酪農地域にて

蓬屋 月餅

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第三部

23「雨夜」

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 灯りに照らされた廊下を歩き、若領主は記録室の扉に手をかける。
 音を立てないようにそっと中を見てみると、そこには中央にある机に向かい、熱心に1冊の本を読んでいる彼の姿があった。
 若領主は彼がこの屋敷に来ていることがまだ信じられないような気持ちになっていて、もしかしたら彼がいないのではという不安にも駆られていたのだが、こちらに気付く様子が一切ないほど本に魅入っている彼に、すっかり心を溶かされてしまう。

「…それ、面白い?」
「わっ、若!?」

 突然後ろから話しかけられた彼は「驚かさないでくださいよ…」と胸を抑えた。

「よく集中して読んでいたね。それはなんの本?」
「あ…これは馬の扱い方についての本です。字体も流れるような感じだし、この挿絵も綺麗なんですよ」

 それはたしかに馬に関するものだった。
 内容こそ誰もが持っている、もしくは読んだことのあるものではあるが、古さからみてそれらの元となった原書なのだろう。
 若領主も内容に覚えがあり、彼がパラパラとめくった所は全て馬のことを何も知らなかった少年時代に読み込んだものと同じだった。

「あぁ、これこれ。まだうまく馬を駆けられなかった頃は、こんなのできっこないと思ってた。1人でも大変なのに、2人で乗るなんてって」
「ふふっ、なんでもできる若がそんなことを思ってた時があったなんて信じられませんよ。あっ、僕を乗せてくださったこともありましたよね?」
「うん。だって君があの距離を走って行こうとするものだから」

 あれはまだ彼への想いをはっきりと自覚する前のことだ。
 後ろから彼を抱きしめるようにして馬を駆けたあの時、はからずも間近に迫った彼のなめらかな鎖骨に魅力を感じたことを思い出す。

「…正直に言うとね、あの時、君の肩があまりにも華奢で…その、いいなと思ったんだよ…」
「えっ…」

 若領主は何度も瞬きをする彼の頬に手を当てた。
 湯浴みをした彼の髪はまだ湿り気を帯びていて、いつもは中央から分けられている前髪が今は細々と束になって下りている。

「髪…印象が変わるね」
「わ、若も…その、いつもは前髪が下りているのに」
「うん。いつもの私達とは逆だ」

 微笑む若領主から逃げるように、彼は閉じた本を本棚へと戻しに行く。
 若領主は灯りを手について行くと、後ろから「もう読まないの?」と声をかけた。

「若がいらっしゃる前にもう散々読んでましたから。次は…そうだな…こっちのを」
「待って」

 その隣の本へと伸ばされた彼の手を掴むと、若領主は「泊まる部屋はどこなのかって聞いたんだって?」と彼の瞳を覗き込みながら尋ねる。

「はい…案内されたのは浴室とかだけで、泊まる部屋は…」
「よし、行こう!」
「若!?あっ、ちょっと!!」

 若領主は彼の手を引いて記録室を出ると、執務室で書類を整えていた侍従に「後を頼む」と声をかけ、隠し扉の奥の小道へと早足で向かっていった。

「若!あの…!」

 いつの間にか降り出した雨がそこら中で音を立てていて、小道を抜けた2人は雨を避けるべく、小屋の扉まで駆ける。
 若領主が手に下げてきた灯りから室内用の灯りへと火を移すと、小屋の中は温かな光に照らされた。
 彼は外が暗い時に小屋へ来るのは初めてのことで、陽の光とはまた違った落ち着きのある小屋の中をしげしげと見回しながら呟く。

「僕…もう2度とここへは来ないつもりだったのに…」
「あぁ、まったく…勝手にそんなことを決めないでほしいな」
「だ、だって、若は僕のことなんて…」

 若領主は俯く彼を後ろからしっかりと抱きしめ、その耳元で「僕のことなんて…?」と囁く。 
 彼はそれきり言葉が出なくなってしまったようで、ただ自らの体に回された若領主の両腕に手を重ねた。

「私は気持ちを抑え込むのに必死だった…会わなければいいと君を避けたこともある、君も心当たりがあるだろう?だけど結局それは意味がなくて…もう、ただ君と話が出来ればそれでいいと思っていたんだ。だから君が私を好きだと言ってくれて本当に…とても嬉しい…」

 両腕から伝わる確かな温かさが現実であると知らせてくる。

「…ねぇ、こっちを向いて」

 若領主は彼を振り向かせると、ゆっくりと顔を傾けて唇を合わせた。
 何度も角度を変えて唇を合わせるうちに若領主はもっと彼を味わいたくなってきて、そっと舌を彼の口内へ滑り込ませる。

「ん…うぅ…」

 応えるように彼の舌が触れ、若領主はいよいよ抑えきれなくなっていく。
 ようやく顔を離すと、彼は潤んだ瞳で「わ、若…」と吐息混じりに呟いた。
 若領主は彼を抱き寄せると、意を決したように「君が好きだ…」と伝える。

「君のことが…『そういう意味』で好きなんだ…」
「あ…の…『そういう意味』って……」

 次の瞬間、彼は若領主の言葉の意味をよく理解した。
 抱きしめてくる若領主の下のものが、自らにその存在感を知らしめてきたからだ。
 彼は目の前にある若領主の胸元に額を押し付けると、こくんと頷いた。
 
