73 / 122
三流調剤師と漆黒に煌く月光(笑)
73
しおりを挟む
おかしい。少し前まで唇に指で触れただけで逃亡して、手を繋ぐだけで真っ赤になっていたのに。
進んだ年齢がそうさせるのか、顔を会わせなかった時間がそうさせるのか、わからない。
ただこれだけは言える。開き直ったダークエルフ、色んな意味でこえええええええ。
「時間なんて関係ない。俺はイーリスに触れたい。イーリスは俺に触れられるのが嫌なのか?」
もうとっくにこっちの精神は限界なのに、私を膝の上に乗せたまま、ラグナルはそうのたまう。
「い、嫌とかそういう問題じゃなくて――」
「答えろよ。俺に触れられるのは嫌か?」
返答をはぐらかそうとするも、間髪入れずに聞き直される。
語気は荒くとも、腕を掴む腕は微かに震えたままだ。掌から伝わる熱が、ゆっくりと侵食していくようだった。
私は努めて意識をそこから遠ざけた。
「えーと、なんというかお互い相手のことをもっとよく知ってから、次に進むのが望ましいというかね?」
「俺はガキの頃からイーリスを知っている」
ある意味そうだけど、なんか違う。
私の感覚が狂っている以上に、ラグナルの時間の捉え方はおかしいのかもしれない。
「それに人間の世界は、ほら、いろいろと決まりごとが多くて」
もう自分でも何を言っているか分からなかった。とにかくラグナルを止めなければと言葉を紡ぐ。
「何事も段階を踏まないといけないの!」
ラグナルは首を傾げてから、ああ、と何かに思い至ったように頷いた。
「結婚を申し込めばいいのか?」
違う、そうじゃない!
「なら、やっぱり許嫁は邪魔だな……」
おまけに目線を伏せて、何やら物騒なことをつぶやき出す。
私はシャープになった頰を両手で挟んで、無理やり視線を合わせた。
「約束して! 許嫁に手を出さないって! あの人が死んだら本当に困るから」
約束はこれ以上増やさないと決めていたけれど、そうも言っていられない。
記憶を取り戻したラグナルが、これまでの周りの人々の反応や、何より自分の解呪が済んでいることから、私の素性に辿り着く可能性は低くないはずだ。
「あと、ノアとか、ルツとかキーランとかウォーレスとかゼイヴィアとか! お世話になった人たちも、その、こ、殺したりしないでほしい」
マーレイを殺そうとしたときにも感じたけれど、はっきりした。彼の中で人の命はわりと軽い。
明日のラグナルが私との約束をどれだけ守ってくれるか不明だが、そこはダークエルフの矜持にかけるしかない。
「ああ、分かった。約束する」
渋るかと思ったがラグナルはあっさり頷いた。それも嬉しそうに。
「久しぶりだな。イーリスが約束を求めてくるなんて」
枷を増やされて喜ぶその心がイマイチ理解できない。
「じゃ、じゃあ、そういうことで話は終わり」
話題が斜め上方向にずれたのをこれ幸いと、話を切り上げにかかる。
顔から手を離し、体を浮かそうとしたその瞬間、さっとラグナルの顔が近づいた。
微かに頰に何かが触れる感触がする。
――今のって。
呆気にとられていると、ふわりと体が浮いて、足がベランダの上に着いた。
ラグナルが私を持ち上げて、下ろしたのだ。
「これぐらいなら、いいだろ。段階とやらを踏まなくても」
室内から漏れ出る光に照らされて、ラグナルの耳の先がかすかに赤く染まっているように見えるのは、おそらく気のせいではないだろう。
いい……のかな?
