図書塔の2人

蓬屋 月餅

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第2章

『指南書』

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「なぁ、樫。これを1冊分複製してさ、本にしてほしいんだけど」    
「うん?」

 2人が共に暮らし始めて3年と少しが経ったある日、蔦は古い本の修復をしていた樫に何十枚もの紙束を渡してきた。

「あぁ、ちょっと前から書いてたやつ?また医学系か?1冊複製ってことは図書塔に置きたいのか」
「んー、そんなとこ…かな。まぁ、ちょっと目を通してみてよ」

 紙束を受け取った樫は1枚、また1枚と捲りながら目を通したが、突然「こっ、こんなのを!」と顔を赤らめて立ち上がる。

「な、何考えてんだおまえ…こんな…こんなのを図書塔に置けるかっ!」
「うわ、顔真っ赤だな…そんなに なることか?」
「あ、当たり前だろ!しかも俺に書き写させるなんて…だ、だめだ、こんなの!」

 樫がわなわなと握りしめる紙束の上の方の頁には、男同士の交わりの始めから終わりまでが実に詳細に書かれていた。
 実際、樫は交わりの詳細が書かれたものを読むのは初めてではない。
 図書塔には男同士のものはなくても、男女の性行為に関する本や小説が何冊かあり、司書である樫もそれらを読んで記憶しているからだ。
 しかし、樫が顔を赤らめた理由は他にあった。

「これ…これ、俺達の事じゃないか…!?俺達の事をこんな詳細に書いた本を図書塔になんて…だめだ!だめに決まってるだろ!な、何を考えているんだ!?」

 蔦が書いたそれらの行為や描写には覚えのあるものがほとんどで、樫は蔦との様々な夜をいっぺんに思い出してしどろもどろになる。
 蔦はそんな樫に「恥ずかしがってるの、可愛いな」と目を細めた。

「すぐに気がつくなんて、それだけ俺の描写が上手いってことかな?…まぁ落ち着けよ、これは半分冗談だ、本題は…ここから」

 蔦は紙束の上から数枚を取ると、樫に『本題』だという部分を見せた。

「これっ…て…」

 『本題』は『男同士の愛し方』についてのものだった。
 医学書と見紛うほど大真面目な文章で書かれたそれは、『後ろのほぐし方』『中の洗い方』『痛めた秘部につける薬の調合』など、ありとあらゆることがそれぞれ詳細に、丁寧に書かれている。
 まるでそれは『指南書』のようだ。

「俺は気持ち良いところを探すのも中を洗うのも、全部手探りだったからさ。これまでの経験で得たものをきちんと記録しておきたいと思ってたんだ。それに…ほら、俺達の初めてってあんなんだったろ?他の子達には俺の培った知識でもって、なるべく『初めて』から体の負担が減るようにしてあげたいんだ」
「……」
「なにせ、『初めて』で血を見ると  なかなか『2回目』に手を出さない夫もいるからな」

 いたずらっぽく、からかうように言う蔦を抱き寄せた樫は、優しく腰の辺りを擦って「…悪かったな」と詫びる。

「あんな風に痛めつけて…本当に…」
「いいんだってば、樫。なぁ、俺も今になって思えば無謀だったと思うよ、ほぐしが全然足りてなかったんだ。お前の『大きさ』も想像以上だったしさ」
「またそんなことを…」

 蔦はくすくすと笑い、「1つ頼みがある」と抱きしめられながら言う。

「これ…俺の字を真似るんじゃなくて、樫が作った字で書いてほしいんだ。なんていうのかな、独自の…他にはない字体で。樫なら他で見たこともないような字体が作り出せるんじゃないかな」
「独自の?」
「うん。これを書いたのが誰か分からないように…詳細を謎にしておくんだ。そのほうが面白いだろ」

