7 / 10
7 外堀が埋められ、全騎士団員公認の仲になりました
しおりを挟む
セルジュさんの案内で食堂に着き、身体を90度に折って、まずマクシムに謝った。
「おはようございます。昨日は酔いすぎました……。ご迷惑をお掛けし、本当に申し訳ございませんでした」
下げた頭を、上げにくいったらありゃしない。ピタッとそのまま固まってしまう。マクシムが立ち上がり、私の頭に手の平をポンと1回乗せた。
「役得だから気にするな。早く食べて任務に向かうぞ、団長」
そう、私は団長なんだ! しっかり団員を見てあげなきゃ! 気合いで顔を上げ、深く1度頷いた。
「ああ、そういや。昨日は、俺にギュウギュウしがみついて来て可愛かったな」
「ひぃっ!!」
なんとか気を取り直し、ありがたく朝食をいただいた。白パンと、ポーチドエッグを落としたサラダに、コーンスープ。しこたま飲んだ次の日だけど、優しい味付けが食べやすくて、きちんと朝食をとることが出来た。
給仕の人もいたし、聞きづらさもあって、昨日の夜のことは有耶無耶にしてしまった。マクシムは公爵様だし、何事もなかっただろうけど……。記憶がないなんて、初めてだよ……。
マクシムの公爵邸から、騎士団までは距離が近いので、2人で歩いて団に向かった。途中でユニが、お見送りに来てくれた。いつも人間を振り回して強引な感じだけど、可愛いところもあるな。
城門の向こうからテオドールが登城して来た。団に併設された独身寮から通う団員も多いが、テオドールは妻子持ちだから、街に自分の家を持っている。
「おはようテオドール!」
元気いっぱい、いつも通りテオドールに挨拶すると、なんだか顔つきがおかしい。
「おはようございます。マクシミリアン様、テレーズ……」
あ、テオドールはマクシムの正体を知ってるから、気を遣っちゃうんだよね。そりゃ気を遣うのが普通で、私がどうかって話だ。
「マクシム。テオドールはあなたのこと知ってるのよね?」
「ああ。第2師団は全員そうだな。たが、近いうちに、他の師団も全員に周知する予定だ」
「へえー。そうなんだ」
やっぱり第2は知ってたんだね。そのうちみんなも、びっくりするだろうなあ。テオドールが固まっちゃう位偉い人なんだもんね。
3人でしばらく歩き、団の敷地に入ったところで、重い口をテオドールが開いた。
「マクシミリアン様、テレーズ。2人はその……。なんだ……。あれだな……」
「何? ゴモゴモしちゃって? らしくないからハッキリ言いなよ?」
「お2人で公爵邸の方から来られたもので……。その……。お2人は既に、お付き合いをされているのですか?」
「!!」
マズイ。私の家もマクシムの家も、テオドールは知ってるから誤解されたんだ! なんて言い訳しよう……。やっぱり、酔っぱらって帰れなくて、マクシムに面倒かけたって言うしかないよね。私の恥より、公爵の名誉の方が大事だもん。ちゃんと説明しよう!
「あのね――」
「昨日テレーズには家に泊まってもらった。男として不埒な真似はしてないが、テレーズは俺にとって大事な女性だ。そういう関係と捉えて構わない」
「!!!!」
「マクシミリアン様は本気なのですね?」
ああ、やっぱり何もなかった! 安心した! ――じゃないわね。なんか物騒なワードが聞こえたけど……。
「テレーズ。俺はテレーズのことが好きだ。半年間テレーズのことをずっと見てきた。テレーズ以外に好きになれる女などいない。俺と付き合おう」
「!!!!!!」
ここここここれって、告白ってやつをされたってこと? うそ? マクシムが私のこと好き? 公爵様が? 体温上がりまくって、汗も出て来たよ。動悸がヤバい。頭がグルグルして来た。……。あぁ、目眩がする。
「おいおい。朝っぱらから、随分とふざけたことを言う奴がいるな」
「ちょっとテオ! なんでなんにも言わないの? テオは僕達を裏切ったの?」
「久し振りに怒りで身体が震えますねぇ。横からかっさらおうとする輩には、仕置きが必要ですねぇ」
「ちょうど良い。もう『テレーズを陰日向になって守る会』の役目はおしまいだ。これからテレーズは俺が守る。テレーズが誰のものか、ここらでハッキリさせとくか?」
寮から歩いて来たミカエル、エミール、ダミアンと、マクシムが睨み合っている。なぜこうなっているか分からない。首をかしげたくなる。『テレーズを陰日向になって守る会』って何? さっきの告白はどうなった?
