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第2章 お付き合い編
15 騙されてもただでは転ばない クレア 後
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私は覚悟を決めて、アジトの扉をノックしました――
「こんにちはー」
「こんにちは、お嬢さん。どうされましたか?」
出てきたのは人好きのする顔をした詐欺師本人です。爽やかで感じがよく、女性が騙されるのも頷けます。
「知人を訪ねて来たのですが、道が分からなくて……。地図が雨でにじんで、ダメになってしまったのです……」
「それは大変でしたね。お嬢さんのような人を雨の中歩かせるなんて、罪作りな男もいたものですね」
「いえ、男性ではありません。従姉妹がこの辺りに越したと聞いて、お祝いに行くのです」
私が男性に会いに行くのかどうか、探りを入れられたのでしょうか? とりあえず否定しておきました。
「今、仕事の打ち合わせで取り込んでおりますが、すぐに片付きます。どうぞ、こちらで濡れた体を休めてください。打ち合わせが終わったら、そこまで私がご案内しますよ」
休ませてくれる上に、案内もしてくれるなんて、とても親切な人ですね。そのお仕事が詐欺師でなければですが。
私は次のターゲットに、ロックオンされたのでしょうか? 残念ですが、私にはリアム様がおりますので絆されませんよ?
通された部屋を結婚詐欺師の男が出て行きましたので、私もコッソリ抜け出します。
耳をそばだてると、詐欺師グループが女性と話す声が聞こえてきました。私は懐からあるものを取り出し、スイッチを入れます。
音声記録の魔道具です。映像も記録できればいいのですが、まだそこまで開発されていません。
世界は変われど、人が辿る道は大きくかけ離れないのかもしれません。
そこで、私はもう一つ別の魔道具を取り出し、起動しました。地球のインスタントカメラのような物です。
目の前の人物や風景を描写してくれる、『あなたがパトロン』という商品です。
発売当初は絵描きさんたちからの反発が強く、物議を呼んだ商品でした。
ですが、淡々と写実的に描く魔道具と、芸術家の作品では、まったく価値が異なるという見解が世論を占めるようになり、今では写真のような立場を確立しています。
向かいの部屋から、結婚詐欺師の男の声が聞こえてきました。
音声記録魔道具を手のひらに乗せ、『あなたがパトロン』をドアの隙間から部屋に入れます――
「道に迷った方がびしょ濡れで困っていたので、別の部屋で休んでもらいました」
「貴方は本当に優しい人ね……」
「ふん。もういいなら、話を続けようか」
一度しっかり写るか確認してみると、強面でいかにも“借金取りです”という男が二人、詐欺師と女性に詰め寄っていました。
画角はバッチリですね。
「で、あんたが借金を肩代わりしてくれるんだよな?」
「はい。ですから、この人には今後一切関わらないでください」
「ありがとう、マリア。これで僕たちは、憂いなく結婚できるね」
「いいのよ。互いに支え合っていこうって決めたんだから。――さあ、中をご確認ください」
証拠確保! 現場はしっかりと押さえさせていただきました! 私は手を合わせて願います。
『詐欺師グループが捕まりますように。被害に遭った方たちが、救われますように――』
「それじゃあ、お仕事の邪魔になるといけないから、私は帰るわね。また後で」
「ああ。本当に助かったよ、マリア」
詐欺師にお金を渡したマリアさんが、帰ってしまいます。私は、慌てて案内された部屋へと戻り、タイミングよく部屋を出たフリをしました。
「すみません。いただいたお茶で、体も充分温まりましたし、打ち合わせでお忙しいでしょうから、私はそろそろ出発します」
そう言いながら、私はそっとマリアさんに触れました。
「いえいえ、まだ髪も乾いていないじゃないですか」
