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最終章 

37話

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「まさか勇者と共闘する日が来るとはな……」

「私も正直驚いています」

 ワイバーンたちは魔王とセリナを見つけると、急加速しながら迫ってきた。それでも2人は一歩も引かずに敵を見据えると、徐に片手を前に出した。

「光よ!」「闇よ!」

 眩い光りと漆黒の闇が重なり、驚異的なエネルギーの爆発が上空を飛び回るワイバーンを迎撃する。その規格外の一撃に、ドローンを通じて観戦していた視聴者たちは、一気に盛り上がった。


〈すげええええ!!!光と闇のコンボ、最強すぎる!!〉
〈これは圧巻だわ!セリナちゃんと魔王様の連携が完璧すぎて鳥肌〉
〈ワイバーンが一瞬で消えた!まさに神業!〉
〈セリナちゃんと魔王様のコンビ、最強すぎる。これは伝説になる〉
〈一瞬でワイバーンが消えた!まさに圧倒的な力だな!〉
〈セリナちゃんと魔王様の連携、最高すぎる!〉


「ふむ、まぁ、さすがは勇者というところか、被害が広がる前に奴らを殲滅するぞ」

 必死に街を守ろうとする魔王を見て、セリナは頬を緩めてクスッと笑みを浮かべた。

「なんだか、変な感じがしますね。魔王が民を守るなんて」

「正直我が一番驚いている。以前の我なら信じられないからな……」

 魔王はセリナと会話をしつつも、漆黒の稲妻を操って残りのワイバーンを攻撃した。羽が痺れて墜落していく敵にセリナが止めの一撃を放つ。まるで昔からの仲間だったかのように2人の息はぴったりだった。

「これも、ダンジョン配信を始めたおかげだな。視聴者は本当に素直だからな……力づくでは言うことを聞かん。しかし、ランベルトは昔の我に戻って欲しいらしい……」

 魔王は空を見上げながら、ワイバーンの群れを一掃したばかりの戦場に目を向けた。配信を通じて得た学びが、彼の心に確かな変化をもたらしていた。

「私は……今のバルケリオスの方がいいです!」

 セリナは魔王の隣に立つとキッパリと言い切った。彼女の言葉には自身の信念と、魔王に対する信頼が込められていた。

「きっと視聴者の皆様もそう思っています!」


〈セリナちゃんのいう通り! 皆んな今の魔王様が大好きだよ!〉
〈セリナちゃんの信頼が何よりの証拠! このまま進んでほしい!〉
〈魔王様の今の姿が一番だと思う! セリナちゃんの意見に賛成!〉
〈今の魔王様が最高!〉
〈寛大で心の広い魔王様、かっこいい!〉
〈優しい魔王様大好き! これからもずっと応援します!〉
〈魔王様、どうかランベルトを止めて!〉
〈優しい魔王様になら世界征服されてもいいよ!〉
〈人間思いの魔王様って素敵!〉


「ほら、やっぱり皆さんも今の魔王様がいいみたいですよ」

 セリナはコメント欄に流れるメッセージを見せながら話を続けた。

「魔王様の姿は多くの人に勇気と感動を与えているはずです。一緒にこの戦いを終わらせましょう!」

 彼はセリナの言葉を聞き、迷いを振り払うように首を振ると、魔王らしくない、穏やかな表情で微笑んだ。

「ありがとうセリナ、そして視聴者たち、我はお前らの期待に応え、いずれ世界征服をするために最善を尽くそう!」

「ふふっ、世界征服は諦めていないのですね」

「当たり前だ。我は魔王バルケリオスだ。一度宣言した事は必ず成し遂げる!」

 魔王は胸を張って堂々と宣言すると、残りの魔物を倒しに向かった。街の中央に向かうほど、魔物の数が増えてくる。おそらくこの先にランベルトがいる。そんな予感が脳裏によぎった。

「ところでセリナ、お主はいつまで素手で戦っているのだ? 聖剣はどうした?」

「えっと……実はこちらの世界に来た時に無くしてしまいまして……多分元の世界にあると思います……」

「そうか、ならこれを使え」

 魔王は闇の中に手を入れると、禍々しい魔剣を取り出してセリナに渡した。その剣は青白い光を放ち、触れるものを全て断ち切るようなオーラを放っていた。

「これって……魔剣? いいのですか?」

「構わん、我よりのお前の方が剣の扱いに慣れているだろう」

 魔剣、それは本来魔王にのみ扱う事を許された伝説の神器。たった一振りで山を切り裂き、海が割れると言われ、扱うには長い鍛錬が必要と言われている。

「我はどうも力加減が苦手でなぁ……もしも一般市民を巻き込んだら目も当てられん、お前に託す」

 セリナは慎重に剣を受け取ると、試しに振ってみた。ほんの軽く振ったつもりだったが、見えない斬撃がワイバーンに直撃して真っ二つになる。

「なるほど、これは凄いですね……」

「感心している暇はないぞ、何かが来ている!」

 突然、上空に激しい風が巻き起こり、巨大なドラゴンが2人の元に降りてきた。鱗は返り血を浴びたように赤黒くて、口元の鋭い牙がギラギラと輝いている。

 巨大なドラゴンが地面に着地すると、ビルが揺れて窓ガラスが破裂するように割れる。冷や汗を浮かべるセリナと魔王とは対照的に、ドラゴンは平然とした姿勢で自分が支配者であるかのように威圧的に立っていた。

「ふむ……レッドドラゴンか……これは少し厄介だな……」

 ドラゴンはその巨体を動かし、低い咆哮を上げた。その声は雷鳴のように響き渡り、2人の体が震える。

「我が奴を惹きつける。お前がその隙にやるんだ」

「わかりました」

 ドラゴンは大きく口を開くと、巨大な火の玉を吐き出した。その威力は絶大で、地面を溶かしながら2人に襲いかかる。魔王は一歩前に出ると、両手を前に出して闇の障壁を展開した。

「っ......‼︎ これだからドラゴンは面倒だ……」

 ジリジリと魔王が押されてくが、なんとか持ち堪えた。その隙にセリナはドラゴンの背面に回り込むと、魔剣を振りかざした。青白い斬撃が鱗に触れて、亀裂が走る。

「グォおおおおお!!!!!」

「セリナ、離れろ!」
 
 ドラゴンが激しく動揺している間に、魔王は呪文を唱え、雷鳴が辺りに響き渡った。そして漆黒の稲妻が降り注ぎ、ドラゴンに直撃した。

「今だ、やれ!」

 セリナは力強く頷くと、痺れて動けないドラゴンに魔剣を突き刺した。渾身の一撃は敵の心臓を撃ち抜き、確かな手応えが腕に伝わってくる。

「グオおおお!!!」

 ドラゴンは地面に崩れ落ち、セリナは肩の力を抜いて剣を下ろした。魔王は彼女の元にかけようと、満足げに頷いた。

「見事だ。やはり勇者に認めらるだけのことはあるな」

「ありがとうございます。バルケリオスのサポートも助かりましたよ」

 2人は互いの力を認め合うと、ハイタッチを交わした。視聴者も魔王とセリナの戦いに称賛のコメントを送る。



〈素晴らしいコンビネーション! 魔王とセリナの連携プレイは圧巻だった!〉

〈魔王様のフォローも完璧だったね! まさにチームワークの勝利!〉

〈2人の戦いに心から感動しました。これほどの戦いを見られるとは!〉

〈魔王様の戦略とセリナちゃんの技巧、どちらも素晴らしい! お見事です!〉

〈ドラゴンとの戦いをこんなに完璧に終わらせるとは…感動した!〉

〈この2人ならどんな敵も倒せる!〉

〈コメントにしきれないくらい感動した!〉

〈魔王と勇者、最強コンビの誕生を見た気がする〉


 絶望的な状況にも関わらず、魔王と勇者の活躍が視聴者に希望を与えた。コメント欄は2人を応援する嵐が沸き起こり、夢中になって戦いの行方を見守る。

「さぁ、行きましょう。この先から膨大な魔力を感じます。きっとランベルトがいるはずです!」

「お前もそう思うか、よし、急ぐぞ!」

 セリナと魔王は阿吽の呼吸で頷くと、ランベルトの元に急いだ。
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