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第三部
27「月夜」
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「あっそうだ若、ちょっと前に若のお母様が…工芸地域の夫人が家にいらっしゃったんですよ」
「母上が?それはいつのこと?」
若領主の執務室。
今日はどうしても家へ帰らなければならないという侍従の都合のため、屋敷へと泊まりに来た彼は隠し扉で繋がった記録室から持ち出してきた本を読んでいたが、ふと数日前のことを思い出して顔を上げた。
彼の記憶と若領主の記憶を擦り合わせると、夫人が彼の家を訪ねたのはどうも若領主へ会おうと屋敷を訪れた日のことのようだ。
「母と話がしたくて来たと仰ってたんですが…」
夫人は薬草を干していた彼のもとへ突然訪ねてきた。
「あら、あなた!お元気?私の息子がいつもお世話になっているわね」
「え、あ…夫人!?あの、どうしてこちらへ…」
「ふふ、いつかあなたともよくお話したいわ。ねぇ、お母様はいらっしゃる?少しお話したくて来たんだけれど…」
夫人を家の中に案内すると、彼の母親は驚いて「夫人ではありませんか、どうかなさいましたか?」と急いで椅子を用意する。
「はじめまして。ごめんなさい、急に訪ねてしまって。あの…私、あなたが工芸地域のご出身と聞いたのだけど…そうかしら?」
「よくご存知ですね。そうです、私の実家は工芸地域の医者一家でして」
「あぁ、それなら良かった。…『木の鳥』はご存知?」
彼の母親は『木の鳥』と聞いて目を瞬かせると、少しの間を置いてから「はい、もちろんです」と答えた。
「『木の鳥』…懐かしいです、工芸地域にいた頃によく創っていました。もう最後に創ってから何年も経ちましたけど…」
「それを言うなら私も。嫁いで来てから創り方を習ったから、きちんと創れるかどうか…」
「ふふ、お互いに緊張してしまいますね」
彼がお茶を淹れる支度を進めていると、夫人の侍女は外で「馬の世話をしています」と断って出ていった。
「『木の鳥』は『5羽』でどうかしら」
「えぇ、夫人。では『5羽』に」
彼は2人分の茶器をそれぞれ夫人と母親の前に出し、礼をしてその場を離れた。
「若、『木の鳥』って工芸言葉のことですよね?」
「うん。母上が君の母上に『木の鳥』か…」
工芸言葉。
それは工芸地域に住む女性達の間にのみ受け継がれてきた、独特な会話の方法だ。
工芸地域に産まれた女児、工芸地域に嫁いできた女性。
その全ての女性達はこの工芸言葉を覚えている。
その昔、工芸地域で作業をしていた女性達が作業をしながら遊ぶために生み出されたこの言葉は、会話することを『創る』と呼び、『材質』と『もの(植物や動物)』、『数』を会話の始めに指定して話し始める。
『材質』と『もの』、『数』にはそれぞれ特徴があり、その組み合わせによって会話の意味するものが変化するのだが、他の地域の人はもちろん、同じ工芸地域の男性達でさえも工芸言葉の仕組みを知らない。
他地域へ嫁いだとしても自身の娘に教えることはなく、工芸地域の中の女性達でのみ厳格に受け継がれてきたものだ。
「…その後、君の母上は何か言っていなかった?」
「え?さぁ、特に何も…若は2人が何を話していたか分かるんですか?」
「うん。まぁ、私達のことしかないだろうね」
「ぼ、僕達…の…?」
「母上は私達の関係にとっくに気付いていたそうだ。君の母上がどうだったかは分からないけど、もう知ってるんじゃないかな」
彼は「い、言われてみれば…」と呟く。
「今日、屋敷に来るときに『いってらっしゃい』っていうのがなんだか意味ありげだった気が…?あっ!そうだ、しかも夫人が来た次の日に『お兄ちゃんも好きに暮らして幸せになってるんだし、幸せならなんでも好きにするべきだと思う』というようなことを…え、あれってそういうこと…だったのかな…」
「そうかもしれないね。今度、君の母上に挨拶へ行かないと」
「え、そ、それはちょっと…!」
若領主は軽く笑い声を上げながら、慌てる様子の彼の手にある本を閉じさせ、「もう休もうか」と声をかけた。
本来、執務室は若領主の私室でもあるため、隔てられた先には寝台もある。
若領主は彼の手をひいて寝台まで連れていくと、灯りを1つ残らず消し、自らも寝台に身体を横たえた。
満月のおかげで暗くはない。
若領主は彼を抱きしめながら頬に口づけた。
