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5 王妃教育が始まったよ
しおりを挟む毎週末、王宮に通い王妃教育を受けるようになったアンヌ。平日は毎日学園で授業を受け、放課後には生徒会の仕事もしているのだ。なかなかに忙しい日々である。
もちろんオレリアも同じスケジュールなのだが、優秀なオレリアは学園の勉強も生徒会の仕事も王妃教育も涼しい顔でサラッとこなしてしまう。オレリアと同じ事をこなすのに倍以上の時間がかかるアンヌは毎日がいっぱいいっぱいだった。学園の課題も生徒会の仕事も王妃教育もアンヌなりに一生懸命頑張っているのだが、悲しいかな全てにおいてオレリアの様にすんなりとはいかないのである。
毎週末、オレリアと共に王妃教育を受けていると、イヤでも己とオレリアの能力差を実感する。もちろん学園でも充分に感じていたのだが、王妃教育の内容は学問だけでなく実に多岐に渡る為、本当に何もかもオレリアに敵わないのだと打ちのめされるのだ。
けれど、アンヌは決して諦めなかった。
「私はなる! 王太子妃に!」
アンヌの揺るがない思いとそのガッツに、王太子妃を目指すことに懐疑的だった家族もようやくアンヌを応援してくれるようになった。幼馴染のジスランもだ。
「アンヌ。お前のガッツには脱帽だよ。毎日居残りして生徒会の仕事を頑張って、その上週末は王妃教育も受けて、その王妃教育でも講義が終わってオレリア様が帰った後も、講師に喰らいついて質問攻めにしてるんだってな。お前、ホント凄いよ」
「……ありがとう、ジスラン。王妃教育でもあの女が一度聞いて理解できることが私には理解出来ないのよ。必死に講師に喰らいつくしかないの。きっと講師からは能力の無い人間だと思われてるし、王家にもそう報告されてると思うけど、でも、私は絶対に王太子妃になってやるわ。どうしてもあの女に負けたくないのよ」
「ああ。頑張れよ。応援してる」
「うん!」
「それでも王太子妃になれなかった時は、俺が貰ってやるから」
「え? ふざけんな!」
「おい。そこは素直に頷いとけよ!」
「頷けるか! 私を『貰ってやる』なんて、ジスランのくせに生意気よ!」
「お前、可愛くないぞ!」
「うっせーわ!」
その日も王妃教育の講義後、王宮の講義室に居残ったアンヌは講師にたくさんの質問をしていた。
「あ、なるほど。そういう意味だったんですね」
疑問が解けてニコニコするアンヌに、講師(アラフォー女性)が語り掛ける。
「アンヌ様は本当に熱心ですね。アンヌ様の王妃教育にかけるその熱意は一体どこから来るのでしょう? もしかして、王太子殿下に恋していらっしゃるのかしら?」
うふふと笑みを浮かべる講師。
「やだなぁ~、先生。そんな訳ないじゃないですか」
「あら、そうなのですか? でも殿下はアンヌ様のことをとても気にしていらっしゃるようですわよ。王妃様からお聞きしましたの」
「そりゃあまぁ【婚約者候補】の片方が落ちこぼれ気味だと気になるんじゃないですか? どうして未だに私が候補に残っているのか疑問に思ってる貴族も多そうですし、殿下にもそういう苦情? 苦言? が届いているのかも知れません」
「う~ん、そういう意味の『気にしてる』ではないと思いますが……アンヌ様にはまだ少し早いのかしら?」
「はぁ?」
「うふふふふ」
何だか意味ありげな表情の講師。
「そんな事より先生。いつもいつも講義終了後に私に付き合わせてしまってすみません。王宮から残業代はちゃんと支払われているのでしょうか?」
「え?」
講師は一瞬虚を突かれた様子だったが、こう返した。
「……王宮は15分単位で残業代が出ますから大丈夫ですよ。安心してください。個人的には手取りが増えて喜んでます」
「あ、そうなんですね。良かった~」
ホッとするアンヌ。
「アンヌ様は変なところで気を遣われるのですね」
「変ですか? お金のことは大事だと思うんですけど」
「貴族令嬢の中にはお金に頓着しない方も多いですよ。頓着しないというのは良い意味でも悪い意味でもです」
「そんなものですかね~。お金は命の次の次くらいには大事だと思うんですけどね」
「オホホ。アンヌ様は案外現実的でいらっしゃるのですね」
「私って童顔だから夢見がちな子供だと思われる事が多いんですけど、ホント心外です~」
そう言いながらプウと頬を膨らませるアンヌはやはり子供っぽいのだが、本人は気付かない。
そんなアンヌを見て温かく微笑んでいた講師が、不意に真面目な顔つきになり、アンヌに問い掛けてきた。
「アンヌ様は、もしも王太子妃になられたら、どんな事をなさりたいとお考えですか?」
「先生。『もしも』ではなく、私は必ず王太子妃になります。そして王太子妃の一番大事な務めは、王太子殿下の尻を叩き、時には蹴り上げることだと思っています」
なんの躊躇もなく、そう言い切ったアンヌ。
「え?」
思いがけない返答だったのか、講師は目を丸くしている。
アンヌは得意気に説明した。
「臣下はなかなか殿下に対して厳しい事は言えないでしょう? だから私が【鬼嫁】となって殿下にズバズバ物申して尻を叩き蹴り上げ、我が国の為に馬車馬のように働いて頂きますわ」
「……なるほど。アンヌ様はもしかしたら稀代の名妃になられるやもしれませんね」
「え? やっぱり先生もそう思います? いや~、実は自分でも薄々そうなんじゃないかな~って。えへへ」
「……(メンタル的にも王族に向いてるかも!?)」
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