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33 皇位継承権の行方
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皇帝レオナルド様と皇位継承権第一位のジェラルド様、第二位のユリアン様、そして第三位のハロルド様が一堂に会し、皇太子宣言に向けての協議がなされている。
(第二王子係の諜報として、初の大任だわ。緊張する……)
私は、集音魔法とそれを他人に届ける拡散魔法の技術を買われ、今回只一人この協議の場への潜入を任ぜられていた。
ハロルド様に自供してもらい、万が一の事があれば即、課の強者たちがここに押し入る手筈だ。
今のユリアン様は身内だけだからなのか、それともお考えが定まったからなのか、あのマスカレードマスクを外しこの場に臨んでいらっしゃる。
先日執務室では父親としての陛下の表情を見る事が出来たが、今日は為政者として威厳ある面持ちの現皇帝レオナルド様を中心に、いつもと変わらぬジェラルド様(穏やかな時)と、そっくりだがより温かみもあり、尚且つ精悍なお顔のユリアン様(私基準)、そして、不機嫌さを隠そうともしないハロルド様が四方に座している……。
四者四竦みの中、ハロルド様が口火を切った。
「不本意です。私はずっと、兄上の子が皇太子となることを切に願っていました。なぜ、こんな協議の場が設けられたのでしょう? 私なら、兄上に心労を掛けることなどありませんでした」
「いつもありがとう、ハロルド。そなたの気持ちは痛いほど伝わって来ていたよ」
「私の想い、兄上には全く伝わっておりません。私は兄上と違って、今の妻一人を大切にする気持ちなど毛頭ありません。このレーヴァンダール帝国と兄上のためなら、兄上から私、私から次の男児へと皇位を継承するため、もう一人妻を娶り男児を産ませても良いとさえ考え、この場に参りました」
「ハロルド……」
「そう。ならいっそ、私が皇太子になろうとしておりました!」
悔しそうに唇を噛みしめ、ハロルド様は天を見上げ叫んだ。
そこにジェラルド様が、私に言い放つような嫌味な口調でハロルド様に言い放つ。
「叔父上……。父上を敬愛するのは結構ですが、ご自身がなされた事を父上に話せるのですか? 罪人のボルダンが領地で狩りを開催した時、参加を渋る貴族を取りまとめ、私が参加するよう仕向けましたね? そして、私がいつもどおり欠席した際には、代理にユリアンを立てるよう貴族連中を先導したとか」
たまらずジェラルド様が段取りを忘れ、ハロルド様に詰め寄ってしまった。
「ふん。私はただ、傾いた一貴族を憂いただけ。懸命に領地を盛り立てようとするボルダン家の力になりたかっただけだ。まさかボルダンが、実の甥と公爵令嬢の暗殺を企てていたとは思いもよらなかったがな」
ハロルド様も皮肉たっぷりに応戦する。まあ、甥の暗殺に加担したなんて、素直に認めるはずがない。
「しかし、罪を潔く認めます。ボルダンがどこまでするかは関知していませんでしたが、毒物入手の口利きをし、最悪実の甥が亡き者となっても構わないと思っておりました。クラウスティン家のご令嬢まで巻き込む事になるとは……。私は最早、人の心を無くしているのです……」
(はい!? 素直に認め過ぎじゃないの!!)
あっさり認めたハロルド様に私や双子皇子が度胆を抜かれる中、一人落ち着いた様子の陛下がハロルド様にお声を掛ける。
「違う。お前は優しいからこそ、この帝国の行く末を憂い、一人で苦しみ、私が決断出来なかった事を背負おうとしたんだろう?」
静かに穏やかに、レオナルド様がハロルド様に歩み寄る。
(何だ、何が起きているの?)
「兄上はお一人で抱え過ぎです。なぜ、甥たちの真実を話してくれなかったのですか……。私が兄上を裏切ることなど絶対ないのに……」
「お前を巻き込みたくなかったのだよ」
「はあ。――同じ顔をしながらも、片やヒョロヒョロの甥に片や偏屈仮面の甥か……」
ハロルド様は悲痛な表情で、ジェラルド様とユリアン様を交互に見つめる。少し含みがあるのは、まだ感情の切り替えが出来ていないからだろう。
「全ては私の犯した間違いだよ。だが、それで良かったと思っている。我が子を守るためだったが、お陰で私は我が子の誕生にも妻の臨終にも立ち会えた」
「兄上……。そんな兄上だからこそ、私は……」
言葉に詰まったハロルド様は、陛下の方に差し出した手を力なくガクリと下ろした。だが、その手をレオナルド様がしっかりと握りしめる。
「ハロルド。ローバンダイン公爵の爵位を返上しなさい。娘はすでに嫁いでいたな? ――妻とは離縁し、実家の侯爵家に帰すと良い。それだけはお前に償って貰う。そして私は皇子に帝位を譲り、そなたと共に隠居し遠くの地で生きる。私もお前も、そこで罪を償って生きるのだ」
「陛下……。はい、かしこまりました……」
何となく分かった。先代が果断な御方で狷介だったからこそ、陛下とハロルド様の絆は強固になったのだ。そして、そんなお二人を見ていたジェラルド様とユリアン様も……すくすくブラコンに育ったと……。
(くっ! このブラコン仲良し一家めぇ!!)
