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一日目

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 結局、その後もユイとキョウコが庭に戻って来ることはなく、ちっとも盛り上がらない酒盛りは早々にお開きとなって、皆は複雑な思いを抱えたまま、それぞれの部屋に戻った。

 そして――真夜中、満月が中天にかかる頃。

 すっかり酔いも醒めて、なんとなく眠れずにベッドの上でぼんやり天井を見つめていたレンは、ふと、窓の外に人が動く気配を感じて、上体を起こした。

 ベッドの側の窓から見下ろすと、黒い人影がひとつ、夢遊病者のようにふらふらと、不規則な足取りで、浜辺に向かって下っていくのが目に入った。

「八神……」(こんな時間に、ひとりで海に……?)

 風に吹かれる枯草のように、頼りなく揺れながら遠ざかっていく女の後ろ姿に、危険なモノを感じ取ったレンは、しばし迷った末に、静かに部屋を出て、ひとりで女の後を追った。


 白銀の月光に照らされた、静かな砂浜。
 急いでやってきたレンは、そこで探していた人影を見つけられず、冷たい恐怖を感じた。

 (まさか、もう……?)

 波打ち際まで走っていって、暗い水面に目を凝らしていると、

「レン、くん……?」

 砂浜の端の岩陰から、女の声がした。

 慌てて振り向くと、黒のワンピースのユイが暗がりから音もなく出てきて、優しい笑みを浮かべた。

「どうしたの、こんな時間に?」
「あ、いや……」お前が入水自殺するんじゃないかと思って後をつけてきた、とはさすがに言えない。「その……なかなか、眠れなくて」
「そう……わたしと同じだね」

 裸足で歩いてきたユイは、手を伸ばせば抱き合えるくらいの所で立ち止まって、レンの顔を見上げた。

「レンくん、すこし痩せたね」
「そうか?」
「うん。それに、なんだか悲しそう」

 ユイは、その大きな黒い瞳で、レンの目の奥を覗き込んだ。

「東京で、なにか辛いことがあったんじゃない?」
「……べつに」
「ちゃんと話して。わたしは、レンくんの力になりたいの」

 レンは、戸惑いつつ首を横に振った。

「いや、本当に何もないよ。辛いことがあったのは、八神のほうだろ」
「わたし?」女は、少し首を傾げた。
「ずっとひとりで世話してきたお母さんが……みずから命を絶ったんだから」
「ああ、うん。そうね」女は、納得顔でうなずいた。
「これからは、オレたちが力になるよ。みんな、もう子供じゃないし。八神のこと、ちゃんと助けてやれると思う」
「ありがとう……」

 そう言って、柔らかく笑った女は、次の瞬間――、いきなりワンピースをするすると脱いで、レンの目の前で全裸になった。
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