挨拶の範囲と言われればそうだけど。それはお互いに特別な感情を持たない特に親しい間からでのみ成立するものだ。
うん、やっぱりよくない。
そう思いなおした時にはすでに、ラグナルはベランダの手すりの上に身を乗り出していた。
「ここ! 三階!」
手を伸ばすより早く、ラグナルが手すりの向こうに消える。
手すりに張り付くようにして階下を除きこむと、地面に降り立ってこちらを見上げるラグナルと目が合った。
「また明日な」
そう言うと、ラグナルは走り出し、その姿はあっという間に夜の闇に消えた。
「出入りはドアからしてよ」
驚きすぎて力抜けた。手すりに体をもたれさせ、愚痴を吐き出す。
ダークエルフが類い稀な身体能力を有しているのは分かった。それでも心臓に悪い。
「また明日……か」
ラグナルが消えた方角をぼんやりと眺めながら呟く。
今夜で解呪は終わる。
ずっと逃げなければと思いながら、心のどこかで迷っていた。
けど、やっと決まった。
一つ大きく息を吐き出すと、身を起こし、ベランダをあとにする。
夕食の時間はそろそろ終わる。
ロフォカレのメンバーもランサムも、直にそれぞれの部屋に戻るだろう。
私は結論を伝えるため、ゼイヴィアの部屋に向かった。
その晩、最後の解呪を行った。
色濃く体に刻まれていた印は、端の端の一文字が消えた途端に、隣接する文字から鎖が解けるように消えていく。
――成功したんだ。
そう確信を得ると、全ての印が消えるのを見届けることなく服を戻した。
これまで交わした数々の約束のうち、今夜願ったこと以外の破棄を申し出る手紙を枕元に置き、ホルトンの家から持ってきていた、少ない荷物を肩にかける。
故郷を出た時とほぼ変わらない量だ。
金平石がなくなって、手持ちの金はかなり減ったことを考えると、さらに身軽といえる。
「元気でね」
眠るラグナルに囁くように告げると、私はそっと部屋を抜け出した。
ラグナルはぐっすり眠っていた。そんな必要はないと思うのに、足音を殺して風呂場に行き、壊れた隠し扉をくぐる。
「さあ、新しい生活の始まり!」
あえてポジティブな言葉を選ぶと、私は冷たい風が吹き付ける地下通路に足を踏み出した。
進んだ年齢がそうさせるのか、顔を会わせなかった時間がそうさせるのか、わからない。
ただこれだけは言える。開き直ったダークエルフ、色んな意味でこえええええええ。
「時間なんて関係ない。俺はイーリスに触れたい。イーリスは俺に触れられるのが嫌なのか?」
もうとっくにこっちの精神は限界なのに、私を膝の上に乗せたまま、ラグナルはそうのたまう。
「い、嫌とかそういう問題じゃなくて――」
「答えろよ。俺に触れられるのは嫌か?」
返答をはぐらかそうとするも、間髪入れずに聞き直される。
語気は荒くとも、腕を掴む腕は微かに震えたままだ。掌から伝わる熱が、ゆっくりと侵食していくようだった。
私は努めて意識をそこから遠ざけた。
「えーと、なんというかお互い相手のことをもっとよく知ってから、次に進むのが望ましいというかね?」
「俺はガキの頃からイーリスを知っている」
ある意味そうだけど、なんか違う。
私の感覚が狂っている以上に、ラグナルの時間の捉え方はおかしいのかもしれない。
「それに人間の世界は、ほら、いろいろと決まりごとが多くて」
もう自分でも何を言っているか分からなかった。とにかくラグナルを止めなければと言葉を紡ぐ。
「何事も段階を踏まないといけないの!」
ラグナルは首を傾げてから、ああ、と何かに思い至ったように頷いた。
「結婚を申し込めばいいのか?」
違う、そうじゃない!
