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11 お兄様の結婚
しおりを挟む別邸でのセスト様との暮らしは快適だった。コリンヌの居る本邸での生活は、自分で思っていた以上に私の心身にストレスを与えていたらしい。別邸に移ってからというもの、私は深く眠れるようになり体調も良くなった。
私たち夫婦が別邸に移り住んで3ヶ月が経った。
今日は、私のお兄様の結婚式がとり行われる。もちろん、私とセスト様もそろって出席する。
お兄様は4年前から婚約していて、本当はもっと早く式を挙げる予定だったのだが、領地で自然災害が続いた為に予定が延び延びになっていた。私がセスト様と結婚して得たベルクール家からの支援金で領地の復興の目途がつき、ようやくお兄様も結婚をする運びになったのだ。本当に良かった。
滞りなく結婚式が終わり、披露パーティーが始まった。
パーティーには第一騎士団のお仲間がたくさん来ていらっしゃる。もちろんマティアス様も。マティアス様はお兄様の親友なので式にも参列してくださっていた。けれど……今日のマティアス様はどこか変だ。何だか無理して笑顔を作っていらっしゃるみたい。一体、どうなさったのかしら?
披露パーティーの最中に、マティアス様が一人でテラスに出て行かれるのを見かけた。セスト様は私の親戚に取り囲まれていらっしゃる。私はこっそりマティアス様を追いかけてテラスに出た。様子のおかしいマティアス様のことが気になったからだ。
テラスに出ると、マティアス様は一人で夜空を見上げていらした。
「マティアス様」
背後からそっと呼びかける。振り返るマティアス様。
「ロザリーか」
「どうなさったのですか? 今日のマティアス様は何だかいつもと違いますわ」
「はは、ロザリーには敵わないな……幸せそうな新郎新婦を見て羨ましくなったんだよ」
「……マティアス様はご結婚されませんの? いまだに婚約者もいらっしゃらないのは何か理由がおありなのですか?」
「好きな人がいるんだ」
マティアス様は、サラッと口にされた。驚きである!
「えっ? その方とは結婚出来ないご事情でも?」
「ああ、結婚出来ない。なぜなら、私の想い人は今日結婚してしまったからね」
今日、結婚した? 今日、結婚? 今日……!? えーっ!?
「ま、まさか!?」
思わず声が上ずる私。
「そう、そのまさかだよ。驚いた? もちろん私の気持ちは伝えていない。ずっと自分の心の中だけに秘めた恋だ」
マティアス様は自嘲気味に笑みを浮かべる。そんな……まさか……そうでしたの?!
「まさか、お兄様のことを想っていらしたなんて!?」
何ということでしょう! 私の過去4年間に亘る恋敵が、まさかお兄様だったなんて!?
「は?」
マティアス様が固まった。んん? どうされました?
「ち、ち、ちがーう! 違う! 違う! 花嫁の方だ!」
「えーっ!?」
のけ反る私。
「何で、そこで驚くんだ!?」
「私はてっきり、お兄様のことがお好きなのだと……」
「だ・か・ら! どうしてそっちなんだ!? 普通に考えろよ! 普通に!」
「あら、何が普通かなんてことは、人によって違いますのよ。私はソチラの方面に偏見は持っておりませんわ」
「ロザリー、話がズレてる! 今、そんな議論をするつもりはない! 私は男に興味はない! 女性が好きなんだ!」
まさか、マティアス様がお兄様の婚約者にずっと懸想されていたなんて……。そして今日からは、もう婚約者ではない。彼女はお兄様の妻になったのだ。
「どんなに愛しても他人の妻ですわよ」
「わかってる」
「どうして私に打ち明けられたのです?」
「ロザリーは、私に真っ直ぐ気持ちを伝えてくれただろう? あの時、隠し事をしている自分が恥ずかしくて情けなかった。今、ロザリーに本当の事を話してスッキリしたよ」
そうでしたの……
「マティアス様、お兄様の家庭を壊さないでくださいね」
「当たり前だろ! 今まで何年も隠してきた気持ちだ。これからも隠し続けるだけだ」
ずっと彼女を想い続けるおつもりなの?
「他の女性に目を向けられては如何ですの? きっとマティアス様に相応しい方が見つかりますわ」
「……そうだな。いつか他の女性を想うことが出来ればいいな」
そうおっしゃるマティアス様の瞳が心なしか潤んでいる。マティアス様……抱きしめて差し上げたい。けれどダメだわ。そんなことをしたらセスト様に申し訳が立たないものね。
「マティアス様。私、会場に戻りますね」
「ああ。ロザリー、聞いてくれてありがとう」
「マティアス様! 元気を出してくださいませ! ファイト! ですわ!」
「ははは、ありがとう。ロザリー」
去ろうとして背を向けた私に、ふいにマティアス様が尋ねた。
「ロザリー。今、幸せかい?」
私は振り返って微笑んだ。
「ええ。とても、幸せですわ」
マティアス様は柔らかく笑って、
「そうか。良かった」
と、おっしゃった。私は心の中で”ですから、マティアス様もいつかどなたかとお幸せに”と呟いた。
パーティー会場に戻ると、セスト様が私を探していた。
「ロザリー! どこに居たんだ? 探したんだぞ!」
口を尖らせるセスト様。
「セスト様、申し訳ありません」
「もう、私から離れたらダメだからね」
「はい、セスト様」
私はセスト様の腕に自分の腕を絡めた。
「ずっとこうしていましょう。これなら離れませんわ」
セスト様を見上げてそう言うと、
「う、うん。そうだな」
セスト様の口元が緩む。ふふふ。その後、私たち二人はずっとくっついていた。
多くの招待客に祝福されているお兄様と花嫁は幸せそうな笑顔だった。二人は貴族には珍しい恋愛結婚なのだ。4年前、お兄様が彼女に猛アタックをしたらしい。お兄様は積極的で押しが強いからなー。彼女はグイグイ来るお兄様に惹かれたようだ。以前、本人から聞いたことがある。
「私は、ぼぉ~っとしてるから、引っ張ってくれる殿方が良いの」
と言っていた。彼女はおっとりして可愛らしい女性だから何となくわかる。そしてお兄様は、そんな彼女を「アイツは放って置けない。守ってやりたくなる」ですってー。このこのぉ! 日頃は自分の恋バナなんてしないお兄様が、2年くらい前に酔っ払って帰って来た時、デレデレしながらそう言っていた。結局、二人はお似合いなのだ。きっとこのまま、仲睦まじい夫婦になるわね。
パーティーでは、第一騎士団のお仲間が「余興」と称して"アームレスリングトーナメント”を始め、新婦側の友人だろう若い女性客達がキャーキャー黄色い声を上げていた。いつの間にか会場に戻っていたマティアス様も参加して次々と相手を倒し勝ち上がっていかれたが、決勝戦で惜しくも団長様に破れた。
他の騎士から、
「マティアス! 団長に忖度しただろ!?」
「そんなに出世したいのか!?」
と野次が飛び、周りからドッと笑いが起きる。団長様が、
「コラァ! お前ら! 俺が実力で勝てないとでも思ってんのかー!」
と一喝し、さらに会場に笑いが広がった。
披露パーティーは大層盛り上がり、夜遅くまで続いた。
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