熊の魚〜オメガバース編〜

蓬屋 月餅

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本編

3-1「熊についていくよ、俺」

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 まさか自分がそんなことを言われるなど、思ってもみなかった。
 憧れはしていたものの、オメガ性を損なった時点で自分は誰からも必要とされることのない身だと思っていたのだ。
 実際、そうだったはずだ。
 しかし今、彼はただただ真っ直ぐな想いを向けられている。
 許しを請うように目の前で跪くこの男は、このアルファは。
 彼に対する真剣な想いを一点の曇もなく告げているのだ。
 その眼差しと手の温もりは疑うまでもない。

「お、俺…」

 彼の声は震えていた。
 なんとか声を出さなければならないと思うものの、視界は溢れ出てきた雫に揺らめき、胸もつかえて上手く話せない。

「俺…は、オメガなのを隠さなきゃ…いけなくて、1人で生きていかなきゃ…」
「それは僕が耐えられない。君を1人にするなんて、ありえない」
「熊…い、いいのかな俺、こんなこと、言ってもいいのかな」

 『熊』が何度も何度も頷いて促すと、彼は戸惑いながらも一生懸命に声を出す。

「俺も熊と一緒に生きていきたいよ、熊。ずっとそばにいたいんだ、お前の…お前だけのオメガになりたい」

 次の瞬間、彼は『熊』の大きな胸に抱きしめられていた。
 『熊』自身の香りと微かに香る【香り】が彼の不安定だった心を春を迎えた雪のように溶かし、代わりに安堵感で満たしていく。

「ありがとう、そう言ってくれて…僕は君を大切にすると誓うよ。絶対に君を離したりしない、僕のすべてをかけて誓う。君を幸せにする」

 彼は『熊』の言葉に溢れ出る涙で応えた。

ーーーーーー

 『熊』がぬるく沸かしていた湯を浴びると、それまであった気分の悪さはすっかり消え失せ、忘れ去っていた空腹も思い出す。
 彼が着替えて部屋に戻ると、『熊』は今日の分として持ってきていた食事を食卓に並べて待っていた。

「その…体はどうかな、痛むところは」
「えっ、と、まぁ…その、足が少し…うん」

 彼の股関節はギシギシというような痛みがあり、多少歩くのにぎこちなくなってしまう。
 だが、その他にはこれと言って痛むところはない。
 擦られ続けていた秘部も、それ以上に愛液が多かったせいか違和感があるといった程度だ。
 彼は森の中でのことを思い出して楽しむにはまだうぶすぎる。
 静かにしているとつい先程までのあれこれを思い出して水も喉を通らなくなってしまいそうで、わざとらしく「お腹が減っちゃったよ」と声を上げながら食卓についた。

「あっ、また今日のは美味そうだな!なぁ、熊!」
「うん、疲れてても食べやすいものでちょうど良かっ…」
「げほっげほっっ!!!」

 ちょうどお茶を一口飲んだところだった彼は盛大に噎せてしまい、恥ずかしさもあって顔が真っ赤になる。
 『熊』は心配そうにしながらも「あ…いや、でもそうでしょ?」と同意を求めるように言ってきたため、彼はそれを無視して一口、また一口と食事を取った。

ーーーーーー

「えっと…熊はいつ帰るんだ?」

 遅い昼食を済ませ、外は陽が傾いて茜色になりつつある。
 食器をすべて洗い終え、それでも帰り支度をしないどころか時間を気にする素振りすらもない『熊』にそう問いかけると、「そのことなんだけど」と真面目な答えが返ってきた。

「その…本当に突然で『なんだ』と思うかもしれないんだけど、僕と一緒に来てくれないかな」
「へ…?」
「一緒に僕の家へ、工芸地域の食堂へ来てほしい」

 「たしかに、それはまた…突然な話だよな」と彼が目を瞬かせると、『熊』は眉根を寄せて話す。

「ここは君にとってとても危険な場所だから心配なんだ。アルファの中には強すぎる【香り】を持つ人もいる。彼らはオメガの【香り】にはとても敏感だし、触発されるとすぐに【発情】したみたいになって抑えが効かなくなるんだ。殆どの場合は【番】を早めに見つけて対処したりしてるんだけど、そうじゃない人はこういう地域の端で暮らしてたりするんだよ。…僕、ここに通っていてそれらしい人を見かけたことがある。近くに寄って確かめたわけじゃないけど、あれは完全にアルファだ、それも【番】のいない一匹狼の」

 その話を聞いて、彼は1人の姿を思い浮かべた。
 やたらと体格がよく、他の仲間と親しげに話しているがどこかギラついたような目をしている男。
 たしかに彼もアルファだと感じて特に近寄らないようにしていた男だ。
 その男の特徴を『熊』に話すと、「うん、多分その人だ、僕が見たのと同じ人だね」と頷く。

「君がベータならまだしも…オメガなんだ、しかも今までとは違うんだよ。もういつ何時【香り】を嗅ぎつけられてもおかしくない。完全に【香り】を抑えていたとしても、この辺りについた【香り】は濃すぎるから…完全に消えるまでに数日はかかるんじゃないかと思う。そんなところにオメガを1人にしておくアルファがいたとしたら、それは正気じゃないよ。僕がいない間に君の身になにかあったらって心配なんだ、とても。2、3日、いや、まず今晩だけでもいいから、とにかくここを離れてほしい。一緒が嫌なら僕は別のところへ泊まるし……」

 『熊』の言葉に彼は首を横に振って「一緒がいい」とはっきり言う。

「熊についていくよ、俺。ここになにか思い入れがあるわけでもないし、仕事だってどっかの工房に一言言っておけばそのうち全体に伝わるから。だけど…俺なんかが行ったら食堂の迷惑にならないかな、こんな変なやつ……」
「迷惑?そんなわけない、皆歓迎してくれるよ。僕がいる食堂は他に働いてる人が女性ばかりなんだ、皆ベータか【番】のいるオメガの人だよ。優しい人達だから、きっと君の【香り】の調節にも親身になってくれる。もし【発情】したとしても2階の部屋にいればそうそう【香り】が漏れることはないし、もし万が一多少漏れたとしても食堂には人が沢山来るから。出入りも激しいし、それに紛れて分からなくなる。誰かに迷惑をかけるようなこともないよ」

 『熊』の『なんとしてでも彼を家に連れて帰りたい』という思いはその口調からも感じられるようだ。
 彼はそんな『熊』が微笑ましいような、くすぐったいような気持ちになって「分かったってば」と目を細めた。

「その…俺、人と暮らすのがもう何年ぶりかって感じだからさ、なんか色々と手間かけるかもしれないんだ…けど……」
「いいんだよ、僕もずっと1人で暮らしてたから。これからは2人で暮らそう、2人で、ね」
「2人…うん、2人で…1人じゃなく、2人で…」

 昨夜まで『熊』に想いを告げようかと寝台でごろごろ考え込んでいただけだったというのにもかかわらず、今、すでに2人で住もうというところにまで話が進んでしまった。
 あまりにも急なことだが、それに関する戸惑いなどは一切なく、むしろ彼は(もっと早く言えばよかった)とさえ思っている。
 『想いを告げることで離れてしまうのではないか』とも考えていたのは、まったくの時間の無駄だったのだ。

「熊の家って…工芸地域の食堂ってここから遠いんだろ?早くここを出ないと真っ暗になっちゃわないか」
「いや、今頃は人通りが多いから心配なんだ。もし通りすがりに【香り】を嗅ぎつけた人がいたら、家にまでついて来てしまうかもしれないからね」
「え、いや、いくらなんでもそんなこと…」
「色んな人がいるんだよ、気をつけなきゃ。本当は今もこの家から離れたいくらいなんだ、もし【香り】を嗅ぎつけたとしたらそれを辿ってまずここへ来るだろうし。他にいい場所があればそうしたいんだけど、ある?」
「いや、この辺りは人気がないからあばら家1軒ない」

