28 / 40
第3章 建国祭と殺し屋
26話
しおりを挟む着せ替え人形というのはとても大変なんだと改めて思い知った。
「きゃあ!これも素敵ですわ」
「店長、やはりお色は華やかにされた方が」
「髪飾りも華やかなものにしなくては」
私と年齢が変わらない女性達が囲み楽しそうだった。
「それにしてもなんて艶やかな髪なのでしょう」
「本当に絹のようですわ」
「そう…ですか?最近は手入れを怠っていたので」
私の髪を結ってくれる髪結師である女性が目を見開く。
まるで獲物を見つけたような表情で少し怖くなったのだ。
「これで手入れを怠った?」
「ちなみにだけど、三年前の写真よ」
「お嬢様!」
隣でお嬢様が写真を取り出す。
常に持ち歩いていたなんて初めて知ったわ。
「まぁ、なんて美しい御髪。それにお肌も…」
「もちろん加工だってしてないし、こっちはメイクしてないわ」
「止めてくださいお嬢様!そんなノーメイクの写真…っていうか、いつの間に」
そういえば伯爵家ではやたらとカメラマンが出入りしていた気がする。
旦那様が日々、お嬢様の成長を映像に残したいとか言っていらしたのを思い出す。
「まぁ、なんて美しい御髪なのかしら」
「どうしたらこんな綺麗な髪を…」
よく見ると髪結師の髪は綺麗に染めているけど艶がない。
平民に限らず下級貴族の間では髪を美しく見せる為に染めたり巻いたりするけど、その所為で髪が痛む。
キューティクルとはいいがたい髪質だ。
「フンッ!この私の自慢の髪も先生に手入れをしていただいたのよ」
くるりと回りながら髪を翻すお嬢様。
まるでモデルのショーを見ているようだった。
「一体どんな香油をお使いに?」
「香油…」
そうだった。
一昔前は香油を使っていた。
現在は石鹸を使い洗髪した後に髪の毛を美しく見せる為に薬草を使って艶を出していた。
ただし艶が綺麗にでるわけではない。
「私が使っているのは香油ではなく果物を使ったシャンプーで汚れを落としています。その後にリンス―を使っていまして…」
通常とは少しヘアケアの仕方が違う。
ここ最近はヘアケアを怠っているけど。
「やはり高位貴族の方は違いますわね」
「え?」
「私は数多のご令嬢、ご夫人を見てまいりましたが。立ち振る舞いや所作で育ちが解りますわ。何よりティンファニー伯爵家の家庭教師となれば相応の身分の方かと」
「いえ…」
嘘でしょ?
ティンファニー伯爵家って、そこまですごかったの?
何代も続く貴族とは聞いていた。
実際親族が皇室に入ったと聞いていたけど。
旦那様自身は関係ないと言っていらしたし。
「伯爵様も潔癖症な所がありますし…使用人は古くから仕えているもの以外は拒絶されてますわ」
「仕方ありませんわよ。ティンファニー伯爵家と繋がりを持ちたい方は多いですから」
「これ!無礼でしょう」
若い髪結師や化粧師がきゃあきゃあと話していたがオーナーが咎める中私は眩暈がした。
知らなかったからだ。
だって気さくで優しい方で。
失礼だけど優しい兄のように慕っていたもの。
行儀見習いだった時に出会い、良くしてくださったから。
そんな風に思わなかった。
89
お気に入りに追加
638
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる