酪農地域にて

蓬屋 月餅

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番外編

「吹雪」

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「うわぁぁ!さ、寒すぎますって!やっぱり屋敷にいたほうが良かったんじゃ…」
「いや、明日からまたしばらく侍従が家に帰るんだ!小屋に行っておきたい!」
「もう!若!」

 執務室から小屋へと続く道を歩きながら、若領主と彼は吹き付ける冷たい風に抗うようにして歩いていた。
 真冬の酪農地域。
 まだ雪はそう強く降ってはいないものの、今夜は冷え込みが厳しくなりそうだ。

「湯…湯に浸かって身体を温めてから休もう!私が行ってくる!」
「若!僕が行きますよ!」
「いや、君は先に小屋へ行って灯りをつけたりして!」

 彼を小屋の扉に残し、若領主は裏手にある源泉の湯汲み場へと向かう。
 手がかじかんでくるものの、桶と湯汲み場の蓋を外し、小屋の風呂桶へと繋がっている樋へ何度も湯を注ぎ込んでいく。

(湯気が凄くてどれだけ湯が行ったか分からない…!どれだけ風呂桶に溜まったかな?あぁ、もう、これくらいでいいか!)

 若領主は全てを元通りにすると、足早に小屋へと向かった。

ーーーーーー

「若!寒かったでしょう、早く湯に浸かって温まってください!」
「うん…」

 彼が若領主から脱がせた外套をパタパタとはたいている間に、若領主は屋敷から着てきていた寝間着を脱いで風呂桶へと身を沈めた。
 だが、十分だろうと思っていた湯は胸元まであるかどうかというほどの量で、温まるには少し心もとない。

「若、これ、ここに置いておきますね」
「うん、ありがとう。…あ、ねぇ、ちょっとこっちへ来て」
「はい?」

 身体を拭うための浴布を置きに来た彼は若領主に呼ばれて風呂桶のそばへ行ったものの、湯が若領主の肩にも達していないことを見るや否や咎めるように言った。

「若!これじゃ温まるどころか冷やしてるようなものじゃないですか!?」
「いや、湯気がすごくてどれだけ汲んだか分からなかったし、もういいかなと思って…」
「全くあなたって人は…!」

 彼はかけ湯用の桶から湯を汲んで若領主の肩へかけようとしたものの、若領主に制されて手を止めた。

「かけ湯こそとっておかないと」
「でもこれじゃ湯が…僕、今から汲んできます」
「いや、いいよ」
「でもこれじゃ少ないでしょう!」
「増やす方法なら1つあるよ」
「えっ?ちょっと、若!?」

 若領主は次の瞬間、彼の手を引いて風呂桶の中へと寝間着を着たままの彼を引きずり込んだ。
 彼が入ってきたことでたしかに湯の嵩は増し、2人とも温々とした湯に浸かる。

「湯を増やすってこういう…僕の寝間着がずぶ濡れですよ!せ、せめて言ってくれれば…」
「言ったら一緒に入ったかな?君は湯を汲みに行って、僕は裸のまま追いかけられなかったと思うけど」
「う…」
「寝間着の替えなら何着かこっちにあるじゃないか。そもそも屋敷から着てきた寝間着はどうせいつも着替えることに…」
「それは!そ、そうですけど…!」

 抗議の声を上げる彼の冷えた耳を、温かな若領主の指先が包み込む。
 その心地よさに思わず笑みを浮かべた彼はハッとして言った。

「まさか!こうなることを想定して、わざと湯を少なく…!?」
「いや、違う。ただ単に寒くて『もういいか』って切り上げてきただけだ」
「若…」

 小さくため息をつく彼が可愛らしく、若領主は彼の頬に手を当てるとそっとその唇に口付けた。
 必然的に近付いている距離と湯の温かさによって、2人の間にはたちまち甘く濃厚な雰囲気が立ち込める。
 若領主が彼の濡れそぼった寝間着に手をかけたところで、彼は囁いた。

「寝台…行きましょう…」
「…うん」

 彼はもう1度若領主に口付けてから立ち上がり、肌に張り付いていた寝間着を脱いで桶の端にかけると、浴布で髪や身体の水滴を拭い始めた。
 若領主も自らの身体を拭いながら、彼の薄灯りに照らされた背を見る。
 滑らかなその背の中心を髪から滴った1粒の雫が滑り落ちていくのを見た途端、若領主は後ろから自らの浴布を彼に羽織らせ、そのまま抱きしめた。

