【唯一魅了】で幸せになります! ~異能者セシルの結婚~

緑谷めい

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4 セシルの練習

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 外出デート双子入れ替わり事件の翌日。
 学園に登校したセシルは、アイロスとパトリスから謝罪をされた。
「「セシル嬢、本当にすまなかった」」
 二人並んで下げた頭の角度までピッタリ揃っている”シンクロ謝罪”である。
「お顔を上げて下さいませ。アイロス様もパトリス様もお気になさらないで(学園の制服を着ていると相変わらず全く見分けがつかないわね。どっちがどっちなのかしら?)」
「「いや。しかし」」
「お二人に悪気は無かったのでしょう?(ただ考えが足りないだけなのよね?)」
「「ベルティーユがあんな風に君を貶めるとは思っていなくて」」
「確かに驚きましたが、私は怒っておりませんから。ベルティーユ様は幼馴染のアイロス様に私という婚約者が出来て寂しく感じていらっしゃるのでしょう(寂しく感じる→ムカついているの意)」
「「ベルティーユにも謝罪させるよ」」
 彼女に謝る気があるとは到底思えないけれど。
 
 その日の昼食時、いつものように学園食堂で4人一緒にテーブルに着いた。ベルティーユは不貞腐れた顔をして座っていたが、アイロスとパトリスに促され「昨日は悪かったわ」と一応セシルに謝罪した。いかにも渋々といった感じではあったが、あれほど気が強く高慢ちきなベルティーユが一言でも謝ったことにセシルは驚いた。
「謝罪を受け入れます(ゴメンナサイ出来てエライね~)」
 セシルがそう言うと、双子の兄弟は安堵の表情を浮かべた。ベルティーユは面白くなさそうだったが、その日以来、彼女はあまりセシルに嫌味を言わなくなった(ゼロではない)



 
 ********




 そんなこんなであっという間に半年が経ち、4人は揃って学園を卒業した。
 そして翌月には、ベルティーユとパトリスの結婚式が盛大に執り行われたのである。もちろんセシルとアイロスも参列し、二人を祝福した。ウェディングドレス姿のベルティーユは美しかった。そのドレスはベルティーユの女性らしい曲線を強調したデザインだった。相変わらず胸もお尻も大きいのね。別に羨ましくは無い。
 
 ベルティーユとアイロスの結婚式から10日が過ぎた。
 4日後には、いよいよセシルとアイロスも結婚式を挙げる。式の日が近付くにつれ、セシルはソワソワと落ち着かなくなっていた。15歳の妹アデールにまで心配される有り様である。
「お姉様。やっぱり初夜の【唯一魅了】が上手くいくかどうかが気になりますの?」
「そうなのよ。相手としっかり目を合わせたまま例の呪文を唱えるって、簡単な事だと思っていたのだけれど、いざ本番が近付いて来たら本当に上手く出来るのかしら? って不安になっちゃって……」
「お姉様! 練習しましょう!」
「へ?」
「繰り返し練習すれば不安も消えるはずですわ。私が練習相手になりますから」
「それもそうね。ありがとう、アデール」

 こうして、セシルの私室を新婚夫婦の寝室に見立て、姉妹は初夜の模擬練習を始めた。
「アイロス様役の私が寝室に入って来るところから始めますね。お姉様は先に湯浴みを済ませて旦那様を待っているというシチュエーションです」
「な、何か、生々しくて恥ずかしいわね(照)」
「お姉様、照れている場合ではありません。本番当日は浮足立たずに気を引き締めませんと。ドキドキソワソワは失敗の元ですわよ」
 厳しい指摘をする妹。
「そ、そうね。分かったわ」
「それでは、私は一旦部屋の外に出てノックしますね」
「お願いします」

「コンコン」
「ど、どうぞ」
 妹アデールが扉を開けて部屋に入って来た。
 先手必勝だと考えたセシルは、アデールに駆け寄り、いきなり話し掛ける。
「アイロス様! 私の目を見てください!」
「は? いきなり?」
 驚いた表情のアデールがセシルの顔を見た。目が合う。
 今だ! 急げ!
「テクマクマヤ――「ストーップ! ストップ! ストップ!」」
「え? 何で止めるの?」

「お姉様! いきなり呪文を口にするなんて! 私に【唯一魅了】を掛けてどうするんですか!?」
「あ(ヤバ)」
「『あ』じゃありません! 【唯一魅了】は一度掛かれば解く術の無い恐ろしい魅了なのですのよ! お姉様だって重々承知なさってるでしょう?! だいたいお姉様はいきなり過ぎます! 普通は寝室で二人でワインでも飲んで、相手がリラックスしたところを狙うとか考えません?!」
 キレまくるアデール。
「ゴメンナサイ」
 反省するセシル。危うく実の妹に【唯一魅了】を掛けてしまうところだった。そんな事をしたら”無理心中”一択の未来しかない。ぞわっ。
「ヤバかったわね」
「お姉様がね!」
「ホントにゴメンナサイ……(アデールが怖い!)」

 その後もナンヤカンヤ姉妹で揉めたりしながらも、セシルは結婚式の前日まで連日アデールを相手役に【唯一魅了】の練習を重ねたのである。
 練習は裏切らない――はずだ。
 
 

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