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第22章 想世のコノハナサクヤ
第534話:ARAGAMI“7”
しおりを挟むサンディの過大能力――【絶対保護を遵守せし女神の雷雲楯壁】。
その能力は単純明快。強固な結界の盾を張り巡らせる能力。
専守防衛に優れた守護の力。
アルガトラムやメイド長のピンコが明言した通り、防御力に関してはアルガトラム陣営最強を誇る。守りを極めた防衛力の真髄みたいな能力だ。
シンプル・イズ・ベスト。それゆえに奥深い。
分析で能力を解析すると、その発展性に感服させられてしまう。
この過大能力は守るものが増えるほど強化される。
自分自身の安全から始まり、夫であるアルガトラム王、姉妹の如く育ってきたムークとピンコのメイド長コンビ、家族同然に付き合ってきたチョーイ、タッパー、ジャーニィ、ハニワマル、弟のように愛でているキリン……。
快心王とその家臣――身内を想えば守りの力が倍になる。
サンディとともに戦う騎士団の身を案ずれば更に防御力が加算。
当然メガトリアームズ王国の国民を大切に想えば、それも防衛力を底上げするための強化となる。国と民を想うほど防衛力はうなぎ登りだ。
まさしく防衛の王妃と讃えられるに相応しい。
この守護する力は“楯”へ付与される。
サンディが“楯”と認めれば、どんなものでも構わない。
紙切れ一枚すら“楯”としての機能するのだ。
姫騎士として構える絶壁のような大楯も“楯”ならば、王国を守るために家臣たちが展開させた結界も“楯”だ。そして、サンディのために楯となる覚悟を決めた騎士団たちも能力の範疇で“楯”と認定される。
(※“楯”となる騎士団員には更なる防御力の恩恵がある)
守るための“楯”が増えれば、彼女の過大能力から相互作用な強化が走る。こちらはボーナス的な副次効果だが、数が増えれば侮れないものとなる。
――まさに防御力の相乗効果。
王を想い、国を想い、兵を想い、民を想い……。
自国を想う心を守るための力とする――騎士姫のための能力だ。
絶対保護を謳う過大能力で支えられた防衛結界。
それがたった一人のあらがみに脅かされようとしていた。
「スゥゥゥゥパァァァァ……パァンチッッッッ!」
結界に鉄拳が当たる瞬間、巨大なダンプカーサイズの拳骨を幻視するほどの威力を発揮する強烈なパンチ。直撃しただけで結界内を打ち振るわせる。
浮遊する島にも大震災レベルの激震を走らせていた。
「ミィィィィラァクルゥゥゥゥッ……キィィィィッック!」
突き出したパンチの姿勢からグルリと一回転しつつ、遠心力を乗せての回し蹴りでまた結界にキックを打ち込む。先ほどのパンチ以上の威力があった。
王国内は激震が鳴り止まず、各地から悲鳴が聞こえる。
浮遊する島で暮らす国民たちがあらがみの侵略行為に脅えているのだ。
同時に木霊する多くの雄叫びまで轟いてきた。
王国建築に従事する神造種族――血伏。
工作者タッパーの配下である彼らが、度重なる攻撃に警戒心を働かせた野獣よろしく、攻撃者であるマンズに対して威嚇の咆哮を張り上げていた。
彼らは作業員であるとともに戦闘員も兼ねる。
もしも王国を守る結界が破られることがあれば、即座に建築モードから戦闘モードに肉体機能を切り替えて参戦するつもりなのだ。
そうさせないためにサンディと騎士団がいるのだが……。
「ただのパンチやキックで私の過大能力を揺るがすとは……」
相変わらずデタラメだな! と姫騎士は毒突いた。
有象無象のあらがみですら下手な神族や魔族を上回る能力を持っているが、マンズを始めとした七兄弟に数えられたあらがみは明らかに別格だ。
条件次第ではLV999を凌駕する。
マンズの場合、その常軌を逸した怪力は過大能力をも脅かす。
強化が走っているわけでもなければ、技能による効果を帯びているわけでもない。況してや過大能力のような特別な力が発動している節もない。
なのに――サンディの“楯”を打ち破らんとする威力。
ただの打撃だけでこれほどの破壊力を叩き出せるだから尋常ではない。
「んんんんんんんーーー……ッ!」
回し蹴りの際に力を入れた腰のバネを殺すことなく、むしろ遠心力を加速させたマンズは、身体の軸を更に数回転させてから肘を突き立てた。
「デンジャラスゥゥゥゥ……エルボーッッッ!」
破城槌の如き一撃は、王国を守る結界をついに傾かせた。
そそり立つ光の柱にも似た結界の表面には波紋のようなたわみが生じ、あちらこちらから「ミシッ……」と軋む音を響かせている。
しかし、サンディの過大能力は健在。
その力を宿した結界もまた、どこにも亀裂や破損が生じていない。
「う~む、そちらこそ相変わらずでありますな!」
ふざけた頑丈さであります! とマンズは称賛するように言った。
マンズは殴りつけた拳をプラプラ振った。硬いものを殴って痺れたようにだ。同じようにキックをした足先も振り、エルボーを決めた肘を擦っている。
それほど王国の結界が堅固という証でもあった。
「フッ、ふざけた格好の貴殿に言われたくはないな……」
結界を挟んで対峙するサンディは、向こう側の空に浮かぶマンズの風体を指して悪態をついた。これに覆面の巨漢は残念そうに首を左右へ振る。
「おおおっ! 悲しいかなやるせないかな……正義を冠する吾輩のコスチュームに理解を得られないとは! やはり我らとは価値観が違うようですな!」
「生憎、美的感覚も異なるようでな」
貴殿らのファッションセンスを疑うぞ、とサンディは鼻で笑った。
この女王様、意外と口さがないようだ。
だが確かに――マンズの衣装は参考にしたくない。
ツバサたち現代っ子の感性だと一周回って新鮮に感じるほど古臭かった。
マンズ自身は2m越えの巨漢だ。五神同盟だと横綱ドンカイや空手家セイコと肩を並べそうだから、250㎝前後はあるだろう。
体格的には筋肉モリモリのマッチョマン。
人によってはこの後に「変態だ」と添えることもあるだろう。
ただし、上半身を異様なくらいパンプアップさせていた。下半身も鍛えてないわけではないが、デカすぎる肩幅や胸筋に二の腕が目立つせいでチキンレッグと見紛うほどアンバランスになっていた。
(※チキンレッグ=筋トレ界隈での隠語。上半身は見事なくらい鍛えているのに、下半身が不釣り合いなほど貧弱なことを指す。由来は身体はボリュームがあるのに脚がとても細いニワトリの体型に似ているからとのこと)
漫画やアニメにカートゥーン。
それらに登場するデフォルメされた力自慢のようだ。
覆面マスクは澄んだ瞳と長い睫毛が覗ける金属製の鉄仮面。耳があるべき部分には翼のような飾りが付けられいた。
上半身は紺色のぴっちりしたボディースーツ。
下半身はパンツ一丁……といっても、プロレスを始めとしたレスリングなどの格闘技をする者が履くような厚手のものである。
両腕には厚手のグローブ、両脚にはリングシューズめいたブーツ。
それらと同色のカーキ色をしたマントを羽織るが、風にはためくそれは本当にただのマントだった。特殊効果らしきものは感じられない。
往年のヒーローを彷彿とさせる出で立ちだった。
令和や平成どころではない。昭和のかなり初期だと思う。
ただし、具体的なモデルはわからない。なんとなく「昔のヒーローはこんな格好だったよね」と連想させるデザインをしているのだ。
応接室から実況映像を眺めていたツバサも首を傾げてしまう。
「……あのジーオンも七兄弟だったな」
南方大陸到着と同時に遭遇した、あらがみ総帥ショッカルン。
彼を「父上」と呼ぶジーオンもまた、どこか懐かしさを誘われる巨大ロボめいた姿をしていた。しかし、やはり具体的なモデルには行き当たらない。
