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第22章 想世のコノハナサクヤ
第526話:ニシへヒガシへ
しおりを挟むあらがみの軍勢が南方大陸の奥地へと帰っていく。
その疲れた後ろ姿はもう荒事を望むべくもないが、それでも姿が見えなくなるまで用心深く見送る。彼らの姿が消えてからからツバサたちも甲板へ戻った。
後ろから雪駄を踏み鳴らす音がする。
「よう、お疲れ様だな」
甲板へ降りたツバサにバンダユウが労いの言葉を掛けてくれた。
鯔背に絢爛褞袍を肩に羽織った老組長の後ろには、ツバサたちがショッカルンと対峙している間、艦へ攻めてくるあらがみ軍団に反撃を続けてくれた若手たちも居並んでいた。ツバサは会釈とともに感謝を伝える。
「バンダユウさんたちこそ……お疲れ様です」
「なぁに、こんな小競り合いでヒィヒィ言ってたらこの先やってけねえよ。ジジイがこれだけ元気なんだ。若い衆なんざもう十戦くらいは平気だろ」
それは無理、と苦い顔をする若い衆。
――もう勘弁してください! せめて休憩ください!
背中を向けているバンダユウ、その死角から無言で訴えてきた。
ツバサが叩き上げた仙道師エンオウやキョウコウ麾下の輝公子イケヤなどは平然としているが、武道家ランマル以下の若手は首を左右に振っていた。
エンオウやイケヤは何気にスタミナもあるようだ。
カズトラやレンたちはまだまだ体力不足ということだろう。
――あらがみたちの戦闘力は馬鹿にできない。
個々のLV差にむらっ気はあるが、平均してLV800前後なのは神族や魔族でも珍しい。種族としての基礎能力は亜神族や準魔族を超えている。
新神と名乗るのも伊達ではなかった。
本腰を入れた戦闘でこそなかったものの、そんな連中を追い払うべく交戦すれば疲労感は覚えるはずだ。みんなそこそこ疲れた顔をしていた。
だが、バンダユウは笑顔で振り返る。
「疲れたー! なんて日和った弱音をほざく奴はいねぇよなぁ?」
その目は笑っておらず、厳しく睨め付けていた。
ツバサに疲れを訴えるべく首を左右に振っていたランマルたちは、バンダユウの顔がそちらを向くと首を縦に振り替えていた。若者らしい処世術だ。
よし! と老組長は念を押すのを忘れない。
「さて……手荒い現地人の手厚い歓迎は済んだとして」
剣豪セイメイのよく通る呟きが聞こえた。
既に愛刀・来業伝を鞘に収めたセイメイは、勝利の美酒とばかりに瑠璃色の瓢箪から神酒をがぶ飲みしていたが、片手の親指が明後日の方向を指していた。
「あちらの地元民はどんな歓迎をしてくれるんだろうね?」
指先にある西の方角から【駅舎】が迫ってくる。
メガトリアームズ王国 駅長 ジャーニィ・ダイヤグラム。
腹話術の人形めいた愛嬌のある青年が、手を振りながらこちらへと近付いてきていた。敵意がないことを全身を使った身振り手振りで表現している。
ついでに圧迫感も消すつもりのようだ。
彼の過大能力である【駅舎】の全体像が少しずつ薄れていく。
あるべき亜空間へ収納されていくのだろう。やたら流線型の先頭車両が十両編成で出てくると【駅舎】は完全に消えてしまった。
弾丸特急でも無人在来線爆弾でもない。普通の空飛ぶ列車だ。
この車両なら多くの人々や荷物を載せて高速輸送を可能とするだろう。
「空飛ぶ時点でファンタジーの申し子じゃね?」
「科学的なギミックで飛んでいるならSFの領分だけどな」
ツバサの脳内独白にミロがツッコんできた。
まだお母さんへおんぶに抱っこでしがみついているアホの子の頭をむんずと引っ掴んだツバサは、引っ剥がして自分の隣に立たせる。
曲がりなりにもミロはツバサの伴侶としてハトホル太母国の代表。
今後どのような交流になるわからないが、メガトリアームズ王国の使者でもあるジャーニィの前でだらしない真似をさせるわけにはいかなかった。
「ほら、背筋正して……シャンとしなさい」
「はーい、お母さーん」
誰がお母さんだ、と合いの手を入れながらミロのお尻を抓っていると、飛行列車の先頭に乗ったジャーニィが目の前までやってきた。
飛行母艦の横につける形で停車する飛行車両。
車両の背に立つジャーニィは甲板にいるツバサたちと目線は合うが、少しだけ下に位置していた。使者として目上にならないための配慮だろう。
「車上から失礼。改めて名乗らせて頂きます」
駅員帽を脱いで深々と一礼したジャーニィは自己紹介する。
「ボクはメガトリアームズ王国国王アルガトラム陛下にお仕えし、国内の流通網を任されております運輸大臣。ジャーニィ・ダイヤグラムと申します」
以後お見知りおきを、とジャーニィは礼儀正しい。
口癖らしい語尾も形を潜めており、王の臣下に見合う気品があった。
「丁寧な挨拶、痛み入ります……私はツバサ・ハトホル。ここより北にある中央大陸にて国を興した者の一人です」
ツバサたちもお辞儀で返すと、一人一人挨拶をしていく。
甲板にいる全員だと時間が掛かるので、ここは各国の代表を務めるツバサ、アハウ、ミサキ、バンダユウの四人の自己紹介に留めておいた。
そして勿論、中央大陸や五神同盟のことも詳らかに説明した。
掻い摘まんだ部分もなくはないが、ジャーニィは概ね理解してくれたようだ。
「ところで……あの【駅舎】はもういいのかな?」
それぞれの挨拶が済んでからツバサは好奇心で尋ねてみる。
「ええ、存在感がありすぎるんでお客様の前では邪魔かなぁと思いましてね。足になる車両だけ残して片付けておきました」
気安く答えてくれたジャーニィはやや残念そうに続ける。
「この艦がもう少し小さければ【駅舎】を介して我が国までご案内することもできたんですが、近付いてみたら目算よりずっと大きかったもので……それに皆さんも初対面なのにボクの過大能力に頼るのはちょっと怖いでしょう?」
様々な気遣いの結果――仕舞うことにしたらしい。
通信での事前連絡もそうだが、心配りのできる気の利いた性格のようだ。
こういう人物が腹心を務める王ならば期待できる。
もっとも、メガトリアームズ王国という名が不穏なのだが……。
また、彼の過大能力である【駅舎】は亜空間にある道具箱を拡張するばかりではなく、空間転移もできるらしい。恐らく基底となる【駅舎】がどこかに据え置かれており、そこと自由に往来できるのではと思われる。
基底とする場所は――メガトリアームズ王国。
この艦が小さければすぐに、と言っていたから他にあるまい。
今のところ友好的に応対できてはいるが、初対面の人物が操る過大能力に身を任せるのは二の足を踏んでしまう。躊躇せずにはいられない。
これは危機管理能力の問題だろう。
自分一人ならいざ知らず、家族や仲間が一緒となれば尚更だ。
「そうですね……お心遣い感謝いたします」
ツバサが感謝を述べると、空からクスクスと笑い声が振ってくる。
「ジャーさん、いつもの語尾がどこかに行ってる」
緊張してるんだね、と鈴を鳴らすような少年の声が聞こえてきた。
字面だとからかい気味に感じるが、実際の声を耳にするとあまりに優しい声音なので労られている気持ちになるだろう。
どう聞いても悪意が含まれない美声の持ち主だった。
声の主は翠玉色を帯びて舞い降りる。
龍馬の起源龍――彼が人間に化身した美少年だ。
年の頃なら11~13歳くらい。小学生と中学生の端境にあり、どちらでも通じる背丈。ただし、体格的にはかなり華奢である。遠目から見ても女の子のようだと思っていたが、間近にすると繊細な手足は女子にしか見えない。
フェミニンな美貌も手伝って美少女としか思えない容姿だ。
「だが男だ……あ痛」
余計なことを囁くミロへ目にも留まらぬ速さで拳骨を落とす。
初対面で根掘り葉掘り調べるのも失礼なので、最低限の分析を掛けさせてもらったが彼は正真正銘男の子。まるで女の子のようだが歴とした男子だ。
これは珍しい、とツバサも唸ってしまう。
なにせ今まで出会った起源龍は三体いるが、そのうち二体のジョカフギスとエルドラントは人間体に変身すると女の子にしかなれないのだ。
(※ツバサたちの観点から人間体と記しているが、起源龍の観点からすれば神族に化けている。見た目に大差がないので人間体でも話は通じている)
『起源龍は両性具有――変化すると望めば如何様な姿にもなれる』
ジョカフギスの兄であるムイスラーショカはそう言っていたらしいが、その変化が苦手な起源龍もいるということだ。あるいは、女性体や男性体に変身するのが楽というのもあるのかも知れない。
『もしもこの起源龍が人間に転生したらこうなる』
そんな内部パラメーターみたいなものが、当人も自覚できないまま設定されている可能性もあるという。これはムイスラーショカの推測と聞いていた。
少なくとも、龍馬の起源龍は化けると美少年になっていた。
ミロが男の娘と呼びたくなるのも理解できる。
顔の造作からして男らしい強張りや武骨さとは無縁。少女漫画もかくやというバシバシに際立った睫毛、それにより円らさが強調される瞳はエメラルドの虹彩を湛えており、人間とは似ても似つかぬ人外さを主張していた。
整った鼻梁や蕾のような唇は添えるだけ、儚いゆえに美しい。
手足や体格に比例して首も細く長く、指でつまめそうだと錯覚してしまう。
長い髪は龍馬と同じ翠玉色に煌めいている。
本当に長い髪だ。女神化したツバサやミサキも背中が見え隠れするほど長い髪をしている、いいとこ膝裏やくるぶしで留まっている。
しかし、彼のエメラルド色の長髪は足下で蜷局を巻いていた。
ツバサたちのように髪も自在に操れる身体機構なのか、思い出したかのように動いては髪型を整えていた。起源龍ならそれくらいできるだろう。
身にまとうのは真っ白な布のみ。
インドの伝統衣装であるサリーのような構造らしく、一枚布で器用に身体を覆っているのだ。見方によってはギリシャのキトゥンにも似ている。
起源龍の少年はジャーニィの横にちょこんと並ぶ。
何事もなかったかのように、ほんのり微笑んで素知らぬ振りだ。
「キーちゃん……なにしてんのホンマにもう!」
ジャーニィは起源龍の少年を愛称で呼ぶと、先ほどまでの礼儀を忘れて声を荒らげながら食ってかかった。そこから小言で責め立てていく。
「あれほど国の外から出ちゃいけませんよ、ってチョーさんから言い聞かせられたでしょぉ!? アルさんだってキーちゃんになんかあったら鬱になるレベルで塞ぎ込んじゃうよぉ!? あのへこたれることを知らないアルさんが鬱るんだよ!? もっと自分が大事にされてることを弁えてもらわないと……ッ!」
「ちゃんとお許しはもらったよ――チョーさんからもアルからもね」
ジャーニィの説教を少年は一言でぶった切った。
「え? あ、そ、そうなのぉ? だったらボク何も言えないじゃん……」
そうとは知らずお説教をしていたジャーニィは恥ずかしくなったのか、赤面すると気まずそうに左右の人差し指を突き合わせてイジイジしていた。
察するにアルとはアルガトラムの略称だろう。
ジャーニィも普段から「アルさん」と呼んでいるのか、相手が王でもフランクな付き合いをしているらしい。一方、起源龍の少年は「アル」と敬称なしの呼び捨てなので、よほど親密な関係になっているらしい。
それとは別にもう一人、チョーなる人物がいるようだ。
こちらもジャーニィがさん付けで呼んでいるところを見ると、彼の立場からすれば上司に当たるのかも知れない。アルガトラムの片腕的存在か?