 彼の言葉に、『熊』は「そうだよね」とため息をつく。

「外に居続けるのは君の体にも良くないし、ひとまずここにいるしかないな…とにかく、暗くなってから移動しよう。君に肌に少し残ってる【香り】も、僕といれば薄まって消せるからね」
「その…熊は大丈夫なのか?」
「うん、僕は薬が効きやすいんだ。薬を飲んでさえいればきちんと調節できるし、君の【香り】も『そういう欲』とは関係なく楽しんでいられる」
「楽しむって……え…その、どう…なんだ?俺の【香り】って…変じゃないか?」

 おずおずと彼が尋ねると、『熊』は彼の隣に腰掛けて「すごくいい香りだよ」と微笑んだ。

「そうだな…少し蜂蜜のような感じかな?それも初夏に採れる爽やかな風味の。甘いけど、甘ったるいのとは違うんだ、すごく…すごくいい香りなんだよ」
「そう…なのか」
「僕のはどうかな、君にはどんな香りに思える?」
「熊の【香り】?」
「うん、君がどう感じるか、気になるんだ」

 『熊』がわずかに【香り】を放ったらしく、彼の鼻はそれを捉える。
 気分を落ち着かせるその【香り】は甘いような爽やかなような、それでいて刺激的なようなものだ。
 彼は何度も確かめてみるものの、その【香り】はなんと形容するのが正しいのか分からない。
 『熊』は彼からの言葉を静かに待っていて、その【香り】と眼差しがもたらす心地よさに気恥ずかしくなった彼は、ほんの少し視線を横にそらして細々と話し始めた。

「なんて言ったらいいのか…その、上手く言い表せないんだよ、熊みたいに…覚えはありそうなんだけど…」

 すると『熊』は目を細めて「僕だって同じだよ」と柔らかく微笑みかける。

「君の【香り】を完全に言い表すことなんてできない。蜂蜜みたいだとは言ったけど、それよりもずっといい香りなんだ。僕は君が僕の【香り】をどう思うか知りたいだけ、何でもいいよ、思うままに言ってみて?」
「…思うままに?」
「うん」

 彼は『熊』に見つめられながら、ほとんど考える間もなく答えていた。

「好き」
「え…」
「好きだ、ものすごく。好き、好きなの」

 いい例えが見つけられずに抱いていたもどかしい思いのまま、彼はただただ「好きだ」ということと自らが感じる【香り】の印象をこれでもかと口にする。
 それはとどまるところを知らない。
 少しの間もあけずに話し続け、「とにかく好き、とにかく好きな【香り】なんだよ」と最後に念を押すように言うと、彼の鼻に届いていた『熊』の【香り】は一層濃いものになっていた。

「あ…な、なんだよ、薬が効いてるんじゃなかったのか?ちっとも抑えられてない、濃くなってる」
「ごめん、その、すごく…う、嬉しくて抑えきれないんだよ、ちょっと、こんなことは初めてだな、待ってね、抑えるから…」
「…別にいいよ。俺も今は薬が効いてて【香り】に引っ張られてる感じはしてないし…好きな【香り】だって言っただろ」

 さらに濃くなる『熊』の【香り】。
 恥ずかしさと照れが混ざったような表情で必死に【香り】を抑えようとする『熊』が愛らしく見え、彼はくすくすと笑った。

ーーーーーー

 まったく不思議だ。
 2人は数時間前まではただの親しい友人という間柄だったはずなのに。
 にも関わらず、想いと第2性別を告白し合い、交合までも済ませてしまうなど、普通であれば気まずさや戸惑いがあってしかるべきではないのか。
 ところがこの2人は初めに少し目を合わせることが難しかっただけで、今では横にくっついて座り、楽しそうにあれこれと談笑を交わしている。
 『熊』が微笑めば彼が笑い、彼が笑えば『熊』も笑う。
 穏やかに陽が傾いていく中で彼は『熊』から時々漂ってくる【香り】を胸いっぱいに吸い込み、今まで感じたことがないほどの安らぎに包まれていた。

 『熊』が彼に飲ませた抑制薬は【発情】のためのものではなく、緊急時に使用される強めの抑制薬だった。
 本来の【発情】であればこの薬でも抑えられず、今も漂う『熊』の【香り】によってオメガ性の本能のままに行動しているはずだ。
 つまり先程の彼の反応は【発情】によるものではなく、ただ単に失っていたオメガ性が再び発現したことに対するものだったのだろう。

 元々オメガ性の人々というのは全身になんとも言えない愛くるしさを身に纏っているものだ。
 オメガ全体の割合としては女性オメガの方が多いのは事実だが、それは男性オメガの彼にもあてはまるらしい。
 『熊』はまだ友人として接していた頃の彼の笑顔も好きだったが、こうしてオメガ性を発現させた今の彼が格段と愛くるしく、目を惹きつけてやまない魅力に満ちたのが堪らないようだ。
 きっとそれは、封じ込めていた心の底からの感情を解き放ったことと、『熊』の【香り】に包み込まれているということが大きく関係しているのだろう。
 『熊』には彼のまばたきや話すときの癖、後ろ髪の毛先に至るまでもが愛おしい。

ーーーーー

「ははっ…俺達、どれだけ話し続けてたんだ?それでもまだまだ話し足りないよ、こんなに喉がカラカラになってきちゃったのに、どうしちゃったんだ?」

 ずっと話し続けていて気が付かなかったが、外は陽がじきに沈むというくらいになっていた。
 いくつか灯りをつけていたものの、部屋全体を照らすには足りない。

「喉が乾いてきちゃったよ、水は…」
「お水はもう汲んでこないといけないんだ、水筒のもここの水甕のも、どっちも少ししかなかったから。…うん、君の【香り】も完全に消えてるね。外がこれくらいになっていれば人通りも落ち着いているはずだし、道中で飲むための水を汲んでから工芸地域へ行くのはどうかな?一緒に」

 『熊』が窓の外を眺めながら言うと、彼はふるふると首を横に振る。

「いや、俺は待ってるからさ、熊が汲んできてくれないかな?その…実はまだちょっと足が痛くて、あの川の方まで歩くのがちょっと…」

 彼の言葉に『熊』はすかさず「だめだよ」と声をあげた。

「君を1人にするわけにはいかないんだ、僕が抱えていくから一緒に行こう」
「抱えるって…荷物もあるのに?」
「大した荷物じゃないでしょ」
「い、いや、俺の荷物はたしかに大したことないけど…でも昼食を入れてきたかごとか食器もあるし、水筒だってあるのにその上俺まで抱えるのか?無理だろ」
「大丈夫だよ」
「無理だって!工芸地域まで長く歩かなきゃならないんだ、無茶はするなよ」

 『熊』はさらに口を開こうとしたが、彼はそれを止める。

「こうして言い合ってる時間がもったいないんじゃないか?早く行こうよ、俺を工芸地域に、熊の家に連れてってくれるんじゃないのか?」

 渋る『熊』に水筒を握らせ、彼は扉の方へとその背中を押す。

「熊が帰ってきたらすぐ行けるように支度しておくからさ」
「ちょっ、ちょっと……」

 『熊』は仕方ないというようにため息をつくと「しっかり戸の鍵を閉めてよ、分かった?」と何度も彼に繰り返す。

「鍵を閉めたら誰が来ても絶対に開けないでよ、いいね?窓の近くにもいないで、危ないから。ねぇ、僕、本気で言ってるんだけど」
「分かってるよ、戸は熊だって分かるまで開けないし、窓にも近寄らないって約束する。だけど熊も早く帰ってきてよ。じゃないと『暗くなりすぎて何かあったんじゃないか』って俺も外に出て捜しに行くからな」
「だめだよ、出てきちゃ!!」
「だから早く帰ってきてって言ってるんだってば」
「もう…」

 結局『熊』は彼がきちんと戸に鍵をかけたことを確認してから足早に水を汲みに出かけていった。

(熊のやつ…俺を訪ねてくるようなやつなんかいないのにな。そもそもこの家の存在だって知ってるのは俺と熊だけだぞ)

 ここは元々廃屋だったのだが、幸いにも彼がここを見つけた時は前の住人が出て行ってまだ数ヶ月ほどだったらしく、かろうじて住むことができる状態を保っていた。
 それでもしばらく掃除をし続けなければならず、落ち着けるようになるまでには随分とかかったものだ。

(はぁ…ここが終の住処だと思ってたのに、そうじゃなかったみたいだな。そう思うと寂し…いや、そんなことはないかな?寂しいっていうよりも『ありがとうございました』って感じだ)

 部屋の中を見渡してからそっと頭を下げた彼は晴れ晴れとした表情を浮かべている。
 それから『熊』が帰ってきたらすぐに持ち出すことができるように、と荷物を戸のそばへ移動させ始めた。
 荷物は大した量ではないものの、やはりこれら全てを抱えていくのは大変だろう。
 彼はせめて持ちやすくなるようにと背負い紐をくくりつけながら窓の外に目をやる。

(暗くなるのが早い…気がする。熊はまだかな?いや、さすがに今帰ってくるのは無理か、それこそ早すぎるもんな)

 『熊』が向かった森の中は暗くなってくると光る植物や苔があるおかげで真っ暗闇になることはない。
 しかしそれでも慣れていないと歩きづらいのではないかと心配になってきた彼は、寝台に腰掛けながらもそわそわと帰りを待った。

(大丈夫かな、熊。やっぱり俺も行けばよかったか……あっ)

 その時、戸がドンドンと音を立てた。
 『熊』が帰ってきたのだと彼は急いで戸に駆け寄ったが、どうも様子がおかしい。

 あまりにも帰ってくるのが早いのではないか?
 行って帰ってくるだけならまだしも、水を水筒に汲まなければならないというのに。
 それに、『熊』はこんなにも戸を激しく叩くような人物だっただろうか。
 いくら彼のことが心配だったとしても、声すらあげずにこんなことをするだろうか。
 今、戸を叩いている人物は……本当に『熊』なのだろうか。

 彼は胸騒ぎがして一歩ずつ後退っていく。
 やがて戸の方から聴こえてくるそれは叩くような音から取っ手を揺さぶるやかましい音に変わっていた。

(な、なんだ!?動物…じゃないよな?いくら森に近いっていってもこんなことは今までなかったんだし…熊がなにか切羽詰まってやってるのか?怪我をしたとか、何かに追われてるとか?でも、だとしたらなんで何も言わないんだ?変だろ、何かが変だ)

 得体の知れない何かが戸のすぐ外にいて、この家に押し入ろうとしている事実は想像を絶する恐怖だ。
 彼は今、自分が何をするべきなのかが分からず後退って戸から離れることしかできないでいる。
 だが、あと数歩で壁に背がつくというところで彼は戸の外にいた者の正体を知った。
 彼のすぐ前にまで戸の木片が飛んでくる。

《近くに寄って確かめたわけじゃないけど、あれは完全にアルファだ、それも【番】のいない一匹狼の》

 戸を蹴破ったらしいその人物は、まさに『熊』が話していたアルファの男と特徴が同じの人物だった。

 ギラつく瞳、やたらといい体格、そしてなにより…彼を見る目。

(こ、こいつ……)

 彼は今、最も顔を合わせてはいけない男と対面していた。



《注意》
 次話『3-2「熊だけに、俺…」』には一部暴力的な描写が含まれています。
 苦手な方は『3-3「そばにいさせて」』から続きをご覧ください。
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