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南無阿弥陀南無妙法蓮華経南無阿弥陀南無妙法蓮華経
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「靜子、靜子、おい、起きろ」
高木の声が遠くから聞こえる。
カーテン越しの女の姿が消えた瞬間、靜子は夢から覚めた。
何も理解できない頭の中で、心配そうに見つめる高木の表情に安堵出来たのは、湿気臭い匂いがとれた後だった。
ベットのシーツにこびりついた血液を見て、静子は我に返った。
「そうだ。昨日はセックスの後、そのまま眠りについたんだ・・・生理中はやっぱり良くない、後始末がたいへんだもの」
そう心の中で呟いて、高木の身体にしがみつく。
滑る汗と男の匂いに感覚が麻痺し始める。
悪夢を忘れる為に、高木の口を自分の唇で塞ぎながら、このまま死んでしまいたい衝動にかられる。
「絡み合う私のべろを、ひと思いに噛み切ってはくれないかしら?」
高木は、靜子の頭をやさしく撫でながら。
「うなされてたけど大丈夫か? 恐い夢でも見た?」
靜子は首を横に振って、忘れちゃったと嘘ぶいた。
頭から焼き付いて離れない女の顔と、高木の朽ち果てていく姿を思い出したくはなかった。
だから無理に笑った。
愛する高木はここにいる。
体温と声と鼓動を感じる。
それで良かった。
靜子は、高木の唇を軽く噛んで言った。
「夢なんか覚えてないわ」
これまでに死体女優として幾度も殺されて来た。
殺害される経緯も多岐に渡る。
夢から覚めて軽く朝食を済ませて、仕事へ向かう高木を見送ってしばらくすると、静子はふいに、夢に現れた女の人生を考えた。
幼き頃、両親との仲、学生時代、恋人や仕事や死因。
古い記憶を削除するために見た夢は、静子に新たな疑問を投げかけた。
どうして死んだ人間と言えるのだろうか。
時計の針は10時を回っている。
鉛みたいに重たい身体を引きずって、静子は浴室へ向かった。
熱いシャワーを浴びたくて仕方がなかった。
その時チャイムが鳴った。
備え付けのモニターを確認する。
誰も映ってはいない。
しかし、エントランスの植木が不自然に揺れている。
いたずらか間違いか、どちらにせよ、オートロックのマンションで良かったと思いながら靜子は服を脱いだ。
突然、玄関のチャイムが鳴り響いた。
執拗に、途切れることなく誰かが押している。
扉一枚隔てたすぐ傍に、ナニかがいる。
脳裏に、夢の続きが勝手に再生されていく。
痩せこけた頬、濡れた黒髪、目から零れ落ちる蛆虫。
身をくねらせながら地面に広がっていく、白の絨毯の上を裸足で歩くあの女。
プチプチと音がする。
通り過ぎた後に血の海が広がっていく。
靜子の身体は激しく痙攣した。
下着一枚でその場に倒れた。
それでも、のたうち回りながら知ってる限りのお経やお題目を唱えた。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
ガタガタガタガタガタと、音を立てながら激しく動くドアノブ。
靜子は叫んだ。
「いい加減にして!」
それでも治まる気配はない。
立ち上がろうにも、身体がいう事をきかない。
静子は再び叫んだ。
「やめてええええええええええええええええええええええ!!」
静寂が過ぎて、時計の針の音だけが聞こえる。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
静子は四つん這いになって玄関へ向かって、壁に手をかけながらよろよろと立ち上がりドアスコープに目をかざした。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
誰もいない。
チェーンが掛かっているのを確認して、そっとドアノブに手をかけて扉を開ける。人の気配はない。
ところが、足元にまとわりつく異様なまでの冷気にギョッとして視線を落とすと、3人の子供達が体育座りをして靜子を見上げていた。
この世に存在しないモノ。
そう直感した。
薄れ行く意識の中で、靜子の耳に声が聞こえた。
「遊ぼうよ」
時計の針の音は病まない。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ̚過血
高木の声が遠くから聞こえる。
カーテン越しの女の姿が消えた瞬間、靜子は夢から覚めた。
何も理解できない頭の中で、心配そうに見つめる高木の表情に安堵出来たのは、湿気臭い匂いがとれた後だった。
ベットのシーツにこびりついた血液を見て、静子は我に返った。
「そうだ。昨日はセックスの後、そのまま眠りについたんだ・・・生理中はやっぱり良くない、後始末がたいへんだもの」
そう心の中で呟いて、高木の身体にしがみつく。
滑る汗と男の匂いに感覚が麻痺し始める。
悪夢を忘れる為に、高木の口を自分の唇で塞ぎながら、このまま死んでしまいたい衝動にかられる。
「絡み合う私のべろを、ひと思いに噛み切ってはくれないかしら?」
高木は、靜子の頭をやさしく撫でながら。
「うなされてたけど大丈夫か? 恐い夢でも見た?」
靜子は首を横に振って、忘れちゃったと嘘ぶいた。
頭から焼き付いて離れない女の顔と、高木の朽ち果てていく姿を思い出したくはなかった。
だから無理に笑った。
愛する高木はここにいる。
体温と声と鼓動を感じる。
それで良かった。
靜子は、高木の唇を軽く噛んで言った。
「夢なんか覚えてないわ」
これまでに死体女優として幾度も殺されて来た。
殺害される経緯も多岐に渡る。
夢から覚めて軽く朝食を済ませて、仕事へ向かう高木を見送ってしばらくすると、静子はふいに、夢に現れた女の人生を考えた。
幼き頃、両親との仲、学生時代、恋人や仕事や死因。
古い記憶を削除するために見た夢は、静子に新たな疑問を投げかけた。
どうして死んだ人間と言えるのだろうか。
時計の針は10時を回っている。
鉛みたいに重たい身体を引きずって、静子は浴室へ向かった。
熱いシャワーを浴びたくて仕方がなかった。
その時チャイムが鳴った。
備え付けのモニターを確認する。
誰も映ってはいない。
しかし、エントランスの植木が不自然に揺れている。
いたずらか間違いか、どちらにせよ、オートロックのマンションで良かったと思いながら靜子は服を脱いだ。
突然、玄関のチャイムが鳴り響いた。
執拗に、途切れることなく誰かが押している。
扉一枚隔てたすぐ傍に、ナニかがいる。
脳裏に、夢の続きが勝手に再生されていく。
痩せこけた頬、濡れた黒髪、目から零れ落ちる蛆虫。
身をくねらせながら地面に広がっていく、白の絨毯の上を裸足で歩くあの女。
プチプチと音がする。
通り過ぎた後に血の海が広がっていく。
靜子の身体は激しく痙攣した。
下着一枚でその場に倒れた。
それでも、のたうち回りながら知ってる限りのお経やお題目を唱えた。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
南無阿弥陀。
南無妙法蓮華経。
ガタガタガタガタガタと、音を立てながら激しく動くドアノブ。
靜子は叫んだ。
「いい加減にして!」
それでも治まる気配はない。
立ち上がろうにも、身体がいう事をきかない。
静子は再び叫んだ。
「やめてええええええええええええええええええええええ!!」
静寂が過ぎて、時計の針の音だけが聞こえる。
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静子は四つん這いになって玄関へ向かって、壁に手をかけながらよろよろと立ち上がりドアスコープに目をかざした。
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