起き上がってくるのを感じ、「ねぇ…霙」と囁きかけた。
「この体勢もなかなか良いけど…やっぱり寝っ転がりたいよ……寝っ転がって霙に全身でしがみつきたい……」
彼の望みを聞き入れた霙は名残惜しむようにもう1度だけ彼の中を強く突き上げると、中に挿入っていたものを引き抜き、彼の手を取って浴槽からあがった。
霙が浴槽の栓を抜いたことで浴室の床には湯が流れ出し、いくらか冷えていたのをじんわりと温めていく。
そこへ押し倒された彼は自らの膝裏をしっかりと掴んで秘部を晒し、出ていってしまったばかりのあの素晴らしい肉棒が再びあてがわれるのを嬉々として迎え入れた。
霙が腰を動かすと彼の中から湯と白濁が混ざったものが溢れ出す。
床を流れていく湯がピチャピチャと音を立てる中、2人はさらに激しく絡み合って互いに快感を貪り始めた。
「あぁぁっ…っ!!きもちい……イイっ、ううんっん、んぅっ、はぁっ、あぁあっ!!!」
彼は四肢を霙に絡みつけながらなんの躊躇いもなく喘ぎ声を響かせ、ただひたすらに全身で快感を得る。
たとえ何があろうとも、すべての恥を捨て去って睦み合うことだけに集中しているこの2人を止めることはできないだろう。
夏の夜風が吹き抜ける宵。
美しい星達が瞬くその下に、季節とは関係のない熱気で満たされた1つの浴室があった。
ーーーーーーーーーーー
次話の更新は9月末頃を予定しています。
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名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
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