「やあ、はじめまして皆さん」
メガトリアームズ王国について考えを巡らせていると、起源龍の少年が魅力的な笑顔で挨拶をしてきた。耐性がなければ即落ちてしまいかねない。
「僕はキリン、アル……ガトラム王の稚児をやっているよ」
よろしくね、とキリンは小首を傾げてウィンクをした。
彼の自己紹介に「え?」と小さく反応したのはツバサ、アハウ、バンダユウ、そして侍娘レンの四人だった。
稚児の意味をどう捉えるべきか? そこに戸惑ったのだ。
逆に言えば――この四人は稚児の意味を知っていることになる。
稚児とはそのままの意味なら幼児を意味する古語。乳呑み児を縮めるように略した説がある。ゆえに生後6歳くらいまでの幼子を指す。
やがて寺院に住み込みで働く少年を意味する単語にもなる。
こちらは12歳から18歳くらいまで男子で、剃髪をせず寺院で僧侶となる修行をこなしつつ日々の雑用に励む少年修行僧のことを指す。
ここから転じて、戒律のために女犯(女性を抱くこと、即ち性交)を禁じられた僧侶たちの夜のお相手を務める少年を表す言葉にもなった。
要するに隠語の類だ。
昨今、稚児といえば耽美的な意味合いで後者を示すことが多い。
――アルガトラム王の稚児。
そのままの意味で受け取れば、二人の関係性は確定的に明らかだった。
稚児の意味を理解して良からぬ妄想が膨らむ四人に気付いたのか、ジャーニィはあたふたとキリンの口を手で塞いでから訂正する。
「だーッ! 小姓ぉ! キーちゃんはアルさんの小姓ですぅ!」
ね!? とジャーニィはキリンの顔を覗き込む。
キリンは思い出したかのように瞳を見開くと、素直にコクコクと頷いていた。どうやら言い終わってから発言の体裁を思い出したらしい。
まあ小姓も似たり寄ったりなのだが……。
(※小姓=武将に仕えて身の回りに付き従い、様々な雑務をこなす役職。戦国時代になると若者が任されることが通例となり、武将によっては男色の相手をさせられることも珍しくなかった。織田信長の小姓を務めた森蘭丸などが有名)
やっぱりアルガトラム王の性癖を訝しむ。
もしもアルガトラム王があのドラクルンの関係者ならば、血の繋がりを疑ってしまうほど。あの変態親父は誰でもイケる性豪だったし……。
「と、とにもかくにも!」
ジャーニィは片手でキリンの口元を塞いだまま、再び駅員帽を取って頭を下げるとツバサたちを歓迎するように片手を広げた。
「ツバサさんたちはあの壊すことも越えることもできない、靄の結界を突破してこの南方大陸までいらしたんですよね? ならば閉ざされたこの大陸初のお客様だ! そんな先進的な方々に我らが王は是非とも会いたいと申されております!」
――どうか我が国へご来訪くださいませ。
改めてジャーニィは招待の意思を伝えてきた。どうやら彼も密かにアルガトラムと連絡を取り、ツバサたちの到着を報告していたようだ。
そろそろ頃合いと考えたツバサは、最大の疑問をぶつけることにした。
その前に左右へアイコンタクトを送る。
戦女神ミサキと剣豪セイメイ、それに仙道師エンオウの三人だ。
甲板にいるメンバーであの変態親父の被害に遭っているのは、ツバサを含むアシュラ・ストリートを体験したことがあるこの四人。
もしもの時は……と気付かれぬよう身構える指示を出しておく。
目配せを終えたツバサは質問を投げ掛ける。
「君たちの王様はアルさん……アルガトラム王と呼ばれているようだが、失礼でなければアルガトラム王のフルネームを窺ってもいいかな?」
逡巡すらせずジャーニィは即答する。
「はい――アルガトラム・T・ギガトリアームズと申します」
うん、完全に関係者だ。名字と思しき下の名前が完全に一致しているのみならず、まだ意味が明らかにされていない“T”まで合致していた。
ドラクルンの血縁者なのはほぼ確定。
それだけで山の如く積もりに積もった嫌悪感から、条件反射で臨戦態勢に入ろうとした仲間たちをツバサは片手で制した。
ドラクルンの血縁者――その奇妙な関係性を思い出したからだ。
「……ドラクルンという名に聞き覚えはありますか?」
