きみの瞳に恋をしている

みつお真

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ホテル下53番街・産まれる場所は選べない。だから創るんだ、君と!

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私は力なく、膝から崩れ落ちておりました。
床というものが、こんなにも冷たいものだという現実を知りました。 まるで氷上に取り残された小舟の木屑の様です。
春夏秋冬問わず、枯れ葉の様にはらはらと行くあてを探す木屑は、人を殺め、自らのココロも殺めてしまいました。
私は二度死んだも同然です。
どうか地獄へと突き落として下さい。
『普通』とは、こんなにも醜くて、錆びついているものとは存じませんでした。
私もきっと、生きていたなら数知れぬ罪を犯し、その都度懺悔しては同じ過ちを繰り返していたのかも知れません。
天命を全うした生涯ではなくとも、私はこの53番街で人を知る術を見出せました。
そんな私は今、美羽ちゃんや海くんに会いたい。
無性に会いたいのです。
どうか光の先に、私を導いてはくれませんか?
お願いです。私を真っ当な人間に戻してはくれませんか?
懇願する私に、支配者様は問い掛けてくれました。

『君は、どうしたい?』

私の発した言葉は明快でした。

『母に会わせて下さい』

それだけです。
支配者様は、微笑みを絶やすことなく語り続けてくれました。心地の良い響きでありました。

『君は普通の人になりたいのかい?』

『いいえ』

『ならば、どうなりたいのかな?』

『私は、私のままでありたい』

支配者様は、私を抱き留めてくれました。
私は母を殺めて以来、すっかり歳をとってしまった様です。
この53番街を見下ろす丘の上のホテルは、所謂最期の砦とも申しましょうか、この世とあの世を隔てる処なんだと、薄々は判っていたけれど、それがハッキリした途端に怖くなっている自分が情けない。身体中の震えが止まらなくて、涙も何故か止まらない。
みうちゃんもかいくんも、僕と同じ恐怖を味わったのかな?
支配者さまに抱きしめてもらっていると、不思議に懐かしい匂いがした。
うたごえも聞こえています。
僕がむかーしにきいていたような歌。
おひさまがぽかぽかしていて、ゆらゆらゆれているのがとってもきもちがよいです。
おふねにのってるみたいでした。
ボクのおかおのちかくで、おかあさんがすごくやさしそうにわらってくれています。
おかあさんのにおいは、おみかんみたいです。
ボクは、ぎゅっと、おかあさんのせなかをつかみました。
うれしかったです。
ぽかぽかぽかぽか。
ボクはおひさまにだっこされて、びゅーんっておそらにとんでいきました。

ありがとう。


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