「ちょっ、ちょっと…ここは小屋じゃないんですから…」
「うん…でもせっかく一緒に過ごせるんだから、離れているのは嫌だ」
「それは…そうですけど…」
領主達の住む屋敷とはいえ、機能としては有事の際に備えた倉庫のようなもので、使用人が大勢いるというわけではない。
夜分に領主や若領主を訪ねてくる事があるとすれば、それはすでに外でも騒ぎになっていて、扉が叩かれる前に気付くだろう。
ただ、いくら屋敷が広く、人もごく少数だとしても、小屋ではない限り『そういった音』を立てるのはあまり好ましくない。
そのため、今夜の若領主はただ彼を抱きしめて眠るだけで満足だと自分に言い聞かせていた。
いや、そう言い聞かせていたはずだった。
若領主は自分1人で慰めることがない。
実際に彼の反応を感じながら扱われることの良さは1人の時とは比べ物にならないということもあるが、彼の泊まりに来れる日には自身も仕事を片付けておきたいという思いで忙しく過ごしたり、「彼は今頃どうしているだろうか」という恋しい気持ちでいっぱいで自分のことは後回しにしてきたからだ。
しかし、若さという力は強大だった。
いくら「抱きしめるだけ」と思っていても、前に彼と『そういうこと』をしてから幾日も経っている上、さらに次に『そういうこと』ができる日まではまた幾日も過ぎなければならないのだ。
それでも、と若領主は自らを落ち着けようと努力したが、彼の香りは絶えず心をざわめかせる。
きわめつけは彼が漏らした「んっ…」という抑えた声だった。
若領主はそれまで頬や首筋に触れさせていた唇を離すと彼に深く口づけ、片手を彼の足の間へと伸ばした。
「んっ…んぅ…!はぁ、ちょっと、だ、だめですって…ぼ、僕、声抑えられ…んっ!」
「私だって君の声を聞いていたいよ…でも、君もずっとこれでいるつもり…?」
「そ、それは若がそんな風に触るからで…あっ!うぅ…んっ、んぅ!」
若領主は彼に口づけて声を抑えると、そのまま顔を離さずに下衣をはだけさせ、2人のそそり立つものをまとめて手の内に収めた。
敏感なその部分がもう一方の熱と拍動とをつぶさに伝えてくるおかげで双方のものはそれぞれ固さを増し、またそれによって互いの気分は高められる。
若領主がゆっくりと手を動かし始めると、彼は「んっ…」と喉奥から声を漏らした。
互いに求めあっている間、こんなにも口づけをし続けているのは初めてのことだ。
早く荒くなっていく彼の吐息は若領主の頬を撫でていき、喉元からは絶えず漏れる声の振動が伝わる。
「んんっ!!」
声が次第に苦しげにも聞こえてきたために若領主は少し顔を離そうとしたが、彼の両腕は若領主の肩や首後ろをきつく抱きしめてきて、離れていこうとするのを決して許さなかった。
高まっていく愉悦のために先の方から流れ出すものは、2人分ということもあって、すでに擦る度に淫靡な音を立てている。
若領主が先の方を握ったり、根元の方から強く擦りあげると、手の内にあるものはどちらもドクドクと脈打ち、そしてついに限界まで高まった快感を放った。
ようやく唇を離した若領主はしばらく彼の首筋に顔を埋めた後、呼吸がいくらか整ってきたところで彼の腹部に飛び散った白濁をそっと拭い始める。
上衣も下衣もはだけさせた程度で始めていたものの、いつの間にか素肌が晒されていたおかげで寝間着は汚さずに済んだようだ。
若領主が腹部を拭っている間も彼はまだ浅く呼吸をしている。
見ると、彼のものはまだ少し首をもたげていて、さらに先端から白濁を溢れさせていた。
「はぁ…はぁ…っ!!んぅ、うっ!!」
若領主が滲み出していた白濁を舌先で舐めとってから一度に咥え込むと、彼はぐったりとさせていた身体を再び強張らせる。
果てたばかりで酷く敏感にもなっている上、ありったけの力で若領主に抱きついていた腕はまるで力が入らず、身を捩ることも若領主のことを押し返すことすらもできない。
彼はなんとか自分の上衣の端を噛みしめると、荒い息を漏らしながら徐々に腰を反らせ、やがて2度目の白濁を若領主の口内に放った。
「はぁ…うっ…んん…」
「…よかった?」
「はぁ…出したばかりで…敏感なのに…抵抗できないのに…ひどい…」
疲れ果てて身じろぎ1つできずにいる彼の下衣と上衣を整えてやると、若領主は再び彼を抱き寄せ、その額や髪に口づける。
「もう、ほんとうに…おかしく…なりそうだった…」
「それだけよかったってこと?」
「…あなたって人は…」