ーーーーーー

「はぁ…あっ…」

 寝台の上に彼を寝かせ、若領主は先程よりも激しく、深い口づけを交わす。
 どれだけ抱きしめても、どれだけ触れ合っても十分に満足できなくなっている2人は、一度も顔を離すことなくお互いの衣をはだけさせていった。
 若領主が幾度となく魅力を感じてきた彼の鎖骨もついにあらわになる。
 湯浴みをした後だからなのか、それとも外が雨だからなのか、もしくは今のこの状況のせいなのかは分からないが、その鎖骨はとても滑らかにしっとりとしている。
 若領主は彼の顎先、首筋、喉元と唇を下ろしていき、鎖骨までたどり着くとまず舌でその隆起をなぞった。
 どちらのものとも分からない鼓動の中、若領主は想像していたよりもずっと素晴らしい鎖骨を甘噛する。
 彼が「あぁっ…」と声を上げたことで愛おしい気持ちをより一層煽られ、若領主は加減もなくそこへ吸い付いた。

 彼の下のものもすでに反応しきっている。
 鎖骨に吸い付いて身を離そうとしない若領主の体に押さえつけられるようになっている彼の下のものは、痛みさえ感じられるほどだ。
 若領主はようやく身を起こしたかと思うと、極めて優しい手付きで彼の下のものに手を重ねた。

「んっ…うぅ…」

 触れられた瞬間、体は意志に関係なく跳ね、喉からは聞いたこともないような甘い声が漏れる。
 そんな声を発したのが自分だと知った彼は、あまりの恥ずかしさに手で口を覆い、ぐっと歯を食いしばった。
 若領主は彼の下衣を剥ぐと、再び彼のものを手のひらで包み込む。
 だが、体は大きく跳ねるのに声は一切聞こえてこない。
 若領主は彼が声を抑えようとしているのだと知ると、口を塞いでいる手の甲にそっと口づけをして微笑んだ。

「何をしてるの…?ほら、そんなに歯を食いしばったらよくないよ」

 若領主はほとんど舐めるようにして彼の手の甲に繰り返し口づける。
 その時、若領主の肩から滑り降りた髪が彼の胸の突起をなぞり、彼は大きく体を跳ねさせた。
 その反応を逃すはずもなく、若領主は手の甲から唇を離すと、薄目を開けて様子を窺ってくる彼に見せつけるように胸に吸い付いた。

「…っ!!」

 吸ったり、舌で触れるたびにビクビクと体を震わせる彼は、まるで押し寄せる快感を抑え込もうと必死になっているようだ。
 若領主は彼の足の間に自らの片膝を入れて身を起こすと、彼の額にそっと口づけをして優しい声音で言う。

「ほら…外の音を聞いて。雨だよ。ここは屋敷から離れていて、誰も近くにいない。私達2人だけだ」
「……」
「いいから、手をどかして声を聴かせて。力を抜いて、2人でよくなるのは…どうかな」

 若領主は口を塞いでいた彼の両手を掴んでどかせると、自らの背に回させ、食い縛りをやめさせるために再び深い口づけをする。
 彼の力が抜けてとろけたような表情になったのを見計らい、若領主は唇の端からそっと親指を差し込んで口を開かせると、彼の足の間にある膝をそっと上に押し上げた。

「あぁっ…!!」
「うん、そう…もっと聞かせて…」

 若領主が先程まで吸い付いていたせいで つやつやと照っている胸の突起を指先で撫でると、彼は続けて「うぅ…あぁ…っ!」と声を上げる。
 彼はもうすっかり声を抑えなくなっていて、若領主が指で口を開かせていなくても甘い声は漏れ続けている。
 彼の唾液に濡れた指をそのまま下へと持っていき、若領主は首筋に口づけをしながら極めて優しく、滑らかに彼のものを扱い始めた。

「はぁ…あ、うぅ…んっ!」

 若領主は片手を彼の背に回すと、胸のあたりを抱きしめるようにしてより一層深く胸の突起をくわえる。
 彼は上も下もこれ以上ないというほど張り詰めていて、ほんの少しの刺激でも耐えられないほどの快感が押し寄せてくることに困惑しきっているようだ。
 手に力を込めては若領主の背や肩を撫でさすり、膝を縮めたり伸ばしたりと、度々襲ってくる恐ろしいほどの快感からほんの少しでも逃れようと試みていた。

「はぁ…あっ、わ…か…んぅっ!」

 彼が足を動かすと必然的に若領主のものにも刺激がされ、おかしくなりそうになる。
 それにも関わらず彼は激しく胸を起伏させながら若領主のものに手を伸ばし、下衣の上から自らがされたのと同じように扱い始めた。
 若領主はすぐさま自らの下衣を脱ぎ捨てると、彼の手の内にそそり立つものをおさめさせ、ほとんど抱え込むようにして彼のものを擦る。
 若領主が手を早めると彼も同じように手を早め、2人共 頭の先がしびれるような感覚になってきた。

「あぁ…あ、わか…もう…もう…」
「うん……」

 再び強く抱きしめ合い、2人はほとんど同時に身を震わせた。
 彼の下腹部には2人分の白濁が飛び散り、混ざり合った『それ』はもうどちらのものかも分からない。
 粘度の高い『それ』は彼の激しい呼吸によって、ゆっくりと滴り落ちていった。
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蓬屋のBLに興味をもって下さった方へ…ぜひ他作品の方も併せてご覧下さい。【以下、蓬屋のBL作品紹介】《陸国が舞台の作品》: ・スパダリ攻め×不遇受け『熊の魚(オメガバース編有)』 ・クール(?)攻め×美人受け『彼と姫と(オメガバース編有)』 ・陸国の司書×特別体質受け『図書塔の2人(今後オメガバース編の予定有)』 ・神の側仕え×陸国の神『牧草地の白馬(多数カップル有)』   《現代が舞台の作品》:・元ゲイビ男優×フリーランス税理士『悠久の城(リバあり)』 それぞれの甘々カップル達をよろしくお願いします★
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