「わ、わか…あっ…」

 抱きしめた腕の辺りにはちょうど彼の胸の突起があり、彼は小さく声をもらす。
 その反応は若領主の心を燃え上がらせるのには充分で、若領主は後ろから彼の首筋に口づけると、指を後ろの秘めた穴へと挿し込んだ。

「あっ…あ、あぅ…んん…っ、ちょっと、ここ…じゃ…」

 今までに何度も若領主のものを受け入れてきた彼のその部分はすぐにほぐれ、指を更に奥へと誘い込んでくる。
 すっかり柔らかく、瑞々しくなったところで、若領主は自らのそそり立ったものをゆっくりと挿し込んだ。
 彼の微かな喘ぎ声と次第に増していく水音は空間に響きわたり、徐々に濃度を上げていく。
 彼は立っていられなくなっていく身体を壁に手をついて支えようとするも、尻を若領主へ差し出すようなその体制はより一層愉悦を高めた。

「あ…う、うぅ…」
「うん?」
「こんな…立ったままなんて…おちつかなくて、いや…」
「いや…?」
「わ、わかのことも見れないし…んっ」

 若領主は腰を緩やかに打ちつけながら彼のうなじや肩、背、髪、首筋へと絶え間なく口づけていく。
 
「あっ…あぁ、ん…もう、ぼく…」
「うん…こっちも…」

 始めてからどれだけ経ったか、若領主が彼の前のものを握ると、すぐさま白濁が放たれる。
 彼が放ったことで中の肉は激しく収縮し、一層刺激が強くなったところで若領主は自らのものを抜き出して放った。
 2人分の白濁が床に垂れ終わったところで若領主が自らの中で果てなかったことに気付いた彼は、不満げに声を上げる。

「なんで…僕は中にして欲しいのに…!」
「うん、私だってそうしたいけど…今日は湯があまり多くないから、中まできちんと洗ってあげられないかもしれない。だからそれはまた今度にしよう。また今度、沢山…ね?」

 若領主はそれでもなお不満気な彼を抱きかかえ、寝台へと向かう。
 彼を下ろして四つん這いにさせた若領主は、先程まで散々突き入れていた後ろの穴へと再び根本まで隙間なく挿し込むと、その深さを確かめるように腰を動かした。

「うあ、あ…これ、ふ、深すぎて…あぅ…んぅ…っ!」
「うん、いつもより深くにいる…分かる?このあたり…」

 若領主が彼の下腹部に手を当て、その場所を知らせるように数回強く突き入れると、彼は腕の力を無くして上半身を寝台にぺたりとつける。
 浴室でした時よりもさらに腰を若領主へ差し出す体制になったことで、彼の中の快感をもたらす1点は押し潰されるかのような強い刺激を受けた。

 今の若領主の眼前には信じられないほど艶めかしい光景が広がっている。
 上半身を伏せたことで、より美しい曲線を描いた彼の滑らかな背。
 丸みを帯びた尻。
 まさに今、自らのものを咥えこんでいる彼の熟れきった秘部。
 そして熱っぽく見つめてくる彼の左目とその近くにある黒子…。
 どれも若領主の心をかき乱すものだ。

 若領主は彼の鎖骨や瞳、そして目元の黒子を見つめながらするのが好きで、彼と交わってきたこれまではいつも正面から抱き合っていた。
 だがこうして後ろから交わってみると、いつもとは違う角度から見る彼のすべてが新鮮で、彼の中をめちゃくちゃに掻き回したいという欲が湧いてくる。
 彼の熱っぽい瞳に応えるように、若領主は腰の動きを早めた。

「は、はげし…っ!あぅ、んんっ!ぅああっ!!」

 荒い呼吸を繰り返す彼の声は次第にかすれていく。
 少しも休まずに攻められ続けた柔らかな中は次第に激しくうねり、息が止まってしまいそうなほどの強い快感に襲われた彼は2度目の白濁を放つ。
 全身から力が抜け、彼はついに全身を寝台に突っ伏した。
 肩で荒く息をする彼の秘部は収縮を繰り返していて、絶えず若領主のものを締め付ける。
 若領主はなんとか耐え忍ぼうと彼に覆いかぶさり、首筋や肩口、うなじへと口づけたり、時々軽く噛み付いた。
 少しだけ落ち着いてきたところで、若領主は「もう少しだけつきあって…」と囁き、突っ伏した彼の身体を寝台に押さえつけるようにして腰を動かし始める。
 しかし、これは彼にとっては拷問のようなものだった。
 すでに2度も放った彼のものは少し触れただけでも反応してしまうほど敏感になっているにも関わらず、今の彼は身体の前面を寝台に臥していて、その上若領主が押さえつけるように中を擦り立ててくるのだ。
 突き入れられる度に彼の身体も揺さぶられ、寝台との間に挟まれた彼のものは否応なしに寝具へと擦り付けられる。
 その刺激はあまりにも強烈で、すぐに彼は耐えられないと悟って声を上げた。