 2人は揃って机の上の紙束に目を向けた。

ーーーーーーー

 樫は紙束を家に持ち帰り、内容に目を通しながらその完成度の高さに改めて目を見張った。
 贔屓目 無しにしても、記述のどれもが的確に、それでいて分かりやすく書かれているのだ。
 男同士の交わり方やそれに追随するあれこれに関しては、樫も蔦と共に新たなやり方を模索したり、改良を重ねてきた。
 今まではそれらを記録として残すなど考えたこともなかったが、こうして見てみると、たしかに自分達が1から培ったものを後世に伝えるというのもいいものだという気がしてくる。

「さっきから随分熱心に読んでるな、出来はどうだ?」
「あぁ、よく書けてる。さすが、蔦は本を沢山読んできただけあって内容の構成も…なぁ、それ、さっきから何やってるんだ?」

 寝台の上で紙束に目を通している樫に話しかけてきた蔦だが、なにやら先程から調理らしき作業をしていた。
 とっくに夕食も終わっている上になんの香りもしてこないため、樫には蔦が何をしているのかまったく見当がつかない。
 蔦は「今教えるよ」とにこやかに器を持ってそばへ来ると、寝台に上がり、樫が持っている紙束の頁に見当をつけて開いた。

「これ…薬草の頁だけど、これが何?」
「よく読みなよ、樫。ここになんて書いてある?『粘り気のある薬草の使い方』だ。俺が色々考えてさ、普通よりももっと粘り気を出せるようにした方法を書いたんだ」
「いや、だからこれをどうするって?この器に入ってるのは、その『粘り気のある薬草』…なのか?」

 樫が器の中に手を入れようとしてきたため、蔦はその手を軽く叩くと「まだ熱いから触るなよ」と注意してそばの机へ置く。

「これはもう少し冷めたらな…他は?もう全部読んだのか?」
「まぁ、大体は。驚いたよ、おまえ、かなり真面目に書いてたんだな」
「当たり前だろ、何言ってんだ…俺はきちんと研究したものを残そうと思って書いたんだから。まぁ、最初のアレは面白半分だったけどさ」

 2人はくっついたまま紙束を捲り、内容についての意見を出し合ってさらに詳細に、分かりやすくなるよう編纂を重ねる。

「あぁ…たしかに、『自分の洗い方』だけじゃなくて『相手を洗ってやるコツ』もあったらいいかもな。これは俺よりも樫の方が詳しいだろ?だからおまえも書いてくれよ」
「コツっていっても…」
「あと『愛し方』もな。お前の技は本当に最高ですごいし、きっと読んだ子のためになる」

 真面目に話している蔦だが、樫の目は上衣の合わせの隙間からのぞく薄い胸板に釘付けになってしまってそれ以降の言葉がきちんと耳に入ってこない。
 樫は片腕を蔦の体に回し、背を包み込むようにしながら抱き寄せて髪の香りをかいだ。
 同じ湯を浴び、同じ洗い粉で髪や体を洗い、同じように洗って干した衣を着ているにもかかわらず、なぜ蔦からはこうもいい香りがするのか…樫は不思議でならない。
 深呼吸をするようにしながら香りを胸いっぱいに味わっていると、蔦は樫に腕を巻きつけるようにして抱きつき、「ほんと…好きだ、樫」と呟いた。

「お前は…どうして俺のことを好きになってくれたんだ…?こんな…面倒な体質で、しかも男の…」
「知るか」
「…おい」
「知らないうちに好きになってたんだから、どうしてもなにもないだろ。それに…『面倒な体質』だと?おまえにはそうかもしれないが、俺にとっては最高だ、都合が良すぎる。もしおまえが普通に昼に外を出歩いてたら、俺なんか気にもとめなかっただろうからな…それこそ、どこかの女の子と付き合って結婚とかしてたかもしれない」
「はぁ?何言ってんだよ」
「その体質のおかげでおまえは俺のことを見ざるを得なかったってことだ。散々苦労したのは知ってるけど…悪いな、俺は感謝すらしてる。よそ見をさせずにおまえを俺の元へ連れてきた『恩人』だからさ」
 
