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8 大陸一の旦那様
しおりを挟む2次審査を通過した10名の男子達。メロディは彼らを5名ずつ2つのグループに分けた。その2グループに課せられた最終3次審査の内容は、プロの作った楽曲及びプロの作ったコレオグラフを2週間の練習期間でマスターし、例の湖畔屋外ステージで披露するというものだった。2グループとも同じ楽曲・コレオグラフでパフォーマンスする。いわゆる「課題曲審査」である。
実はこの曲は、オーディション終了後に結成されるボーイズグループのプレデビュー曲としてリリースもする予定で書き下ろされたものだ。他にも数曲の新曲を用意し、メロディはいよいよ迫ってきたボーイズグループの大陸デビューに向けての準備を着々と進めていた。
ところが、最終3次審査を翌日に控えたその夜、メロディはパトリックから「大事な話がある」と唐突に呼び出された。このタイミングで一体何の話だろうか?
メロディが言われた通り、一人で別荘の中庭に行くと、緊張した面持ちのパトリックが待っていた。
ドキリとするメロディ。
⦅ これはもしや、エロ展開が待っているのでは!?⦆
しかし初めてが屋外というのは如何なものだろうか? やはり淑女としては「外ではダメですわ!」と拒否するべきだろうか?←そもそも婚姻前だってば!
パトリックが言いにくそうに口を開いた。
「メロディ、すまない。俺は選考を辞退するよ」
「へ?」
「あぁ。誤解しないでくれ。明日のステージでは、もちろん全力でパフォーマンスする。グループパフォーマンスだから、俺が抜けると同じグループの連中に迷惑が掛かるからな。けどオーディションの選考そのものは辞退したいんだ」
「……あの、一体どうしてですの?」
「俺はアーティストを目指しているわけではない。学園卒業後は兄上を支えていく事が自分の役割だと思ってる。なのに、ただ君の側にいたいという理由でここまで来てしまった」
「え……」
「合宿に入って平民の連中と寝食を共にするうちに、アイツらがこのオーディションに人生を懸けている事を知った。仕事を辞め、退路を断って、この合宿に参加しているヤツも複数いる。皆、デビューへの切符を手に入れようと死に物狂いで頑張っている。それに引き換え俺は……。俺の行動はただの我が儘だ。苦労知らずの王子の我が儘だったんだ。俺なりにケジメをつけたい。辞退させてくれ」
メロディはパトリックの才能を眠らせるのは惜しいと心から思った。特に彼の美しい歌声は唯一無二のものだ。だが、本人の意思は尊重するべきだろう。
「……わかりました」
「本当にすまなかった。他の参加者に対してだけじゃなく、メロディにもスタッフ達にも失礼なことをしたと思っている」
「そんな風に思わないでください。パトリック様が参加してくださって、平民の男子達にはとても刺激になったと思います。ありがとうございました」
「メロディ……ありがとう」
「明日のステージ、楽しみにしていますわ。最後に超絶カッコいいパフォーマンスを見せてくださいね。パトリック様」
「ああ。最高のパフォーマンスを披露するよ。見ててくれ」
「はい」
「それから、今更だけど……ホントに好きだよ。メロディ」
「私もですわ」
そう言ってパトリックの胸にそっと頬を寄せるメロディ。優しく抱き締めてくれるパトリック。エロ展開は無いようだ。ちょっと残念なメロディであった←おいっ?
※※※※※※
――2年後――
王宮の大ホールで、今や大陸一の売れっ子となったボーイズグループ【BFFF】がパフォーマンスを披露している。彼らをプロデュースしているメロディと、この国の第2王子パトリックの婚姻を祝福するパフォーマンスだ。
そう。今日この大ホールで催されているのはメロディとパトリックの結婚披露パーティーなのである。
実は挙式後の披露パーティーに【BFFF】が登場することはメロディには伏せられていた。彼らのステージは新郎パトリックから新婦メロディへのサプライズプレゼントなのだ。何も知らなかったメロディはびっくらこいていた。
そして2曲目のイントロが始まった瞬間、更に驚くことが起こった。メロディの隣にいたはずのパトリックが突然ステージに駆け上がり、マイクを握ったのだ。
⦅ えぇぇ!? うそぉ!?⦆
仰天するメロディ。
突如、人気ボーイズグループ【BFFF】の7人と共に歌い踊り始めた新郎パトリックを見て、招待客達も唖然としている。
そんな中、王妃だけは何故か準備万端で、パトリックの顔が描かれた扇を両手で振り回しながら「頑張れ!! パトちゃん!!」と声援を送っていた。王太子はヤレヤレといった表情で、王妃の振り回す扇が己に当たらぬよう巧みに身体を躱していたが、王太子が躱したが故に扇は国王の顔面にクリーンヒットしてしまった。倒れる国王。駆け寄る近衛騎士。もう何が何だか状態だ。
思いも寄らぬパトリックの行動に、最初はただただ驚いていたメロディだが、ステージを見ているうちに、じわじわと喜びが込み上げて来た。
何て素晴らしいサプライズだろう。メロディが手塩にかけて育成した男子達と愛するパトリックが同じステージに立ち、一緒にパフォーマンスをしている。まさに夢の共演である。これほど嬉しいことはない。
久しぶりに聴くパトリックの歌声は相変わらず美しかった。ダンスだってキレッキレッだ。惚れ惚れしてしまう……
パフォーマンスを終えたパトリックが、メロディの元に戻って来た。
「どうだった? 俺、カッコ良かった?」
悪戯っぽくメロディに問いかけるパトリック。
メロディは彼の耳に唇を寄せ、囁いた。
「最高にカッコ良かったですわ。パトリック様は大陸一の旦那様です」
新郎新婦は顔を見合わせ、微笑んだ。
大ホールは温かい拍手に包まれた――
終わり
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