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第3章 館のダンジョン

16話

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「ハッハッハッ、よく来たな!」
 
 暗がりの中から現れたのは魔王だった。その隣には部下のランベルトもいる。彼らの姿は以前と変わらず、鋭い牙と赤く染まった目をしているが、雰囲気と相まってより一層不気味に感じる。
 
「ねえ、何のために私たちをここに呼んだの?」

 葵がそう尋ねると、魔王は威厳のある低い声で答えた。

「今回はお前たちに試練を与えに来た。ランベルトが改造したこの館を見事攻略してみろ。最後の部屋までたどり着いたら勝ち。途中で逃げ出したらお前たちの負け。さぁ、どうする?」


〈面白そう!〉
〈さすが魔王様、アイデアが素晴らしい!〉
〈やった! 今回もコラボだ!〉
〈魔王と勇者が揃う時は神回だ!〉
〈いいね、楽しそう!〉
〈2人とも、もちろん挑戦するよね?〉
〈魔王様の企画力はさすがです!〉
〈ドキドキが止まらない!〉


 ドローンに装着してあるタブレットに大量のコメントが流れる。ここまで盛り上がっているのに断るのは動画配信者として許されない。葵は力強く頷いて返事をした。

「分かったわ。受けてたつ!」

「よし、では最初の試練だ。このゾンビたちを倒してみろ!」

 魔王はそう言い残すと闇に溶けて消えてしまった。その後を追いかけるようにランベルトも姿を消す。そして大量のゾンビが部屋の中に入って来た。

「キャァ‼︎ ゾンビ!」

 セリナは悲鳴をあげると頭を押さえてしゃがみ込んでしまった。ゾンビの群れは止まる事なく続き、次々と部屋の中に入り込んできた。

 彼らの皮膚は青白く、ところどころが腐敗して剥がれていた。骨が露出している箇所もあり、鼻をつく悪臭が部屋の中に広がる。

 彼らの動きは一見ゆっくりしているように見えたが、その数の多さが圧倒的だった。無数のゾンビが足を引きずる音が部屋中に響き、床がミシミシと軋む音が聞こえる。彼らの口からは低い唸り声が漏れていた。

「こっ来ないで!」

 セリナは涙目になりながら叫ぶと、手を掲げ、高速で呪文を唱えた。

「光の守護者よ、闇を払い、我の前に舞い降りよ! 浄化の光で全てを照らし、穢れを焼き尽くせ! 聖なる光の力を持つ我の意思に応えよ!星の光、月の光、太陽の光、希望の光、宇宙の光、精霊の光よ、我が手に集え!」

 セリナの言葉は途切れる事なく続き、その声は次第に高まり、空間全体が響き渡るようだった。眩い光がセリナの手には溢れ出し、不思議な幾何学模様が足元に形成されていく。

「聖なる光よ、我が声に応え、今こそのその力を解き放て!」

 その光は純粋で暖かく、どんな闇も逃れることができないほど強烈なものだった。光は隅々まで行き渡り、部屋全体を明るく照らす。

 ゾンビたちはその光に触れた瞬間、苦しそうに呻き声を上げた。彼らの身体は次々と灰になって消えていく。


〈セリナちゃん強すぎ(笑〉
〈そういえば、最強の勇者だったなw〉
〈ホラーもので主人公最強って新しいなw〉
〈詠唱長すぎでしょw〉
〈うん、強すぎ! ゾンビが可哀想〉
〈これはもう敵に同情するレベルだな〉
〈目の前が真っ白になったな〉
〈さすが勇者。魔王とやり合うだけはある!〉
〈ここまで強いと爽快だな(笑〉


「流石セリナちゃん! もう大丈夫だよ」

「ほっ、本当ですか?」

 セリナは額の汗を拭いながら息を整えた。流石に魔力を使いすぎたのか、若干疲れ気味の表情をしている。

「大丈夫、セリナちゃん?」

「はぁ……はぁ……もう魔力がほとんどありません……」

 セリナが部屋を見渡していると、中央にある古い絨毯が動き出し、地下へ続く隠し階段が現れた。

「凄い、隠し扉だ!」


〈本当だ! ゲームみたい!〉
〈本物を見るのは初めてだな〉
〈この館地下もあるの? 広いね〉
〈まじかこの先に行くの?〉
〈またゾンビがいたらどうしよう?〉
〈頑張れ、2人ならいける!〉
〈この先に何が待ってるんだ?〉
〈なんだか葵ちゃんがセリナちゃんのお姉ちゃんに見えてきた(笑〉
〈セリナちゃんはおっちょこちょいで可愛い〉
〈葵ちゃん、セリナちゃんを守ってあげて~!〉


 葵は驚きの声をあげて慎重に階段を見つめた。だいぶ続いているのか、暗くて下の方が見えなかった。それでもここで引くわけには行かない。

「行ける? セリナちゃん?」

「はい、行きましょう!」

 葵はセリナの体調を心配しつつ、スマホのライトで足元を照らしながら地下の階段を進んでいった。カツン、カツン、と2人の足音だけが響いて反響する。

 階段を降りきると、そこは図書館のような場所だった。本棚には大量の本がしまってあり、中央にある木の机の上には、開きっぱなしの本が3冊置いてあった。

「何でしょうあれ本は?」

 セリナが興味深そうに本を見る。葵も横から覗いてみると、それぞれの本に問題が書かれていた。そして、内容を確認すると同時に、天井の壁が不気味な音を立てながら迫ってきた。
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