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第2章 お付き合い編
14 騙されてもただでは転ばない クレア 前
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雨模様が続き、人々が青空を恋しく思う時期がやって来ました。
王都にある魔法雑貨屋『天使のはしご』の中は、いつも以上に時間の流れがゆっくりと感じられます。
「こんにちはー。今日分の配達でーす」
「配達員さん、いつもお世話さまです」
お店へ陳列する商品などが届きました。早速、納品書と荷物を確認しましょう。
「あっ……」
やられました……。これも私にとってはあるあるなのですが、他所様に配達される荷物が混ざって配達されていました。
住所を見るとすぐ近くですし、重い荷物でもありません。相手の方は、荷物が届くのを待っているかもしれません。
体力がおじいさん以下の私でも、配達女子になれそうです。
外を見ると、雨も小休止しています。私は、誤配された荷物を持って、出かけることにしました――
「こんにちは。荷物を届けに来ました」
「ええぇ? 貴女が?」
「はい。家に間違って配達員さんが置いていったので、ご近所でしたから直接お持ちしました」
配達先の家から出てきたのは、若い男性です。
「あ、そりゃどうも」
「ねえ、だぁれー?」
「姉貴……、そんな恰好で出てくんなよ」
お姉さんが出てきました。……。とても扇情的なスケスケベビードール姿です。これは……、見てはいけないものではないでしょうか?
「あら、かわいい子ね。あんたの彼女?」
「違うって。わざわざ、間違って配達された荷物を届けてくれたんだよ。すいません、見苦しいものをお見せしてしまって」
「はい? どこに見苦しいモノがあんのよ? ちょっと! わざわざ荷物を届けてくれたのに、おもてなしもしてないなんて! さあさあ、中に入って。丁度、いただき物のケーキがあるのよ」
お姉さんにグイグイ背中を押され、私はお使いのお駄賃でケーキをごちそうになっていました。
「一緒に座んなくていいから、とにかく着替えてこいよ」
「はぁーい」
セクシーなお姿で一緒にケーキを食べようとするお姉さんに、弟さんが待ったをかけました。
目のやり場に困っていたので助かります。
「すいません。強引で勝手で、恥じらいのない姉で。あれで以前は、しっかり者で真面目ないい姉だったんですよ」
「とても親切なお姉さんだと思いますよ。でも、『以前』とはどういうことですか?」
「姉は……、変わってしまったんです」
弟さんの目は、どこか怒りや悔しさを含んでいました。
「変わることとなった原因があったのですか?」
「三ヶ月前、姉は結婚詐欺にあったんです……。三十前にどうしても結婚したいと、内気だった自分を変え積極的に婚活し、あの男と付き合いだしました……」
お姉さんは勇気を出して出会いを掴もうと、努力されたのですね。それなのに詐欺師に引っかかってしまうなんて、ひどい話です。
「思い返せば、はじめから親の背負った借金があるとか、事業で負債を抱えたとか、胡散臭い奴だったらしいのに……。俺が話を聞いた時には、すでに姉は……、ずっと働いて貯めてきた金もすべて渡し、そいつは消えた後でした……」
「犯人を捕まえることはできないのでしょうか?」
弟さんはカブリを振りました。
「巧妙な手口なんです。本当に借金取りが来て姉が金を渡したり、従業員と名乗る奴等が給料として金を受け取っていたり……。たった半年で、一度しか顔を会わせたことのない奴等に、次々と金を渡していましたから手がかりもなくて……」
詐欺師たちはグループで動いていたけれど、結婚詐欺師の顔しか覚えていないと……。
どの世界でも、女性が働くことは難しいです。出産するのは女性ですから、ブランクを避けることはできません。
お姉さんが将来のことを考え、貯めてきたお金を騙しとるなんて……。お姉さんの心も心配です……。
そこに、着替えを終えたお姉さんがやって来ました。やはり、豊満なボディラインを惜しげもなく強調した、セクシーないでたちです。胸がこぼれ落ちそうになっていますよ?
「もういいのよ、その話は……」
「姉貴……」
「ごめんね。しみったれた話を聞かせちゃって。結婚すると信じこんでたから仕事も辞めちゃったし、実家暮らしで貯め込んだお金もなくなっちゃったけどね。命を取られたわけじゃないからさ、なんとかなるよ」
詐欺師のことを信じ切っていたのですね……。計算しては失礼ですが、実家暮らしで大人なお姉さんがずっと働いて貯めたお金なら、老後に必要な資金くらいの金額が貯まっていたのでは……。
「ま、好みだっていうから地味だった服も全部買い換えて、お酒だって飲めるようになったけど、余計なものを覚えてしまったかもね」
「お金を渡した証拠はありますか?」
「ええ。借金返済時や、給料受け取りのサインなんかの書類は残っているけど……。でも、相手に逃げられたら取り返しようもないし……」
それなら、犯人さえ捕まえることができれば、お金が戻ってくる可能性はありますね。
「私は、すぐそこで魔法雑貨屋をしているセルマと申します。少しでも情報になるようなことがないか、気をつけておきますね」
「私はクレアよ。愚弟はグレン。セルマちゃん、ありがとう。よろしくお願いね」
「はい。クレアさん、グレンさん、ケーキごちそうさまでした。お店もありますし、そろそろお暇します」
お店の中で『お願い』をしてみようか帰りながら考えていると、野良猫さんが歩いてきました。
そうです! あの放火魔を捕まえた時のように、野良猫さんたちなら犯人を知っているかもしれません!
私は可哀想な人と思われないよう、小さな声で野良猫さんに話しかけました。
「すみません。カイさんに伝えてください。『この辺りに、詐欺師グループがいたら教えてください』と」
「ニャーン」
その日の晩、カイさんが『天使のはしご』に来てくれました。
『久しぶりだな。隊長とあんたの噂は野良猫の間でも飛び交っていて、大変な騒ぎになってるぞ。堅物隊長が女にいれ込んでるってさ』
「それは……。お恥ずかしいです……」
『ま、仲良くやってくれ。それで、詐欺師のグループだったな? この辺りを島にして動いているグループがいたぞ』
猫さんたちの目はどこにだってあって、なんでもお見通しですね。悪いことはできません。
でも、クレアさんと詐欺師を会わせ、確認をとってもらうわけにもいきませんね……。どうやって犯人を捕まえましょう……。
「その詐欺師たちは、他になにか悪いことをしたりしていませんか?」
『普通に盗みもしているぞ。張り込みさえすれば犯行現場に遭遇するだろうが、また隊長に俺のことを言い訳するのも大変なんだろう?』
さすが野良猫の親分をしているカイさんです。私の事情も察してくれるのですね。猫の上に立つ者は、他者の気持ちを把握する能力にも優れているのでしょう。
リアム様に、またカイさんから犯罪者がいると教えてもらったと言うのも、きっと怪しまれてしまいます。せめて私自身で証拠を掴んでから協力をお願いしないといけませんね。
隠し事って、本当に苦しいです……。
『あんたの力がなんなのかはよく分からないが、その力が使えるなら使えばいいんじゃないか?』
「そうですよね!」
カイさんに詐欺師グループのメンバーを教えてもらって、被害に遭いそうな人を救うために願う! 私がやるしかありません!
『昼日中、堂々と奴等は活動している。アジトは転々としているから動くならすぐだ。明日の昼に迎えに来る。早めに昼飯をとっておけ』
「はい! よろしくお願いします!」
翌日、お昼丁度にカイさんが『天使のはしご』に迎えに来てくれました。生憎、ドシャ降りの雨です。
『仲間の情報だと、今も女が騙されているらしい。行くぞ』
「はい!」
カイさんに案内され、街の中を歩いて行きます。私の先を歩くカイさんは、毛がペシャンコになり寒そうです。
『抱っこして行きませんか?』と提案しましたが、『親分が人間に抱っこなんかされてたら、猫中の笑い者になるだろう!』と、一喝されてしまいました。
「体や足の裏は冷たくありませんか?」
『冷たいに決まってる。足の裏は舐めれば治るけどな』
「これが終わったら、お店で体をお拭きしますね」
案内された場所は、雨でなければ普通に人通りが多い所にある一軒家でした。
『あいつらが詐欺グループのメンバーだ。一人が婚約者役で、残りの二人が取り立て屋役だ。今度の被害者はあの女だな』
「どうやって捕まえましょう? 女性がお金を騙しとられる前になんとかしないと……」
『知らん。猫に聞くな。あんたが偶然目撃したことにして、隊長を呼んだ方がよくないか?』
おっしゃるとおりですね。でも、女性を助けるためなら願いは届くはずですし、万が一のことを考えて、色々と準備はして来ました。今もあの女性はたった一人で、詐欺師グループと対峙しているのです……。
自分の保身よりも目の前の人を助けなければ、なんのため神様からいただいた力でしょうか!
「カイさん。骨は拾ってください!」
『おいっ!』
私は覚悟を決めて、アジトの扉をノックしました――
王都にある魔法雑貨屋『天使のはしご』の中は、いつも以上に時間の流れがゆっくりと感じられます。
「こんにちはー。今日分の配達でーす」
「配達員さん、いつもお世話さまです」
お店へ陳列する商品などが届きました。早速、納品書と荷物を確認しましょう。
「あっ……」
やられました……。これも私にとってはあるあるなのですが、他所様に配達される荷物が混ざって配達されていました。
住所を見るとすぐ近くですし、重い荷物でもありません。相手の方は、荷物が届くのを待っているかもしれません。
体力がおじいさん以下の私でも、配達女子になれそうです。
外を見ると、雨も小休止しています。私は、誤配された荷物を持って、出かけることにしました――
「こんにちは。荷物を届けに来ました」
「ええぇ? 貴女が?」
「はい。家に間違って配達員さんが置いていったので、ご近所でしたから直接お持ちしました」
配達先の家から出てきたのは、若い男性です。
「あ、そりゃどうも」
「ねえ、だぁれー?」
「姉貴……、そんな恰好で出てくんなよ」
お姉さんが出てきました。……。とても扇情的なスケスケベビードール姿です。これは……、見てはいけないものではないでしょうか?
「あら、かわいい子ね。あんたの彼女?」
「違うって。わざわざ、間違って配達された荷物を届けてくれたんだよ。すいません、見苦しいものをお見せしてしまって」
「はい? どこに見苦しいモノがあんのよ? ちょっと! わざわざ荷物を届けてくれたのに、おもてなしもしてないなんて! さあさあ、中に入って。丁度、いただき物のケーキがあるのよ」
お姉さんにグイグイ背中を押され、私はお使いのお駄賃でケーキをごちそうになっていました。
「一緒に座んなくていいから、とにかく着替えてこいよ」
「はぁーい」
セクシーなお姿で一緒にケーキを食べようとするお姉さんに、弟さんが待ったをかけました。
目のやり場に困っていたので助かります。
「すいません。強引で勝手で、恥じらいのない姉で。あれで以前は、しっかり者で真面目ないい姉だったんですよ」
「とても親切なお姉さんだと思いますよ。でも、『以前』とはどういうことですか?」
「姉は……、変わってしまったんです」
弟さんの目は、どこか怒りや悔しさを含んでいました。
「変わることとなった原因があったのですか?」
「三ヶ月前、姉は結婚詐欺にあったんです……。三十前にどうしても結婚したいと、内気だった自分を変え積極的に婚活し、あの男と付き合いだしました……」
お姉さんは勇気を出して出会いを掴もうと、努力されたのですね。それなのに詐欺師に引っかかってしまうなんて、ひどい話です。
「思い返せば、はじめから親の背負った借金があるとか、事業で負債を抱えたとか、胡散臭い奴だったらしいのに……。俺が話を聞いた時には、すでに姉は……、ずっと働いて貯めてきた金もすべて渡し、そいつは消えた後でした……」
「犯人を捕まえることはできないのでしょうか?」
弟さんはカブリを振りました。
「巧妙な手口なんです。本当に借金取りが来て姉が金を渡したり、従業員と名乗る奴等が給料として金を受け取っていたり……。たった半年で、一度しか顔を会わせたことのない奴等に、次々と金を渡していましたから手がかりもなくて……」
詐欺師たちはグループで動いていたけれど、結婚詐欺師の顔しか覚えていないと……。
どの世界でも、女性が働くことは難しいです。出産するのは女性ですから、ブランクを避けることはできません。
お姉さんが将来のことを考え、貯めてきたお金を騙しとるなんて……。お姉さんの心も心配です……。
そこに、着替えを終えたお姉さんがやって来ました。やはり、豊満なボディラインを惜しげもなく強調した、セクシーないでたちです。胸がこぼれ落ちそうになっていますよ?
「もういいのよ、その話は……」
「姉貴……」
「ごめんね。しみったれた話を聞かせちゃって。結婚すると信じこんでたから仕事も辞めちゃったし、実家暮らしで貯め込んだお金もなくなっちゃったけどね。命を取られたわけじゃないからさ、なんとかなるよ」
詐欺師のことを信じ切っていたのですね……。計算しては失礼ですが、実家暮らしで大人なお姉さんがずっと働いて貯めたお金なら、老後に必要な資金くらいの金額が貯まっていたのでは……。
「ま、好みだっていうから地味だった服も全部買い換えて、お酒だって飲めるようになったけど、余計なものを覚えてしまったかもね」
「お金を渡した証拠はありますか?」
「ええ。借金返済時や、給料受け取りのサインなんかの書類は残っているけど……。でも、相手に逃げられたら取り返しようもないし……」
それなら、犯人さえ捕まえることができれば、お金が戻ってくる可能性はありますね。
「私は、すぐそこで魔法雑貨屋をしているセルマと申します。少しでも情報になるようなことがないか、気をつけておきますね」
「私はクレアよ。愚弟はグレン。セルマちゃん、ありがとう。よろしくお願いね」
「はい。クレアさん、グレンさん、ケーキごちそうさまでした。お店もありますし、そろそろお暇します」
お店の中で『お願い』をしてみようか帰りながら考えていると、野良猫さんが歩いてきました。
そうです! あの放火魔を捕まえた時のように、野良猫さんたちなら犯人を知っているかもしれません!
私は可哀想な人と思われないよう、小さな声で野良猫さんに話しかけました。
「すみません。カイさんに伝えてください。『この辺りに、詐欺師グループがいたら教えてください』と」
「ニャーン」
その日の晩、カイさんが『天使のはしご』に来てくれました。
『久しぶりだな。隊長とあんたの噂は野良猫の間でも飛び交っていて、大変な騒ぎになってるぞ。堅物隊長が女にいれ込んでるってさ』
「それは……。お恥ずかしいです……」
『ま、仲良くやってくれ。それで、詐欺師のグループだったな? この辺りを島にして動いているグループがいたぞ』
猫さんたちの目はどこにだってあって、なんでもお見通しですね。悪いことはできません。
でも、クレアさんと詐欺師を会わせ、確認をとってもらうわけにもいきませんね……。どうやって犯人を捕まえましょう……。
「その詐欺師たちは、他になにか悪いことをしたりしていませんか?」
『普通に盗みもしているぞ。張り込みさえすれば犯行現場に遭遇するだろうが、また隊長に俺のことを言い訳するのも大変なんだろう?』
さすが野良猫の親分をしているカイさんです。私の事情も察してくれるのですね。猫の上に立つ者は、他者の気持ちを把握する能力にも優れているのでしょう。
リアム様に、またカイさんから犯罪者がいると教えてもらったと言うのも、きっと怪しまれてしまいます。せめて私自身で証拠を掴んでから協力をお願いしないといけませんね。
隠し事って、本当に苦しいです……。
『あんたの力がなんなのかはよく分からないが、その力が使えるなら使えばいいんじゃないか?』
「そうですよね!」
カイさんに詐欺師グループのメンバーを教えてもらって、被害に遭いそうな人を救うために願う! 私がやるしかありません!
『昼日中、堂々と奴等は活動している。アジトは転々としているから動くならすぐだ。明日の昼に迎えに来る。早めに昼飯をとっておけ』
「はい! よろしくお願いします!」
翌日、お昼丁度にカイさんが『天使のはしご』に迎えに来てくれました。生憎、ドシャ降りの雨です。
『仲間の情報だと、今も女が騙されているらしい。行くぞ』
「はい!」
カイさんに案内され、街の中を歩いて行きます。私の先を歩くカイさんは、毛がペシャンコになり寒そうです。
『抱っこして行きませんか?』と提案しましたが、『親分が人間に抱っこなんかされてたら、猫中の笑い者になるだろう!』と、一喝されてしまいました。
「体や足の裏は冷たくありませんか?」
『冷たいに決まってる。足の裏は舐めれば治るけどな』
「これが終わったら、お店で体をお拭きしますね」
案内された場所は、雨でなければ普通に人通りが多い所にある一軒家でした。
『あいつらが詐欺グループのメンバーだ。一人が婚約者役で、残りの二人が取り立て屋役だ。今度の被害者はあの女だな』
「どうやって捕まえましょう? 女性がお金を騙しとられる前になんとかしないと……」
『知らん。猫に聞くな。あんたが偶然目撃したことにして、隊長を呼んだ方がよくないか?』
おっしゃるとおりですね。でも、女性を助けるためなら願いは届くはずですし、万が一のことを考えて、色々と準備はして来ました。今もあの女性はたった一人で、詐欺師グループと対峙しているのです……。
自分の保身よりも目の前の人を助けなければ、なんのため神様からいただいた力でしょうか!
「カイさん。骨は拾ってください!」
『おいっ!』
私は覚悟を決めて、アジトの扉をノックしました――
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