セックスレス・あたしと教授の7日間

みつお真

文字の大きさ
上 下
5 / 8

金曜日の夜

しおりを挟む
「美咲さんって、僕は綺麗だなって思いますよ。てか、20代だと思ってたし、びっくりですよ」

SNSのグループで知り合った彼は、あたしよりも10歳年下で、昨年大学を卒業してIT関連の会社に勤めているのだという。
週休2日で年収600万円。
彼女はいない。
話をしていくうちに、年上好みだという事が判る。

「僕は年下には興味ないんですよね。幼いっていうか、話が合わないっていうか。やっぱりオトナの女性は魅力的ですよ」

昨日の夕方から夫は出張で、北海道へ旅立ってしまった。
戻って来るのは月曜日だから、あたしは思い切って前からアプローチされていた彼と会う事にした。
ハンドルネームは『教授』
あたしは『ミサキ』と名乗っていた。
イングリッシュパブで軽く飲むつもりが、思いのほか話が弾んであたしは少しだけ酔ってしまった。
緊張していた所為もある。
何せ側から見たら立派な浮気なのだから。

教授の話している内容が事実であろうが嘘であろうが構わなかった。
所詮ネットの世界は嘘っぱちなんだし、あたしだって既婚者だという事実は隠している。というよりも一切触れてはいない。

「美咲さん、もう一杯飲まれますか?」

教授の問いかけに、あたしは笑って頷いた。
こうして異性として見てくれる人がいる感覚が久方ぶりで、あたしは内心嬉しかった。
「魅力的ですよ」とか 「綺麗ですね」なんて言葉は、お世辞でも気持ちが良くて、薄っぺらな現実を忘れさせてくれた。

「終電までまだ大丈夫ですか?」

教授はあたしの顔を覗き込む様に言った。
こうして見るとなかなかのイケメンだ。
ちょっと童顔だけど、くっきりとした瞳。
白目はほんのりとブルーがかっていて健康的。
夫とは大違い。
サラサラの髪の毛は栗色。
あたしはその髪を、クシャクシャにしてみたい衝動にかられていた。

「あと15分くらいかな。もう一杯飲んだら出なきゃね」

どうして正直に答えてしまったのだろう。
それは一線を越える勇気が持てないから。
もうひとつは、自分に自信がないからだろう。
教授は。

「ええーっ」

と、不満気な顔をした。
その表情も可愛かった。

23時。
店を出ると外は小雪が舞っていた。
教授は駅まで送りますと言ってくれた。
近道の四季の小道を歩きながら他愛もない話をして、街路樹にハラハラと散る小雪を素通りした時に、教授の手があたしの身体を包み込んだ。

「美咲さんって、なんか頼りないですよね。ぎゅっとしただけで折れてしまいそう」

チラチラと鬱陶しい街灯の下、教授は力強くあたしを抱きしめてくれた。
イケメンの顔がゆっくりと近付いて、互いの唇が触れそうになった時、あたしは反射的に顔を背けてしまった。
教授はにっこりと笑って、何事も無かった様に再び歩き始めた。
それでも手は繋いだままでいた。

アスファルトに落下していく小雪が、音を立てながら弾け飛んでいく。
あたしの今の心境みたいに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...