11 / 12
11 人妻になったよ
しおりを挟むそうこうしているうちに、あっという間に半年が過ぎた。
17歳の誕生日にアンヌはエドモンの妻となった。
そう。エドモンが早々に決めていた結婚式の日取りはアンヌの誕生日だったのである。婚約直後にそのことを知ったアンヌは「惚れてまうやろ~」と身悶えしたものだ。【デキる男】はこういうところが違うのだとアンヌは学習した。
結婚式は盛大だった。(公爵家が全額負担してくれると言うので)遠慮なく贅の限りを尽くしたウェディングドレスを身に纏ったアンヌは、参列者達から「綺麗」「美しい」と絶賛されて大満足だ。童顔で子供っぽいアンヌは普段「可愛い」としか言われないので物凄く嬉しかったのである。これがウェディングドレスマジックというヤツか?
もちろん新郎のエドモンは一番最初に「綺麗だよ、アンヌ」と言ってくれた。照れるわ~。
式後にビュシェルベルジェール公爵邸で催された結婚披露パーティーでは、家族や友人達、その他多くの招待客がアンヌとエドモンを囲んで口々に二人の門出を祝ってくれた。アンヌが「今までで1番幸せな誕生日だわ」と感激していると、なんと幼馴染のジスランがもはや【ネタ】と化している毎年恒例の誕生日プレゼント(動物の縫いぐるみシリーズ)を渡してくるではないか。包みの中から出て来た大きな【ゴリラ】の縫いぐるみに一同大笑いだ。完全に余興である。やるじゃん、ジスラン! パーティーは大いに盛り上がった。
半年前に王太子の【婚約者候補】を外された時には、こんな風に幸せな日が訪れるなど想像もしていなかった――あれほど王太子妃になることに固執していた日々が、今のアンヌには遠く600年くらい前のことのように思える。
何であんなに必死だったんだっけ?
⦅ああ、そうだ。あの女に負けたくない一心だったんだわ⦆
アンヌは大嫌いなオレリアに負けたくないからという理由で王太子妃を目指していた。
けれど、エドモンと婚約してからは、王太子のことは勿論、何故かオレリアのことも一気にどうでも良くなったのである。
⦅不思議ね。あんなにあの女のことが嫌いで絶対に負けたくないって思ってたのに、今では何も感じないのよね。もちろん好きではないけれど、もはやどうでもいいっていうか、関心を持てなくなったというか……⦆
もしかすると、エドモンとの婚約以来ずっと彼の深い深い愛に包まれ、アンヌ自身が満ち足りた日々を送っているからかもしれない。アンヌの心はかつてないほど凪いでいた。
心配していた初夜も何とか無事に全うすることが出来た。
予想通りエドモンのモンは凄かった。【月刊貴族令嬢】に図解入りで記載されていた王国男性平均サイズよりもずっと大きいと、男性経験の無いアンヌが一目見て分かるほどに。
ビビりまくるアンヌにエドモンはこう言った。
「驚かせたかい? 我がビュシェルベルジェール公爵家の男は代々馬面で、コレも大きくてね。なので我が家の男には代々妻に痛い思いをさせぬ為の【秘技】が伝えられているんだ。私も父から伝授されている。だから安心してくれ。アンヌ」
【秘技】ってどんな!? とアンヌが戸惑っているうちにあれよあれよとコトは進み、気が付けば本物の夫婦になっていた。すごいぞ!【秘技】!?
エドモンは終始優しく、アンヌに気を遣ってくれた。
背中の傷痕にそっと口付けてくれた時は涙が出そうだった。
労わるような慈しむような愛おしむようなその温かい口付けを、アンヌは生涯忘れないだろう。
この人と結婚して良かったと、アンヌは心から思った。
結婚後は公爵邸から毎日学園に通うようになったアンヌ。
あの事件の後、王太子の【婚約者候補】を外されたアンヌは、同時に学園生徒会の書記も外されていた。もともと王太子との交流を深める為に指名されていたのだから当然と言えば当然だ。
毎週末王宮で受けていた王妃教育ももちろん無くなり、以前と比べ格段に時間の余裕が出来たアンヌ。放課後や休日にエドモンと街デートを楽しんだり、友人達を公爵邸に招いてお茶会をしたり、ちょいちょい実家に遊びに行ったり、公爵夫人(姑)と一緒にショッピングに出掛け遠慮なく欲しいモノをオネダリしたりしながら、毎日を楽しく気ままに過ごしていた。
そんなある日。嬉しい知らせが届いた。アンヌの幼馴染ジスランと友人巨乳令嬢ソフィがついに婚約したのだ。
ビゴー伯爵邸(ジスランの家)で催された婚約パーティーに夫エドモンとともに招かれたアンヌは大はしゃぎだった。何せジスランとソフィのキューピッドはアンヌなのだ。
「ジスラン、ソフィ。おめでとう! 2人が結ばれて本当に嬉しいわ!」
「ありがとう、アンヌ。お前のおかげだ」
照れくさそうに礼を言うジスラン。
「アンヌちゃん。本当にありがとう」
ソフィは目に涙を浮かべている。
「泣くなよ、ソフィ」
と言いながらソフィにハンカチを渡すジスラン。
「泣いてなんかいないわ」
プイっと顔を背けただけで胸がゆっさゆっさ揺れる巨乳のソフィ。羨ましい。
「いや~、めでたい! よしっ! 今夜は無礼講よ! 飲もう飲もう!」
「お、おい。アンヌ。なに勝手なことを!?」
ビゴー伯爵家主催のパーティーだというのに勝手に無礼講宣言する妻に慌てるエドモン。だが上機嫌のアンヌは、夫の言葉など耳に入らない。他の招待客達とよく分からないゲームなどを始めて盛り上がっている。
ずいぶん酒を飲みイイ感じに出来上がってきたアンヌは、更に面白いゲームを思いついた。我ながら着想がグーだと思う。
「次のゲームはね。ジャジャーン【『ビュシェルベルジェール公爵家』って早口言葉で10回言えるまで帰れまテン】だよ! 噛まずに10回言えるかな!? それじゃあ、まず私が挑戦するね! アンヌ、いきまーす! ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家楽ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家びゅしぇるじぇるじぇる――あっ~! 噛んだ! 残念! 次は私の最愛の夫エドモン・ビュシェルベルジェールが挑戦しま~す!」
勝手にエドモンを指名するアンヌ。
「はぁっ? 何で私が!?」
「いいからいいから。ほら、エドモン様! 頑張って!」
「……アンヌに応援されたらやむを得んな。いくぞ! ビュシェルベルジェール公爵家の跡取りの名に懸けて! ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家ビュシェルベルジェール公爵家びゅしぇるじぇるべーる……うおぉーっ!?」
あともう少しのところで噛んでしまったエドモンが頭を抱える。
招待客達は皆、大爆笑だ。
楽しいパーティーは深夜まで続いた。
84
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説

幽霊じゃありません!足だってありますから‼
かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。
断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど
※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ
※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる