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第4章 戦いに向けて
28話
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パトレシア視点
「お待たせ」
浴室に向かうと、すでにララが着替えの準備をして待っていた。ちょうどお昼の時間帯だから私たち以外誰もいない。これならゆっくりお話ができそうね。
「ふぅ~ いいお湯ね」
「そうですね~」
疲れた体に温かいお湯が染み渡る。私は肩まで浸かると、深く息をはいた。チラッと横を見ると、ララも気持ちよさそうに目を瞑っていた。
「ねぇ、ララ、あなた男装して近衛兵の入団テストに参加したのよね」
「はい、そうですけど……どうかされましたか?」
「よく、その見た目で男装しようと思ったわね」
さっきチラッと見た時に思ったけど、二つの大きな球体がぷか~っと浮いていた。おまけに髪も綺麗で長いから余計に男装なんて難しい。
「もっとおしゃれをすればいいのに~ 絶対に可愛くなるわよ!」
「そっ、そんな事ないですよ。私なんて至る所に傷跡がありますし……パトレシア様はどうしてそんなにツヤツヤな肌をしているのですか?」
「えっ、そっ、そうかしら? 多分それは……」
寝室でマルクスに襲われているから……なんて恥ずかしくてとても言えない。昨日だって散々こねくり回されたけど……
「きっと適度な運動のおかげよ。それよりもルークとはあれからどうなの?」
「どうと言いますと?」
「はっきり聞くけど、ララはルークの事が好きなの?」
「なっ、えっ、すっ好き⁉︎ そっ、そんな事は……」
「そんな事は……?」
「なっ、ない……事もないですけど……」
「ほら、じゃあ好きなのね?」
「うぅ……でも自分でもよく分からないんです。ただルークを見ているとなんだか胸が締め付けられる感じがするんです。それに脈も速くなるというか……」
「それは好きな証拠よ。私だってマルクスに会った時はドキドキしたわ。別に変な事じゃないわよ」
「でも、私なんかがその……恋をする資格があるのでしょうか? 今まで殺し屋の仕事をしていたのですよ」
「ルークも言っていたけど、昔のことでしょ? 過去は関係ないわ。大切なのは今でしょ?」
「そう言ってもらえると、すごく心が軽くなる気がします」
ララはホッと安堵のため息をつくと、穏やかな表情で笑みを浮かべた。
「ふふっ、その意気よ、恋愛だって近衛兵の仕事だって恐れる必要はないわ。むしろそれが貴方をもっと、もっと成長させてくれるはずよ」
「パトレシア様……」
ララはゆっくりと口を開くと、胸の中に溜まった闇を吐き出すように、これまでの事を話してくれた。
「私は14歳の時に初めて人を殺しました。その男は私の父親でどうしようもないクズで……」
ララの語ってくれた話はとても信じられない出来事の連続だった。まだ幼い少女には荷が重すぎる……
「そうだったのね……そんな事があったのね……」
気がつくと私たちは肌と肌が触れ合いそうなくらい距離が縮まっていた。時折辛そうにララが話をするときは、軽く背中をさすってあげると涙をこぼした。
「大丈夫よ。貴方はとても強いわ。これからもよろしくね。貴方はもう立派な私の近衛兵よ」
「ありがとうございます! これからは全力でパトレシア様を守るために尽くします」
私たちはもう一度顔を見合わせて微笑むと、互いに両手を広げて抱きしめ合った。目には見えない壁が砕けて心と心が繋がったような感覚が2人を優しく包み込む。
「ねぇ、早速お願いしたい事があるんだけどいいかしら?」
「もちろんです。なんでも言ってください!」
「ふふっ、いい意気込みね。じゃあ、明日、薬屋で働く子供達の所に顔を出してあげて。最近新しい事を始めたそうなの」
その後も私たちは会話をしながら湯浴みを楽しんだ。 湯気の中で揺れる私たちの姿は、側から見たら思わず息を呑むほど幻想的な光景だった。
* * *
殺し屋のアモン視点
「おい、タヌキ、キツネ、来い!」
薄暗い廃墟のようなアジトに怒鳴り声が響く。辺りは埃っぽく、冬の訪れを感じる冷たい風が隙間から入ってくる。
「ボスお呼びですか?」
タヌキと呼ばれた部下は、ずんぐりむっくりで目の大きい男だった。
「何なりとお申し付けください」
一方キツネと呼ばれた部下は、ヒョロリとした目の細い男だった。
「お前らに任務を与える。アルバード王国に宣戦布告をして来い。そのついでに俺の一番弟子のララを軽く痛ぶってこい」
タヌキは元から大きな目をさらに見開くと「殺したらダメなのですか?」と尋ねた。
「その後の戦争に支障が出れば十分だ。下手に深追いをしてお前たちに怪我をされると困る」
キツネは細い目をより一層細めると、顎に手を当てて「なるほど、分かりました」と答えた。
「じゃあ頼んだぞ、俺はしばらく薬漬け生活をする。戦争の最中に体が麻痺ったら終わりだからな」