「雨の中大変でしたね。彼は女性に優しい紳士です。安心して、ゆっくりされるといいですよ」
「はい。ありがとうございます」
マリアさんこそ優しい方です。婚約者が他の女性に優しくても、嫌な顔を見せません。早くここを出て、リアム様に証拠をお渡ししなければ……。
ところが、マリアさんはそのままアジトを出ていき、私は詐欺師とお茶をする羽目になっていました……。
この部屋からは分かりませんが、仲間の取り立て屋役の男二人もまだいるはずです。
どうやって、ここから逃げましょう……。ここまではうまくお芝居できていたのですが……。
「貴女のような方が、私の所に迷い込んでくれるなんて、夢のようです」
「はあ……。先ほどの女性は恋人では?」
「妹ですよ。事業の援助に来てくれたんです。先ほどは、その打ち合わせでお待たせしてしまいましたね」
よく回る舌です。息をするように嘘を吐ける人だから、詐欺師をしているのでしょうね。
「お名前を教えていただいても、よろしいですか?」
えっ、嫌です。詐欺師に教える名前など、持ち合わせておりません。
この人、自分が格好いいと思っているのでしょう。
前髪を掻きあげながら、チラチラと窓に映った自分を見ています。
自分のことが、大好きなのでしょうが気持ち悪いですね。
「えーと、まだ知り合ったばかりですし……」
「奥ゆかしい方ですね。貴女との出会いを、今日一日だけのものにしたくはないな……」
いや、私は金輪際、貴方に会いたくありませんよ。
どうかわしましょう。取りあえず、目的地は『天使のはしご』だと告げて、外に出ましょうか……。
「失礼する!」
「えっ!?」
目の錯覚でしょうか……。扉の向こうに、リアム様が見えます。
「なんですか、貴方は!? 他人の家に勝手に上がってくるなんて!」
「俺の連れを迎えに来た」
「はあぁぁ!? お前、男がいんのかよ! 無駄な時間を使わせやがって!」
うわあ。化けの皮が剥がれましたね。私はリアム様の所に駆け寄り、小さな声で伝えました。
「リアム様、この人は結婚詐欺師です。すでに証拠は掴みました。この家には少なくともあと二人、詐欺師の仲間がいます」
「なるほど。そういうことか。証拠はなにがある?」
「はい。音声記録と『あなたがパトロン』、被害者の方が誰かも知っています」
「充分だ」
「よかったです」
「お前! ここでなにをしていたんだ!!」
慌てふためく詐欺師を、リアム様が華麗な身のこなしで捕えます。
騒ぎを聞き、駆けつけた取り立て屋役の男たちも、あっと言う間にす巻きにされてしまいました。
屋内だから剣や魔法を使わないのでしょうか? そんな配慮ができる、リアム様が素敵です。
「取りあえず詰所まで行こうか。もちろんセルマもな?」
「はい」
最後の方、綺麗な眉を吊り上げたリアム様が少し怖いです。アジトの外に出ると、ずぶ濡れのカイさんが待っていてくれました。
「ニャ」
「この猫が、俺をここまで連れて来てくれた。大分、引っ掻かれたり、噛みつかれたりしたがな」
よく見ると、リアム様の長い綺麗な指に、引っ掻き傷や噛まれた痕がついていました。
リアム様を私のところに連れてくるため、カイさんが暴れて頑張ってくれたようです。
リアム様も、傷だらけにさせてごめんなさい。
「お二方とも、ありがとうございました」
「ああ」
「ニャア」
騎士団の詰所で、私は集めた証拠品を提出し、クレアさんのことをお話しました。
そして、『シルフの探し物用魔法糸』を取り出し、もう一人の被害者のお名前がマリアさんで、この糸でたどり着けることをご説明しました。
お借りしたタオルでカイさんの身体を拭きましたが、こんなに冷たくなってまでリアム様を迎えに行ってくれたことや、アジトの外でずっと待っていてくれたのかと思うと、胸が熱くなります。
すっかり日も沈み、遠慮して帰ろうとするカイさんをなんとか丸め込んで、リアム様とカイさんと一緒に、『天使のはしご』まで帰りました。
お二方にお夕飯を、たくさんごちそうしなくては!
「ところで、セルマ。俺に報告しないで、また事件に首を突っ込んだな?」
「はえ?」
「はえ? じゃない。それに、この野良猫は、放火魔を捕まえた時も一緒だったな?」
そう言えば、リアム様は『これから何かに首を突っ込む時は、必ず俺も一緒に行くから』と言っていました。
私は呆けて上の空でしたが……。
謝って本当のことをお伝えしたいのですが、神様のことを伝えずに、カイさんとの間柄は話せません……。
発売されることのない試作品を、カイさんと会話ができる理由にし続けられはしないのです。
それでも私は、大切に想うリアム様に、そして、約束をたがえず助けてくれたカイさんに、自分のことを話したいという気持ちが強くなっていました……。
私はお腹をくくり、今度ゆっくりお二方に、力のことを話すことに決めました。
「この方はカイさんと言います。この辺りの野良猫の親分さんです。リアム様とカイさんに、近いうちに聞いてほしいことがあります。少しだけ待っていてください」
「分かった」
「ニャ」
後日、いつもどおり任務終わりに『天使のはしご』に寄ったリアム様から、報告をいただきました。
「セルマ、あの捕まえた詐欺師グループだが、芋づる式に頭領を捕まえることができた。そいつがな、四十年前、バラ園管理人のおばあさんの旦那を殺した犯人だった」
「そんな……。てっきり、もう捕まえることは難しいのかと……」
「職務上詳細は言えないが、余罪を自白させたところ判明したんだ」
自白をどのようにしてさせたのかは、あえて聞きません。具合が悪くなりそうですからね。
今度バラ園に行く時には、おばあさんを安堵させられる報告ができてよかったです。
『シルフの探し物用魔法糸』で行方を追ったマリアさんには、無事、お金をお返しすることができました。
クレアさんのお金も書類が残っていたことから、アジトから押収した金品で取り戻すことができるみたいです。
書類はキチンと保管しておくことを、私も心がけましょう。
それよりも驚いたことがありました。クレアさんが事情を聞きに来た騎士様に一目惚れされ、現在猛アプローチを受けているそうです。
セクシー路線に変更したことで、騎士様の目に止まったのですね。詐欺師に引っ掛かったとしてもお金は戻り、踏み台にして綺麗になって、いい男性と巡り会えたなら結果よし。
クレアさんの努力に、無駄はなかった証です。
女性は愛するよりも、愛された方が幸せの場合もありますから、上手く行くといいですね。
「いらっしゃいませ」
今日も、魔法雑貨屋『天使のはしご』に、わけありっぽいお客さんがやって来ました――
「こんにちはー」
「こんにちは、お嬢さん。どうされましたか?」
出てきたのは人好きのする顔をした詐欺師本人です。爽やかで感じがよく、女性が騙されるのも頷けます。
「知人を訪ねて来たのですが、道が分からなくて……。地図が雨でにじんで、ダメになってしまったのです……」
「それは大変でしたね。お嬢さんのような人を雨の中歩かせるなんて、罪作りな男もいたものですね」
「いえ、男性ではありません。従姉妹がこの辺りに越したと聞いて、お祝いに行くのです」
私が男性に会いに行くのかどうか、探りを入れられたのでしょうか? とりあえず否定しておきました。
「今、仕事の打ち合わせで取り込んでおりますが、すぐに片付きます。どうぞ、こちらで濡れた体を休めてください。打ち合わせが終わったら、そこまで私がご案内しますよ」
休ませてくれる上に、案内もしてくれるなんて、とても親切な人ですね。そのお仕事が詐欺師でなければですが。
私は次のターゲットに、ロックオンされたのでしょうか? 残念ですが、私にはリアム様がおりますので絆されませんよ?
通された部屋を結婚詐欺師の男が出て行きましたので、私もコッソリ抜け出します。
耳をそばだてると、詐欺師グループが女性と話す声が聞こえてきました。私は懐からあるものを取り出し、スイッチを入れます。
音声記録の魔道具です。映像も記録できればいいのですが、まだそこまで開発されていません。
世界は変われど、人が辿る道は大きくかけ離れないのかもしれません。
そこで、私はもう一つ別の魔道具を取り出し、起動しました。地球のインスタントカメラのような物です。
目の前の人物や風景を描写してくれる、『あなたがパトロン』という商品です。
発売当初は絵描きさんたちからの反発が強く、物議を呼んだ商品でした。
ですが、淡々と写実的に描く魔道具と、芸術家の作品では、まったく価値が異なるという見解が世論を占めるようになり、今では写真のような立場を確立しています。
向かいの部屋から、結婚詐欺師の男の声が聞こえてきました。
音声記録魔道具を手のひらに乗せ、『あなたがパトロン』をドアの隙間から部屋に入れます――
「道に迷った方がびしょ濡れで困っていたので、別の部屋で休んでもらいました」
「貴方は本当に優しい人ね……」
「ふん。もういいなら、話を続けようか」
一度しっかり写るか確認してみると、強面でいかにも“借金取りです”という男が二人、詐欺師と女性に詰め寄っていました。
画角はバッチリですね。
「で、あんたが借金を肩代わりしてくれるんだよな?」
「はい。ですから、この人には今後一切関わらないでください」
「ありがとう、マリア。これで僕たちは、憂いなく結婚できるね」
「いいのよ。互いに支え合っていこうって決めたんだから。――さあ、中をご確認ください」
証拠確保! 現場はしっかりと押さえさせていただきました! 私は手を合わせて願います。
『詐欺師グループが捕まりますように。被害に遭った方たちが、救われますように――』
「それじゃあ、お仕事の邪魔になるといけないから、私は帰るわね。また後で」
「ああ。本当に助かったよ、マリア」
詐欺師にお金を渡したマリアさんが、帰ってしまいます。私は、慌てて案内された部屋へと戻り、タイミングよく部屋を出たフリをしました。
「すみません。いただいたお茶で、体も充分温まりましたし、打ち合わせでお忙しいでしょうから、私はそろそろ出発します」
そう言いながら、私はそっとマリアさんに触れました。
「いえいえ、まだ髪も乾いていないじゃないですか」
「雨の中大変でしたね。彼は女性に優しい紳士です。安心して、ゆっくりされるといいですよ」
「はい。ありがとうございます」
マリアさんこそ優しい方です。婚約者が他の女性に優しくても、嫌な顔を見せません。早くここを出て、リアム様に証拠をお渡ししなければ……。
ところが、マリアさんはそのままアジトを出ていき、私は詐欺師とお茶をする羽目になっていました……。
この部屋からは分かりませんが、仲間の取り立て屋役の男二人もまだいるはずです。
どうやって、ここから逃げましょう……。ここまではうまくお芝居できていたのですが……。
「貴女のような方が、私の所に迷い込んでくれるなんて、夢のようです」
「はあ……。先ほどの女性は恋人では?」
「妹ですよ。事業の援助に来てくれたんです。先ほどは、その打ち合わせでお待たせしてしまいましたね」
よく回る舌です。息をするように嘘を吐ける人だから、詐欺師をしているのでしょうね。
「お名前を教えていただいても、よろしいですか?」
えっ、嫌です。詐欺師に教える名前など、持ち合わせておりません。
この人、自分が格好いいと思っているのでしょう。
前髪を掻きあげながら、チラチラと窓に映った自分を見ています。
自分のことが、大好きなのでしょうが気持ち悪いですね。
「えーと、まだ知り合ったばかりですし……」
「奥ゆかしい方ですね。貴女との出会いを、今日一日だけのものにしたくはないな……」
いや、私は金輪際、貴方に会いたくありませんよ。
どうかわしましょう。取りあえず、目的地は『天使のはしご』だと告げて、外に出ましょうか……。
「失礼する!」
「えっ!?」
目の錯覚でしょうか……。扉の向こうに、リアム様が見えます。
「なんですか、貴方は!? 他人の家に勝手に上がってくるなんて!」
「俺の連れを迎えに来た」
「はあぁぁ!? お前、男がいんのかよ! 無駄な時間を使わせやがって!」
うわあ。化けの皮が剥がれましたね。私はリアム様の所に駆け寄り、小さな声で伝えました。
「リアム様、この人は結婚詐欺師です。すでに証拠は掴みました。この家には少なくともあと二人、詐欺師の仲間がいます」