 蔦は「なんだよ、それ…」と言いながらも嬉しそうに樫の胸へ額を擦り寄せる。

「俺は…こんな体質がなくても、樫しか好きにならなかったよ」
「そうか?」
「うん…きっとお前に会うためだけに図書塔へ通って、本の場所を聞いたり、仕事ぶりを褒めたり…なにかと理由をつけてそばにいようとしたはず。だけど…たしかにこんな風にはなって無かったかもしれないな。昼の図書塔は人目もあるから『あんなこと』もできないし…お前に告白することもできなかったと思う、1人で想いを拗らせてたかも」
「本当に?」
「うん」
「…俺に抱かれたくて、ここを使おうと考えつくようなおまえが?」
「っ!」

 尻を擦る樫の手が意地悪な手付きで真ん中の割れ目を下衣の上からなぞると、蔦は喉奥から吐息を漏らした。

「ここを使えば俺と1つになれるって…ずっと前からいじってたんだろ?1人で俺を想って…」
「っ…んっ…はぁ、そうだよ」
「…かわいいな、本当に。なぁ、おまえ可愛すぎるぞ、俺はどうしたらいいんだ?抱きしめればいいのか、それとも口づけか…何でもしてやるから言えよ、おまえが望むことは何でもやってやる」
「なんでも?」
「あぁ、なんでもだ」

 胸元から顔を上げた蔦は抑えきれない笑みを浮かべ、そのまま伸び上がって樫に口づけた。

「それじゃあこれは…もう端に置いて」

 樫から取り上げた紙束を傍らの机の上に置くと、蔦は樫を寝台の上に押し倒しながら口づけを浴びせる。
 舌や唇を吸って吸われ、噛みついて噛みつかれ、絡めて絡められ。
 行動を起こせばそれに対する反応があり、また自分に対して動きがあればそれに応じるということの繰り返しは、互いが同じ気持ちを持っているということを確認し合えて心地良い。
 樫の下のものが充分に固くなったところで、蔦は樫の下衣を弛め、冷ましていたという器の中に手を入れた。

「これはさ…こうやって使うんだ」

 器の中から戻ってきた手には透明な粘液が纏わりついている。
 蔦はその手で樫のものを包み込むと、ゆっくりとしごきだした。

「うっ…」
「どうだ?ヌルヌルして…いいだろ?」

 粘液が空気を含んでグチャグチャと卑猥な音を立てる中、緩急をつけて握ったり、擦ったり、なぞったりして刺激し続ける。
 手の中のものが一層熱く固くなってきたところで、蔦は「これ、体に良い薬草なんだよ…それに…甘い味がする」といたずらっぽく言うなり、突然手に握っていたものを口に含んだ。
 全体に絡みついた粘液を丹念に舐め取るように頭と舌を動かし、喉を動かして飲み込むと、樫の呼吸は更に荒くなる。

「はあっ、はぁっ…く…うぅ…っ!!」

 太く固いそれは容易に喉奥まで届き、ぐっと堪えなければすぐにむせ返ってしまうほどだ。
 しばらくそうしてしゃぶり続けた後に蔦が口をすぼめて刺激を強くした途端、樫は高まりきった熱を放った。
 口内に放たれた白濁と粘液が混ざったそれは甘露で、一滴残らず飲み込んだ蔦は満足気に微笑む。

「美味いよ、樫の…はぁ、俺からしたらお前のほうが可愛いぞ。そんなにこれが気に入ったのか?すごく多かったな…」
「はぁっ…はぁっ…蔦…後ろ向いて…こっち来い…」
「ん…」

 蔦が体勢を変える間に、樫はあの器に手を入れて粘液を掬った。
 粘液はちょうど人肌の温度になっていて、温かさを感じるように器の中で手を動かすと指の間にまで十分に粘液がまとわりつく。
 寝台の端に背を預けて もたれかかるようになった樫の目の前には体勢を変えた蔦の尻があって、樫はそのあらわになっている秘部とそそり勃つものの裏を粘液のついた手で撫であげた。

「ぅああっ!!」

 樫のものへ頬ずりしていた蔦は突然のヌルヌルとした感覚に思わず大きな声を出す。
 だが、樫はそれにも構わず手で蔦のものを擦り始めると、同時に後ろの穴へ口づけた。

「うっ、あぁっ…!!」

 蔦の言っていた通り、たしかにこの粘液には甘みがある。
 それも薬草によくある嫌な甘みではなく、蜂蜜でも混ざっているのではないかというような甘さだ。
 美味しいとさえ感じるそれに、樫は舐め取る舌の動きを大きく、大胆にしていく。

「うぅんっ、あっ…ふぅぅっ…あぁぁっ!」

 羞恥心を掻き立てられる場所に這う舌や吐息に加え、敏感な前のものまでがしごかれている蔦の腰はすぐにガクガクと震えだす。
 「だ、だめ…それすぐに俺……」と言いながら樫の足を掴む蔦。
 秘部の周りをすっかり舐め終えた樫が蔦の袋の方へ舌を移すと、蔦は高く腰を上げるようにして勢いよく白濁を放った。

「あぁっ!あっ、はぁぁっ!」

 樫は中に残っているものまですべて絞り出すように手を動かし続け、蔦の体の震えが止まるのを待つ。
 樫の腹の上には粘液と蔦の熱い白濁が散らばっていて、美しい模様を描いている。
 それらを手でかき集めた樫は、先程まで自身が舐めていた蔦の後ろへ塗りつけると、人差し指をそこへ挿し込んだ。
 閉じていた薄紅のそこがゆっくりと指を呑み込んでいくのを間近で見ていると、とてつもない激しさで欲情してしまう。
 粘液によってなめらかさが増しているため、樫はすぐに2本目の指を挿し込み、これ以上ないというほど深く、蔦の体の奥に触れた。

「あっ、はぁっ…ぁんっ…」

 指先を軽く曲げて掻き出すように擦ると、蔦の中から溢れた愛液がわずかにこぼれる。
 指の間を開くと拡げられた蔦の中がわずかに見え、ここにこれから自分のものが出入りするのだと思うと、すでに固くなっていた樫の下のものはさらに勃って痛いほどにまでなった。
 それでも秘部から目を離すことができず、樫は3本目の指も挿し込んでズブズブと埋め込んでは抜くということを繰り返す。
 蔦の秘部はこれまでに数え切れないほど樫のものを受け入れてきたため、一度指が挿し込まれてしまえばすぐに柔らかくなってしまう。
 放ったばかりの敏感な体ということもあって、蔦はすぐに我慢できなくなり「も、もういいから…」と声をあげた。

「お前の…樫のこれ…ほしい…」
「…いいよ、蔦の好きなようにしろ」
「んっ……」

 指が抜かれてヒクヒクと収縮を繰り返す秘部。
 蔦は樫に跨がって正面から向き合うと、ゆっくりと腰を落としてすっかり柔らかくなったそこへ樫のものを突き刺した。

「あっ、はぁっ…」

 奥まで入りきると、蔦は腰をグリグリと押し付けて刺激した後に体を上下させ始める。
 多くの愛液と粘液によって交わる音はいつもよりも大きく、はっきりと響き渡り、2人の乱れた吐息も相まってたちどころに熱い夜が始まった。

「樫…どうした?」
「うん?」
「んんっ、はぁっ…なんか…思うことがあるんだろ?んっ…この体勢は…嫌か…?」

 動きを止め、樫の両頬を包み込みながら鼻先が触れそうな近さで尋ねると、樫はちゅっと軽く口づけて答える。

「大丈夫…蔦、おまえの好きに動いていい。俺はどんなのでも気持ちいいから…」
「もう…お前のしたいことが俺のしたいことでもあるんだからさ…言ってみろよ…どうしたい…?」
「……」

 はぁはぁと肩で息をしながら額をくっつけてくる蔦。
 2人の繋がったところからは熱い透明な粘液が溢れ出し、滴ったそれらは樫の股をしとどに濡らしていく。
 その感覚に耐えかね、樫は口を開いた。