そう呟くと、彼はそのうち寝息をたて始め、若領主もそんな彼の寝顔を見ているうちに いつの間にか目を閉じていた。
「母上が?それはいつのこと?」
若領主の執務室。
今日はどうしても家へ帰らなければならないという侍従の都合のため、屋敷へと泊まりに来た彼は隠し扉で繋がった記録室から持ち出してきた本を読んでいたが、ふと数日前のことを思い出して顔を上げた。
彼の記憶と若領主の記憶を擦り合わせると、夫人が彼の家を訪ねたのはどうも若領主へ会おうと屋敷を訪れた日のことのようだ。
「母と話がしたくて来たと仰ってたんですが…」
夫人は薬草を干していた彼のもとへ突然訪ねてきた。
「あら、あなた!お元気?私の息子がいつもお世話になっているわね」
「え、あ…夫人!?あの、どうしてこちらへ…」
「ふふ、いつかあなたともよくお話したいわ。ねぇ、お母様はいらっしゃる?少しお話したくて来たんだけれど…」
夫人を家の中に案内すると、彼の母親は驚いて「夫人ではありませんか、どうかなさいましたか?」と急いで椅子を用意する。
「はじめまして。ごめんなさい、急に訪ねてしまって。あの…私、あなたが工芸地域のご出身と聞いたのだけど…そうかしら?」
「よくご存知ですね。そうです、私の実家は工芸地域の医者一家でして」
「あぁ、それなら良かった。…『木の鳥』はご存知?」
彼の母親は『木の鳥』と聞いて目を瞬かせると、少しの間を置いてから「はい、もちろんです」と答えた。
「『木の鳥』…懐かしいです、工芸地域にいた頃によく創っていました。もう最後に創ってから何年も経ちましたけど…」
「それを言うなら私も。嫁いで来てから創り方を習ったから、きちんと創れるかどうか…」
「ふふ、お互いに緊張してしまいますね」
彼がお茶を淹れる支度を進めていると、夫人の侍女は外で「馬の世話をしています」と断って出ていった。
「『木の鳥』は『5羽』でどうかしら」
「えぇ、夫人。では『5羽』に」
彼は2人分の茶器をそれぞれ夫人と母親の前に出し、礼をしてその場を離れた。
「若、『木の鳥』って工芸言葉のことですよね?」
「うん。母上が君の母上に『木の鳥』か…」
工芸言葉。
それは工芸地域に住む女性達の間にのみ受け継がれてきた、独特な会話の方法だ。
工芸地域に産まれた女児、工芸地域に嫁いできた女性。
その全ての女性達はこの工芸言葉を覚えている。
その昔、工芸地域で作業をしていた女性達が作業をしながら遊ぶために生み出されたこの言葉は、会話することを『創る』と呼び、『材質』と『もの(植物や動物)』、『数』を会話の始めに指定して話し始める。
『材質』と『もの』、『数』にはそれぞれ特徴があり、その組み合わせによって会話の意味するものが変化するのだが、他の地域の人はもちろん、同じ工芸地域の男性達でさえも工芸言葉の仕組みを知らない。
他地域へ嫁いだとしても自身の娘に教えることはなく、工芸地域の中の女性達でのみ厳格に受け継がれてきたものだ。
「…その後、君の母上は何か言っていなかった?」
「え?さぁ、特に何も…若は2人が何を話していたか分かるんですか?」
「うん。まぁ、私達のことしかないだろうね」
「ぼ、僕達…の…?」
「母上は私達の関係にとっくに気付いていたそうだ。君の母上がどうだったかは分からないけど、もう知ってるんじゃないかな」
彼は「い、言われてみれば…」と呟く。
「今日、屋敷に来るときに『いってらっしゃい』っていうのがなんだか意味ありげだった気が…?あっ!そうだ、しかも夫人が来た次の日に『お兄ちゃんも好きに暮らして幸せになってるんだし、幸せならなんでも好きにするべきだと思う』というようなことを…え、あれってそういうこと…だったのかな…」
「そうかもしれないね。今度、君の母上に挨拶へ行かないと」
「え、そ、それはちょっと…!」
若領主は軽く笑い声を上げながら、慌てる様子の彼の手にある本を閉じさせ、「もう休もうか」と声をかけた。
本来、執務室は若領主の私室でもあるため、隔てられた先には寝台もある。
若領主は彼の手をひいて寝台まで連れていくと、灯りを1つ残らず消し、自らも寝台に身体を横たえた。
満月のおかげで暗くはない。
若領主は彼を抱きしめながら頬に口づけた。
「ちょっ、ちょっと…ここは小屋じゃないんですから…」
「うん…でもせっかく一緒に過ごせるんだから、離れているのは嫌だ」
「それは…そうですけど…」
領主達の住む屋敷とはいえ、機能としては有事の際に備えた倉庫のようなもので、使用人が大勢いるというわけではない。
夜分に領主や若領主を訪ねてくる事があるとすれば、それはすでに外でも騒ぎになっていて、扉が叩かれる前に気付くだろう。
ただ、いくら屋敷が広く、人もごく少数だとしても、小屋ではない限り『そういった音』を立てるのはあまり好ましくない。
そのため、今夜の若領主はただ彼を抱きしめて眠るだけで満足だと自分に言い聞かせていた。
いや、そう言い聞かせていたはずだった。
若領主は自分1人で慰めることがない。
実際に彼の反応を感じながら扱われることの良さは1人の時とは比べ物にならないということもあるが、彼の泊まりに来れる日には自身も仕事を片付けておきたいという思いで忙しく過ごしたり、「彼は今頃どうしているだろうか」という恋しい気持ちでいっぱいで自分のことは後回しにしてきたからだ。
しかし、若さという力は強大だった。
いくら「抱きしめるだけ」と思っていても、前に彼と『そういうこと』をしてから幾日も経っている上、さらに次に『そういうこと』ができる日まではまた幾日も過ぎなければならないのだ。
それでも、と若領主は自らを落ち着けようと努力したが、彼の香りは絶えず心をざわめかせる。
きわめつけは彼が漏らした「んっ…」という抑えた声だった。
若領主はそれまで頬や首筋に触れさせていた唇を離すと彼に深く口づけ、片手を彼の足の間へと伸ばした。
「んっ…んぅ…!はぁ、ちょっと、だ、だめですって…ぼ、僕、声抑えられ…んっ!」
「私だって君の声を聞いていたいよ…でも、君もずっとこれでいるつもり…?」
「そ、それは若がそんな風に触るからで…あっ!うぅ…んっ、んぅ!」
若領主は彼に口づけて声を抑えると、そのまま顔を離さずに下衣をはだけさせ、2人のそそり立つものをまとめて手の内に収めた。
敏感なその部分がもう一方の熱と拍動とをつぶさに伝えてくるおかげで双方のものはそれぞれ固さを増し、またそれによって互いの気分は高められる。
若領主がゆっくりと手を動かし始めると、彼は「んっ…」と喉奥から声を漏らした。
互いに求めあっている間、こんなにも口づけをし続けているのは初めてのことだ。
早く荒くなっていく彼の吐息は若領主の頬を撫でていき、喉元からは絶えず漏れる声の振動が伝わる。
「んんっ!!」
声が次第に苦しげにも聞こえてきたために若領主は少し顔を離そうとしたが、彼の両腕は若領主の肩や首後ろをきつく抱きしめてきて、離れていこうとするのを決して許さなかった。
高まっていく愉悦のために先の方から流れ出すものは、2人分ということもあって、すでに擦る度に淫靡な音を立てている。
若領主が先の方を握ったり、根元の方から強く擦りあげると、手の内にあるものはどちらもドクドクと脈打ち、そしてついに限界まで高まった快感を放った。
ようやく唇を離した若領主はしばらく彼の首筋に顔を埋めた後、呼吸がいくらか整ってきたところで彼の腹部に飛び散った白濁をそっと拭い始める。
上衣も下衣もはだけさせた程度で始めていたものの、いつの間にか素肌が晒されていたおかげで寝間着は汚さずに済んだようだ。
若領主が腹部を拭っている間も彼はまだ浅く呼吸をしている。
見ると、彼のものはまだ少し首をもたげていて、さらに先端から白濁を溢れさせていた。
「はぁ…はぁ…っ!!んぅ、うっ!!」
若領主が滲み出していた白濁を舌先で舐めとってから一度に咥え込むと、彼はぐったりとさせていた身体を再び強張らせる。
果てたばかりで酷く敏感にもなっている上、ありったけの力で若領主に抱きついていた腕はまるで力が入らず、身を捩ることも若領主のことを押し返すことすらもできない。
彼はなんとか自分の上衣の端を噛みしめると、荒い息を漏らしながら徐々に腰を反らせ、やがて2度目の白濁を若領主の口内に放った。
「はぁ…うっ…んん…」
「…よかった?」
「はぁ…出したばかりで…敏感なのに…抵抗できないのに…ひどい…」
疲れ果てて身じろぎ1つできずにいる彼の下衣と上衣を整えてやると、若領主は再び彼を抱き寄せ、その額や髪に口づける。
「もう、ほんとうに…おかしく…なりそうだった…」
「それだけよかったってこと?」
「…あなたって人は…」
そう呟くと、彼はそのうち寝息をたて始め、若領主もそんな彼の寝顔を見ているうちに いつの間にか目を閉じていた。
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