「なるほど。そういうことか。証拠はなにがある?」
「はい。音声記録と『あなたがパトロン』、被害者の方が誰かも知っています」
「充分だ」
「よかったです」
「お前! ここでなにをしていたんだ!!」
慌てふためく詐欺師を、リアム様が華麗な身のこなしで捕えます。
騒ぎを聞き、駆けつけた取り立て屋役の男たちも、あっと言う間にす巻きにされてしまいました。
屋内だから剣や魔法を使わないのでしょうか? そんな配慮ができる、リアム様が素敵です。
「取りあえず詰所まで行こうか。もちろんセルマもな?」
「はい」
最後の方、綺麗な眉を吊り上げたリアム様が少し怖いです。アジトの外に出ると、ずぶ濡れのカイさんが待っていてくれました。
「ニャ」
「この猫が、俺をここまで連れて来てくれた。大分、引っ掻かれたり、噛みつかれたりしたがな」
よく見ると、リアム様の長い綺麗な指に、引っ掻き傷や噛まれた痕がついていました。
リアム様を私のところに連れてくるため、カイさんが暴れて頑張ってくれたようです。
リアム様も、傷だらけにさせてごめんなさい。
「お二方とも、ありがとうございました」
「ああ」
「ニャア」
騎士団の詰所で、私は集めた証拠品を提出し、クレアさんのことをお話しました。
そして、『シルフの探し物用魔法糸』を取り出し、もう一人の被害者のお名前がマリアさんで、この糸でたどり着けることをご説明しました。
お借りしたタオルでカイさんの身体を拭きましたが、こんなに冷たくなってまでリアム様を迎えに行ってくれたことや、アジトの外でずっと待っていてくれたのかと思うと、胸が熱くなります。
すっかり日も沈み、遠慮して帰ろうとするカイさんをなんとか丸め込んで、リアム様とカイさんと一緒に、『天使のはしご』まで帰りました。
お二方にお夕飯を、たくさんごちそうしなくては!
「ところで、セルマ。俺に報告しないで、また事件に首を突っ込んだな?」
「はえ?」
「はえ? じゃない。それに、この野良猫は、放火魔を捕まえた時も一緒だったな?」
そう言えば、リアム様は『これから何かに首を突っ込む時は、必ず俺も一緒に行くから』と言っていました。
私は呆けて上の空でしたが……。
謝って本当のことをお伝えしたいのですが、神様のことを伝えずに、カイさんとの間柄は話せません……。
発売されることのない試作品を、カイさんと会話ができる理由にし続けられはしないのです。
それでも私は、大切に想うリアム様に、そして、約束をたがえず助けてくれたカイさんに、自分のことを話したいという気持ちが強くなっていました……。
私はお腹をくくり、今度ゆっくりお二方に、力のことを話すことに決めました。
「この方はカイさんと言います。この辺りの野良猫の親分さんです。リアム様とカイさんに、近いうちに聞いてほしいことがあります。少しだけ待っていてください」
「分かった」
「ニャ」
後日、いつもどおり任務終わりに『天使のはしご』に寄ったリアム様から、報告をいただきました。
「セルマ、あの捕まえた詐欺師グループだが、芋づる式に頭領を捕まえることができた。そいつがな、四十年前、バラ園管理人のおばあさんの旦那を殺した犯人だった」
「そんな……。てっきり、もう捕まえることは難しいのかと……」
「職務上詳細は言えないが、余罪を自白させたところ判明したんだ」
自白をどのようにしてさせたのかは、あえて聞きません。具合が悪くなりそうですからね。
今度バラ園に行く時には、おばあさんを安堵させられる報告ができてよかったです。
『シルフの探し物用魔法糸』で行方を追ったマリアさんには、無事、お金をお返しすることができました。
クレアさんのお金も書類が残っていたことから、アジトから押収した金品で取り戻すことができるみたいです。
書類はキチンと保管しておくことを、私も心がけましょう。
それよりも驚いたことがありました。クレアさんが事情を聞きに来た騎士様に一目惚れされ、現在猛アプローチを受けているそうです。
セクシー路線に変更したことで、騎士様の目に止まったのですね。詐欺師に引っ掛かったとしてもお金は戻り、踏み台にして綺麗になって、いい男性と巡り会えたなら結果よし。
クレアさんの努力に、無駄はなかった証です。
女性は愛するよりも、愛された方が幸せの場合もありますから、上手く行くといいですね。
「いらっしゃいませ」
今日も、魔法雑貨屋『天使のはしご』に、わけありっぽいお客さんがやって来ました――
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