魔法使いクラウディア

緑谷めい

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7 背負い投げ~!

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 例の迷惑系魔法使いは【パウル】という名だった。ちょっと調べれば直ぐに特定できた。平民なので姓は無いらしい。そしてクラウディアの予想通り、パウルはつい最近成人(この国では15歳)を迎え、王宮魔法使いに任用されたばかりだった。新人のくせに自信過剰で自分以外の者をナチュラルに見下すパウルは、既に他の王宮魔法使い達から大層嫌われているようだ。わかるわぁ~。アイツのあの尊大な態度。何様よ? ってなるよね~。
 
 クラウディアは王宮でパウルに嫌がらせをされた件を誰にも話さなかった。
 一緒にいた侍女にも口止めをすると「お嬢様、どうしてですか? 王宮に訴え出て、あの者に罰を受けさせるべきではないですか?」と不服そうに問われた。なので「罰は私が与えるわ」と答えると、何故か彼女は嬉しそうに「私刑? 私刑ですね? やっぱり拷問ですか? さすがです、お嬢様!」と目を輝かせたのである。おいおい。

 拷問を楽しみにしている? 侍女には申し訳ないが、実はクラウディアは、あの日あの時あの場所(王宮)で、逃げ出したパウルの背に向けて既に”戒め”の魔法を掛けていた。
 その魔法とは、パウルが命じられた任務以外の魔法を勝手に使おうとすると、彼の右眼が突如疼き始め魔法の発動が無効になる、名付けて【う、俺の右眼がぁ?! 魔法】である。相変わらずクラウディアに命名センスは無い。だが、これでパウルが悪戯魔法を発動させて他人に迷惑をかける事態は阻止できるはずだ。あの手のヤカラは例え100回説教されても、重いペナルティをくらっても、どうせ悪さをやめやしない。力を封じてしまうのが一番手っ取り早く世の為人の為になるのである。
⦅我ながら良い仕事をしたわぁ~⦆
 自己満足に浸るクラウディア。
 
 


 次の週末。
 クラウディアは王妃教育を受ける為、いつものように王宮を訪れていた。
 侍女を連れて講義室に向かっていると、またまた現れた迷惑系魔法使いパウル。

「あら、ごきげんよう。パ・ウ・ル♡」
 にっこり微笑むクラウディア。
「な、何故、俺の名を知っている?」
「オホホ。だって、アナタったら王宮の有名人なんだもの。自意識過剰で尊大な態度を取るクソ生意気な新人魔法使いを知らない? って尋ねたら、誰もが異口同音に『それはパウルです』って教えてくれたわよ」
「くっ……」
「それで? 着飾っているだけの貴族令嬢に何か用かしら?」
「お前、本当にいちいち嫌味ったらしいな」
「それほどでもぉ~(もじもじ)」
「褒めてないぞ!」
「わかってるわよ。何? 用があるならサッサと言いなさいよ」

「お前。先週、俺に何かしただろう?」
 胡散臭そうな目でクラウディアを見るパウル。
「え? いかがわしい事は何もしてないわよ?」
「ちがっ、違う! 任務以外の魔法が全く使えなくなったんだ! 俺の魔法を封じたのはお前だろう? タイミング的にお前の仕業だとしか思えん!」
「その質問聞こえませ~ん。悪いけど、予定があるからもう行くわね」
「ま、待て!」
 ちっ。しつこいな、とクラウディアが舌打ちをすると同時に、パウルが突然右眼を押さえ、膝から崩れ落ちた。
「う、俺の右眼がぁ」
 コイツ、懲りずに迷惑魔法を繰り出そうとしやがったな。クラウディアは冷めた目で苦しむパウルを見下ろした。
「まだ分からないの? 魔法を悪さに使うなんて王宮魔法使いがすることではないわ。恥を知りなさい! 恥を!」

「……俺は凄いんだ……誰よりも凄いんだ……お前なんかに何が分かる?」
 疼く右眼を押さえながらそう呟くと、パウルはヨロめきながら立ち上がり、何とクラウディアに手を伸ばし胸倉を掴もうとするではないか。瞬時に自分に身体強化魔法を掛けるクラウディア。
「魔法を封じられたら今度は暴力? 魔法使いの風上どころか、男の風上にも置けないわね!」
 そう言うや否や、クラウディアはパウルを投げ飛ばした。背負い投げ~。
「さすがです! お嬢様!」
 声を弾ませるアラサー侍女。
「どんなもんだ~い!」
 と、侍女に笑顔でVサインを送るクラウディア。
 
 しかし、振り返るとパウルが床に伸びたまま動かなくなっていた。 
 ⦅ヤベっ、死んじゃった?⦆
 一瞬焦ったクラウディアだが、確かめると息をしていた。思わずホッとする。さすがに死者を蘇らせた経験は無いからね。

「お嬢様。これからがお楽しみタイムです」
 侍女がそう言ってクラウディアに見せたのはペンチだった。
「え? は? ペンチ? それ、どこに隠し持ってたの?」
「ペチコートの下です。さぁ、お嬢様。このヒヨッコ魔法使いの手足の爪を一枚ずつペンチで剥がしていきましょう。まず最初は私から。それ、い~ちま~い――」
「ちょっ、待ちなさい! ストップストップストップー!!」
 クラウディアは慌てて侍女を押しとどめた。
「爪を剝ぐなんてダメよ。いくら何でも酷過ぎるでしょ? こんな不良魔法使いだって人の子なのよ」
 アラサーの侍女を13歳のクラウディアが懸命に諭す。すると侍女は涙ぐみながら言った。
「お嬢様はお優し過ぎます」
 いや、アンタが猟奇的なだけだからね!
 



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