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4 そうさ 蝶になって 学園を舞って
しおりを挟む翌日。クラウディアは変身魔法で蝶になっていた。
昨日の放課後にギルベルトから兄の浮気疑惑を聞かされたクラウディアは、とりあえず現状を確認してみようと考えたのだ。
クラウディアやギルベルトが学んでいる1年生の棟と最終学年である兄達6年生の棟は、広大な学園の敷地の中でかなり離れた場所にある。日頃、学園で兄の様子を見ることが無かった為、クラウディアは兄が婚約者を蔑ろにしていることに全く気付いていなかったのだ。
蝶に変身したクラウディアは学園の敷地を優雅に飛んでいた。授業をぶっちしたりはしていない。今は休み時間だ。
「そうさ 蝶になって 学園を舞って 学年を超え~♫」
空を飛ぶ気持ち良さに本来の目的を忘れ、ついつい鼻歌まで出てしまうクラウディア。
が、6年生の棟に隣接する学園東庭に辿り着くと、そんな浮かれ気分は吹き飛んだ。
兄ゲオルクと見るからにあざとそうな女が東庭のベンチで密着していたのだ。派手なピンク色の髪をしている。あの女がギルベルトの言っていた「リリー」に違いない。二人の真上に移動する蝶のクラウディア。
「ゲオルクさまぁ~。アマーリエ様が私をイジメるんですぅ。しくしく」
「え? アマーリエが君を? あぁ、可哀想なリリー!」
⦅んな訳あるかー! アマーリエ様がイジメなんてくだらない事をするはず無かろうが!⦆
バカどもの三文芝居にイラッとするクラウディア。
リリーは兄の肩にしなだれかかり、ウソ泣きをしていた。涙、出てませんから~! そして、驚いたことに、彼女はウソ泣きをしながら何ともイヤらしい手つきで兄の太ももを撫で回しているではないか!? 更に更に手が滑った振りをして、兄の太ももの付け根ギリギリまで手を伸ばすリリー。いや、そんなギリギリを攻めたら兄のナニが反応しちまうのでは?! 蝶のクラウディアは仰天した。びっくりぽんどころの騒ぎではない。嫁入り前の貴族令嬢――いや、平民であっても素人の女性はそんな破廉恥な事はしないはずだ。
⦅想像以上のズベ公(王国の古い言葉で”品行の悪い女性”の意。罵りの意味を込めた表現)じゃん?!⦆
驚きのあまり蝶の姿が解けそうになり、急いで変身魔法を自身に上掛けするクラウディア。慌てた所為でやけに大きなカラスになってしまった。天才魔法使いクラウディアにも失敗はあるのだ。
「カァカァカァカァカァカァ!!(バカ兄貴にズベ公! これでもくらえ!)」
大きなカラスになったクラウディアはナイスなタイミングで便意を催した為、兄とリリーの頭頂部にたっぷりのフンをお見舞いしてやった。色んな意味でスッキリした。そして直ぐに可憐な蝶の姿に戻ると、アマーリエを探しにひらひらと飛んで行ったのである。
「うわっ!? 汚ねぇ!?」
「キャー!? 私の髪にフンがー!? イヤァー!?」
後ろから破廉恥カップルの悲鳴が聞こえたが、知らん!
アマーリエは教室にいた。友人に囲まれ、何やら話をしている。
蝶のクラウディアは開いている窓からひらひらと教室の中に侵入し、アマーリエ達の近くまで飛んで行った。
彼女たちの話題は、案の定、兄ゲオルクとリリーのベタベタイチャイチャ振りについてだった。
「アマーリエ様。リリーを放って置いてよろしいのですか?」
友人の一人がアマーリエに問うた。別の友人達も、
「リリーに注意なさった方がよろしいのでは?」
「そうですわよ。婚約者のいる男性に近寄るなんて言語道断です。アマーリエ様からビシッと仰った方が――」
と、口々に言う。
だが、アマーリエは苦笑いを浮かべ、冷めた口調で一言こう言った。
「あの女に関わりたくないのよ」
ふむふむ。確かに侯爵家の令嬢アマーリエがあんなズベ公を相手にする必要はない。リリーという女にそんな価値はないのだ。
アマーリエは、婚約者である兄の浮気に傷付いていると言うよりも【呆れている】という風に見える。まぁ、そりゃそうか。バカバカしくなっちゃうよね……
このままでは、兄がアマーリエに見限られるのは時間の問題だ――と、クラウディアは危機感を覚えた。
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