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12 初めての”祈りの儀”

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「家族や友人が心配してると思うんです。神官長だって人の子でしょ? わかるでしょう?」
「ええ、もちろん。私だって人の子であり、また人の親でもありますから。トメ様の御両親がどんなに心配なさっているか、想像することは出来ます。本当に申し訳ございません」
「?! 神官長って子供さんがいるの? 結婚してるの? 聖職者なのに?」
「聖女様が自由に恋愛も結婚も出来るように、我々神官も結婚は自由なのです。聖リリュバリ神は『繁栄』の加護を授けて下さる女神だと講義でもお話ししましたよね。それ故、むしろ結婚して子をなす事は神の望まれる事なのです」
「へぇ~、そうなんだ。ねぇねぇ、神官長の奥さんってどんな人?」
「べ、別にどうでもよろしいでしょう? そんな事は」
「教えてくれたって、いいでしょ?」
「そ、そんな事はどうでも良いのです!」
「何よ! ケチくさ!」
「えっ? ケチく……?」

 ふんっ! と、彩音はソッポを向いた。
「もう、いいです! 家族に連絡出来ないなら仕方ありません。トットと講義を始めてください!」
「トメ様。どうか、投げやりにならないで下さい。一方的な召喚が非人道的な行いであることは、我々も重々承知しております。お許しいただけるとは思いませんが――」
「……この国では、もう1800年も聖女召喚が行われているんでしょう? それを現在の神官長である貴方の責任だとは、さすがに思いません。ただ私は、突然私が消えてしまって、きっと心配して心身ともに疲弊しているであろう家族のことを案じているだけです」
「トメ様……本当に申し訳ございません……」
 神官長は苦渋の表情でそう言うと、項垂れた。

 やっぱりダメかー。
 彩音は溜め息を吐いた。けれど、目の前で項垂れている、この神官長を責めたところで、どうしようもないのだ。彩音は神官長の肩をポンポンと軽く叩いた。
「神官長! ドンマイ!」







 1ヶ月に亘る事前教育のプログラムを終え、ついに彩音は本殿にて聖リリュバリ神に祈りを捧げることとなった。
 教わった手順通りに”祈りの儀”を進める彩音。静かに祈りを捧げた後、彩音は自分の後ろにズラッと並び、ともに祈っていた神官達の方を振り返る。
「さぁ、皆さん! 最後に全員で大きな声で御唱和下さい!」
 過去の”祈りの儀”では、最後の唱和など無かった。新聖女トメの言葉に戸惑う神官達。彩音はお構いなしに続ける。

「皆さん、わたしの後に続いて下さいね。いきますよ! ”おーい、雲よ! 聖リリュバリ神のところまで行くんかーい!”」
「「「「「「「「「「おーい、雲よ!」」」」」」」」」」
「「「「「「「聖リリュバリ神のところまで行くんかーい!」」」」」」」

「あれが聖リリュバリ神! あの光るのが聖リリュバリ神!」
「「「「「「「「「「あれが聖リリュバリ神!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「あの光るのが聖リリュバリ神!」」」」」」」」」

「我らリリュバリ信仰に一片の悔いなし!」
「「「「「「「「我らリリュバリ信仰に一片の悔いなし!」」」」」」」」

「御唱和ありがとうございました! これにて本日の祈りの儀を終了致します!」
「「「「「「「「「「「「「「うぉー!!!!!」」」」」」」」」」」」」

 実に盛り上がった。
 ⦅ なかなか上手くいったじゃん! ⦆ 
 彩音は上機嫌だった。ちなみに最後に神官達と唱和して締めるというのは、彩音の発案だ。「皆で大きな声を出すってスッキリするでしょ? 気分良く祈りの儀を終えられると思うんです」と、言ったら、神官長が「それは、良いかもしれませんね。皆、一体感も得られるでしょう」と、採用してくれたのだ。


 そして、今日の儀は初めて新聖女が行う”祈りの儀”である為、特別に王族も出席していた。
「いや~。トメ、素晴らしかったよ」
 そう言いながら、国王が彩音の手を握ってくる。握手にしては、ちょっとイヤらしい感じ。
「父上! トメに触れないで下さい!」
 彩音の手を握っている国王の右手を躊躇なく叩き落とす王太子チェーリオ。
「お前! 不敬だぞ!」
「父上が聖女にセクハラするからですよ!」
「握手しただけだろうが!」
「オッサンの握手はセクハラです!」
「ヒドい!」
 相変わらず国王と王太子の喧嘩は、平民の親子喧嘩と何ら変わらない。

 彩音はギャーギャー揉めている二人を無視して、初対面である第2王子と第1王女に挨拶をした。王太子チェーリオの弟と妹である。チェーリオは正妃の子だが、年の離れた弟と妹は側妃の子らしい。
「初めてお目に掛かります。トメと申します。よろしくお願い致します」

 第3側妃を母に持つ第2王子は、まだ13歳。第5側妃を母に持つ第1王女は11歳だそうだ。二人とも綺麗な子だ。
 第2王子は首を竦めて彩音に謝った。
「トメ、すまない。父上と兄上がみっともない事を……」
「いえいえ。仲がおよろしいからこそ、遠慮なく言い合っておられるのでしょう」
 そう言う彩音をじっと見つめながら、第1王女が、
「トメは本当に美しいのね。こうやって近くで見ていると、女の私でさえ、その神秘的な黒い瞳に吸い込まれそうですもの。お父様やお兄様が夢中になってしまうのも分かるわ」
 などと言うではないか――彩音は頭痛がしてきた。




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