私が置いてけぼりにされる中、あれよあれよと1番広い訓練場で、マクシム対3人のガチンコ勝負が開催されることになった。
誰かが団長を呼んだのか、副団長と一緒に慌てて訓練場に出てきた。
「第3は魔法壁を全力で張れ! 第2は盾で第3を護れ! ミカエルの雷剣閃とエミールの魔法は絶対城まで飛ばすなよ!」
魔法壁が訓練場を囲うように張られて行く。魔法壁を張る第3師団の団員の前に、第2師団の団員が盾を構えていく。
「第5はダミアンの流れダガーを叩き落とせ! 当たって死ぬなよ! 第1と第4は、魔力のあるものは第3に、ないものは第2の加勢をしろ!」
団長が的確に指示を出していく。こんな時だが、流石はオレノ団長だと感心してしまう。
「女性騎士団は念のためお前達の団長を守れ! テレーズに何かあったら防ぎ切れなくなるぞ!」
最後の言葉の意味がよく分からないが、団長が指示をし終えるのと同時に、睨み合いを止めた4人の闘いが始まった。
ミカエルの雷剣閃、エミールの氷刃、ダミアンのヤバイ薬が塗られたダガーが、一斉にマクシムに向かう。マクシムが、右手からゴウゴウと燃え盛る炎塊と、左手から暴風玉を出し同時に放つ。
次に剣を抜き、ダミアンがマクシムの急所を狙って投げたダガーを、1つ残らず叩き落とす。
3人がかりの攻撃を一瞬で防ぐ、無駄のない完璧な動きだった。
距離を詰めたミカエルとダミアンが、前後からマクシムに襲いかかる。マクシムが2人の攻撃をかわした所に、エミールが巨大な岩石を次々落とす。マクシムが岩に埋もれたかと思ったが、岩の隙間から光がもれだし、次の瞬間、岩石が粉々に砕け周囲に四散した。
**********
周りで4人の攻撃を防いでいる団員たちから、脂汗が流れている。このまま続ければ団員たちの方がもたず、城が壊れる。しかし、4人が闘いを止める気配はない。肩で息をしながら、一旦間合いを取った両者が再び睨み合う。
「ヒヒヒヒヒ。楽しいなぁ。随分とやるねぇ」
「だねー。予想以上だったよー。いきなり副団長になっただけあるねー」
「チッ。俺達とテレーズのことを何も知らない新参者が」
「時間の長さは関係ない。今まで彼女を物に出来なかった、負け犬の遠吠えだな。しかし、テレーズが清いままでいてくれたことには感謝しているぞ」
不敵に笑い、マクシムが3人を挑発する。これ以上はもうやめてくれー!!
「殺したいですねぇ。一刻も早く、テレーズの前から遠ざけたいですねぇ」
「ここまで僕たちが守って来たんだ。テレーズは誰にも渡さないよー」
「だな。テレーズは俺たちみんなのテレーズで良い。変わることはない」
――ドゴオオォォーン――ガギン――キンキンキン――
……。ねえ……、何言ってんの? 遠ざけたい? 守って来た? 俺達みんなのテレーズ?
はあ? マクシムが攻撃されてんのって、さっき私に告白したから?
まさか、あいつら……。今までずっとこうして来たっての? 私が縁遠い人生を歩んできたのって……。……。
「はあ? ふざけんなよ! 出て来てププ!!」
「なあに? 僕また寝てたのに」
「1分で良い。本気を出して良いから、ミカエル、エミール、ダミアンを捕まえて!!」
「良いのかなあ? うーん。でも、お城が壊れたら大変だもんね。りょうかーい」
辺りにププの咆哮が響き、土煙が上がる。薄目で確認すると、本来の姿に戻ったププがいた。第4師団の団員が喜ぶ。
「テレーズ団長がププを出したぞ! しかし、ププはデカくなっても可愛いよなぁー」
「これで助かったな! ププー! やっちまえー!!」
ププが白と茶の毛を、威嚇するように大きく膨らましている。団舎ほどに巨大になった獣は、鋭い鉤爪のある両手でミカエルとエミールを掴み、毛足の長いフサフサした尻尾でダミアンを押さえつける。
3人は、久し振りに見た本気のププに取り押さえられ、「なぜ?」と言いたげな表情で、私とププを交互に見つめている。
「いい加減やめなよ。ご主人が怒っているよ。嫌われちゃうよ? あ、もう嫌われてるかもだけどね」
茫然自失となる3人。エミールなんか、泣き出しそうだ。でも、まだまだ許さんよ?
オレノ団長が、団員に守りを解くよう指示を出した後、ププに捕まっている3人に命じた。
「お前ら、こんな騒ぎにしやがって! 『テレーズを陰日向になって守る会』は解散とし、今後一切の活動を禁止する! いいな!!」
一体、何なんだろうその会は? どうして本人が預かり知らぬことばかりなの?
「ププ。後でタンポポを沢山あげるから、もう10分そのまま3人を捕まえていて」
「オッケー」
「ねえ、さっきから、ちょくちょく出てくる、私を『守る会』って何? 詳しく教えなよ?」
**********
**********
**********
やっぱり、こいつらのせいだったのか……。私の婚期が遅れたのって、そんな理由だったんだ……。
「テオドールもこっちにこーーい!!」
4人を思いっきり叱りつけ、何度も謝らせた。一頻り謝らせると、気持ちも大分落ち着いた。でも、そっか……。悪意からも守って来てくれたんだね。そこはきちんと御礼を言おうと考えていると、マクシムが横から入ってきた。
「あとは悔いなく、俺にテレーズを任せれば良い」
それもちょっと違うと思うんだが、言われた4人は神妙な顔でマクシムを見るだけで、何も言わない。
「ちょっとマクシム! 私を勝手に任せられないでちょうだい!」
「ははっ。強がるのも可愛いな。――ここにいる全騎士に言う! 俺はマクシミリアン・フォン・アインホルン! 今は公爵位を兄より賜っている! 隣にいるテレーズは俺の女だ! テレーズに手を出すことは、俺に歯向かうことと思え! あの3人にしたように、いつでも相手になってやろう!!」
どよめく騎士達に、魂を抜かれたようなミカエルたち。近くに居た女性騎士団員たちが、ツンツン肘で私をつついて来る。
「待って……。違うんだってば……」
勝手に盛り上がって、誰も私の話など聞いてくれない。私はガクリと膝から崩れ落ちた……。
――こうして私とマクシムは、全騎士団員公認の仲になっていた――
「おはようございます。昨日は酔いすぎました……。ご迷惑をお掛けし、本当に申し訳ございませんでした」
下げた頭を、上げにくいったらありゃしない。ピタッとそのまま固まってしまう。マクシムが立ち上がり、私の頭に手の平をポンと1回乗せた。
「役得だから気にするな。早く食べて任務に向かうぞ、団長」
そう、私は団長なんだ! しっかり団員を見てあげなきゃ! 気合いで顔を上げ、深く1度頷いた。
「ああ、そういや。昨日は、俺にギュウギュウしがみついて来て可愛かったな」
「ひぃっ!!」
なんとか気を取り直し、ありがたく朝食をいただいた。白パンと、ポーチドエッグを落としたサラダに、コーンスープ。しこたま飲んだ次の日だけど、優しい味付けが食べやすくて、きちんと朝食をとることが出来た。
給仕の人もいたし、聞きづらさもあって、昨日の夜のことは有耶無耶にしてしまった。マクシムは公爵様だし、何事もなかっただろうけど……。記憶がないなんて、初めてだよ……。
マクシムの公爵邸から、騎士団までは距離が近いので、2人で歩いて団に向かった。途中でユニが、お見送りに来てくれた。いつも人間を振り回して強引な感じだけど、可愛いところもあるな。
城門の向こうからテオドールが登城して来た。団に併設された独身寮から通う団員も多いが、テオドールは妻子持ちだから、街に自分の家を持っている。
「おはようテオドール!」
元気いっぱい、いつも通りテオドールに挨拶すると、なんだか顔つきがおかしい。
「おはようございます。マクシミリアン様、テレーズ……」
あ、テオドールはマクシムの正体を知ってるから、気を遣っちゃうんだよね。そりゃ気を遣うのが普通で、私がどうかって話だ。
「マクシム。テオドールはあなたのこと知ってるのよね?」
「ああ。第2師団は全員そうだな。たが、近いうちに、他の師団も全員に周知する予定だ」
「へえー。そうなんだ」
やっぱり第2は知ってたんだね。そのうちみんなも、びっくりするだろうなあ。テオドールが固まっちゃう位偉い人なんだもんね。
3人でしばらく歩き、団の敷地に入ったところで、重い口をテオドールが開いた。
「マクシミリアン様、テレーズ。2人はその……。なんだ……。あれだな……」
「何? ゴモゴモしちゃって? らしくないからハッキリ言いなよ?」
「お2人で公爵邸の方から来られたもので……。その……。お2人は既に、お付き合いをされているのですか?」
「!!」
マズイ。私の家もマクシムの家も、テオドールは知ってるから誤解されたんだ! なんて言い訳しよう……。やっぱり、酔っぱらって帰れなくて、マクシムに面倒かけたって言うしかないよね。私の恥より、公爵の名誉の方が大事だもん。ちゃんと説明しよう!