「間違いなくスーパー系のデザインなロボじゃったな」
「いわゆるリアルロボの系列ではないよな」
長男ダインの例えがわかりやすい。
科学的考証や物理法則もなんのその、超科学力で動くメチャクチャ強いロボだ。かつてはそういう設定のスーパーロボットが目白押しだったと聞く。
漠然とながらも――懐古を刺激する風貌。
マンズとジーオン。兄弟としての共通点をそこに見出せた。
「他人の外見にとやかく言うのは正義ではありません!」
マンズは拳をギュッと握り締め、サンディと王国を包む結界を凝視したまま高速で後退っていく。助走のための距離を取っているのだ。
「我が正義の鉄拳制裁にて再教育して進ぜましょう!」
また高速度の慣性を乗せたパンチをお見舞いするつもりである。
地平線の彼方まで後退していき、豆粒どころかドットみたいな点になるまで距離を取る。そこから音速を超えて突撃すれば音速を超えた拳打となる。
「ハイパワァァァァ……メガトンパァァァァンチッッッ!」
「無礼るな下郎ッ!」
隕石墜落に勝るとも劣らないマンズの一撃。
その拳が結界に触れるか触れないかの瀬戸際。刹那のタイミングを見極めたサンディは過大能力の出力を瞬間的に跳ね上げる。結界は従来を上回る防御力を発揮するとともに、凄まじい反発力を兼ね備えるようになった。
それはマンズの打撃力をも巻き込み、痛烈な反撃となって弾き返す。
盾を用いた攻撃手段――シールドバッシュ。
そこに合気や発勁の理論も応用した必殺の一撃だった。
自身のパンチ力+反発力+サンディの防御力。
「んんんんッ……ノオオオオオオオオオオオオオオオオーッ!?」
それらをひとつに束ねたパワーを一身に浴びたのだから堪らない。マンズは突き出した右腕をあらぬ方向へねじ曲げられながら吹き飛んでいく。
空中に燃える制動線を引いて踏ん張るマンズ。
その右腕は関節が曲がらない方へと折れ曲がり、拳は指が折れるどころか原形を留めぬほど潰れて赤い血潮を垂れ流していた。
明らかに大ダメージ、マンズは血塗れの手首を押さえて呻いている。
してやったり、と姫騎士は兜の下で微笑んでいた。
防御力特化を活かしたカウンター。防衛を司る王妃の面目躍如である。
「んんん……おのれぇぇぇ! 我が正義の拳をぉぉぉッ!」
マンズは鉄仮面の奥の目を血走らせて低い罵声を唸らせているが、その左手は血を止めるため動脈を抑えており、応急処置らしきことを始めていた。
そんな彼の背後へ――いきなり少女が出現する。
「……マン兄さん、動かないで」
やる気のないダルそうな声で囁いた少女は、手にしたカラフルなステッキをマンズの砕けた拳へ翳す。すると光の粒子はキラキラと瞬いた。
「……マジョルカ、マジョリカ、マハラジャン」
呪文みたいな文言を抑揚のない声音で唱える。
それでも効果はあるのか、ステッキから振り撒かれた光の粒子が七色に明滅すると、マンズの壊れた拳が見る見るうちに回復していく。どちらかといえば回復というよりは、時間を巻き戻して逆再生しているような具合だ。
破れたカーキ色のグローブまで元通り。
コスチュームを汚していた血飛沫まで洗い流したかの如しだ。
元通りになった手を目の前に持ち上げたマンズは、試運転するかのように五指を何度か握ってみる。問題なく完全に治っていた。
「おおっ! 助かったであります妹よ!」
手間を掛けさせたでありますな! とちゃんと礼をいうマンズ。
「……ううん、平気」
妹と呼ばれた少女は大きな帽子を揺らして小さく首を振った。
根暗なダウナー系だが美少女ではある。
円らな瞳はいつも眠たそうにトロンとしており、化粧と見間違うほど濃い隈が目元に張り付いている。自信なさげなくちはいつも半開きで、遠目から見ていると△のような三角形に空目してしまう。
人間ならば10代半ば、大人の階段を登り始めた体付きだ。
白に近い灰色、でも紫を帯びた不思議な色合いの髪。
前髪は綺麗に切り揃えられているが、いわゆる姫カットではない。アーチ状に整えられていた。背中まで届く髪も先端がしっかり揃っている。
そして、問題のファッションセンス。
彼女の衣装もまたマンズやジーオンに相通ずるものがあるのだが、懐かしさを思い出させるレトロよりも派手派手しさが目に付いた。
一言で評せば――パワーアップイベントをこなした魔法少女。
黒と紫の二つを基調とした肩出しドレスに、フリルやリボン盛り盛りのロングスカート。二の腕まで隠れるロングローブも飾り布だらけだ。このまま舞踏会に参加しても違和感のない、淑女の盛装にも匹敵するドレスアップである。
腰には帯の長い大きなリボンを飾り、まるで綺麗な鳥の尾羽のようだ。
頭に乗せるのは魔女らしいとんがり帽子。
それも鍔が異様に大きく、被り方によっては顔まで隠してしまう。
「七兄弟の二人目か……ッ!」
新手の魔法少女を目にしたサンディは忌々しげに歯噛みした。
あらがみ七兄弟 次女 マージョン・マジョルカ。
御覧の通り魔法系の能力に長けた、あからさまな魔法少女である。
「……結界破りはマン兄さんだけの仕事じゃない」
マージョンはゆっくりステッキを振り上げた。
杖というほど大振りではない。先端に大きな宝玉をあしらい、杖のあちこちにも装飾を施して大小の宝石で飾り付けた50㎝くらいのステッキだ。
見るからに魔法のステッキと呼びたくなる代物だった。
「魔法少女が持ってそうな杖だな」
ツバサが実況映像を見たままの感想を呟くと、隣で聞いていた組長バンダユウが顎を親指で擦りながら思い返すように合いの手を入れた。
「どっちかっつうと魔女っ子じゃねえかな?」
「魔女っ子? なにそれ、魔法少女となんか違うの?」
まだツバサの乳房に潰されているミロが、頭に二つの超爆乳を乗せたままバンダユウに疑問を投げ掛けた。老組長は困ったように苦笑する。
「そうか、ミロちゃんの世代にゃ通じないか」
ジェネレーションギャップだなぁ、と寂しそうにぼやいた。
魔女っ子ステッキを頭上に掲げたマージョン。
そこからマンズの拳を癒やした光の粒子が噴出する。彼女たちの周囲を取り巻くように広がる光の粒子は、各所に集まって何かを形作ろうとしていた。
やがて現れるのは――黄金の砲台。
どれも古めかしい形式の大砲だが、子供が想像で描いたみたいなふざけた構造をしており、砲口の大きさもトンネルと間違えるほどのサイズだ。あの大穴みたいな口径ならば大陸間弾道ミサイルでも発射できるだろう。
ザッと数えても五十門はありそうな砲台。
それらの標的は無論、王国を守る光の柱へと向けられる。
「……撃っちゃいなさい」
精彩に欠ける掛け声を打ち消すほどの爆音が轟き、黄金の砲台から虹色のエネルギー波が発射された。破滅をもたらす激流とは思えない鮮やかさだ。
☆や♡に♪を煌めかせ、異様にメルヘンチックでもある。
だが、メガトリアームズ王国を守る結界を震撼させる破壊力があった。
砲撃の連射はマンズのパンチ力を上回る。
結界内の浮遊する島がガクガクと震え上がるほどだった。
「くぅっ……兄も兄なら妹も大概だな!」
どちらもデタラメだ! と結界を支えるサンディは詰るように怒鳴るが、そうして負けん気を昂ぶらせなければ持ち堪えられそうになかった。
過大能力と連動する彼女の大楯がビリビリと震える。
やがてレインボーなエネルギー波は終息していく。
乗り切った! と勝ち誇りたいサンディだったが、その表情は芳しくない。兜のため口元しかわからないが、口の端を悔しげに噛み締めている。
マージョンの砲撃は一斉射撃にして集中砲火。
結界内で待機するサンディと騎士団を狙うように一点へ集中させていた。そこは兄のマンズが何度もパンチやキックを打ち込んだ場所でもある。
連続攻撃を受けた結界に――微かな綻びが生まれた。
ほんの細やかな亀裂、サンディも気付いてすぐさま穴埋めする。
だが、マージョンは死んだ魚よろしく澱んだ瞳をピクリと痙攣させると、倦み疲れた微笑みを唇に浮かべた。さながら都市伝説の妖女のようだ。
口裂け女などを想起させる――妖しく裂けた笑み。
「……チャ~ンス」
ライ兄さん、と病んだ魔法少女は顔を振り上げた。
「……今のところよ。私たちと同じところを……ぶち抜いて」
「おっしゃあああああああああああああーッ! 任せてくれ妹よぉ!」
意志薄弱な呼び声に血気盛んな声が応じた。
サンディたち騎士団も釣られて頭上を仰いでみれば、そこには太陽の輝きを背にして立ち尽くす青年の姿があった。
マンズやマージョンと比べると、まだ普通の格好である。
人間ならば二十代半ばの青年。イケメンや美青年ではないが、顔の各パーツがやたらと濃厚なので強靱な精神力を感じさせる。それゆえ頼もしい男前に見える顔立ちだ。戦う者に相応しい面相とも言えるだろう。
中肉中背だがガッシリした体型。手足も長いのでスタイルがいい。
レザー仕様の黒いダブルジャケットをしっかり着込み、襟元からは真っ赤なタートルネックを覗かせている。踝までしっかり隠すロングパンツも革製。こちらはフリンジと呼ばれるビラビラした飾りがついていた。
首元には風になびくほど長い白いマフラーを巻いている。
頭にはマージョンに負けず劣らずの鍔広なウェスタンハットを被っていた。いや、あれは被るというより頭へ乗せているようだ。
「おいおい、今度は荒野のカウボーイかよ……」
実況映像を眺めていたバンダユウは声こそ呆れているが、口元は下らない茶番劇を見せられたかのようにニヤけていた。
だが、そのカウボーイが次に起こしたアクションに瞠目する。
マージョンから「ライ兄さん」と呼ばれたカウボーイは、腰に付けたベルトをしっかり左手で掴むと、箱のような形のバックルに右手を添えた。
右手にはいつの間にか鍵が握られている。
それをボックス型のバックルに差し込んで回転させると……。
「――チェンジ・ライドンッ!」
「違う! カウボーイじゃねえ!?」
ライ兄さんの掛け声とバンダユウのツッコミが重なった。
鍵によって蓋が開いたバックルから目映い閃光が走ったかと思えば、それは螺旋を描いてカウボーイの全身を包み込む。破裂するように光が散っていくと、その下から装甲をまとう四肢が現れた。
動きやすさとスマートさを主眼に置き、それでも攻撃力と防御力の高さを誇示するべく高度な武装であることを主張するようなデザインだ。
装甲が薄い関節部もコーティングされている。
下地として全身ボディースーツを着るような案配だった。
黒をメインカラーとして見栄えのいいワインレッドを差し色とし、首に巻いた純白のマフラーが大きなワンポイントとなる。
最後に顔を取り巻く光が弾け、メットを被った頭が現れる。
フルフェイス型のマスクはちょっと古く臭いが、格好良さを疼かせるスタイリッシュさがあり、何処かで見たような記憶を擽るものがあった。
「今度は昔懐かし特撮ヒーローかよ……」
ぼやくようなバンダユウの言葉にツバサも思い出す。
いつかどこかで見たかも知れない、大昔の特撮に登場するヒーロー。
彼らが正体を隠すため、あるいは戦闘時にパワーアップするために被るマスクに似ているのだ。しかし、これもまた漠然としていて具体例がない。
そもそも特撮ヒーローは意外と多いので特定できなかった。
あらがみ七兄弟 三男 ライドン・チェンジファー。
変身を終えたライドンはポージングを決めていた。
「正義を背負うのはマン兄さんだけではない! このライドンもまた正義の味方、そしてあらがみのため悪と戦う決意を固めた一人の戦士ッ!」
とうッ! とライドンは勢いよく空を蹴って上昇。
途中、何度も錐揉み回転やバク転や膝を抱えての宙返りを繰り返すと、両手を広げて脚を伸ばしたようなポーズで力を溜め、一気に急降下してきた。
目指すは王国を守る結界。繰り出すは下降気味の跳び蹴り。
「ライドォォォン……キィィィック!」
「いやそれライ○ーキックだろ!?」
映像越しなのでバンダユウのツッコミは届かない。
空中から相手に向けて、利き足のみを叩き込む跳び蹴り。
プロレスならば変則的なドロップキック。海外ではミサイルキック、ミサイル・ドロップキックなどと呼ばれることもある。
しかし、日本ではラ○ダーキックとよく呼ばれる。
なにせ知らない者はいない超有名ヒーローの必殺技だからだ。
ライドンのキックもそのヒーローに負けず劣らない威力を秘めているようで、大気を突き破って音速に達し、周囲に円錐雲まで発生させていた。
そのベイパーコーンも一度や二度ではない。
音速の壁以外にも色んな壁を突き破っていそうで恐ろしい。
おまけに黄銅色の輝きまでまといつつある。
それは巨人の足を象り、王国の結界を踏み抜かんとしていた。
メガトリアームズ王国を守護るために張られた結界。聳え立つ光の柱にしか見えないそこに、メタリックに輝く巨人の足が蹴り込まれる。
ズシン! とかつてない大震動が王国全土を揺るがした。
光の柱がちょっと曲がったように見えた。
応接室にいたツバサたちもテーブルにしがみついてしまったほどだ。
「ぐうぅ……ッ! なんの……これしきぃッ!」
サンディは過大能力の全力を出し切って立ち向かう。
先ほどマンズの拳を壊したシールドバッシュの要領で、ライドンにも結界を介してやり返そうと試みたのだが、パワー不足で不発に終わってしまった。
マンズとマージョンの法外な連続攻撃。
それを防いだり反撃したりで、思った以上に消耗してしまったらしい。
だが、決してサンディは怯まなかった。
「アル様の……アルガトラム王の国を守るのが私の役目ッ!」
彼女の瞳は愛に殉ずる覚悟が決まっていた。
サンディの発言を実況映像で聞いた何人か(チョーイ&メイド長コンビを含む)が口笛を吹いて冷やかすものの、当の本人は悦に入った高笑いだ。
「ウハハハハハッ! 愛されてるだろう俺!」
「喜んでる場合か!? 嫁さんの大ピンチだぞこの野郎!?」
慎重派のツバサはこれくらいの不利でも浮き足立つが、アルガトラムは胆力が強いのか瀬戸際まで粘るタイプなのか、まったく動じていなかった。
そして、ウチのアホの子も動じない。
「アルのお兄ちゃん――お嫁さんを信じてるんだね」
ミロの一言が真理かも知れなかった。
嫁であるサンディを信頼しているからこそ、無闇に狼狽えたりせず堂々と構えているのだ。内心、不安や心配も過るだろうがおくびにも出さない。
「うむ、お互いに愛して信じているからな」
君たちだってそうだろう? と快心王は小粋なウィンクで返してきた。
即答するかと思えばミロは目を逸らした。
「いやぁ、ツバサさんは度し難い心配性だから……へべれけ!?」
「誰がお母さんは心配性だコラ!?」
まだ胸の下にいたので超爆乳で押し潰してやった。
ツバサとミロが過激な親子のスキンシップを取っている間にも、アルガトラムは肩越しに振り向くとメイド長たちに小さく耳打ちした。
「……ハニワマルはどうしてる?」
王国の用心棒と呼ばわる家臣の現在位置を尋ねていた。
メイドたちは一礼してそれぞれ答える。
「ハニワマル様でしたら象神族の隠れ里の後始末をしております」
「綺麗にお掃除して、帰りがけに害獣駆除も済ませてくるってさ」
「呼び戻せ――サンディの負担を減らす」
了解! とメイド長コンビは魔法による伝言を飛ばした。
メガトリアームズ王国ではまだ通信が未発達らしい。血伏という獣人めいた神造種族を飛脚にもしていたし、これから発展していくのだろう。
……空飛ぶ列車を作る技術力があるのだから頑張ればすぐなのでは?
実況映像では――白熱の攻防が繰り広げられている。
サンディの護りとライドンの蹴りが激しく鬩ぎ合っていた。
ライドンのキックと王国の結界が接するところから、激突する力の波及ともいうべき稲妻めいた烈光が四方八方に拡散していた。
これは結界の内外問わず乱れ飛び、直撃すれば破壊をもたらす。
結界の外からしがみついていたあらがみの有象無象は吹き飛ばされ、結界の内では王国に被害が及ばぬよう騎士団が大楯で防いでいく。
そして、サンディは構える大楯に力を込める。
「どぉぉっ……せぇいッ!」
姫騎士らしからぬ気合いとともに大楯を思いっきり突き出すと、過大能力で連動した王国の結界はライドンの巨人キックを跳ね返した。
「うおおおおッ!? せ、正義のキックが負けるだとぉぉぉぉーッ!?」
驚きの悲鳴を上げてライドンは吹っ飛ばされる。
全身を360度回転させながらあらぬ方向へ飛んでいくライドンだが、驚愕の声とは裏腹にすぐさま姿勢を正すと右手で結界を指し示した。
「だが――爪痕は刻ませてもらった!」
指差した先、王国の結界にまたしても亀裂が入っていた。
マージョンが刻んだものより明らかに範囲が大きく、サンディも気付いているが即座に修復できない。肩で息をして辛そうに目元を伏せている。
これを遠巻きに見ていた魔法少女は微笑んだ。
「……チャ~ンス、再び」
ギザついた裂け目みたいに歪んだ口で笑っていた。
ステッキを指揮棒のように操ると、まだ展開したままの黄金の砲台五十門を微調整する。砲口が狙い澄ますのはライドンが刻んだ亀裂だ。
「……マンズ兄さん、合わせて」
「おう! この兄に任せるであります!」
兄に指示を飛ばしたマージョンはステッキで空を突く。
それが砲撃の合図となり、五十門を数える黄金の砲台が一斉に火を噴くと、結界に生じた亀裂に殺到した。負荷に屈した結界は亀裂を広げていく。
砲撃が落ち着いた時には、大きな十文字の裂け目になっていた。
「ここであります! ハイパァァァァーパンチッ!」
間髪入れず爆煙を突っ切ってマンズが迫ってきた。
裂け目の中心に叩き込まれたただのパンチは想像を絶する破壊力を巻き起こし、ついに王国を守る結界に風穴を開ける。
「ぐぅぅぅ……む、無念!」
申し訳ありませんアル様! と不甲斐なさを詫びた声が迸る。
大楯を構えたサンディは大きく後退を余儀なくされた。
固く閉じた瞼から涙がこぼれ落ちる。
王国を守る結界と過大能力が連動していたため、破壊された衝撃がノックバックのように彼女を襲ったらしい。ビリビリと震える大楯ごと後ろに押し出されるが、空に踏ん張って何とか持ち堪える。
しかし大楯の中央がへこみ、そこからひび割れが走っていた。
サンディの過大能力が押し負けた証拠だ。
「よぉぉぉぉし! やったであります! 風穴を開けてやったであります!」
「友情! 努力! 勝利! 俺たち兄弟のチームワークだ!」
結界突破に諸手を挙げて歓喜するマンズとライドン。
ボディビルダーよろしく上腕二頭筋を見せつけるポージングで喜ぶ次男。特撮ヒーロー特有のカッコいいポーズを決める三男。
「……兄さんたち、うるさい」
間に立っていたマージョンは揉みくちゃにされていた。
だが、根暗な顔は感心するように頷いている。
「……でも、これが協力……なるほど、あらがみにはない感性ね」
――コースケの助言もバカにならない。
兄弟チームワークの勝利を自画自賛するマンズやライドンを余所に、マージョンはそこに導いた第三者からのアドバイスに得心していた。
実況映像を見ているアルガトラムたちは少々驚かされていた。
「あらがみが……力を合わせるだと?」
あらがみという種族は軍勢となるほど群れを成すものの、基本スタンドプレーを旨とするようだ。ツバサたちが最初に遭遇した乱戦でも、個々の力を頼みにするばかりで力を合わせるといった行動を見た覚えがない。
コースケというあらがみが知恵を出した?
確か、あの鋼鉄製の巨神を操縦していたあらがみのはずだ。くたびれた私立探偵みたいな風体をしており、総帥ショッカルンに泣き言を喚いていた。
あいつ――あらがみにおける頭脳役か?
今後も入れ知恵するかも知れない、と警戒しておこう。
「……ライ兄さん、ポーズやめて手が当たってる……マン兄さんも筋肉ジャマ……うーざーい。まったくも~……」
マージョンのダルそうなぼやきが聞こえてくる。
無駄に暑苦しい兄二人に挟まれたマージョンは押し潰されそうに肩身を狭くしながらも、魔法のステッキを適当に振ってあらがみたちに采配する。
「……今よ弟妹たち。どんどん侵入しちゃいなさい」
嗚嗚嗚嗚ッ! と鬨の声を上げて王国へ突入するあらがみの軍勢。
「い、いかん……ッ!」
咄嗟に結界を立て直そうとするサンディだが、これまでも防戦で力を使いすぎたのか過大能力を上手く再起動できないようだ。
メガトリアームズ王国の結界は複数の力が働いている。
それらも壊された箇所を自動で修復しようと動き出すのだが、それよりもスピードに自信のあるあらがみたちが風穴へ飛び込みつつあった。
「ヒャッハーッ! 一番乗りだぁぁぁーッ!」
身体は陸上のスプリンター選手、頭が高級感のあるスニーカー。
見るからに足の速そうなあらがみが両手両脚をフル回転させて、真っ先に結界の穴を潜ろうとしていた。徒競走なら一等賞である。
そこへ――横槍が入った。
槍は槍でも槍衾だ。刺突タイプの斬撃がいくつも飛んできた。
「ぐぇぇぇぇぇぇぇッ!? な、なんだぁ!?」
あらがみたちは身体を貫かれながら突き飛ばされていく。
結界の穴へ侵入を試みたあらがみたちを阻止するべく、刺突の斬撃は五月雨のように地上から突き上げられていた。
「――せつなさみだれうち!」
「……どうして全部ひらがなで言うんだ?」
唐突に叫んだミロにツバサは疑問の声を投げ掛けた。
平仮名だけだと変な読み方をしてしまいそうだ。多分ミロは「刹那五月雨撃ち」と言いたいのだろうが、「切なさ乱れ打ち」とも読めてしまう。
威力的にも刹那で五月雨の突きを撃ち出していた。
その発生源に誰もが視線を振る。
地上から猛烈な勢いで突きの斬撃を繰り出す者がいた。
――埴輪のマスクを被った軍人。
手にする銅剣めいた大振りの剣を突きに構え、そこから秒間何万連射という音速の突きを連続でひたすら打ち出していた。
メガトリアームズ王国 防衛大臣 ハニワマル・マージン。
「え……間に合ったのか!?」
象神族の隠れ里を片付けていたと聞いたが、メイド長たちから帰還指令を受けておっとり刀で駆けつけたらしい。だとしても爆速が過ぎる。
「メチャクチャがんばったんじゃね?」
肩で息してるし、とミロはなかなか目敏かった。
埴輪マスクの口元から「ぜえぜえ」と白い吐息を漏らしており、衝撃波となるほどの突きを繰り出す肩も上下に揺れ動いていた。
神族が息切れするには、生命力を削るほど全力を出さねばならない。
報告を受けた瞬間――全身全霊で馳せ参じたのだろう。
帰還を指示したのはほんの少し前、時間的に一分も経っていない。
象神族の隠れ里までは結構な距離があったから、あそこから駆けつけたとなればドップラー効果を置いてけぼりにする速度で戻ってきたに違いない。
ミロの言う通り、メチャクチャがんばった結果である。
「ウハハハ、ウチの用心棒は仕事がデキるからな」
腕を組んだアルガトラムは忠実な家臣に誇らしげだった。
村雨に勝る威勢で放たれる突きの連打。
それらは刺突型の斬撃となって次々とあらがみを貫いていき、開けられた結界の穴から侵攻しようとする軍勢の先鋒を阻んでいた。
「ハニワマル! よく来てくれた!」
サンディがよく通る声で大きく感謝を述べると、埴輪マスクの軍人は遠目でもわかるほどしっかり頷いた。寡黙なのかお喋り好きではないようだ。
あらがみの侵入は突きの嵐によって阻止される。
その隙にサンディは結界を立て直すべく檄を飛ばした。
「ハニワマルがあらがみの先陣を抑えている間に……騎士団は結界の破損した箇所に集結! 各自の過大能力や技能を用いて結界を塞げ! 一時凌ぎでも構わん! 私も大至急立て直す! 結界を構成する各担当にも報告を……ッ!」
迅速な対応のおかげで防ぎ切れそうだ。
ハニワマルは何人たりとも結界を潜らせようとはせず、サンディも騎士団とともに結界の穴埋めと修復を急いでいた。
万が一に備え、破れた結界の周辺に血伏も集まってくる。
いざとなれば白兵戦も辞さない構えだ。
あらがみの陣頭指揮を執る七兄弟としては面白くあるまい。
絶好の機会を見逃すはずもなかった。
マージョンは苦虫を噛み潰したような表情で唇を歪めると、猫背の姿勢のままステッキを苛立たしげに振って身内に通じるサインを送っていた。
「……デッカいのは邪魔して」
「押忍! みーちーふーさーぎーッ!」
「応さぁ! ぬぅぅぅぅりぃぃぃぃかぁぁぁぁべぇぇぇぇッ!」
「のーぶーすーまーッ! イヤァァァァァッ!」
姉からの指示に下の兄弟たちは即応する。
身の丈5mを越える壁を擬人化したような怪人や、大きな天幕を人型にしたような怪人。視界を遮る体格を持つあらがみたちが立ちはだかる。