俺は部下2人に後のことを任せると、最後の戦いに向けて調整を始めた。
「お待たせ」
浴室に向かうと、すでにララが着替えの準備をして待っていた。ちょうどお昼の時間帯だから私たち以外誰もいない。これならゆっくりお話ができそうね。
「ふぅ~ いいお湯ね」
「そうですね~」
疲れた体に温かいお湯が染み渡る。私は肩まで浸かると、深く息をはいた。チラッと横を見ると、ララも気持ちよさそうに目を瞑っていた。
「ねぇ、ララ、あなた男装して近衛兵の入団テストに参加したのよね」
「はい、そうですけど……どうかされましたか?」
「よく、その見た目で男装しようと思ったわね」
さっきチラッと見た時に思ったけど、二つの大きな球体がぷか~っと浮いていた。おまけに髪も綺麗で長いから余計に男装なんて難しい。
「もっとおしゃれをすればいいのに~ 絶対に可愛くなるわよ!」
「そっ、そんな事ないですよ。私なんて至る所に傷跡がありますし……パトレシア様はどうしてそんなにツヤツヤな肌をしているのですか?」
「えっ、そっ、そうかしら? 多分それは……」
寝室でマルクスに襲われているから……なんて恥ずかしくてとても言えない。昨日だって散々こねくり回されたけど……
「きっと適度な運動のおかげよ。それよりもルークとはあれからどうなの?」
「どうと言いますと?」
「はっきり聞くけど、ララはルークの事が好きなの?」
「なっ、えっ、すっ好き⁉︎ そっ、そんな事は……」
「そんな事は……?」
「なっ、ない……事もないですけど……」
「ほら、じゃあ好きなのね?」
「うぅ……でも自分でもよく分からないんです。ただルークを見ているとなんだか胸が締め付けられる感じがするんです。それに脈も速くなるというか……」
「それは好きな証拠よ。私だってマルクスに会った時はドキドキしたわ。別に変な事じゃないわよ」
「でも、私なんかがその……恋をする資格があるのでしょうか? 今まで殺し屋の仕事をしていたのですよ」
「ルークも言っていたけど、昔のことでしょ? 過去は関係ないわ。大切なのは今でしょ?」
「そう言ってもらえると、すごく心が軽くなる気がします」
ララはホッと安堵のため息をつくと、穏やかな表情で笑みを浮かべた。
「ふふっ、その意気よ、恋愛だって近衛兵の仕事だって恐れる必要はないわ。むしろそれが貴方をもっと、もっと成長させてくれるはずよ」
「パトレシア様……」
ララはゆっくりと口を開くと、胸の中に溜まった闇を吐き出すように、これまでの事を話してくれた。
「私は14歳の時に初めて人を殺しました。その男は私の父親でどうしようもないクズで……」
ララの語ってくれた話はとても信じられない出来事の連続だった。まだ幼い少女には荷が重すぎる……
「そうだったのね……そんな事があったのね……」
気がつくと私たちは肌と肌が触れ合いそうなくらい距離が縮まっていた。時折辛そうにララが話をするときは、軽く背中をさすってあげると涙をこぼした。
「大丈夫よ。貴方はとても強いわ。これからもよろしくね。貴方はもう立派な私の近衛兵よ」
「ありがとうございます! これからは全力でパトレシア様を守るために尽くします」
私たちはもう一度顔を見合わせて微笑むと、互いに両手を広げて抱きしめ合った。目には見えない壁が砕けて心と心が繋がったような感覚が2人を優しく包み込む。
「ねぇ、早速お願いしたい事があるんだけどいいかしら?」
「もちろんです。なんでも言ってください!」
「ふふっ、いい意気込みね。じゃあ、明日、薬屋で働く子供達の所に顔を出してあげて。最近新しい事を始めたそうなの」
その後も私たちは会話をしながら湯浴みを楽しんだ。 湯気の中で揺れる私たちの姿は、側から見たら思わず息を呑むほど幻想的な光景だった。
* * *
殺し屋のアモン視点
「おい、タヌキ、キツネ、来い!」
薄暗い廃墟のようなアジトに怒鳴り声が響く。辺りは埃っぽく、冬の訪れを感じる冷たい風が隙間から入ってくる。
「ボスお呼びですか?」
タヌキと呼ばれた部下は、ずんぐりむっくりで目の大きい男だった。
「何なりとお申し付けください」
一方キツネと呼ばれた部下は、ヒョロリとした目の細い男だった。
「お前らに任務を与える。アルバード王国に宣戦布告をして来い。そのついでに俺の一番弟子のララを軽く痛ぶってこい」
タヌキは元から大きな目をさらに見開くと「殺したらダメなのですか?」と尋ねた。
「その後の戦争に支障が出れば十分だ。下手に深追いをしてお前たちに怪我をされると困る」
キツネは細い目をより一層細めると、顎に手を当てて「なるほど、分かりました」と答えた。
「じゃあ頼んだぞ、俺はしばらく薬漬け生活をする。戦争の最中に体が麻痺ったら終わりだからな」
俺は部下2人に後のことを任せると、最後の戦いに向けて調整を始めた。
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