「あのね――」
「昨日テレーズには家に泊まってもらった。男として不埒な真似はしてないが、テレーズは俺にとって大事な女性だ。そういう関係と捉えて構わない」
「!!!!」
「マクシミリアン様は本気なのですね?」
ああ、やっぱり何もなかった! 安心した! ――じゃないわね。なんか物騒なワードが聞こえたけど……。
「テレーズ。俺はテレーズのことが好きだ。半年間テレーズのことをずっと見てきた。テレーズ以外に好きになれる女などいない。俺と付き合おう」
「!!!!!!」
ここここここれって、告白ってやつをされたってこと? うそ? マクシムが私のこと好き? 公爵様が? 体温上がりまくって、汗も出て来たよ。動悸がヤバい。頭がグルグルして来た。……。あぁ、目眩がする。
「おいおい。朝っぱらから、随分とふざけたことを言う奴がいるな」
「ちょっとテオ! なんでなんにも言わないの? テオは僕達を裏切ったの?」
「久し振りに怒りで身体が震えますねぇ。横からかっさらおうとする輩には、仕置きが必要ですねぇ」
「ちょうど良い。もう『テレーズを陰日向になって守る会』の役目はおしまいだ。これからテレーズは俺が守る。テレーズが誰のものか、ここらでハッキリさせとくか?」
寮から歩いて来たミカエル、エミール、ダミアンと、マクシムが睨み合っている。なぜこうなっているか分からない。首をかしげたくなる。『テレーズを陰日向になって守る会』って何? さっきの告白はどうなった?
私が置いてけぼりにされる中、あれよあれよと1番広い訓練場で、マクシム対3人のガチンコ勝負が開催されることになった。
誰かが団長を呼んだのか、副団長と一緒に慌てて訓練場に出てきた。
「第3は魔法壁を全力で張れ! 第2は盾で第3を護れ! ミカエルの雷剣閃とエミールの魔法は絶対城まで飛ばすなよ!」
魔法壁が訓練場を囲うように張られて行く。魔法壁を張る第3師団の団員の前に、第2師団の団員が盾を構えていく。
「第5はダミアンの流れダガーを叩き落とせ! 当たって死ぬなよ! 第1と第4は、魔力のあるものは第3に、ないものは第2の加勢をしろ!」
団長が的確に指示を出していく。こんな時だが、流石はオレノ団長だと感心してしまう。
「女性騎士団は念のためお前達の団長を守れ! テレーズに何かあったら防ぎ切れなくなるぞ!」
最後の言葉の意味がよく分からないが、団長が指示をし終えるのと同時に、睨み合いを止めた4人の闘いが始まった。
ミカエルの雷剣閃、エミールの氷刃、ダミアンのヤバイ薬が塗られたダガーが、一斉にマクシムに向かう。マクシムが、右手からゴウゴウと燃え盛る炎塊と、左手から暴風玉を出し同時に放つ。
次に剣を抜き、ダミアンがマクシムの急所を狙って投げたダガーを、1つ残らず叩き落とす。
3人がかりの攻撃を一瞬で防ぐ、無駄のない完璧な動きだった。
距離を詰めたミカエルとダミアンが、前後からマクシムに襲いかかる。マクシムが2人の攻撃をかわした所に、エミールが巨大な岩石を次々落とす。マクシムが岩に埋もれたかと思ったが、岩の隙間から光がもれだし、次の瞬間、岩石が粉々に砕け周囲に四散した。
**********
周りで4人の攻撃を防いでいる団員たちから、脂汗が流れている。このまま続ければ団員たちの方がもたず、城が壊れる。しかし、4人が闘いを止める気配はない。肩で息をしながら、一旦間合いを取った両者が再び睨み合う。
「ヒヒヒヒヒ。楽しいなぁ。随分とやるねぇ」
「だねー。予想以上だったよー。いきなり副団長になっただけあるねー」
「チッ。俺達とテレーズのことを何も知らない新参者が」
「時間の長さは関係ない。今まで彼女を物に出来なかった、負け犬の遠吠えだな。しかし、テレーズが清いままでいてくれたことには感謝しているぞ」
不敵に笑い、マクシムが3人を挑発する。これ以上はもうやめてくれー!!