行く手を阻むハニワマルを邪魔するためだ。
「…………ッ!」
鬱陶しそうに銅剣を振るい、ハニワマルを切り捨てる。
あらがみがいくら群れようと鎧袖一触だった。
邪魔した罰だと言わんばかり一刀両断にするのではなく、断片となるまでバラバラに斬り刻んでいた。剣豪セイメイに負けず劣らずの剣捌きだ。
しかし、これが裏目に出る。
このあらがみたちは斬られた程度では死ななかった。
しかも断片にされても個々に連携して動いている。ハニワマルの身体へまとわりつき、刺突の斬撃を飛ばさせないように妨害してきた。
壁のあらがみは視界を遮り、手足の動きを邪魔する。
幕のあらがみは関節にまとわりつき、行動速度を鈍らせる。
攻撃力こそ皆無だが、ハニワマルの動きに制限を掛けていた。運動能力に弱体化を掛けられているようなものだ。
「……ッ!? …………ッッッ!!」
ハニワマルは躍起になって振り払おうとする。
その間にも王国へ忍び込もうとするあらがみを突きで追い払うが、どうしても付きまとうあらがみに邪魔された分だけ手数が減る。
突きの嵐が弱まり、激しい豪雨くらいになってしまった。
それを見越してマージョンが新たな指示を出す。
「……今よ、すばしっこいのは行きなさい」
シッシッ、とマージョンは犬を追い払う仕種でステッキを振った。
「おまかせあれ! マージョンお姉さまぁッ!」
これを受けて速力のあるあらがみたちが、弱まったハニワマルの刺突を掻い潜って結界の穴を目指した。先ほど真っ先に吹き飛ばされたはずの高級スニーカー頭のあらがみがまたしても先陣を切っていた。
実質――マージョンがこの場の指揮官のようだ。
これでもかというくらい無気力を主張する態度ではあるものの、彼女の采配によって荒くれ者揃いの徒党が軍としての動きを成していた。
まだ荒削りだが指揮系統は確かなものだ。
実況映像を観察してみれば、彼女が指揮を執るためステッキを振ると光の粒子が飛び交い、それを浴びたあらがみが的確に動いていた。
魔法で命令を伝達しているのかも知れない。
それが彼女を指揮官として有能にさせているようだ。
次男と三男は見るからに脳筋――力こそパワーを地で行くタイプ。
戦況を見極めて兵隊に指示する、なんてできそうにない。
マージョンだけがややアバウトながら現場を取り回す頭脳はありそうだ。単に他の兄弟がそういう細かいことをできないだけかも知れないが……。
……次男や三男がそれでいいの? と疑問は感じる。
そういえば総帥ショッカルンも長男ガジララを指して「何考えてるかわからないし働かないニート」と叱りつけていたはずだ。
男兄弟は融通が利かず、女姉妹がまとめ役なのかも知れない。
しかし、チョーイが怪訝そうな視線を送っていた。
「おかしい……あらがみが頭を使っている?」
「え? なに、やっぱあいつらみんなアホの子なの?」
信じがたいものを見る目で実況映像に食い入るチョーイの呟きを、自分を棚に上げるような発言でミロが聞き返した。
チョーイは呆けたような表情のまま答えてくれる。
「アホの子といいますか……力と数を頼みに総攻撃を仕掛けてくるばかりで、仲間同士のチームーワークなど一度もしてきたことがなかったのですよ」
「助け合いの精神とかはあるんだけどね」
家族の情はあるみたい、とキリンは肩をすくめていた。
それから起源龍としての観察眼で物申す。
「でも、彼らは力を合わせることを知らない。フォローとかサポートはその場の雰囲気でするんだけど、協力して何かをやり遂げたところを見たことがない」
三兄弟の力を結集して――王国の結界を破る。
「こんな誰でも思い付きそうなことでさえしてこなかったからね」
学習したのかな? とキリンも首を傾げていた。
あらがみは一族の特性として筋金入りの脳筋らしい。
恐らく肉体的にも能力的にも優れているため、考えなくとも大体の難局を乗り越えてこられたのだ。すべて力業で解決してきたに違いない。
だから頭を使う場面に恵まれなかった。
難関にぶち当たっても「仲間の力を合わせて解決する」という発想が出てこなかったのだろう。思い返してみれば、あの時もその傾向があった。
――女王樹のお手入れ。
一週間の一度の大仕事。暴れ回る女王樹の根を鎮める時さえ、誰もが個人プレーで超特大触手と化した根を抑え込もうとしていた。
みんな好き勝手に攻撃していただけだった。
「強すぎるから協力の概念がない? 単細胞なのか考えなしなのか……」
ちぐはぐな連中だな、とツバサは呆れてしまった。
会話できる知能はあるのだから頭が悪いわけではない。
脳細胞を駆使するよりも力で解決した方が手っ取り早いため、大半の物事を力業で片付けてきたのは想像に難くなかった。
「そういう意味では蕃神どもと似通っとるな」
襷みたいな髭を扱いてノラシンハが所見を述べた。
「ああ、あいつらも生物としての格が強すぎて小細工いらないからな」
その見方にはツバサも賛同する。
蕃神は人知を超えた知識を持つ種族だが、生命体として破格の存在であるため、下等種族には知恵を使う必要はないとばかりに力で圧してくる。周囲に狂気や瘴気を振り撒く特性もあり、それが力尽くの侵略を助長させていた。
――あらがみは蕃神に近しい存在なのか?
そんな疑念も湧いてくるが、追求するのは後回しでいい。
とうとう破られた結界をあがらみが潜り抜けようとしているのだ。
騎士団も懸命に結界を修復しているが間に合わない。
「万事休すか……アル様ッ!」
自身の名を縋るように叫ぶ嫁の悲痛な声を聞いて、さすがの快心王も腰を上げようとした。まさにその瞬間だった。
『――リフレクト・シールド!』
周辺一帯に轟いた幼女の声に中腰のまま止まっていた。
破かれてしまった王国の結界。
その割れ目を塞ぐように現れたのは、巨大な円形の盾を模した防壁型の結界だ。先陣を切って高速で結界の穴に飛び込もうとしたあらがみたちを、一人残らず盾型結界に激突して行方を阻まれていた。
「むぐぅぅつ!? か、壁ぇ……じゃねええええッ!?」
盾型結界に触れたあらがみは全員、思いっきり弾き飛ばされた。
それも四肢があらぬ方向へねじ曲がるほどの大ダメージを受けながらだ。不死身のタフネスさゆえ死んではないが、しばらく再起不能だろう。
盾型結界に仕込まれた攻性機能の効果である。
その盾のような表面には美しい彫刻が描かれているのだが、大きな牛の角を掲げた大地母神の姿にツバサを重ねない者はいないはずだ。
「この防壁は……よもやお客人か!?」
刮目するサンディが振り返れば、そこに空飛ぶ戦艦が浮かんでいた。
飛行母艦――ハトホルフリート。
浮遊島の縁を波止場として停船していたのだが、先ほどツバサが浮き足だった際に通信網で「王妃様の防衛を手伝ってくれ」と頼んでおいたのだ。
艦橋の中央に位置する艦長席。
ツバサが定位置であるそこに五女マリナが座っていた。
ハトホル太母国 五女 マリナ・マルガリーテ。
王冠風の帽子を被り、ツバサの赤とミロの青を象ったリボンで飾り、ロリータファッションをドレスを身にまとうお姫様みたいな幼女だ。
艦長席を通じて飛行母艦に過大能力のパワーを送り込んでいる。
マリナの過大能力――【神聖なる幼女の不可侵領域】。
強力な結界を張ることに特化した守護の能力。
守りを極めるという点ではサンディと同系統の過大能力だ。
『お母さ……センセイからお手伝いするように仰せつかってきました! マリナといいます! よろしくお願いします!』
艦外スピーカーから礼儀正しく挨拶するマリナ。
お母さんと言いかけたことはさておき、ちゃんと挨拶したのは花丸だ。
幼女が助けてくれると思わなかったのか、サンディと騎士団は最初こそポカーンとしていたが、救われたことを知ると安堵の笑みを綻ばせた。
「ありがたい……助太刀感謝する!」
結界の復旧を急げ! とサンディは仲間に発破を掛ける。
マリナに頼るばかりではない。その態度に好感が持てた。
五神同盟も喧嘩を売られた身。あらがみならば手控える理由はないので、防衛を手助けするばかりではなく打って出ることも許可していた。
『戦艦で来た! のはちゃんとワケがあるし!』
マリナに次いでスピーカー越しに大声を張り上げるギャルの声。
ハトホル太母国 三女 プトラ・チャンドゥーラ。
異世界に来て随分経つが、未だにコギャルのファッションを完徹する意志の強さは見習いたい。今日も塔のように盛り上げたヘアスタイルを決めていた。
彼女はこう見えて道具作成師。戦闘員ではない。
色々と細工してもらうために呼び寄せた助っ人の一人である。
艦橋では長男ダインに代わり操舵輪を握っていた。
『でも艦の操縦なんてしたいことないからダインの遠隔操縦だし!』
「せっかくカッコつけとるんじゃからいらんこと言わんでええ」
あとちん付けんな、と通信網でダインがツッコんだ。プトラは親しい人の名前を呼ぶとき、何故か後ろにちんを付ける癖があるのだ。
ちゃん付けの変化系だと思うのだが……矯正するべきか?
そんなわけで操船はダイン任せである。
プトラが操舵輪を握るのは、そこにある引き金が使いやすいからだ。
『主砲! 獅子女王の咆哮! 拡散バージョン!』
発射だし! とプトラがおもいっきり引き金を引けば、花火めいた閃光が結界の外で咲き誇った。横向きに放射したすだれ花火のようである。
展開されたままなマリナの盾型結界。
その中心から放出された主砲のエネルギー波は拡散する。
それぞれが真紅の光弾となって飛び散り、結界の周辺にいるあらがみを手当たり次第に撃墜していく。追尾と誘導も兼ねた効果があるので狙いは過たず、皆殺しを目的とするかのようにあらがみを撃ち落としていった。
直撃すれば大爆発を起こす赤い光弾。
爆炎の花が咲き乱れ、メガトリアームズ王国の空を紅蓮に染めた。
爆発が静まると、そこから黒煙の尾を引いて真っ黒に焦げたあらがみたちが落ちていく。あの威力でも五体が爆散しないのだから呆れた頑丈さだ。
肉体的に強すぎるから――仲間と協力する必要がない。
この仮説を実証するような光景だった。
主砲の拡散光弾は七兄弟も逃さずに捉えていた。
しかし、爆発は起きてもそこから落ちてくる姿は見当たらない。
「ぬぅ! 小癪な砲撃でありますな!」
爆煙を剛腕の一振りで掻き消してマンズが姿を現した。
両手のグローブがいくらか煤けているものの、当人はピンピンしている。あれではダメージも期待できない。しかもツバサの目視に間違いがなければ、マンズは一人で三発分の拡散主砲を浴びているのだ。
大抵のあらがみは一発KO。それを三発喰らっても平然としている。
七兄弟は一般のあらがみと一線を画す。これも証明された。
「済まないマン兄さん! 助かった!」
「……けほ、こほ……マン兄さん、グッジョブ」
マンズの後ろには無傷のライドンとマージョンが確認できる。
装甲スーツをまとうライドンがマージョンを抱えるように庇う念の入りようだ。他種族の廃滅を願う彼らだが、同族への愛情はあるらしい。
……こういうのを見せられると迷うから困る。
「――おい、そこのアンタ」
唐突に声を掛けられたマンズはビクリ! と肩を振るわせた。
爆発の瞬間に紛れて自身の間合いまで踏み込んできた侵入者に気付かず、マンズは仮面の奥で眼を丸くした。睫毛には冷や汗が滴るほどだ。
お構いなしに声の主は続ける。
「確か……正義は拳に宿るとか言っていたな?」
「くっ! 吾輩は正義を体現する者! その拳に正義が宿る……ッ!」
当然の帰結であります! とマンズは怒鳴りながら殴りかかった。
相手を確認せず見当だけを付けたマンズのパンチは空振りに終わり、相手の出方を窺っていた声の主は振り抜かれる剛腕をやり過ごしてから力を溜めた鉄拳の右ストレートをお見舞いする。
拳骨はマンズの顔面を捉え、鉄製のマスクに拳の跡を刻んだ。
命中した鉄拳はそのまま右斜め45度に傾いていき、マンズを地面へ叩き落とすべく全力で振り抜かれ、正義を謳う巨漢を豪快に殴り飛ばした。
「んんんんッ……ノォォォォォォォォォォーーーッ!?」
歪んだ絶叫を上げながら、マンズは地表へ真っ逆さまに落ちていく。
何層も重なった森を突き抜け、大地に叩き付けられたマンズを中心に陥没すると大型のクレーターとなり、木片と葉を混ぜた爆煙を舞い上がらせる。
さしもの正義を謳う巨漢もすぐには立ち上がってこなかった。
「拳に正義は宿らない。宿るのは……ただ純粋な暴力だ」
声の主は白煙を立ち上らせる拳を握り締めた。
マンズに見劣りしない2mの体躯を鍛えに鍛え、それでいてしなやかさを忘れないよう柔軟に肉体を仕上げた青年だ。朴訥な表情が性格を表している。
短めに切り揃えた頭髪も実直さの表れだ。
ボアをあしらったフライトジャケットに渋めのカーゴパンツ。
分厚い靴底が目立つ編み上げブーツで足下を固め、休日の軍人めいたファッションセンスである。このままストリートファイトでも始めそうだ。
水聖国家オクトアード 客将 仙道師エンオウ・ヤマミネ。
そして、ツバサに忠実な後輩でもある。
飛行母艦で待機させていた仲間の一人だが、マリナたち同様「サンディに加勢してくれ」という指示を聞いて参戦してくれたのだ。
――マリナが盾型結界を展開した瞬間。
目映い閃光が走った一瞬で結界の外へ抜け出すと、七兄弟に接近するチャンスを窺い、絶好のタイミングで介入してくれた。
「マン兄さ……んぐぉっと!?」
兄マンズを助けようと身を乗り出したライドン。
マージョンを庇う両腕がほどかれた時を待っていたかのように、彗星の如き強烈なキックがマスクで覆われた彼の横っ面を蹴り飛ばした。
しかし、敵も然る者。
ライドンは反射的に腕を振り上げてキックの軌道を逸らし、顔面への直撃を避けていた。蹴りの爪先をマスクの額へ受け流すように誘導する。
首の筋肉を総動員させ、頭突きの要領でキックに対抗したのだ。
お返しだ! と言わんばかりにライドンは近距離から膝蹴りを打ち上げつつ、そこからバネのように爪先を蹴り上げて襲撃者の顎を狙う。
キックの主はそのままライドンの額を蹴飛ばす反動で、上半身を大きくしならせるように反らした。変身ヒーローの爪先蹴りを躱すと同時に顎を掠めた足に軽いキッスをしてから、高速で何度もバク転にしつつ距離を取った。
「ひゅう~☆ やるじゃん、マスク・ド・ヒーロー☆」
口笛でライドンを冷やかしたのは、ホスト崩れみたいな青年だった。
プラチナブロンドな長髪をなびかせた美青年。
ただし、ちょっとばかり顎が尖っているのがマイナスだった。
風に流れる長い髪からも、笑顔で垣間見せる白い歯からも、瞬きする度に揺れる睫毛からも、キラキラとお星様の輝きを瞬かせている。
この瞬きは仕様――彼なりのキャラ作りだ。
180越えの長身は針金のように細いはずなのに、痩躯とは思えぬほど強靱な芯を宿している。そんな痩せた身体の包むのは、スパンコール仕立てなのかキラキラと絶えず純白の輝きを振り撒く真っ白なスーツの上下。
先の尖った革靴まで白い煌めきに瞬いていた。
エンテイ帝国 特使 輝公子イケヤ・セイヤソイヤ。
猛将キョウコウから遣わされた、南方大陸遠征への援軍である。
エンオウ同様、サンディに加勢するため出撃してくれたのだ。
「新手か! しかし、このライドンに足技で挑むとは笑止千万!」
ライドンは膝を胸へ付けるように持ち上げ、いかにも蹴り技が得意そうなポーズを取った。その足にはまた黄銅色の輝きを放とうとしていた。
「足技が得意なんて個性のひとつでしょ☆」
僕だって負けないよ☆ とイケヤも利き足を頭上に振り上げる。
こちらは足技というより新体操のようなポーズだ。身体を支える軸足から頭上に持っていった利き足までが一直線に“I”の字を描いていた。
ちょうどいい間合いで向かい合う両者。
居合いの達人同士が睨み合う緊張感が続いたかと思えば――。
「ライドォォォォン……ランブルキックッッッ!」
「ラディアンスゥゥゥ……メテオシャワーキィックッ☆」
双方とも目にも止まらぬキックの連打で応酬を始める。
その激突は小規模ながら大気を爆ぜさせるほどの爆発を連続で巻き起こし、その波及は近付く者に身を切るようなダメージを負わせるほどだ。
「……ちょ、ライ兄さん」
私が近くにいるのに……! と抗議しながらマージョンは退いた。
波及が届かないところまで逃げた魔法少女は一息ついた後、瞳孔が点になるほど震え上がりながら硬直してしまった。
「は~いお嬢さん♡ 悪いんだけど動かないでくれるかな~?」
後ろに自分の動きを抑えるための何者かが忍び寄っていたからだ。
掛けてくる声はやたらとナンパだが、男性のものではなくマージョンと同じくらいの少女の声に聞こえた。しかし、喋り方は女の子らしくない。
どうしてもナンパ野郎に聞こえてしまう。
恐る恐る振り向けば、そこに佇むのは一人の少女だった。
マージョンより年上に見える、細い目をしたボーイッシュな美少女。
拳法着と呼べるような道着を身にまとっているが、実りに実った胸元や細く締まった腰付き、そして何よりゆったりしたズボンでも隠せない尻の大きさが間違いなく「彼女の性別は女性」だと主張している。
だが、どこか女らしさに欠けていた。
やけに大きく結ったおさげ髪がトレードマークになっている。
ククルカン森王国 日之出工務店 武道家ランマル・サンビルコ。
エンオウやイケヤと同じ遠征組の一人だ。
本来の性別は男性で年齢も二十歳前後なのだが、変身を得意とする持ち前の過大能力で女性化したらしい。恐らくマージョンに合わせたのだろう。
「君が何もしなければ、オイラも何もしないよ」
ただし、と付け加えたランマルは指のパキポキと鳴らした。
「もしも余計なことをするようなら、残念だけど手荒な真似をさせてもらう。見ての通り女の子同士、キャットファイトも許してもらおうか」
ニヤニヤ笑顔でランマルは警告した。
完全に振り向いたマージョンは眉根を寄せている。
表情筋にも乏しいので顔色を読みにくいが、眉尻もそこそこ上がっているので腹立たしさを感じているらしい。もしかすると怒っているのかも……。
「……舐めないでちょうだい、細目女」
魔法のステッキを気怠げに振り、金色の粒子をまとうマージョン。
「ありゃりゃ、交渉決裂か」
闘争の気配を感じたランマルは迎え撃つ構えを取った。
斯くして――王国の攻防戦に五神同盟も一枚噛むこととなる。
~~~~~~~~~~~~
「――良かったのか、あれ?」
起源龍キリンが投影する実況映像を親指で指すアルガトラムが、ツバサへ確認を求めるように尋ねてきた。語彙を省いているが言いたいことはわかる。
五神同盟がメガトリアームズ王国に加勢していいのか?