「だ、だめ!だめですこれ…うっ…つ、つよすぎて…あぁっっ!!」

 ほとんど悲鳴に近い声を上げても、若領主にもそれにきちんと応えられるほどの余裕がなくなっていて、ほんの少し速さを緩めた程度しか変わらない。
 彼はせめて押さえつけられていることだけでも緩和させようと必死に身を捩りながら訴えた。

「お、おねがい…このままじゃ、お、おかしくなっちゃ…ぅぁあ!いつもと…いつもとちがうのが…あぁっ!い、いやだ…いやっ!」

 何度も声を上げた末、ついに若領主は彼を仰向けにさせ、腰を高く抱え上げると数回強く突き入れた。
 彼は強い刺激からようやく逃れられたと安堵したのもつかの間、何かが自分の奥深くで渦巻き、それが白濁を滴らせている先の方へと急速に集まってくるのを感じる。
 それが何かとも考える間もなく、彼は全身を跳ねらせ、先端から勢いよく放出した。
 同時に若領主も彼の中から自らのものを抜き去り、彼の下腹部へと白濁を散らす。
 だが、若領主のものが散らし終わっても、彼はまだ身体を跳ねらせていた。
 彼が放ったそれはいつもの粘り気のある白濁ではなく、さらさらとした透明なもので、彼の下腹部と寝具へと幾筋も滑り落ちていく。
 彼の下腹部はその透明な液体と若領主の白濁が混ざりあったものでどろどろになっているが、若領主はそれが自らにつくのも構わず、彼を強く抱きしめた。
 聞こえてくるのは、まるで僅かしかない酸素を吸いつくしてしまうかのような激しい呼吸と、身体を巡る全ての血が一瞬のうちに全身を一周してしまうのではないかというほどの強い鼓動だけだ。

ーーーーーー

「ごめん…少し夢中になりすぎたみたいだ…」

 彼は「大丈夫…」と囁き返すものの、その声は掠れていて、若領主は傍らにある水差しから水を一口飲むと、もう一口 含んで彼に口移しで飲ませた。
 ようやく意識をはっきりと取り直したところで、若領主は寝台のひどい有様に気付き、「寝具…替えて休まないと」と彼の髪を撫でる。

「ご、ごめんなさ…僕…なんか、と、止まらなくて…」
「ううん、寝具は替えればいいんだ。それに私も酷かったね」
「さすがに、その…おかしくなりそうで…もう、今日はこれ以上出ません…」

 彼が顔を赤らめたまま困ったように言うその姿が愛らしく、若領主は彼の頬へと口付けた。
 小屋へ来るときは雪がそう多くなかったものの、今は本格的な吹雪になっていて、窓を何度も雪が叩いている。
 彼は気怠げな瞳を窓の外にやりながら呟いた。

「わか…」
「うん?」
「外…すごい吹雪になってます…」
「うん」
「なのに、今の僕達…凄く暑いですね」

 2人の肌は真冬だというのにも関わらず火照り、しっとりと汗ばんでいる。
 若領主は「そうだね」と微笑み、「あぁ、もうこのまま休みたいくらいだけど」とようやく体を起こした。

「さぁ、かけ湯をしよう。…立てる?」
「ん…はぁ、僕…力がちょっと入らないみたいで…」
「分かった。さぁ、いくよ…」

 若領主は彼の膝裏と背中に腕を回し、そっと彼を抱き上げる。
 再び距離が近くなった2人は、どちらからともなく唇を寄せた。
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蓬屋のBLに興味をもって下さった方へ…ぜひ他作品の方も併せてご覧下さい。【以下、蓬屋のBL作品紹介】《陸国が舞台の作品》: ・スパダリ攻め×不遇受け『熊の魚(オメガバース編有)』 ・クール(?)攻め×美人受け『彼と姫と(オメガバース編有)』 ・陸国の司書×特別体質受け『図書塔の2人(今後オメガバース編の予定有)』 ・神の側仕え×陸国の神『牧草地の白馬(多数カップル有)』   《現代が舞台の作品》:・元ゲイビ男優×フリーランス税理士『悠久の城(リバあり)』 それぞれの甘々カップル達をよろしくお願いします★
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