酪農地域にて

蓬屋 月餅

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番外編

「包帯」

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「あっ!」
「どうした、怪我?」

 小屋の中。
 机を挟んで彼と向き合っていた若領主は、彼の声にいち早く反応するとすぐさま読んでいた本を閉じて彼の横へと移動し、その手元を覗き込んだ。

「大丈夫です、怪我はしてませんから」
「あぁ…それなら良かった」
「驚かせてしまってすみません。僕って本当に…いつもうっかりするんですよ。何度目だろう、これ」

 彼は手元の白い帯状の布へ視線を落としながらため息をつく。
 その白さが損なわれていないところを見ると、彼が怪我をしたわけではないというのは本当のようだ。
 だが若領主には彼が突然声を上げた理由が分からず、「何だ、どうしたんだ?」と尋ねた。

「君は包帯を作ってたんだろう、よく出来ているように見えるけど…」

 彼は苦笑いをしながら1本の包帯を「これです」と若領主に見せる。

「包帯を作るときは専用の布を工芸地域から貰ってくるんですけど、前もって作る幅と本数を計算しておいて、それに合う布の量を貰うんです。だから、きちんとやればこんなに中途半端な幅にはならないんですけど…僕、1本切り間違えましたね。これじゃ指には少し太いし、腕とかには細すぎます」

 彼は切り終えた包帯を器用にくるくると巻きながら「母さん達に頼まれた分は出来てたから、まだ良かったけど…」とため息をつく。

「この包帯はもう使えないの?」
「そんなことはありませんけど…でも使いづらいんですよ」
「そういうものか…」

 若領主は中途半端だというその包帯をしげしげと見つめ、彼がすべての包帯をまとめ終わるのを待ってから「巻き方を教えて」と差し出した。

「巻き方って…ただ手のひらで転がすだけですけど」
「ううん、そうじゃなくて。腕に包帯を巻くのはどうやるの?どうやって留める?」
「あっ、そっちの巻き方ですか。いいですよ、教えます!それじゃ、まずこうして…」

 彼は1度綺麗にくるくると巻いてまとめたその包帯を若領主の手首に巻き付けていく。
 たしかに、実際の怪我の手当であれば心もとないような包帯だが、練習として巻かれるには十分で、彼によって若領主の手首はたちまち白く覆われた。

「端っこはこうやって…ほら、どうですか?簡単だけど、きちんと留まったでしょ?」
「うん、留まってる。だけど難しそうだよ、君には簡単かもしれないけど」
「慣れたらすぐにできるようになりますよ!若もやってみてください」

 彼は今巻き付けたばかりの包帯をほどき、まとめ直してから若領主へと手渡す。
 若領主は彼がしていた様子をよく思い出しながら彼の手首へ慎重に包帯を巻き付けていき、端をどうにか留めた。
 彼に比べれば緩んでいるところがあったりして完璧とは言えないものの、彼は「初めてなのに、とってもよく巻けてますよ!」と感心しきって言う。

「若はやっぱり器用なんですね、難しそうだって言っていたわりには十分出来てるじゃないですか」
「いやいや…もう1度させて」

 若領主が彼から包帯を外すと、彼は再び巻きやすいようにまとめるために手を伸ばしてきた。
 その瞬間、若領主は彼の両手首に素早く包帯を巻き付けて結び目を作り、驚く彼に向かって「油断していたね」と目を細める。

「思い返してみれば、私達には包帯の思い出もあったわけだ。初めて口づけをしたのは君が包帯を落としたからだったし…。ねぇ、あれは事故だった?あの時 君が突然顔を上げたから触れ合ったわけだけど、もしかして本当に口づけたくてわざとやったとか?」
「わ、若…!」

 彼が言い返す前に、若領主は包帯の結び目を引っ張って彼の唇に口づけた。
 しばらくお互いを味わったあとで、若領主は満足したように微笑みながら「ちょっとからかいたかったんだ、怒らないで」と言って結び目に手をかけて彼の手首の拘束を緩める。
 だが包帯が外れると、今度は彼が若領主の両手首に包帯を巻き付け、しっかりとした結び目を作った。

「若が…煽ったんですからね」
「な、なに…」
「…そうですよ。あの時、僕は偶然を…事故を装って、あなたに口づけたんだ」

 彼はそのまま若領主の手を引いて寝台へと向かい、半ば強引に若領主を押し倒す。
 両手の自由が効かない中で深く口づけられ、その上 衣に手をかけられるのはなかなかに羞恥心が湧くことだ。
 若領主は彼が本気で怒っているのかと様子を窺ったが、敏感な部分に触れられたことですぐにそれどころではなくなってしまった。

「うっ…ちょっと、まって…1回これを解いてよ…悪かったって…」
「先にしたのはあなたの方でしょ。それに、たまには僕に奉仕させて…」
「うぅっ…はぁ……」

 彼は若領主が抵抗できないのをいいことに、何度も口づけをしながらゆっくりと下の方へと下りていく。
 若領主にはすぐに分かった。
 彼は若領主のものを口に含もうとしているのだ。
 若領主が彼に背を向けるように身を翻して抵抗すると、彼は「逃げないでください」と非難するように囁いた。

「自分がするのはいいのに、僕がするのはだめなんですか?ひどいな…じゃあ、僕にも考えがあります」

 彼は下へたどっていくのを止めると、若領主の上衣をはだけさせ、肩口に薄く残っている傷跡へなんども細かく口づけをする。
 その間、彼の手は若領主の下腹部を触れるか触れないかというところで彷徨い、あのはっきりとした快感を一切与えないようにしていた。

「ちょっと…やめて…これは…」
「口でしてもいいって言ってください。ほら、このままでは苦しいでしょ…?」
「…っ」

 どうやら今夜の彼は一切譲る気がないようだ。
 だが若領主は自分が彼のものを咥えている時に感じるあの苦しさを、彼には味わってほしくない。
 そう考えてなんとか耐え忍んでいたものの、長い間焦らされ続けた若領主はついに抵抗できなくなり、彼は背を向けていた若領主を仰向けにさせると、そっと その固くそそり立ったものを口内におさめた。
 根元から先端までゆっくりと舌を使って丹念に撫でていると、若領主のものの拍動が強まっていくのがよく分かる。
 頬ずりをしてから先端に口づけようとしたところで、彼はこちらを見ている若領主と目が合った。
 その瞬間、濃厚な白濁は彼の左頬を掠め、辺りに散らばる。

「はぁ…はぁ…っ…」

 彼は下衣を脱ぎ捨てると、左頬の白濁を指で拭い、息も整っていない若領主に見せつけるようにしながら自らの秘部へその白濁を塗りつけた。
 それから、若領主へと跨り、若領主のものを自らにあてがってゆっくりと腰を下ろす。

「う、うわ…ちょっと待って…」
「うっ…んん…はぁ…」

 全てを奥までおさめたところで、彼は若領主に深く口付ける。

「若は動かないで…僕が…んっ」

 彼は若領主の下腹部に手を付き腰を動かし始めた。
 しかしどうしてもぎこちなくなってしまい、いつものように快感だけを得ることが難しい。
 若領主は彼の元へ縛られている両手首を差し出し、柔らかな、甘えるような声音で「これ、解いて」と言った。

「解いてよ、たくさん良くしてあげるから…」

 彼は少し躊躇った後、ようやく若領主の手首にある結び目を解く。
 両手が自由になった若領主はまず彼の指先に口づけると、彼の腰をしっかりと支え、下から強く突き上げ始めた。

「あっ!あっ、んっ!!や、つよ…うぅ、んっ…!!」

 すでに興奮しきっていた彼は若領主に中の敏感な1点を強く刺激されたことで、あっという間に達した。
 若領主は力が抜けた彼をしっかりと胸に抱き寄せ、汗ばんだその背中を何度も撫でる。
 だが、少し彼が落ち着いてきたところで若領主は彼を下にし、先程まで自分の両手を縛っていた包帯で今度は彼の両手を縛り付けた。

「えっ、ちょっと若…?」

 困惑する彼に、若領主は「仕返し」と微笑む。

「仕返しって…若が先にやってきたことじゃないですか!仕返しの仕返しって、そんなのキリが…」
「大丈夫、もう君が仕返しできないようにすればいいだけ」
「ちょっと何を言って…あっ!!」

