7 / 8
7 背負い投げ~!
しおりを挟む例の迷惑系魔法使いは【パウル】という名だった。ちょっと調べれば直ぐに特定できた。平民なので姓は無いらしい。そしてクラウディアの予想通り、パウルはつい最近成人(この国では15歳)を迎え、王宮魔法使いに任用されたばかりだった。新人のくせに自信過剰で自分以外の者をナチュラルに見下すパウルは、既に他の王宮魔法使い達から大層嫌われているようだ。わかるわぁ~。アイツのあの尊大な態度。何様よ? ってなるよね~。
クラウディアは王宮でパウルに嫌がらせをされた件を誰にも話さなかった。
一緒にいた侍女にも口止めをすると「お嬢様、どうしてですか? 王宮に訴え出て、あの者に罰を受けさせるべきではないですか?」と不服そうに問われた。なので「罰は私が与えるわ」と答えると、何故か彼女は嬉しそうに「私刑? 私刑ですね? やっぱり拷問ですか? さすがです、お嬢様!」と目を輝かせたのである。おいおい。
拷問を楽しみにしている? 侍女には申し訳ないが、実はクラウディアは、あの日あの時あの場所(王宮)で、逃げ出したパウルの背に向けて既に”戒め”の魔法を掛けていた。
その魔法とは、パウルが命じられた任務以外の魔法を勝手に使おうとすると、彼の右眼が突如疼き始め魔法の発動が無効になる、名付けて【う、俺の右眼がぁ?! 魔法】である。相変わらずクラウディアに命名センスは無い。だが、これでパウルが悪戯魔法を発動させて他人に迷惑をかける事態は阻止できるはずだ。あの手のヤカラは例え100回説教されても、重いペナルティをくらっても、どうせ悪さをやめやしない。力を封じてしまうのが一番手っ取り早く世の為人の為になるのである。
⦅我ながら良い仕事をしたわぁ~⦆
自己満足に浸るクラウディア。
次の週末。
クラウディアは王妃教育を受ける為、いつものように王宮を訪れていた。
侍女を連れて講義室に向かっていると、またまた現れた迷惑系魔法使いパウル。
「あら、ごきげんよう。パ・ウ・ル♡」
にっこり微笑むクラウディア。
「な、何故、俺の名を知っている?」
「オホホ。だって、アナタったら王宮の有名人なんだもの。自意識過剰で尊大な態度を取るクソ生意気な新人魔法使いを知らない? って尋ねたら、誰もが異口同音に『それはパウルです』って教えてくれたわよ」
「くっ……」
「それで? 着飾っているだけの貴族令嬢に何か用かしら?」
「お前、本当にいちいち嫌味ったらしいな」
「それほどでもぉ~(もじもじ)」
「褒めてないぞ!」
「わかってるわよ。何? 用があるならサッサと言いなさいよ」
「お前。先週、俺に何かしただろう?」
胡散臭そうな目でクラウディアを見るパウル。
「え? いかがわしい事は何もしてないわよ?」
「ちがっ、違う! 任務以外の魔法が全く使えなくなったんだ! 俺の魔法を封じたのはお前だろう? タイミング的にお前の仕業だとしか思えん!」
「その質問聞こえませ~ん。悪いけど、予定があるからもう行くわね」
「ま、待て!」
ちっ。しつこいな、とクラウディアが舌打ちをすると同時に、パウルが突然右眼を押さえ、膝から崩れ落ちた。
「う、俺の右眼がぁ」
コイツ、懲りずに迷惑魔法を繰り出そうとしやがったな。クラウディアは冷めた目で苦しむパウルを見下ろした。
「まだ分からないの? 魔法を悪さに使うなんて王宮魔法使いがすることではないわ。恥を知りなさい! 恥を!」
「……俺は凄いんだ……誰よりも凄いんだ……お前なんかに何が分かる?」
疼く右眼を押さえながらそう呟くと、パウルはヨロめきながら立ち上がり、何とクラウディアに手を伸ばし胸倉を掴もうとするではないか。瞬時に自分に身体強化魔法を掛けるクラウディア。
「魔法を封じられたら今度は暴力? 魔法使いの風上どころか、男の風上にも置けないわね!」
そう言うや否や、クラウディアはパウルを投げ飛ばした。背負い投げ~。
「さすがです! お嬢様!」
声を弾ませるアラサー侍女。
「どんなもんだ~い!」
と、侍女に笑顔でVサインを送るクラウディア。
しかし、振り返るとパウルが床に伸びたまま動かなくなっていた。
⦅ヤベっ、死んじゃった?⦆
一瞬焦ったクラウディアだが、確かめると息をしていた。思わずホッとする。さすがに死者を蘇らせた経験は無いからね。
「お嬢様。これからがお楽しみタイムです」
侍女がそう言ってクラウディアに見せたのはペンチだった。
「え? は? ペンチ? それ、どこに隠し持ってたの?」
「ペチコートの下です。さぁ、お嬢様。このヒヨッコ魔法使いの手足の爪を一枚ずつペンチで剥がしていきましょう。まず最初は私から。それ、い~ちま~い――」
「ちょっ、待ちなさい! ストップストップストップー!!」
クラウディアは慌てて侍女を押しとどめた。
「爪を剝ぐなんてダメよ。いくら何でも酷過ぎるでしょ? こんな不良魔法使いだって人の子なのよ」
アラサーの侍女を13歳のクラウディアが懸命に諭す。すると侍女は涙ぐみながら言った。
「お嬢様はお優し過ぎます」
いや、アンタが猟奇的なだけだからね!
137
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる