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第2章 海のダンジョン

12話

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「それじゃあ行くよ!」

 4人が波打ち際にならび、スタートの合図を待った。葵が持っていたスマホのストップウォッチが鳴り、全員が一斉に海に飛び込んだ。水しぶきが舞い上がり、それぞれが全力で泳ぎ始める。

 魔王は力強いクロールで、ランベルトは堅実なペースで、そして葵は驚異的な速さで水を切りながら進んでいた。

「まっ、待て! そんなに早く泳げるのか?」

 魔王は必死に食らいつこうとするが、葵のバタフライはさらにスピードを上げてその差を開いていく。

 ゴール地点に近づくと、葵がリードを保ったまま最後の力を振り絞って泳ぎ切り、最初にゴールにタッチした。

「くそ、また負けたか……」

「ただの人間にバルケリオス様が敗れるなんてありえない……」

 魔王とそのランベルトは悔しそうに息を切らしながら天を仰ぐ。


〈いい勝負だったね!〉
〈葵ちゃんすごいな!〉
〈さすがスポーツ万能な葵ちゃんだね!〉
〈魔王と部下もすげーな!〉
〈なんかもう普通の夏休みを満喫してる感じだね〉
〈あれ? ここってダンジョンの中だよね?〉
〈この4人仲良しだな~〉
〈あれ? そういえばセリナちゃんは?〉
〈セリナちゃんどこいった?〉
〈お~い、セリナちゃ~ん!〉


「あれ? セリナちゃんは?」

 ふと葵はセリナの姿が見当たらない事に気づいた。

「セリナちゃん! どこ!」

 葵は周囲を見渡しながら呼びかけた。しかし、返事はない。葵の胸に不安が広がり、すぐに方向転換してセリナを探し始めた。

「バルケリオス様、勇者が見当たらないとのことですが、どうしますか?」

「ふむ、奴は宿敵であるが、死なれたら動画的に後味が悪いからな。我らも探すぞ」

「…………分かりました、バルケリオス様が仰るのなら従います」

 ランベルトは少し納得のいかない表情をしていたが、魔王の命令となれば従わないといけない。

「魔王様! ランベルト! セリナちゃんが見当たらない!」

 葵が叫ぶと、2人はすぐに水中に潜って捜索を始めた。葵も焦る気持ちを抑え、もう一度深呼吸をして冷静に海の中を探し始めた。

 彼女の目は鋭く、何かを見つけた。セリナが必死に手を振っている姿が見えた。

(セリナちゃん!)

 葵は力強く泳ぎ、セリナに向かってまっすぐに進んだ。セリナの顔は苦しそうに強張り、空気を求めてもがいている。よく見ると右足が岩の隙間に挟まっていた。

(待っていてね、すぐにどかすから!)

 強い波が彼女を押し戻そうとする中、何とか自撮り棒を岩の隙間に差し込んで、テコの原理を利用した。

(お願い、動いて!)

 葵は全力で自撮り棒を押し下げた。海水がゴーグルの隙間から目に入り、視界がぼやける中、彼女は陸上部時代に培った持久力を信じてさらに力を入れた。

(あともう少し……)

 自撮り棒がしなり、少しずつ岩が動き始めたのを感じた。セリナの苦しそうな表情を見て、葵はさらに奮い立った。

(これでどうだ!)

 心の叫びと共に、岩が動いてセリナの足が解放された。

(もう少し耐えて!)

 葵はセリナの体をしっかりと抱き抱えると、自撮り棒を勢いよく伸ばして岩場に当てた。その反動で一気に上昇する。

「ぶはぁ!!!!」

 海面に出た葵は大きく息を吸い込んで肺の中に酸素を取り込んだ。

「バルケリオス様、いました」

「よし、我らも行くぞ」

 魔王とランベルトに支えられながら、葵はセリナを砂浜に連れて行った。

「セリナ! しっかりして!」

 葵が必死に名前を呼びかけるが、セリナは反応しなかった。彼女の顔色は青ざめ、息をしていないようだ。


〈えっ、嘘でしょ?〉
〈セリナちゃん返事をして!〉
〈これってまじ? やばくない⁉︎〉
〈セリナちゃん、無事でいて!〉
〈誰か助けてあげて!〉
〈今すぐ連絡を取って!〉
〈お願い、返事をして!〉

 
「やばい、息をしていない!」

 葵が焦りの声を上げ、すぐに人工呼吸を始めた。鼻をつまんで口を開き、深く息を吹き込む。その後、胸に手を当てて心臓マッサージを試みた。

「1、2、3、4、……」

 葵がカウントを続ける中、魔王が心配そうに見つめていた。時間が経つにつれて、葵の顔には焦りと絶望が浮かび始めた。

「セリナちゃん、お願い、目を覚まして!」

 葵は涙を浮かべながらもう一度人工呼吸を試みるが、セリナは反応しなかった。その時、スライムが柔らかい体を揺らしながら近づいてきた。

「えっ、どうしたの?」

 スライムは小さく分裂すると、セリナの口から体内に入り込んだ。

「ちょっと! 何をしているの⁉︎」

 葵は慌てて止めようとするが、魔王は冷静な声で葵を制した。

「待て、スライムの体はスポンジのように水をよく吸収する。おそらく奴はセリナの体内に溜まった水を出そうとしているんだ!」

 魔王の言う通り、スライムはセリナの体に溜まった水を吸収すると、ゆっくりと出てきた。そして体をひねって水を絞り出す。すると、セリナの顔色が少しずつ元に戻り、激しく咳き込みながら目を開けた。

「こほっ、こほっ!」

「せ、セリナ!」

 葵は安堵をの声を上げ、セリナをしっかりと抱きしめた。セリナはまだ混乱しているのか目をパチパチさせる。


【10000円】〈よかった!!!!!〉
【20000円】〈おぉ!!! 助かった!!!〉
【15000円】〈ナイススライム! よくやった!〉
【50000円】〈これは奇跡だ!〉
【30000円】〈やばい、感動で泣きそう!〉
【12000円】〈セリナちゃん、すごいよ!〉
【25000円】〈みんなの祈りが通じたんだ!〉
【18000円】〈本当に良かった!!〉
【22000円】〈スライム最高!!〉
【17000円】〈セリナちゃん、頑張ったね!〉
【35000円】〈ハッピーエンドだ!〉


「よかった~ 心配したんだよ!」

 葵は涙ぐんだ声で安堵のため息をつくと、セリナの背中に手を回し、強く抱きしめた。

「すみません……泳ぐのは昔から本当に苦手で……」

「じゃぁ、先に言ってよ! 本当に心配したんだから……」
 
 葵は少し怒りながらも、その表情にはセリナが無事であることの喜びに溢れていた。セリナもそんな葵の気持ちを感じとり、微笑みながら彼女の背中を優しく撫でた。
 
「ごめんなさい。もう二度とこんな心配はかけません」

 葵は深く息をはき、セリナの手を握りしめながら無言で頷いた。2人の間には言葉では言い表せない安心感が広がっていた。
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