 彼は若領主に強く貫かれ、それ以上何も言えなくなる。

「さっきは…すごく良かったよ、髪にまでつけてしまってごめん。君に迫られるのも悪くないな。だけど…やっぱり私は君の目が、この目元の黒子が、この鎖骨が好きだ…あんなに遠くへ行くんじゃない、こうしてすぐそばで見せて…」

 若領主が彼の目元に口づけると、彼は縛られた両腕を若領主にくぐらせた。
 手首の自由が無いせいで、いつものように抱きしめるよりも距離が近くなる。
 拘束した腕を回されているため、若領主が少しでも身を起こそうとすると彼も一緒に身を起こすことになると気付いた若領主は、自らの首に彼の腕を引っ掛けたまま、寝台から起き上がった。
 そして彼を抱いたままそばの壁へ彼の背中を預けさせると、なんと立ったまま彼を貫き始める。

「わ、若!こんな…!」
「しっかりと掴まって…そう、足で私にしがみつくんだ。壁に寄りかかって腰を差し出して…ほら、すごく奥まで入ってる」

 彼は床に崩れ落ちないよう必死になるが、そうすればするほど下腹部に力が入り、中の締め付けも、あの敏感な1点もより良さを増していく。

「はぁ、あっ!う、んぅ……」

 若領主は突き上げながら彼のなめらかな鎖骨に唇を彷徨わせ、時々軽く口づける。
 すると、彼は「もっと強く…して…」と潤んだ瞳で囁いた。

「軽くじゃなくて、もっと…」
「だめだよ、これ以上すると跡が付く。君が言ったんだ、『跡を付けるな』って…憶えてないの?」
「いい…跡、付いてもいいから…」

 若領主は動きを止めると、「後から後悔するのは君なんだよ」と眉をひそめる。

「せっかく私が自制しているのに…」
「僕、後悔しないです…もう半年以上もこの暮らしをしたでしょ。前ほど薬草採りに行くこともなくなったし、行っても暑くなるほどは…だから、素肌を見せるのはもう若だけなの…」
「……」
「たとえ見えても隠せばいいだけです。それよりも若のものだって印をつけてほしいから…」
「…後になって文句を言うなよ」

 彼があまりにも訴えてくるため、若領主はついに彼の鎖骨へと口づけ、そのまま強く吸い付いた。
 しばらくしてから顔を離すと、そこにはくっきりとした赤い模様が残っている。
 若領主はそれから胸元や二の腕など、至るところへ その跡をつけていった。

「あっ…つ、付けすぎ…」
「付け過ぎ?まだ足りないよ。これからはもっと…色んな所へ付けてあげる…」 

 2人は再び深く口づけ合うと、徐々に快感を高めていく。
 全身を駆け巡るほどの強い快感が押し寄せ、彼は息も絶え絶えになりなった。

「あっ、あっ…も、でちゃう…」
「うん…一緒に…っ!」
「はぁぅ、うあぁっ!!!」

ーーーーーー

「はぁ…これ、当分消えませんね」
「なんで消えてほしいんだ、私のものだって印をつけてほしいって言ってたじゃないか。…手首は大丈夫そうで良かった」
「まぁ…そんなにきつく縛られていたわけじゃありませんから…」

 若領主と彼は寝台に横になり、気怠げに会話をする。
 すっかり疲れ切っている2人を包んでいるのは、ただただ甘く幸福な空気だ。
 両手の自由がないとあらゆる動きがぎこちなくなる上、抱えあげられると必死にしがみつかなくてはならなくなるため、いつもの絡み合いよりも疲労感が増している。

「きつく縛られていたわけじゃないのに解こうとしなかったのは、これが気に入っていたから?」
「ちょっと…な、なんてことを言うんですか…」
「またこれを使おうか。怪我の手当以外にも活躍するって知ったし…」

 彼はいたずらっぽく笑う若領主の手から素早く包帯を取り上げ、そのまま寝具の間に挟んで隠す。

「…こんなの使わなくったって良いでしょ」
「でも、今日あれを使って始めたのは君だよ」
「もう…若の手を縛るなんて失礼なことをしました。2度としませんから」
「それは残念だな」
「つ、使わないったら使わないんです…!」

 ムッとする彼に対して若領主が「それじゃ、また切り間違えてもらいたいな」とからかうように言うと、彼は顔を赤くしながら声を上げた。

「き、切り間違えても若には絶対に言いませんから!」
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