そう思いながら、私はそっと涙を拭う。皇家の絆を見せていただいた。自分を犠牲にしてでも護りたいモノがこの御方たちにはあったのだ。
「兄上。父上と叔父上の罪は、これ以上問えませんね」
「そうだね。父上は帝国法に反したわけではない。私を長子とし、ユリアンを次子としたことは法に則っている」
「叔父上は、ただ没落間際の伯爵家を盛り立てようとしただけのようですしね。被害を受けたモニカも叔父上の爵位返上で許してくれると思うが、どうかな?」
突然名前を出され驚いたが、ユリアン様の耳元に私の答えを魔法で風に乗せ届けた。
『はい。ご随意に』
同じお顔のジェラルド様とユリアン様が、陛下とハロルド様に微笑む。
「実は、私も罪を犯していました。本当は、身体は最近調子が良いのです。ユリアンは気づいていたかもしれないね。かのモニカ・クラウスティンに構っているうちに、発熱も嘔吐も咳き込むこともなくなっていたんだよ。皆が過保護にしてくれ、自分もそれに甘えていただけで、身体は充分回復していたんだろうね」
「ジェラルド!」
「兄上! よかった!」
レオナルド様とユリアン様が涙ぐむ。ハロルド様だけはジェラルド様をねめつけているが……。この二人、似ているが故に相性が悪そうだ。
「であれば、なんら問題なく帝国法どおりジェラルドが皇太子か」
「モニカ嬢には、私からも諸々の謝意を伝えねばなりませんね」
「さすが私のモニカです! これからも沢山ご褒美をあげないと!」
「あっ、あの……」
皆が大喜びの中、一人だけドン引いた様子のジェラルド様。
「ただ、私は幼い頃からずっと部屋で過ごしたためか、本を読んだり絵を描いたりする事が公務より好きなのです。自賛で恥ずかしいのですが、絵などは傑出した作品も多く――」
「こんな日が来るとは……」
「おめでとうございます、兄上」
「あ、兄上、モニカは唯一無二の愛する人ですが、これからも変わりなく兄上をお支えしますのでご心配なく!」
(ユリアン様ったら、陛下やハロルド様の前で愛する人だなんてぇっ!)
「――それに、最近調子が良いことに気がついただけで、病が根治したわけでは……。なにより、女性に興味を持てないのですが……。おい、聞けよ……」
――ジェラルドの呟きなど、浮かれた人々には聞こえない。この協議の場に居る者は勿論、モニカの魔法で内容を聞いていた皇子課の職員たちも、次の皇太子誕生に安堵し大喜びしている――
「これで歪みが解消し、当たり前の息子たちの姿を見られる……」
「罪を償うと言っても、兄上と隠居生活……。胸が弾みます」
「兄上の身体が良いのであれば、私は愛するモニカと……」
(『私は愛するモニカと……』ってユリアン様! どうしよう。ジェラルド様のお身体が大丈夫なら、もうユリアン様は火種を作っても良いのかな? って事は、私はユリアン様と公にお付き合いしてもいいって事!?)
「だから、私自身の気持ちは? 本音で話し合いをするって言っていたのに……」
当のモニカもユリアンの独り言に乙女心が爆発し、心ここにあらず。誰もジェラルドの想いなど聞いていなかった――
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私は、集音魔法とそれを他人に届ける拡散魔法の技術を買われ、今回只一人この協議の場への潜入を任ぜられていた。
ハロルド様に自供してもらい、万が一の事があれば即、課の強者たちがここに押し入る手筈だ。
今のユリアン様は身内だけだからなのか、それともお考えが定まったからなのか、あのマスカレードマスクを外しこの場に臨んでいらっしゃる。
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四者四竦みの中、ハロルド様が口火を切った。
「不本意です。私はずっと、兄上の子が皇太子となることを切に願っていました。なぜ、こんな協議の場が設けられたのでしょう? 私なら、兄上に心労を掛けることなどありませんでした」
「いつもありがとう、ハロルド。そなたの気持ちは痛いほど伝わって来ていたよ」
「私の想い、兄上には全く伝わっておりません。私は兄上と違って、今の妻一人を大切にする気持ちなど毛頭ありません。このレーヴァンダール帝国と兄上のためなら、兄上から私、私から次の男児へと皇位を継承するため、もう一人妻を娶り男児を産ませても良いとさえ考え、この場に参りました」
「ハロルド……」
「そう。ならいっそ、私が皇太子になろうとしておりました!」
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そこにジェラルド様が、私に言い放つような嫌味な口調でハロルド様に言い放つ。
「叔父上……。父上を敬愛するのは結構ですが、ご自身がなされた事を父上に話せるのですか? 罪人のボルダンが領地で狩りを開催した時、参加を渋る貴族を取りまとめ、私が参加するよう仕向けましたね? そして、私がいつもどおり欠席した際には、代理にユリアンを立てるよう貴族連中を先導したとか」
たまらずジェラルド様が段取りを忘れ、ハロルド様に詰め寄ってしまった。
「ふん。私はただ、傾いた一貴族を憂いただけ。懸命に領地を盛り立てようとするボルダン家の力になりたかっただけだ。まさかボルダンが、実の甥と公爵令嬢の暗殺を企てていたとは思いもよらなかったがな」
ハロルド様も皮肉たっぷりに応戦する。まあ、甥の暗殺に加担したなんて、素直に認めるはずがない。
「しかし、罪を潔く認めます。ボルダンがどこまでするかは関知していませんでしたが、毒物入手の口利きをし、最悪実の甥が亡き者となっても構わないと思っておりました。クラウスティン家のご令嬢まで巻き込む事になるとは……。私は最早、人の心を無くしているのです……」
(はい!? 素直に認め過ぎじゃないの!!)
あっさり認めたハロルド様に私や双子皇子が度胆を抜かれる中、一人落ち着いた様子の陛下がハロルド様にお声を掛ける。
「違う。お前は優しいからこそ、この帝国の行く末を憂い、一人で苦しみ、私が決断出来なかった事を背負おうとしたんだろう?」
静かに穏やかに、レオナルド様がハロルド様に歩み寄る。
(何だ、何が起きているの?)
「兄上はお一人で抱え過ぎです。なぜ、甥たちの真実を話してくれなかったのですか……。私が兄上を裏切ることなど絶対ないのに……」
「お前を巻き込みたくなかったのだよ」
「はあ。――同じ顔をしながらも、片やヒョロヒョロの甥に片や偏屈仮面の甥か……」
ハロルド様は悲痛な表情で、ジェラルド様とユリアン様を交互に見つめる。少し含みがあるのは、まだ感情の切り替えが出来ていないからだろう。
「全ては私の犯した間違いだよ。だが、それで良かったと思っている。我が子を守るためだったが、お陰で私は我が子の誕生にも妻の臨終にも立ち会えた」
「兄上……。そんな兄上だからこそ、私は……」
言葉に詰まったハロルド様は、陛下の方に差し出した手を力なくガクリと下ろした。だが、その手をレオナルド様がしっかりと握りしめる。
「ハロルド。ローバンダイン公爵の爵位を返上しなさい。娘はすでに嫁いでいたな? ――妻とは離縁し、実家の侯爵家に帰すと良い。それだけはお前に償って貰う。そして私は皇子に帝位を譲り、そなたと共に隠居し遠くの地で生きる。私もお前も、そこで罪を償って生きるのだ」
「陛下……。はい、かしこまりました……」
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「そうだね。父上は帝国法に反したわけではない。私を長子とし、ユリアンを次子としたことは法に則っている」
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「あ、兄上、モニカは唯一無二の愛する人ですが、これからも変わりなく兄上をお支えしますのでご心配なく!」
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「これで歪みが解消し、当たり前の息子たちの姿を見られる……」
「罪を償うと言っても、兄上と隠居生活……。胸が弾みます」
「兄上の身体が良いのであれば、私は愛するモニカと……」
(『私は愛するモニカと……』ってユリアン様! どうしよう。ジェラルド様のお身体が大丈夫なら、もうユリアン様は火種を作っても良いのかな? って事は、私はユリアン様と公にお付き合いしてもいいって事!?)
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