後々サクヤ姫との折衝を拗らせる原因にならないか? と心配してくれているのだ。この肩入れでサクヤ姫の心証が悪くなるかもと案じてもいた。
この王様、鷹揚だが気配りを忘れない。
「大丈夫だろう。あらがみのせいにすれば言い訳は罷り通る」
それでもサクヤ姫が難癖を付けてくるなら、さすがに「狭量だぞ老害!」と言い返すくらいはさせてもらおう。だが、通信網の極秘回線で上がってくるアハウさんからの報告を聞いていると、そこは杞憂に終わりそうだった。
サクヤ姫は老獪でこそあるものの思慮深い。
話のわからない御仁ではなさそうなので安心したところだ。
だからこそツバサはエンオウたち戦闘要員に「おまえらちょっと遊んでこいや」とヤクザの親分気取りで出陣命令を出したのだ。
――腕試しも兼ねて七兄弟の力量を測ってこい。
打って出た三人には暗にそう伝えておいた。
「極道の妻たち……姐さんならそういう命令しそうだなぁ」
「ツバサさんはどっちかっていうとゴッドファーザー、いやマザーか」
「ツバサの独白読まないで頼むから」
バンダユウとミロに心を読まれたツバサはツッコんだ。
「理由はどうあれ助かった。すまんな」
アルガトラムは片手拝みで素直に礼を述べた。アバウトながらもここで礼を言えるか言えないかで人柄に違いが出る。彼は紛れもなくいい人だ。
嫁の窮地を救われたのだから余計だろう。
そのアルガトラムだが、なんとも訝しげに話し出した。
「しかしなぁ。あれだけ群れても単身で突っ込むことしか知らないあらがみが、力を合わせて合体攻撃をしてくるとは……連携はまだまだお粗末だったが、ここから学習されたら今後はもっと厄介になりかねんぞ」
対策必須だな、とぼやくアルガトラムは既に講じているようだ。
結界を破られた程度では大きな動揺はない。
それがアルガトラム王の臣下たちも同様で、さっきから後ろに控えているメイド長コンビも多少慌てたものの、すぐさま落ち着いていた。
長身なメイド長――ムークは密かに過大能力の出力を上げていた。
王国を守る結界には彼女も参加しているのだ。
チョーイやキリンも椅子に腰掛けたまま動じていないが、結界が破れると同時に各々の過大能力や起源龍の力を静かに強めていた。
おかげで結界は見る見るうちに塞がっていく。
マリナが盾型結界に防いだのもあり、侵入者は0で抑えられていた。
いくつもの過大能力を束ねた結界なので、修復が早いのも売りなのだろう。さりとて破られたのはいただけない。いくら現場で防衛担当をするサンディと騎士団の尽力があっても、今後あらがみはそれを上回ってくるはずだ。
特に――七兄弟はとてつもない脅威だ。
王妃サンディの結界強度は段違いの堅牢さを誇る。
推定だがツバサでも容易には破れない。同等の強さと見做していい夫のアルガトラムでさえもだ。彼をして「防御力最強!」と褒めるだけはある。
単純な強度ならばマリナの結界の3~5倍。
それだけの守護の力を持つサンディが、チョーイたち複数の過大能力を幾重にも組み合わせた結界に働きかけ、より強固に仕上げた王国の防衛結界。
それを七兄弟は破ったのである。
たとえ三人掛かりだったとしても侮れるものではない。
マンズのパンチは結界を傾かせ、マージョンの砲撃は結界を撓ませ、ライドンのキックは結界に波紋をつくるほど揺らめかせたのだ。
そして、三人の連続攻撃により王国の結界は突破された。
中途半端なLV999ではタイマンも怪しい。
最低でもツバサと肩を並べられる達人でなければ返り討ちは必至である。
エンオウたちならば対戦しても問題ないとは思う。
それでも万が一を危惧するほどだ。
「あらがみはどいつもこいつも大概だが……七兄弟は輪を掛けておかしい。秘めた潜在能力が真なる世界の生物基準から大きく外れている。蕃神に由来があると思われても仕方ないくらい、どいつもこいつも異常なパワーの持ち主だ」
「だけどおつむは弱いんだよね」
もはやツバサの超爆乳の下から顔を出すのが定位置になっているミロが、またしてもアホの子である自分を棚に上げてそう言った。
正直、あらがみの知能を疑う面はあまり見られない。
総帥ショッカルンは口が達者だったし、巨大ロボ・ジーオンも臨機応変で動いていた。個々のあらがみも言動からしてバカではない。
脳筋なのは太鼓判が押せる――だが頭が悪いわけではなさそうだ。
どちらかといえば世間知らずという印象が強かった。
「……単に無知なだけかも知れないな」
もっとあらがみついて情報を集める必要がある。
力は強く知恵もあるが物を知らない。どこかで見掛けたような風貌、真なる世界にも別次元にも由来しない出自。これらの曖昧模糊とした謎を解き明かせば、あらがみに対抗する術が見つけられるはずだ。
「う~ん、なんだかなぁ……見覚えっつうか既視感っつうか」
雰囲気は似てるんだよなぁ、とバンダユウがしきりに首を傾げていた。
実況映像の七兄弟を見つめたままの感想だ。
「組長さん、何か心当たりがあるみたいな言い方ッスね」
気になることがあるなら教えてほしいッス、と次女フミカがバンダユウに水を向けた。少しでもいいからあらがみに通じる情報が欲しいのだろう。
些細な閃きやでも望むところだ。
そこから思い掛けず解決の糸口が見付かるかも可能性もある。
バンダユウは困り顔のまま映像を指差す。
「いやぁ、あの七兄弟とか名乗ってる三人の格好がさ。どいつもこいつも昔懐かしのヒーローっぽくてさぁ……そもそもあらがみが総じて懐古なのよ」
あらがみの外見はどいつもこいつも懐古主義。
その代表的な例をバンダユウは人差し指を立てて挙げた。
「最初の乱戦ん時、あっちのショッカルンだかって爺さんがコースケやらガジララやらって遠くにいる息子たちと連絡取ってたろ」
「ええ、黒電話みたいな頭のあらがみを通信機にしてましたね」
ここでミロがヒョコッと口を挟んだ。
「ねぇねぇツバサさん――黒電話ってなぁに?」
ミロの質問をバンダユウは「待ってました!」と拾い上げる。
「ほらな、ジェネレーションギャップ。今時の子はあんな古臭い電話機なんて知らねえよ。なあ、ヤングチルドレンズ?」
バンダユウは横に並んだ若者たちに問い掛ける。
長男、次女、情報屋、三人は一斉に首を横へ振る。
「「「いえ、知ってますけど」」」
「あっれぇっ!? ジェネレーションギャップどこ!?」
まさかのリアクションに度肝を抜かされるバンダユウを「まあまあ……」と宥めたツバサは、彼らは特別物知りだからと納得させた。
ダインは機械全般のオタク、フミカは博覧強記娘が通り名、ショウイも情報屋の名に恥じない博識振り。黒電話くらい知ってて当たり前の面子だった。
ちなみにツバサも知っている。
昭和の映画大好きなインチキ仙人に育てられたのだ。登場人物が黒電話を使っているシーンを見たのは一度や二度ではない。
「この場合、ミロの反応が普通ですから間違ってません」
「はーい、今時の子代表でーす♪」
「そうだよな。あーびっくりしたぁ……で、気を取り直してだ」
コホン、と咳払いしてバンダユウは続ける。
「あの黒電話怪人を始めとして、あらがみどもはどいつもこいつも地球人……それも日本人のノスタルジックを直撃する見た目をしている奴が多いなー、とオジさん思ったわけですよ。特にあの七兄弟とかいう連中」
マンズは――かつて一世を風靡したアメコミヒーローたち。
マージョンは――魔法少女の原型となった魔女っ子たち。
ライドンは――特撮華やかなりし頃の変身ヒーローたち。
七兄弟のフォルムはそれらを想起させるものだった。
「あいつら、なんであんな昭和レトロなんだ?」
どこにも属さない正体不明の分際で、どういうわけか日本人の記憶を刺激するような外見を呈している。そのことをバンダユウは疑問視したのだ。
老組長は探偵のような眼光である仮説を立てた。
「もしかすると地球から来た人間って可能性が無きにしも非ず……それも見るからに昭和期限定だ。明治や大正、平成や令和の影が見られねぇからな」
あらがみのデザインモチーフとなったもの。
黒電話が最たる例だが、もしも現代日本全般にモチーフを求めるならば、昭和前後の時代を象徴するものもなければおかしい。
電話などの機器を例にバンダユウは比較していく。
「その証拠にスマホやタブレットにガラケーの怪人はいなかった」
逆に黒電話よりも古いタイプの電話。ラッパみたいな口と両眼みたいなベルが付いた電話もない。バンダユウは具に観察していたという。
「確かに……あらがみのモチーフは昭和期に限定されてるッスね」
「確認しました。フミカちゃんに同意です。どちらかといえば昭和中期から後期、バブル景気に浮かれる前の時代ばかりですね」
情報の収集と解析を担当するフミカとショウイが、バンダユウの発言を裏付けるように報告してくれた。これは否応なく信憑性が増してくる。
仮説を補強するようにバンダユウは前例を出した。
「生身の人間が真なる世界へ飛ばされて変身する……知ってるだろ?」
「あらがみは妖人衆みたいなものだと?」
有り得なくはない話だ、とツバサも一定の理解を示した。
妖人衆――ハトホル太母国に暮らす亜神族。
その正体は、過去の日本から偶発的な理由で転移させらた人間。転移の原因でもある澱んだ“気”を浴びて妖怪のように変異した人々だ。
あらがみは女王樹を母神の如く崇めている。
地球の日本、その昭和期から神隠しのように転移させられてきた人々が、女王樹から瘴気を帯びた“気”を浴びて、奇跡的にも死ぬことなく生き存え、その恩恵を授かるように南方大陸でも生きていける超常的な力を得る。
妖人衆も澱んだ“気”に耐えた。この類例と捉えればいい。
外なる神の瘴気に耐性を身に付けた人間が変異してあらがみに……。
「無理やな――並の人間ならあん瘴気で御陀仏やがな」
この仮説はノラシンハによってぶった切られた。
聖賢師は仮説を論破する根拠を並べる。
「そもそもの話、あいつらが地球の日本由来なら俺の三世を見通す眼で看破できんわけがない。なんやごっつ見覚えあるなーとは思っとったが、どんだけ根掘り葉掘り由来を調べても、あらがみどもから地球の因子は感じられへん」
「見た目あんなに昭和なのにかい?」
バンダユウは食い下がるものの、ノラシンハは無慈悲に言い切った。
「せや、まったくや。まだ真なる世界や別次元に蕃神……そっち因子の切れ端のがちらほら見付かるくらいや。しかし、地球の因子はどこにもない」
日本の昭和期など以ての外だという。
「なのに……あん見た目はなんや? バンちゃんやのうても困惑するわ。どいつもこいつも昭和のテレビに映ってたようなんばっかやないの」
ノラシンハもまた頭を悩ませていた。
この爺さん、なかなかの日本マニアである。遠隔視ができるのをいいことに、ちょくちょく日本産の映画やドラマを楽しんでいたらしい。
そんな彼があらがみから日本を連想しないはずがない。
なのにノラシンハはここまで言及せずに来た。そのことが不思議に感じたが、誰かが気付くまで発言を控えていたようだ。
話題に上がれば訂正を促すつもりだったのだろう。
「というわけで……すまんなバンちゃん」
「いいってことよノラさん。思い付きの戯言だからな」
せっかくの提言を潰したことをノラシンハはバンダユウに詫びた。あくまで仮説なのでバンダユウも固辞はせず、ヒラヒラと手を振ってお終いにした。
「しっかし、ホンマなんやのんアイツら?」
全体像がわからないノラシンハは忌々しげにぼやいた。
「昭和どころか地球の気配はまるで感じられん。せやのに見た目は昭和にあったもんからパクったようなんだらけ……わけわからんでしかし」
「――素材と参考は別じゃない?」
頭を抱えるノラシンハに、ミロがあっけらかんと呟いた。
「どうゆうこっちゃミロちゃん?」
「だから、素材は色んなところから集めてカオスってるけど、そこから形を作る時に参考にしたものは別なんじゃないの? ってこと」
わかるようなわからないような理屈だった。
「あ、ミロちゃんの言いたいことはこういうことッスか?」
フミカが言葉足らずなミロの代弁をしてくれた。
「様々な世界の因子を集めて素材にして、そこからあらがみを創造する。外観デザインの参考には昭和期の情報を使った……みたいな?」
「そう! フミちゃんそんな感じ!」
我が意を得たり! とばかりにミロがフミカを指差した。
これを聞いたアルガトラムは高笑いを上げた。
「ウハハハハ、なかなか痛快な考察だな。外なる神が関わっているとなれば、それくらい朝飯前だなと割り切れるから納得してしまいそうだぞ」
「……だとしたら混沌っぷりに拍車が掛かるぞ」
ツバサは渋い顔のまま嫌そうな声で呻くしかなかった。
この考察における最大の問題点は「どうして昭和?」という点だ。
様々な次元の要素をごった煮にしたという点は、外なる神ならやりかねないという悪い意味での信頼と実績があるからいい。だが、そのごった煮から造型する参考資料として、どうして昭和という日本の一時代を選んだのか?
そこに合理的な解釈を見出すことができずにいた。
いずれ日本から飛ばされてくるツバサたちを予見しての当て付けか? だとしたら世代が遠すぎる。もはや令和も過去の話、昭和も遠くなりにけりだ。
しかし、昭和の香りが消えたわけではない。
アメコミヒーローは今も大人気で、対となるヴィランも活躍している。魔女っ子という萌芽は魔法少女を始めとした戦えるヒロイン像を確立させた。特撮ヒーローも未だ健在、新たなヒーローが続々と誕生している。
彼らの原型はそのほとんどが昭和に端を発していた。
もっと遡ることもできそうだが、活気づいたのは昭和のはずだ。
何かしらの理由があるのか?
『――ツバサ君、そちらは大事ないか?』
ツバサが常識人ゆえの頭の固さから悩んでいると、脳内にアハウの声が聞こえてきた。通信網の極秘回線を通じたメッセージだ。
声に少なからず緊張の張りがあるので、ツバサはすぐ察した。
『アハウさん、もしかして……』
小さく固唾を飲んだ後、アハウは予想通りに言葉を紡いでいく。
『ああ……現在、サクヤ教授の拠点が襲撃されてる』
あらがみ七兄弟の別働隊が率いる軍勢が押し寄せているそうだ。
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