「殺したいですねぇ。一刻も早く、テレーズの前から遠ざけたいですねぇ」
「ここまで僕たちが守って来たんだ。テレーズは誰にも渡さないよー」
「だな。テレーズは俺たちみんなのテレーズで良い。変わることはない」
――ドゴオオォォーン――ガギン――キンキンキン――
……。ねえ……、何言ってんの? 遠ざけたい? 守って来た? 俺達みんなのテレーズ?
はあ? マクシムが攻撃されてんのって、さっき私に告白したから?
まさか、あいつら……。今までずっとこうして来たっての? 私が縁遠い人生を歩んできたのって……。……。
「はあ? ふざけんなよ! 出て来てププ!!」
「なあに? 僕また寝てたのに」
「1分で良い。本気を出して良いから、ミカエル、エミール、ダミアンを捕まえて!!」
「良いのかなあ? うーん。でも、お城が壊れたら大変だもんね。りょうかーい」
辺りにププの咆哮が響き、土煙が上がる。薄目で確認すると、本来の姿に戻ったププがいた。第4師団の団員が喜ぶ。
「テレーズ団長がププを出したぞ! しかし、ププはデカくなっても可愛いよなぁー」
「これで助かったな! ププー! やっちまえー!!」
ププが白と茶の毛を、威嚇するように大きく膨らましている。団舎ほどに巨大になった獣は、鋭い鉤爪のある両手でミカエルとエミールを掴み、毛足の長いフサフサした尻尾でダミアンを押さえつける。
3人は、久し振りに見た本気のププに取り押さえられ、「なぜ?」と言いたげな表情で、私とププを交互に見つめている。
「いい加減やめなよ。ご主人が怒っているよ。嫌われちゃうよ? あ、もう嫌われてるかもだけどね」
茫然自失となる3人。エミールなんか、泣き出しそうだ。でも、まだまだ許さんよ?
オレノ団長が、団員に守りを解くよう指示を出した後、ププに捕まっている3人に命じた。
「お前ら、こんな騒ぎにしやがって! 『テレーズを陰日向になって守る会』は解散とし、今後一切の活動を禁止する! いいな!!」
一体、何なんだろうその会は? どうして本人が預かり知らぬことばかりなの?
「ププ。後でタンポポを沢山あげるから、もう10分そのまま3人を捕まえていて」
「オッケー」
「ねえ、さっきから、ちょくちょく出てくる、私を『守る会』って何? 詳しく教えなよ?」
**********
**********
**********
やっぱり、こいつらのせいだったのか……。私の婚期が遅れたのって、そんな理由だったんだ……。
「テオドールもこっちにこーーい!!」
4人を思いっきり叱りつけ、何度も謝らせた。一頻り謝らせると、気持ちも大分落ち着いた。でも、そっか……。悪意からも守って来てくれたんだね。そこはきちんと御礼を言おうと考えていると、マクシムが横から入ってきた。
「あとは悔いなく、俺にテレーズを任せれば良い」
それもちょっと違うと思うんだが、言われた4人は神妙な顔でマクシムを見るだけで、何も言わない。
「ちょっとマクシム! 私を勝手に任せられないでちょうだい!」
「ははっ。強がるのも可愛いな。――ここにいる全騎士に言う! 俺はマクシミリアン・フォン・アインホルン! 今は公爵位を兄より賜っている! 隣にいるテレーズは俺の女だ! テレーズに手を出すことは、俺に歯向かうことと思え! あの3人にしたように、いつでも相手になってやろう!!」
どよめく騎士達に、魂を抜かれたようなミカエルたち。近くに居た女性騎士団員たちが、ツンツン肘で私をつついて来る。
「待って……。違うんだってば……」
勝手に盛り上がって、誰も私の話など聞いてくれない。私はガクリと膝から崩れ落ちた……。
――こうして私とマクシムは、全騎士団員公認の仲になっていた――
84
お気に入りに追加
1,116
あなたにおすすめの小説

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。
夏
恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。
初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。
「このままでは、妻に嫌われる……」
本人、目の前にいますけど!?
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる