王太子殿下の小夜曲

緑谷めい

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13 イベントとやらを阻止

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 マーガレット様のおっしゃる、リリヤとバルド様の「出会いイベント」なるものを潰さなければいけない。何処で、どういうイベントが起きるかを、マーガレット様から詳しく聞いている私に抜かりはなかった。


 その日、私とバルド様が並んで歩いていると、目の前でリリヤが転んだ。今のは絶対ワザとですわよね。
 私はサッと動くとリリヤの手を取って助け起こす。
「大丈夫ですか?」
「えっ?」
 焦るリリヤ。私はにっこり笑って、そのままリリヤを彼女の取り巻きの男どもに引き渡した。一丁上がりである。
「何だ、あの女。フローラに礼も言わなかったな」
 バルド様が不機嫌そうにおっしゃる。
「本当に。礼儀知らずですわね~。おほほ」


 数日後。いつものように私とバルド様が並んで歩いていると、目の前でリリヤがハンカチを落とした。 
 私は急いでそれを拾うと、リリヤに声をかける。
「リリヤさ~ん。ハンカチを落とされましたわよ」
 振り返ったリリヤが私を睨みつける。ほほほ、バルド様に拾わせようたって、そうはいきませんわよ。
「はい。ハンカチ」
 私は、にこやかにリリヤにハンカチを手渡す。
「なんで貴女が……」
 ブツブツ呟くリリヤ。
 
 リリヤのこの態度を見て、バルド様がキレた。
「おい、お前。フローラに拾ってもらって礼も言わないのか? 本来、身分が上の者が下位の者の落とし物など拾わないのが当たり前だ。フローラは優しいから、お前ごときのハンカチを拾ってやったというのに、礼も言わないとはどういうつもりだ。俺の婚約者を侮辱するなら、ただでは済まさないぞ!」
 リリヤの取り巻きの男子生徒達が慌てて間に入る。
「殿下、申し訳ありません。姫、いえリリヤはまだ貴族社会に慣れていないだけなのです!」
「殿下、リリヤに悪気はないのです!」
「殿下、どうかお許しください!」
 必死である。貴方達、皆、婚約者がいらっしゃいますわよね? なのに、そんなにリリヤに入れ込んで…。女子生徒達が荒ぶるのも当然だわ。


 更に数日後。私とバルド様がまたまた並んで歩いていると、突然、近付いて来たリリヤが、
「私、何だか気分が……」
 と言ってヨロめいた。ワザとらしいったら、ありゃしない。
 リリヤがバルド様の腕に縋ろうとしている! と気付いた私は、咄嗟にバルド様に抱きついた。
「!? どうした? フローラ?」
「バルド様~。私、急に眩暈がしてぇ~。あん、クラクラして立っていられませんわぁ~。助けて、バルド様~」
 バルド様にしがみついたまま、超甘ったるい声を出す。我ながらキモイ。
「フローラ! しっかりしろ! すぐに保健室に連れて行ってやるからな!」
 バルド様は焦った様子でおっしゃると、私を横抱きにして抱え上げた。キャッ! 逞しい! 
 バルド様に抱き上げられたまま、ちらとリリヤを見ると、取り巻きの男どもに、
「姫、気分が悪いの?」
「大丈夫か?」
 と心配されていた。私の視線に気付いたリリヤが、ものすごい目でこちらを睨んでくる。どうやら怒りに燃えているようですわね。私はリリヤにだけ見える角度でベェ~ッと舌を出してやった。へんっ! ざまぁ!



「『出会いイベント』とやらを全て潰しましたわ」
 放課後、西庭でマーガレット様に報告する私。
「フローラ、やったわね。これでリリヤはバルド殿下と親しくなるキッカケを失ったわ。もう大丈夫よ。殿下がリリヤを好きになる可能性は限りなく低くなったわ」
「マーガレット様! 私、頑張りましたわ!」
「偉いわ、フローラ。よく頑張ったわね」
 わ~い! 褒められましたわ! マーガレット様に褒められると、木に登ってしまいそうである。

 私もマーガレット様も、この時点で油断しきっていた。もう何も起こらない。安心安全な学園生活が送れると信じていたのだ。




 ところが、その後暫くして、奇妙なことが起こり始めた。
 移動教室などでうちのクラスが教室を留守にした後、戻ると必ず私の物が無くなっているのだ。それは教科書だったりペン入れだったり運動着だったりした。どう考えても、私への嫌がらせだろう。
 私はその度に担任教師に届け出た。こういう事はいつ何処で何が無くなったか正確な記録を残すのが大事である。担任に届け出れば学園側に記録が残る。
 ただ、私は担任には一つ一つ全てを報告したが、バルド様にはこれらの嫌がらせについて一切話さなかった。私が嫌がらせをされていると知れば、バルド様がおとなしく学園の調査を待つはずがない。犯人探しに乗り出した挙句、最終的に犯人が血祭りに上げられる可能性が高い。バルド様は王太子なのだ。権力者なのである。アブナ過ぎる。

 しかし、とうとうある日、バルド様に見られてしまったのだ。ビリビリに引き裂かれた私の教科書を。その日、移動教室の後、自分の教室に戻った私は、無くなった物がないかチェックしていた。すると、机の中にあった私の教科書が引き裂かれてボロボロになっていたのだ。周りに見られないよう、すぐに机の中に戻そうとしたのだが、運悪くバルド様に見つかってしまった。
「おい、それどうしたんだ?」
「えっ? あの……」
 咄嗟に言葉が出て来ない。バルド様が私の手からボロボロの教科書を取り上げる。
「これ、お前の教科書だろ? 誰がこんな事を!?」
「……」
「フローラ。大丈夫か? これって嫌がらせだろ? 畜生! 誰だ!?」
「……」
「フローラ。もしかして初めてじゃないのか?」

 仕方ない。白状しますわ。
「……はい。破られたのは初めてですが、ここのところ学園で私の物が無くなるという事が続いておりまして……」
「続いてた? なぜ俺に言わなかった?」
「担任には全て報告してありますの。学園側に調査を任せようと思いまして。その……バルド様はきっととてもお怒りになると思ったので、言わない方がいいかな~なんて」
「フローラが嫌がらせなんかされたら怒るに決まってるだろ!」
「はい……」
 まぁ、そうですわよね。

「もっと俺を頼れ! 俺はお前の婚約者だろ?」
「はい」
「お前が心配するような暴走はしない。怒りに任せてムチャクチャな事をしたりはしない」
 本当かな~? 犯人を見つけても、いきなり処刑とかやめてくださいね。
「あの、この教科書を持って担任に届け出に行きます。バルド様、一緒に来てくださいますか?」
「勿論だ。今までの記録を俺も見せてもらうぞ。いいな?」
「はい」

 私とバルド様は、連れ立って担任の元へ行った。

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