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12 ある日の兄弟
しおりを挟むオリーヴを傷付けたオーバン侯爵家のアナベルと、その取り巻きども全員を王都から追い出してやった。特に直接オリーヴに怪我を負わせたアナベルについては、一生王都に戻れぬように手配した。具体的にどんな方法を取ったのか、オリーヴには教えていない。彼女が知ったら、俺やブロンディ公爵家を怖がるかも知れないからだ。いや「かも」ではないな。怖がるに違いない。オリーヴに怖がられるのはイヤだ。嫌われるのも絶対にイヤだ。だから、5人の令嬢及び各家に下した制裁の内容を知っているのは我がブロンディ公爵家の人間――両親と俺と弟のロイクの4人と、うちの有能な暗部だけである。ちなみに一番えげつない事をしたのは俺の母だ。母は敵とみなした相手には一切の容赦をしない。さすが王宮育ちである。腹黒さが違う。真っ黒けだ。母がしれっとやってのけたアナベルへの制裁の詳細を知ったロイクは、本気で怯えていた。正直、俺もちょっとビビったぞ。父は慣れているのか「ハハハ。我が家の息子たちの婚約者をコケにした連中は思い知るがいい」と言いながら母の肩を抱き、二人して笑っていた。父よ。アンタ、すげぇよ! 俺は、もしも母のような女が自分の嫁だったら、怖くて隣で眠れないぞ。
とにかく、お茶会事件の片は付いた。
オリーヴの怪我も3週間ほどで完治した。心配した小指の変形などもなく、本当に良かった。
俺は相変わらず、足繁くベルモン伯爵家に通い、オリーヴとラブラブちゅっちゅな日々を送っている。
最近は「胸やけがするので」と言う理由で、コラリー嬢はティータイムに同席しなくなった。遠慮することないのにな。あれ? そう言えば、俺は5ヶ月前にコラリー嬢に一目惚れしたんだったよな? 何だか物凄く遠い昔の事のように感じる。
正直に言うと、今でもコラリー嬢が俺の好みのタイプであることに変わりはない。ただ、彼女に対して恋愛感情を持ち続けているかと問われれば、イエスとは言い難い。コラリー嬢の存在は俺の中で「一目惚れした女性」から「愛しい婚約者オリーヴの妹」へと確実に変化している。全く「女」として見ていない、と言えばウソになるが、コラリー嬢とどうこうなりたい等とは露ほども思っていないのは本当だ。
その日も俺はベルモン伯爵家を訪れ、オリーヴを膝に抱きチュッチュかチューとイチャついていた。
慣れとは恐ろしいもので、今ではオリーヴは何の躊躇もなく俺の膝に乗るようになっている。家の中では簡素なワンピースを着ているから、オリーヴの柔らかい尻の感触がけっこうダイレクトに俺の太腿に伝わるんだよな~。くぅ~、たまらんぜよ(もちろんオリーヴには内緒である)
たっぷりとオリーヴを補充してから自邸に戻った俺が、
「そろそろ、おっぱい触らせてくれないかな~?」
と、呟いたら、弟ロイクにゴミを見るような目で見られた。何だよ、ロイク! お前は聖人かよ! 男なら婚約者のおっぱいの一つや二つ(三つ以上はねぇよ!)触ったり揉んだりしてみたいと思うだろーが!
「兄上。間違ってもオリーヴ嬢に向かって、そのような事を言ってはダメですよ」
「さすがに本人に面と向かって言う勇気はない」
「それは『勇気』と言うんですかね?」
「うるせーな。お前はどうなんだよ? クラリス嬢とどこまでヤッてるんだ?」
ロイクは俺の質問を聞いて眉を顰めた。
「兄上は物言いに品がないんですよ。何ですか『ヤッてる』って。言葉に気を付けて下さい。私とクラリスは一度だけしか身体の関係を持ったことはありません」
ん? 一瞬、思考が停止する。
はぁー!? お前、今、何つった!? つまり――
「一度はヤッたってことか?!」
おいおいおいおい、お前らの結婚式はまだ半年先だぞ! 何、手ぇ出しちゃってるの?! お兄ちゃんはびっくりだぞ!
「まだ一度だけです」
「いやいやいや、一度だけって、お前。クラリス嬢の純潔を奪っちゃったって事だろ? おい、それ、あっちの両親にバレたら大変なことになるぞ!」
「黙ってれば、分かりゃしませんよ」
コイツ……一見、真面目そうなのに、とんでもない野郎だな。
「あら、あちらの親にバレなくても、貴方の親にバレたらどうなるかしらね? ねぇ、ロイク?」
「「えっ!?」」
俺とロイクは同時に居間の入り口を振り返った。
そこには、額に青筋を浮かべた母が笑顔で立っていた。
口元は確かに笑っている。が、目が全く笑ってないぞ。
ロイク。お前はもう、お終いだ。
「母上。私は執務の続きがあるので失礼します。じゃあな、ロイク」
「あ、兄上! 私を見捨てないで下さい!」
「あぁ、忙しい。ロイク、母上とじっくり話し合うといいぞ」
「兄上ー!!」
俺の後を追おうとしたロイクの襟首を、母がガシッと掴む。
「ロイク。私とじ~っくり、お話ししましょうね」
「ひぃ~っ!?」
その後、何が起こったのか、俺は知らない。正直、知りたくない。
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