道参人夜話

曽我部浩人

文字の大きさ
上 下
26 / 62
第五夜   がしゃどくろ

序章 がしゃどくろの談

しおりを挟む


 ──許すまいぞ、決して許すまいぞ。

 恨み骨髄こつずいに徹するとはよく言ったものだ。
 骨の髄にまで染み込めば、忘れたくとも忘れられなくなる。

 骨髄に詰まっているのは怨みだけではない。

 忘却の果てに打ち捨てられたことへの恨み、置き去りにされて水底みなそこに沈められたことへの憎しみ、誰もが顧みようとしてくれなかったことへの辛み。

 何より骨髄を沸かせるのは怒り──の浅ましさに対する怒りだ。

 先祖代々の土地を売って水の底に沈めただけでは飽き足らず、その地に眠る我々を見捨てたのだ。

 我等を地の底に鎮めたまま──私を亡き者にしたままでだ。

 ──忘れまいぞ、決して忘れまいぞ。

 ありとあらゆる薄暗い感情が、骨の内側へと浸透していくのがわかる。

 はらわたが残っていれば煮えくり返っただろう。
 脳髄が残っていれば煩悶はんもんとしただろう。

 しかし、それらは皮や肉と共に腐れてしまった。
 この水底の汚泥に飲まれ、よどんだ泥流に押し流されてしまったか……。

 今の我等は骨──腐り果てることのない骨でしかない。

 その内に巡るのは恨み、憎しみ、悲しみ──そして怒り。

 どうやらその怒りが骨の隅々にまで行き渡ったようだ。
 肉も筋も失った骨だけの総身に力が漲る。新たな躍動を感じ取れた。

 ゆっくりと湖底から身を起こす。
 見上げると水面の瞬きが満天の星のように煌めいている。

 その息を飲むような美しさに感動する心はもう残っていない。

 それはあまりにも人間がましい。

 今の我等はただの骨──行き場のない怒りで満たされた骨なのだ。


「……われぇはぁぁ……ほねぇぇぇ……ぼぉぉぉねぇぇぇぇ……」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

ルール

新菜いに/丹㑚仁戻
ホラー
放課後の恒例となった、友達同士でする怪談話。 その日聞いた怪談は、実は高校の近所が舞台となっていた。 主人公の亜美は怖がりだったが、周りの好奇心に押されその場所へと向かうことに。 その怪談は何を伝えようとしていたのか――その意味を知ったときには、もう遅い。 □第6回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました□ ※章ごとに登場人物や時代が変わる連作短編のような構成です(第一章と最後の二章は同じ登場人物)。 ※結構グロいです。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。 ©2022 新菜いに

煩い人

星来香文子
ホラー
陽光学園高学校は、新校舎建設中の間、夜間学校・月光学園の校舎を昼の間借りることになった。 「夜七時以降、陽光学園の生徒は校舎にいてはいけない」という校則があるのにも関わらず、ある一人の女子生徒が忘れ物を取りに行ってしまう。 彼女はそこで、肌も髪も真っ白で、美しい人を見た。 それから彼女は何度も狂ったように夜の学校に出入りするようになり、いつの間にか姿を消したという。 彼女の親友だった美波は、真相を探るため一人、夜間学校に潜入するのだが…… (全7話) ※タイトルは「わずらいびと」と読みます ※カクヨムでも掲載しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ジャクタ様と四十九人の生贄

はじめアキラ
ホラー
「知らなくても無理ないね。大人の間じゃ結構大騒ぎになってるの。……なんかね、禁域に入った馬鹿がいて、何かとんでもないことをやらかしてくれたんじゃないかって」  T県T群尺汰村。  人口数百人程度のこののどかな村で、事件が発生した。禁域とされている移転前の尺汰村、通称・旧尺汰村に東京から来た動画配信者たちが踏込んで、不自然な死に方をしたというのだ。  怯える大人達、不安がる子供達。  やがて恐れていたことが現実になる。村の守り神である“ジャクタ様”を祀る御堂家が、目覚めてしまったジャクタ様を封印するための儀式を始めたのだ。  結界に閉ざされた村で、必要な生贄は四十九人。怪物が放たれた箱庭の中、四十九人が死ぬまで惨劇は終わらない。  尺汰村分校に通う女子高校生の平塚花林と、男子小学生の弟・平塚亜林もまた、その儀式に巻き込まれることになり……。

禁踏区

nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。 そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという…… 隠された道の先に聳える巨大な廃屋。 そこで様々な怪異に遭遇する凛達。 しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた── 都市伝説と呪いの田舎ホラー

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

瓶詰めの神

東城夜月
ホラー
カルト宗教に翻弄される生徒達による、儀式<デスゲーム>が始まる。 比名川学園。山奥にぽつんと存在する、全寮制の高校。一年生の武村和は「冬季合宿」のメンバーに選ばれる。そこで告げられたのは「神を降ろす儀式」の始まりだった。

処理中です...