「なら、やっぱり許嫁は邪魔だな……」
おまけに目線を伏せて、何やら物騒なことをつぶやき出す。
私はシャープになった頰を両手で挟んで、無理やり視線を合わせた。
「約束して! 許嫁に手を出さないって! あの人が死んだら本当に困るから」
約束はこれ以上増やさないと決めていたけれど、そうも言っていられない。
記憶を取り戻したラグナルが、これまでの周りの人々の反応や、何より自分の解呪が済んでいることから、私の素性に辿り着く可能性は低くないはずだ。
「あと、ノアとか、ルツとかキーランとかウォーレスとかゼイヴィアとか! お世話になった人たちも、その、こ、殺したりしないでほしい」
マーレイを殺そうとしたときにも感じたけれど、はっきりした。彼の中で人の命はわりと軽い。
明日のラグナルが私との約束をどれだけ守ってくれるか不明だが、そこはダークエルフの矜持にかけるしかない。
「ああ、分かった。約束する」
渋るかと思ったがラグナルはあっさり頷いた。それも嬉しそうに。
「久しぶりだな。イーリスが約束を求めてくるなんて」
枷を増やされて喜ぶその心がイマイチ理解できない。
「じゃ、じゃあ、そういうことで話は終わり」
話題が斜め上方向にずれたのをこれ幸いと、話を切り上げにかかる。
顔から手を離し、体を浮かそうとしたその瞬間、さっとラグナルの顔が近づいた。
微かに頰に何かが触れる感触がする。
――今のって。
呆気にとられていると、ふわりと体が浮いて、足がベランダの上に着いた。
ラグナルが私を持ち上げて、下ろしたのだ。
「これぐらいなら、いいだろ。段階とやらを踏まなくても」
室内から漏れ出る光に照らされて、ラグナルの耳の先がかすかに赤く染まっているように見えるのは、おそらく気のせいではないだろう。
いい……のかな?
挨拶の範囲と言われればそうだけど。それはお互いに特別な感情を持たない特に親しい間からでのみ成立するものだ。
うん、やっぱりよくない。
そう思いなおした時にはすでに、ラグナルはベランダの手すりの上に身を乗り出していた。
「ここ! 三階!」
手を伸ばすより早く、ラグナルが手すりの向こうに消える。
手すりに張り付くようにして階下を除きこむと、地面に降り立ってこちらを見上げるラグナルと目が合った。
「また明日な」
そう言うと、ラグナルは走り出し、その姿はあっという間に夜の闇に消えた。
「出入りはドアからしてよ」
驚きすぎて力抜けた。手すりに体をもたれさせ、愚痴を吐き出す。
ダークエルフが類い稀な身体能力を有しているのは分かった。それでも心臓に悪い。
「また明日……か」
ラグナルが消えた方角をぼんやりと眺めながら呟く。
今夜で解呪は終わる。
ずっと逃げなければと思いながら、心のどこかで迷っていた。
けど、やっと決まった。
一つ大きく息を吐き出すと、身を起こし、ベランダをあとにする。
夕食の時間はそろそろ終わる。
ロフォカレのメンバーもランサムも、直にそれぞれの部屋に戻るだろう。
私は結論を伝えるため、ゼイヴィアの部屋に向かった。
その晩、最後の解呪を行った。
色濃く体に刻まれていた印は、端の端の一文字が消えた途端に、隣接する文字から鎖が解けるように消えていく。
――成功したんだ。
そう確信を得ると、全ての印が消えるのを見届けることなく服を戻した。
これまで交わした数々の約束のうち、今夜願ったこと以外の破棄を申し出る手紙を枕元に置き、ホルトンの家から持ってきていた、少ない荷物を肩にかける。
故郷を出た時とほぼ変わらない量だ。
金平石がなくなって、手持ちの金はかなり減ったことを考えると、さらに身軽といえる。
「元気でね」
眠るラグナルに囁くように告げると、私はそっと部屋を抜け出した。
ラグナルはぐっすり眠っていた。そんな必要はないと思うのに、足音を殺して風呂場に行き、壊れた隠し扉をくぐる。
「さあ、新しい生活の始まり!」
あえてポジティブな言葉を選ぶと、私は冷たい風が吹き付ける地下通路に足を踏み出した。
0
お気に入りに追加
715
あなたにおすすめの小説
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる