きみの瞳に恋をしている

みつお真

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脳内で快楽に溺れる野蛮さ本編

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哲也は、池袋の居酒屋チェーン店で雇われ店長をしていた。
パンデミックのせいで客足が遠のき、売り上げが前年比の3割にも届かない現状を打破するには、店舗の賃料の交渉と、人件費の大幅削減しか生きる道はない。それは会社の方針だった。
零細企業の一社員、名ばかり管理職の哲也に出来ることと云えば、パート従業員やアルバイトを休ませて、自らが長時間労働をこなす以外に赤字を減らす術はなく、その間にも多くの仲間が離職していった。
翔子と仲違いしたのは、先の見えない生活への不安と、給与の格差による後ろめたさであって。

「そんなの男尊女卑の典型じゃない。私は何とも思ってないわ」

と言う翔子に。

「だけど、俺は所詮雇われ店長だから、こんな奴よりも・・・」

と答えた自分が不甲斐無く。

「そんなに自分が嫌なら、この家から出てって!」

「わかった・・・」

「弱虫!」

「翔子は強すぎるよ」

と、返すのが精いっぱいだった。
実際、生活費の7割は翔子に頼っていたのだ。
疲労しきった身体でのセックスの後、哲也はぐうぐうとイビキをかいて眠ってしまった。
翔子は、隣で眠る哲也の頭を撫でながら。

「私はマウントを取りたがってるイヤミな女。この家から出て行って。その言葉が示している。家賃を払っているのは私・・・いつからこんなイヤミな女になったんだろう。稼ぐのは男、それを強要していたのは私。私でいいの? 哲也・・・私はまだ子供は欲しくないんだよ・・・」

「君は、居てくれるだけでいいんだ・・・それだけが幸せなんだ」

「私と居て仕合わせ?」

「勿論さ、君は美しいからね、側にいてくれるだけでいいんだ。そうしてずっとずっと見ていてくれるだけでいいんだ。傍観者でいいんだよ。何にもする必要はない。その代わり、助けてとも言わない。安心して欲しい」

「それって・・・私は哲也の何?」

「君は・・・私の何が知りたい?」

「・・・全てです・・・」

「わかった、それなら見ていてくれないか?」

「いいですよ・・・」

言われるがままに、事象の傍観者となった翔子は、純金製のアームチェアに座って、コトの成り行きを見ていた。
フレームにあしらわれた赤子の透かし彫りが、ロイヤルパープルやラズベリーレッドのライディングに映えて笑っている。そう見えている。
翔子はためらいながらも、前方のステージから目が離せずにいた。
乳白色の十字架。
そこに張り付けにされた全裸の哲也の局部は、美しい色白の背中が隠していた。
その人物は、緩やかに頭を動かしていて、ゴブゴブと喉を鳴らしながら哲也の表情を恍惚へと変えていく。
哲也の乳首を弄ぶ白い腕は、白蛇のようにぬめりながらひき締った尻をまさぐる。
言葉もなく、ピクピクと身悶える哲也は、涎を流して絶頂を迎えた。
翔子は立ち上がれなかった。
そんな気力も体力もなく、何かしらの理由で目の前に出現した事柄の行く末を、ただただ見つめていた。
色白の背中の主が振り返って笑った。
鮫島結城。
その口から流れ落ちる精液は、ドクドクと地を這いながら翔子の足元に溜っていく。
乳白色の液体の中で、大勢の赤子の顔が笑っていた。
翔子は驚いて立ち上がって、鮫島と痙攣している哲也を呆然と見つめた。

「目が覚めたんだね。君がしてくれないからいけないんだ。そんなことより、人間はどうしてセックスばかり考えてしまうんだろうね。快楽に溺れるのは野蛮で低俗な証さ。人間は二足歩行を始めた。それまで四つん這いになって、子孫を宿すためだけの行為に、視覚による快楽という事象が生まれたんだよ。男は逞しくなって、女は美しくなっていった。乳房や腹筋や浮き出た血管もそのたぐいさ。ところで翔子、君たちはどうして子供をつくらないんだ?」

「関係ないでしょ!」

「そうか・・・だったら君たちにはこれは必要ないね」

そう言うと鮫島は、哲也の陰茎を口に含んで噛み切って捨てた。
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