行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい

文字の大きさ
上 下
1 / 10

1 アラサー女騎士師団長ババア呼ばわりされる

しおりを挟む
「おいおい。今度の遠征、とうとうテレーズ師団長とこだぜ?」
「はぁーあ。ババアと一緒かよ。無駄に気を遣うんだよな」
「でも一応女だからな。でも、遣う必要のない気を遣うのが、精神的にキツイんだよな」
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。って、辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」


 おーい。お前達ー。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
 特にババアと言った奴、ナタンって名前だっけ? しっかりブラックリスト入りしたからなー!!
もう片方は……。ま、一般的な意見だから許容範囲だな。あれにまで目くじら立てていたら、私が狭量だと思われるか。うん、許そう。

 ババア呼ばわりされている私、テレーズ・リヴィエ。アラサー女子。いや、アラサーですって言うと、20代も入って良い表現なんだよね。本当は31歳ですけど。



 ここ、サレイト王国で、女騎士なんてしているのは私1人だけ。いや、毎年、新人の女の子も入団はするのだ。しかし、1年も経たずに退団する。
 理由は簡単。数少ない女性騎士はモテにモテ、すぐに結婚して辞めていく。そりゃあ自分が男だったら、危険な騎士なんて仕事、しないで欲しいと思うけど……。

 そんなんだから、新人女性騎士は『今年の嫁候補』なんて言われたりするんだよ。お見合い目的じゃないんだからさ、毎年入団時期に、浮かれんなよな!! ほんと勘弁してほしいわ。



 私は、18歳で入団しているから、それなりに立場は上だ。同じ階級の者は4人いるが、これでも団長、副団長に次ぐ師団長だ。あんな下っ端新人の言う事なんて、全く気にならないんだよー。
 ……ウソです。『ババア』は傷つくよ。年月は平等に過ぎるんだから、自分だってジジイになるんだからねって、すごく言いたい!!


 入団して来たばかりのヒヨッコは、半年間の研修中に、ローテーションを組み、各師団で訓練を受ける。そこで資質を見極め、本人の希望調査も出来るだけ反映させながら、各師団に配属されていくのだ。
 第1から第5師団まであるが、私は第4師団の師団長。うちはテイマーを集めた師団だ。あのナタンってガキは、私の可愛いププちゃんに、お灸を据えてもらおうかね。フフフフフ。


 どうやってナタンを懲らしめてやろうか考えていると、第5師団長のダミアンが来た。これまた、ネチっこいのに見つかったな……。
 師団長になるまで知らなかったが、第5は計略と事務担当以外に、裏の仕事も担っている。この国の騎士団は暗部も抱えているのだ。

「随分新人に可愛がられているみたいですねぇ。いただけないなぁ。私以外に意地悪されるなんてぇ」

 そう言って、私の髪をクルクルと自分の指に絡めてくる。まるで、蛇の様な男。あまり関わりたくない奴だ。

「あー。テレーズとダミアンが一緒にいるー。ねえねえ、何の話をしてるのー?」

 パタパタと走って来たのは、第3師団長のエミール。弟みたいで可愛いのだが、あざとい。自分の見せ方を知っているタイプだ。

「エミール! 話はまだ終わっていない」

 そう言って、ドカドカとエミールを追いかけて来たのは、第2師団長のテオドール。曲がった事が大嫌い。融通がきかない堅物だ。

「せっかく4人が集まったから、今度の遠征について打ち合わせでもする?」

 なんだかんだで、私も仕事人間なのだ。時間は有効に使おう。

「ミカエル不在でやるのは、まずいのではないか?」
「僕もそう思うなー」
「私も、後々面倒事になるのは嫌ですねぇ」

 はぁん? みんなミカエルを気にし過ぎじゃない?

「別に、後で報告すればいいじゃない?」
「はぁ!? ダメに決まってるだろ!!」

 ビクッとして後ろを振り向くと、第1師団長のミカエルが立っていた。

「みんな、俺が来たことに気づいていたのに。お前はププがいないと本当にダメなやつだな」


 全師団長が揃ったので、まずは、軽く私の脳内にある、各師団長の紹介を見て欲しい。

 第1師団師団長 ミカエル――すかした奴――前衛担当で剣の騎士
 第2師団師団長 テオドール――真面目堅物――護衛担当で盾の騎士 
 第3師団師団長 エミール――弟キャラ――魔法担当で魔法の騎士
 第4師団師団長 テレーズ――アラサー女子――テイム担当で魔物の騎士
 第5師団師団長 ダミアン――蛇男――計略と事務担当、実は暗部担当で知恵の騎士

 ザックリとこんな感じだ。この体制で魔物や悪人と日々戦い、民の生活を守るのが私達、王国騎士団だ!
 そう、私達は民のあこがれ! みんながウットリ、私達騎士を眺めるのだ!
 ……って、これは嘘……。現実は違うのよ。

 みんな、花形の第1や第3と、王族を護る第2が好きだ。うちは怖がられる事も多いし、第5はほぼ表に出ない。憧れの騎士様は123なのだ。


「で、次が最後の新人遠征だろ? それぞれ目ぼしい新人はいるのか? 取り合いするのも面倒だしな? そろそろ協議を開始するから考えておいてくれ」

 いつもミカエルは、何故かいつの間にかリーダーみたいになる。花形師団だからって仕切らないでよね! みんな同格なんですからね!

「うちは癖が強いですからねぇ。でも、何人かは考えていますよぉ」

 ああ、蛇に睨まれた蛙さんがいる。

「うちも大体決まったかなー」
「私は最後まで見ないと、何とも言えないな」
「テレーズはどうなんだ?」
「それを聞いてどうなるのよ? どうせ他所で余った人材が、いつもうちに来るじゃない?」

 本人の希望調査の前に、気に入った新人がいれば、師団長が直接、口説き落とす場合もある。
 でも大抵123に希望が殺到し、あぶれた者がうちの第4に来る。ちなみに第5は、1度蛇に睨まれると、その新人は9割9分、第5に希望を出す。
 残る1分は逃亡者ね。恐ろしや……。


 **********


 ――そうこうしているうちに、今年最後の、新人訓練の遠征が始まった――

 え? なんですか、この不審人物は!?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。 しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。 いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。 そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。 落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。 迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。 偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。 しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。 悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。 ※小説家になろうにも掲載しています

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。

恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。 初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。 「このままでは、妻に嫌われる……」 本人、目の前にいますけど!?

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...