「…見せて」
「ん…見せるって…何を?」
「俺がおまえの中に出入りするところ…足を開いて…見せて」

 蔦は「はは…」と軽く笑ってから樫の両腕を掴むと、わずかに膝を開いてゆっくりと上体を後ろに倒す。
 結合部が外気にさらされてひんやりしたのを感じた蔦は、今まさにすべてが見られているのだということを悟って苦笑いを浮かべた。

「ちょっと…さすがに恥ずかしいな、これは…」
「すごく綺麗だ…イイよ」
「いや…お前には良くても、俺は…んぁあっ!」

 突然下から突き上げられ、蔦は言葉を切る。
 上体を反らしてわずかに張った下腹部は体内の敏感な1点を差し出すような形になっていて、突き上げられるとまるでその1点が押し潰されるかのような感覚になってしまう。
 あまりにも強いその刺激に抗えず、どうすることもできない蔦はただされるがままに嬌声をあげた。

「はぁっ、あっ、あんっ…んっ、んぅうぁっ!!」

 中の締め付けとは裏腹に腕や腰から力の抜けてしまった蔦を引き寄せてきつく抱きしめる樫。
 荒い呼吸と激しい鼓動が互いの胸に伝わり、2人はまさに生を実感する。
 絶頂を迎えた余韻の波を苦しいほどに感じている蔦は、それらが少し落ち着いたところで自らの中心にいる樫の肉棒が未だに放出に至っていないことに気づいた。

「はぁ、っん…先に…悪い……」
「…そんなに良かったか?」
「もう…聞くなよ、そんなの……」

 後ろ髪を撫でられ、蔦はうっとりとした吐息をもらす。

「少し…激しくしていいか」

 耳元へされた問いかけに蔦が「ん…して……」と答えると、樫はありがとうと言うかのように髪へ口づけてから蔦の体勢を変えさせた。

 実際のところ、蔦はまだ満足したわけではない。
 今しがたの行為が気持ちよかったのは確かだが、蔦は樫が理性を失って行為をしていた時の激しさに慣れてしまっていて、『貪り食われている』という表現が正しいほどのあの強さで突かれないとどこか物足りないような気になってしまうのだ。
 近頃の樫はすっかり理性を保てるようになっていて、体が壊れてしまうのではと感じるほどのあの強さは味わえなくなっている。
 今夜の樫の言う『激しく』とはどの程度なのかは分からないが、蔦はかすかに期待しながら四つん這いになって尻を差し出した。
 樫はさらに器から粘液を取ると、たっぷりと自らのものに塗りつけてから はくはくと開閉を繰り返している蔦の秘部へあてがい、そのまま奥まで一突きする。
 突然の挿入に腕の力を失った蔦は、上半身を伏せたせいで尻を高く掲げる姿勢になり、背がなんとも美しい曲線を描く。
 両脇腹にある赤い痕を繋げるかのように、樫はその背の真ん中へ口づけ、くっきりとした真っ赤な痕を残した。

「あんっ…あっ、うっんん…ふぅ、うぅ…!!」

 それは蔦の想像以上だった。
 樫は蔦の腰をしっかりと掴むと、まるで腹を突き破ってしまうのではないかというほど強く、激しく突きだしたのだ。
 じんわりとした痛みと共に押し寄せてくる強烈な快感に見舞われ、蔦は意識を飛ばしてしまいそうになる。
 結合部からの音、肉体がぶつかり合う音はかなり大きく響いているものの、自らの呼吸と鼓動がそれらをかき消してしまっていて、もはや耳に入っていない。
 ただ一心に快感を貪り合う。

「はぁっ、はぁっ…っ、そろそろ…出そうだ……このまま…出すからな……」

 一層動きを激しくし始めた樫。
 声すらも出せない蔦は、何度も頷くことでそれに応える。

「っ…………!!!」

 最後の重い一突きをした樫は、蔦の腹を抱え込むようにしながら存分に精を放った。

ーーーーーーーー

「あっ、あんっ、あ、あ、あ、うぅ…んっ!!!」

 仰向けになった蔦の片足を肩に担いで腰を打ちつける樫。
 その動きに合わせて吐息混じりの喘ぎ声が響いている。
 樫の下にいる蔦は今夜すでに何度も絶頂を迎えていて、もうクタクタになっているようだ。
 潤んだ瞳に薄紅の頬をした蔦はシワ1つなく敷かれていた寝具を力強く握って口元に引き寄せ、体を揺らさぶられている。

