エスソシストは今日も高笑い

小声奏

文字の大きさ
4 / 7
episode 02

しおりを挟む
 西井戸駅の踏切の少し手前で、自転車を止める。
 万一車が通ったときに、邪魔にならないよう、くぼみに自転車を置くと、カゴに積んでいる袋の中から仮面を取り出し付けた。
 額から鼻先までを覆う狐面は、目の周りに鮮やかな赤い縁取りが施されており、耳の下には赤い房飾りが一房垂れ下がっていた。博文さんには「派手な面ですね」と酷評されたが、智希は気に入っている。
 数珠を左腕に、聖水を後ろポケットに、十字架を胸にかけて、卒塔婆を袋から取り出せば準備は完了だ。
 智希は西井戸駅へと足を踏み出した。
 街灯が闇夜に踏切を浮かび上がらせている。
 その明かりの下に老婆はいた。
 夕方と何一つ変わらない。ただ、静かに線路を見つめている。
 智希は老婆の目の前に立つと、胸をそらし口元に手の甲を添える。
 それから、すうっと息を吸い込んだ。

「おーっほっほっほ。お婆さん、何をしているのかしら? ずっと線路なんか見つめちゃって、暇なのね!」

 居丈高な態度は、霊に過度な好感をもたれないように。
 霊が見えるようになってから、智希が身につけた身を守るための技の一つだ。

「………」

 老婆は無反応だった。
 予想はしていたが、目の前でこれだけ騒いでも華麗にスルーされるとちょっと虚しい。

「ちょっと、お婆さん。私の声が聞こえてないの?」

 威圧感たっぷりに、ペシペシと掌に卒塔婆を打ち付ける。お爺ちゃん、今日も私を守ってね。と願いながら。

「無視するんならこっちにも考えがあるんですけど!?」
「老婆相手にチンピラのような態度はいかがなものでしょうね」

 成り行きを見守っていた博文さんが苦言を呈す。

「博文さん、お婆さんに話しかけてみてよ」
 
 生きている智希の声が届かないなら、死んでいる博文さんだ。同じ幽霊の言葉なら耳を貸すかもしれない。

「嫌ですよ。なぜ私が」

 博文さんは他人事だ。
 私が除霊をするのを快く思っていないのはわかっているけれど……

(じゃあ、なんでついてくんのよ!)

 智希は言いたい言葉をぐっと呑み込んだ。
 幽霊が見えるようになって日が浅い智希にとって、博文さんの助言は有難いものなのだ。それに真夜中の今、誰かが傍にいると思うと安心する。

「お婆さん、貴女死んでるのよ! どんな心残りがあるのか知らないけど、諦めて成仏するることね!」

 初めて老婆が反応をみせた。
 のろのろと顔を上げ、智希を見たのだ。

「死んでる?……やっぱりもう死んでるんだねえ」

(あれ? 理解してる?)

 老婆は自分の死を疑う様子も、激昂する素振りもない。

「そうよ。分かってるなら話は早いわ。早く天に昇りなさい。留まっていてもいいことなんて何一つないから」
「お嬢ちゃんはあたしを迎えに来てくれたのかい?」
「ま、まあ、そんなとこね」

 迎えにきたというよりは祓いに来たのだが、天に連れて行くという点では相違ない。

「こんな奇妙奇天烈な迎えなど、私ならごめんですね……」

 背後でしみじみとした声が聞こえる。
 智希は振り返って博文さんを睨みつけた。

「協力する気がないなら、黙ってて!」

 博文さんは肩をすくめる。

「あたしは嬉しいよ。こんなに可愛い、お嬢ちゃんが来てくれて」
「可愛い!? あ、あら、褒めても何もでないわよ!」

 思わぬところで思わぬ人物に褒められ、智希は思わず喜んだ。それから慌てて高飛車な態度をとる。

「狐面が可愛い……ととるべきでしょうか」

 卒塔婆を握りしめる手に力が入る。
 頼りにしている博文さんではあるが、時々、無性に力尽くで祓ってしまいたくなる。

「ありがとうねえ。でも、シロがいないとあたしはここを動くわけにはいかないんだよ」

(シロ?)

「そう言えば、散歩中でしたね」

 たしかに、ガトーカワサキの店員さんがそう言っていた。

「お逃げって言ったんだけどねえ。なかなかあたしから離れようとしなくて。お嬢ちゃん、お願いだよ。シロを探してくれないかい」

 智希は返事に戸惑った。
 シロが生きているのか死んでいるのか分からない。もし、死んでいたら探しようもないのだ。
 ややして、智希は頷いた。

「わかった。シロを探す。でもお婆さん、私と約束してくれない? 三日探して見つからなかったり、もう死んでいたりしたら、諦めて成仏するって。動物は死後に留まることはほぼないのよ。ね?」

 最後の一言は博文さんに向けた確認だ。
 智希はまだ動物の霊に出会ったことがない。だから幽霊にならないのだと思っていたけれど、博文さんは過去に会ったことがあるらしいのだ。

「ええ、人間と違ってすぐに死んだことを悟るのでしょう。もしくは無念に思わないのかもしれません」
「そういうわけだから。三日頑張ってさがしてみる。見つからなかったらちゃんと成仏して」

 年若い幽霊より老人の幽霊のほうが、天に昇りやすい。もう十分に生きた。生を全うしたという思いがあるからだろう。
 老婆は頷いた。

「三日だね。頼んだよ、お嬢ちゃん」

 話がまとまれば長いはできない。
 智希は走って自転車に戻ると、除霊道具をカゴに押し込み、大急ぎで帰途についた。

「また、面倒な頼みごとを安請け合いしたのものですね」

 という博文さんの小言を聞きながら……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...