「はぁっ、あんっ、も、もう…で、でる…でちゃ…あっ……っ!!!」

 樫が手を添えると同時に放った蔦。
 樫もその直後に精液を蔦の奥深くへ放出した。
 もうずっと長いこと動き続けていたせいで、さすがに樫も今晩これ以上はできそうにない。
 蔦の中から自らを抜き出すと、寝台に横たわり、自らの腕に蔦の頭を載せさせて至近距離から見つめる。
 腕の中にいる蔦の体温があまりにも心地よく、樫はふと「…愛してる」と口を開いていた。

「愛してるよ、蔦…おまえを本当に…心から愛してる」

 耳たぶへ噛みつくような口づけをするも、蔦は目を閉じ、わずかに下唇を噛み締めてじっとしている。
 それは蔦が何か言いたい時にすることで、樫は頬を撫でたり、そっと口づけをしたりして蔦からの言葉を待った。

「…俺、男だろ」
「あぁ…そうだな」
「……なんで女じゃないんだろう」

 樫はてっきり「俺も愛してる」というようなことを言うのだとばかり思っていたため、蔦の言葉に少し驚いてしまった。
 蔦は変わらず何かを堪え忍ぶかのように目を閉じている。

「どうしたんだ?そんなことを言い出すなんて」
「……」
「うん?」

 樫はそばに散らばっていた2人の衣を片手で集め、それらを広げて蔦の体にかけてやった。
 汗でしっとりとしている蔦の前髪を指先で除けていると、蔦は眉間に薄くしわを寄せて話す。

「俺は男だ…どんな薬草を使っても、どんなことをしても女にはなれない。俺は…俺はどうしたって男なんだ…女じゃない…男だから、こんなにお前に愛されてるのに、お前の子供を産めない…」
「蔦…」
「こんなに愛されて、抱かれて、溢れるほど子種を中に注がれても…どうしても孕めないんだ。もう、普通の男女よりよっぽど愛し合って中出しされてるのに」
「お、おまえ…随分はっきり言うな、その、中…出しとかは改めて言われると、その、うん…」
「樫の子はどんな子なんだ?お前に似て可愛いに決まってるよな…だけど俺はその子の親になれない、なれるはずがないんだ。俺が女だったらお前の子を産んで…お前と一緒に育てたかった、家族を増やしてやりたかった。お前の両親に孫を見せて、きちんとお前と夫婦として……」

 蔦の閉じられた瞳を覆う睫毛は濡れて黒く艶やかに薄明かりを反射している。
 蔦の言ったことは、樫が今まで考えないようにしてきたことだった。
 たしかに、男同士の夫夫である以上、2人の間に血を引く子供は授かりようがない。
 これは紛れもない事実だ。
 樫はその事実に目を背けてきたのだが、やはりこうして蔦の口から聞くとそれは重くのしかかってくる。
 正式に夫婦として宣言するのでもなく、一生2人きりの生活。
 しかし、果たしてそれは悲しむべきことなのだろうか。
 人生において『あなたとの子がほしい』と切に思われるような相手と出逢い、愛し合うという事こそが重要なのではないだろうか。
 樫にとっては蔦が、隣にいるこの愛おしい人がまさにそう思ってくれている事実が、人生においての『答え』のような気がしてならない。

「蔦…おまえ、俺に似た子がほしいって?本当か?」
「……ん…頭も良くて格好良くて…最高の男だから…」
「ははっ!おまえ、それを聞いたら俺の母親が何て言うか!きっと『やめておきなさい』って言うぞ…はははっ」
「な、なんで…」
「おまえね、随分俺のことを贔屓目で見てるみたいだけど…俺の小さい頃を知らないからそんなことが言えるんだぞ、本当に今の俺が考えても凄いやつだったんだから。1日中本を読んで、文字を書いて…放っておくと夜も寝ずに夢中でそんなことをしてたし、食事はしない、友達も居ない、挙句の果てに本の内容をブツブツ暗唱し始めたりしてさ。改めて思い返してみると自分でも末恐ろしいくらいだ、母親は散々『食事しろ』『寝ろ』って言ってもろくに聞かない俺のことをかなり根気強く見守ってくれたけど…もう2度とごめんだって言うだろうな」

 「蔦も、俺が木の実と犬がだめなことを知らなかったのに呆れてただろ?」と苦笑いで言うと、蔦の方も潤んだ瞳を樫に向けて苦笑いを返す。

「俺に似るとそんな感じになるかもしれない。だから俺に似た子はやめておけよ、俺は蔦に似た子がいい」
「…俺に似たら眠り続けるかも」
「うーん、まぁ、そうかもな。だけど、そうしたら俺が同じように隣で寝て起こしてやるよ。お前に似てるならそれで大丈夫じゃないか?」
「だ、だめ…お前は俺と一緒じゃなきゃ…」
「ははっ!そうだな、子供が間に寝てたら『こういうこと』もできないし……」

 樫が口づけると、蔦もそれに応じながらようやく動かせるようになった手で樫の髪を梳く。

「なぁ、蔦。俺達は2人だけど、それも悪くないよ。子供がいたらいたで賑やかだろうけど、2人きりじゃないとできない暮らしもあるからさ。俺もお前との子供を考えたことがあるけど…でも、それは『お前自身』との子供であって、お前が女だったらとか、そういうことじゃないんだ。お前と過ごす時間が俺にとって1番大切だから…」
「樫…」
「そうだ、今度互いの家に挨拶しに行こうか?俺、まだここに前住んでたっていうおまえのお祖父さんとお祖母さんに会ったこともないし…わざわざ『夫夫だ』って言わなくても挨拶だけでもさ。あ、なんなら周りに宣言しようか?それならおまえに惚れる奴への牽制にもなるし」
「ちょ、ちょっとそれは恥ずかしいからやめて……」
「え、恥ずかしいのか?こいつ…可愛いな!」

 照れながら目の前にある樫の胸を押し返そうとしている蔦の顔からはすっかり陰りが消え去り、代わりに愛らしい困り眉と耳にまで広がった薄紅の頬が戻ってきた。

「さぁ、そろそろ汗を流しに行こう」
「ん…もう動けないよ、このまま休もう」
「だめだ、この間そう言って次の日腹を痛めてただろ?」
「い、いや…あれは別に…」
「おまえ、本気で隠し通せると思ってるのか?まったく…今夜はあの薬草まで使ったせいで全身酷いことになってるんだから、さっさと流しに行かないとだめだ」

 樫は再びぎゅっと蔦を抱きしめて髪に口づけると、寝台を降りて両手を広げる。

「来いよ、連れて行ってやるから」
「…俺、結構重いと思うけど」
「はぁ?そんな細い体をしてるくせに何を言ってるんだ?」

 渋る蔦の体に両腕を回して横抱きに抱え上げる体勢になった樫は言う。

「重くて心配なら、ちゃんと俺にしがみついとけよ、蔦」

 蔦は樫の首に両腕を回して深く口づけると、横抱きの体勢から真正面に向き合って抱えあげられるように体勢を変えた。

「しっかり頼むよ、『旦那様』」

 樫が蔦を抱えあげると、蔦は両足をきちんと樫の腰に絡めてしがみつく。

「はぁ…あまり刺激するなよ、またシたくなるだろ」
「おい、あんなにやってまだ足りないのか?お前って本当…大人しそうな顔してるくせに、どうなってるんだ?」
「おまえが言うのか、それを」

 2人はくすくすと笑い合いながら浴室へ向かう。

「愛してるよ、樫…俺の全てでお前を愛し続ける」

 樫の頬を両手で包み込みながら、蔦は満面の笑みで伝えた。
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