慎重を期して丁寧な物腰で尋ねると、ジャーニィは苦い顔になった。
今すぐ土下座したいような顔付きである。
「ああぁ……アルさんの親父殿を御存知なのですね」
苦虫をボウルいっぱい頬張ったかのような苦々しい表情のまま愛想笑いを浮かべるジャーニィは、すさまじい形相の苦笑を浮かべていた。
身構える仲間の様子から察したらしい。
「まずは落ち着いて……ボクの話を聞いていただけたら嬉しいです」
両手を広げてた彼はこちらの威勢を制しながら弁解する。
「はい、確かにアルさんはドラクルン公……いえ、皆さんの雰囲気からすると変態クソ親父といった方が通じるでしょう。あのクソ親父殿の御子息であらせられます。もっとも、親子の縁はとっくの昔にぶった切れておりますが……」
あれが父親ならば宜なるかな、というやつだ。
恐らく、父親と息子が相互で断ち切ったに違いない。ドラクルンも四人の息子に勘当紛いのことをしたが、息子たちも絶縁状を叩き付けたはずだ。
それはジャーニィの言動の端々から読み取ることができた。
鎌をかけるように一言だけ水を向けてみる。
「――実の息子への抹殺命令」
ツバサの呟きにジャーニィの小さな眼が瞠目した。
「そこまで御存知でしたか……はい、そうです。アルさんはドラクルン公から命を狙われてきました。昔も今も……あの方は刺客の影に脅かされています」
深刻な面持ちのジャーニィはソッと眼を伏せた。
情報収集しておいて正解だな、とツバサは手応えを感じていた。
ドラクルンは真なる世界にあった錬金術師の国出身。
その国の大公(=公国の王)だったのだが、どんな狂気に駆られたのか自らの手で自らの国を滅ぼしてしまったという。国民はおろか通りすがりの旅人さえ一人も逃すことなく、自身の国を完膚なきまでに滅亡を追い込んだらしい。
その後――四人の息子を連れて行方を眩ました。
ここまでは聖賢師ノラシンハから聞かされた話であり、その後のドラクルン親子の消息については杳として知れない。
だが、彼はいつの間にか地球の日本へと転移していた。
VR格闘ゲームの最高峰“アシュラ・ストリート”で活躍するアシュラ八部衆の一人、D・T・Gとしてその迷惑っぷりを遺憾なく発揮していた。
同じく八部衆だったツバサたちも幾度となく振り回されたものだ。
アシュラ・ストリートのサービス終了後――。
今度はVRMMORPGで目撃情報があったらしい。
剣豪セイメイも遭遇したと証言している。
その息子たちもプレイヤーとして参加していたようだが、ドラクルンは顔見知りに会うと「息子たちを殺していい」と許可したそうだ。
ゲーム内での会話だったから誰もが冗談半分で聞いたという。
しかし、この発言に真実味が帯びてきた。
最悪にして絶死をもたらす終焉――殺戮師グレン・ビストリング。
仙道師エンオウが倒した破壊神の幹部の一人。彼は不死身のため殺せなかったので、秘術を用いて金属製の仮面に封印した。
その仮面から彼の記憶を吸い出していた。貴重な情報源である。
すると、未来神を自称するドラクルンを介して破壊神ロンドと密会していたなどの新情報があったのだが、その中に気になるものがあった。
ドラクルンが殺戮師に――四人の息子の抹殺を依頼していたのだ。
記憶の抽出に手間取ったため、最近得られた情報である。
ただし、依頼といっても緊急性や時限性はなく「もしも出会すことがあれば殺してほしい」という、なんともアバウトなものだった。
行けたら行くわ! みたいな口約束と大して変わらない。
だからグレンも率先して取り組んでいなかった。
(※彼の記憶は調査中だが、該当する記憶にまだ行き当たっていない)
ドラクルンにまつわる情報をまとめると、彼は国を滅ぼしても四人の息子は同行させていた。しかし、途中でどんな心変わりがあったのか息子たちに反旗を翻されたのか、彼らの始末を仄めかすようになった。
急ぎはしない――いつか片付けられればそれでいい。
そんな気の長さを感じさせる。
そうなった経緯については当事者に聞くのが手っ取り早そうだ。
他でもないアルガトラムがそうなのだから……。
「……ハァ、ここに来てクソ親父殿の被害者がとうとう出てきたかぁ。やっぱり皆さんもご迷惑を被ったんでしょ? すいません本当に……」
肩を落としたジャーニィは申し訳なさそうに頭を下げてきた。
ごめんなさい、とキリンも謝罪のために腰を折る。
直接ドラクルンとは関係ないのに律儀なことだ。顔を上げたジャーニィは努めてポジティヴに振る舞おうと、顔の苦味を打ち払っていた。
「アルさんはドラクルン公の血を引く四兄弟の末弟……つまり四男坊です。命を狙われているのもありますが、幼い頃から親子仲はよろしくなかったようで、事あるごとにドラクルン公を変態クソ親父と罵っておりまして……」
再会した暁にはこの手で息の根を止めてやる! と公言しているとのこと。
「その気持ち……スッゴいよくわかる!」
この話を聞いて割り込んできたのはミロだった。
……そういえばコイツも実の父親とは確執があるどころか、嘘偽りなく半殺しからの病院送りにした経歴の持ち主だ。アルガトラムに共感するのだろう。
「お宅の王様とはいいジュースが飲めそうだね!」
ツバサの隣に並んだミロはサムズアップで言い切った。
まだお子様なので酒は飲めないからジュースと言い換えたらしい。
「ええっ、お嬢ちゃんも親父さんと仲が悪いの? やれやれ、どこの親子も喧嘩が絶えないねぇ……もっと平和的な家族像にお目に掛かりたいですよ」
肩をすくめたジャーニィはお手上げのポーズで嘆いた。
「しかしまあ、あの変態クソ親父……いえいえ、アルさんの父君であらせられるところのドラクルン公の被害者なら話は早そうですね」
迷惑をかけられた前提で話を進められている。
実際、ツバサたちはかなりの被害者なので否定はできなかった。身構えていたアシュラ出身者たちも腕を組んで「うんうん」と賛同の頷きを繰り返しているだけで、その迷惑っぷりは知れようというものだ。
「お話した通り、アルさんもドラクルン公は血反吐を吐かせるまでぶちのめしたいほど激怒120%ですから、きっと皆さんともお話が合いますよ」
ようやく苦みの消えた顔でジャーニィは保証してくれた。
「……どんだけ恨み買ってんだ、あの変態オヤジ」
今度はツバサが苦い愛想笑いで遠い目をする番だった。
抹殺を言い渡された息子たちとの仲は険悪だろうな、と読めていたが、部下であるジャーニィの弁を信じればアルガトラムは一入のようだ。
他の三兄弟についてはまだ不明な点が多い。
ただ一人――ツバサたちはドラクルンの長男と会っている。
あの男についても色々と聞き出したいところだ。
ジャーニィと会話を進めていると、話を聞くだけの起源龍キリンは飽きてきたのか飛行列車の屋根に腰掛け、のんびりと空を見上げていた。
足をプラプラさせていた彼が遠方に眼を遣る。
「あ、やっと来た」
視線の先には、彼に遅れてこちらへ走ってくる鎧の巨人がいた。
――原初巨神の少女である。
全身を覆う鎧をまとって巨神を両断できる大斧を担いだ重武装。250mの巨体で全力疾走したとしても、大陸奥地からだと時間が掛かるようだ。
彼女の姿が見えてくるとタカヒコも近寄ってきた。
緑髪に長身の少年と豚顔の大柄な少年も一緒になってトリオだ。
なんとなく――西遊記を思い出す顔触れだった。
タカヒコが虎皮の半纏を羽織り、長身の少年が河童を連想させる緑色の髪で、大柄な少年が豚の顔をしているから連想してしまう。各々が手にする農具が元となった武器も、それぞれのトレードマークにちょっと似ていた。
(※西遊記の孫悟空は三蔵法師の弟子になった後、襲ってきた虎を退治してそこから腰巻きを作った。そのため虎皮をまとった姿で描かれやすい。沙悟浄は日本だと河童にされがちだが、これは流砂河という川を根城にしていたことからの改変。元は天界の武将だが罪を犯して下界に追放され水怪となった。本場中国だと頭頂部のみ剃髪した赤髪の色黒な大男として描かれる)
失礼します、とタカヒコは一声掛けて飛行列車に降り立った。
タカヒコは得物の鍬を道具箱に収めた。習うように後ろの二人も大鎌や九つの歯を持つ鈀を仕舞っている。戦意がないことを表しているのだ。
まず前に出たタカヒコから挨拶をしていく。
「お久し振りです、ジャーニィさん」
続いて緑髪の少年と豚顔の少年も会釈する。それぞれ「ちぃーす」「だでな」と自己流の挨拶を小さく呟いていた。
キリンは微笑みこそ崩さないが彼らをやや遠巻きにしていた。
一方、ジャーニィは気さくにタカヒコたちへ応じる。
「おお、タカヒコくんお疲れ。今日はサクヤ姫やカネさんはお留守番?」
「はい、野良仕事がてら気になった野草を採集してくるとか……そちらもタッパーさんや巫女さんたちはお休みですか?」
「うん、ウチのアルさんも『新しい国民みーっけ!』と朝からウキウキで出掛けちゃってさぁ……大半はそっちの護衛に回っちゃったのよ」
お互い宮仕えは辛いねぇ、とジャーニィはお茶目にウィンクをする。
「アハハ……お賃金は出てませんけどね」
タカヒコは困ったように愛想笑いで返していた。
宮仕えというよりサクヤ姫に弟子入りしているタカヒコたちにしてみれば、同感すべきなのか異論と唱えるべきなのか悩ましいようだ。
そこから世間話めいた談笑を始めるジャーニィとタカヒコ。
普通に和気藹々としており、険悪ムードは見当たらない。
――アルガトラム陣営とサクヤ姫陣営。
主義主張が相容れず対立していると聞いたが、両陣営の幹部がのんきに話しているところを見れば、敵意に端を発するものではなさそうだ。
タカヒコは「両陣営の元で暮らす種族が馴染まない」などと説明していた。
そこに両陣営が手を結べない理由があるのは間違いない。
ひょっとすると、あらがみのように南方大陸の主権をして主張して争っているのかも知れない。だとすると根深い問題がありそうだ。
「あの……俺たちも挨拶させてもらっていいですか?」
ぺこり、とジャーニィに頭を下げながらタカヒコは申し出た。
「どうぞどうぞ、ボクたちは済んだからね」
ジャーニィは気のいいお兄さんらしく、手を振って譲る動作でツバサたちの前を明け渡した。傍にいた起源龍キリンも腰を上げて空に舞い上がる。
そのままジャーニィの頭に鞍替えしていた。
場所を譲られたタカヒコたちは一礼してからツバサたちの前に並ぶ。
「改めまして……俺はサクヤ教授の門下生でタカヒコ・アジスキといいます。よろしくお願いします」
再び名乗ったタカヒコは礼儀正しくお辞儀をした。
ツバサたちには済ませているが、戦闘中のドタバタだったことと甲板には初対面のバンダユウたちがいたので、もう一度自己紹介してくれたのだ。
誠意を忘れない、よくできた少年である。
「そして、この二人も俺と同じサクヤ教授の門下生で……」
「どーも、ミクマ・クラミツハっていいます。どーもよろしくっす」
「ハニヤ・ヒメヤスメ、お見知りおきをだでな」
緑髪の少年から豚顔の少年の順に名乗った。緑髪の少年はあらがみからミクマと呼ばれていたので、ようやくフルネームが判明した。
ミクマはやや軽薄だがニヒルな口調、ハニヤは朴訥で訛りが強い。
タカヒコを含め三者三様の個性を放っていた。
不意にミクマの眼球がギュルギュルと忙しなく回転を始める。
「超グラマラスだけど雰囲気イケメンのお姉さま! ちょっとアホっぽいけど勇ましい女の子! クール系でサムライチックなコンパクトサイズの女の子! ワイルド系ビキニの似合う天然系な女の子! これってつまり……ッ!」
美少女の宝石箱だーッ! とミクマは歓喜した。
発言もそうだが、人目を憚ることなくにやけ顔で嬉しそうである。
甲板にいる女性陣をチェックしたらしい。よほど女の子に餓えていたのか、その目はキラキラと年相応の少年らしく輝いていた。
下心はない――ただカワイイ女の子とお近づきになりたいだけ。
そんな青少年の欲求を前面に押し出している。
ここまで本音を隠そうとしないと、いっそ清々しくて好感を持てた。
……ツバサやミサキも女性としてカウントされたのだろうが、中身が男だとバラした時、彼はどんな顔を見せてくれるだろうか? 最近このくらいのイタズラ心は許容できるのでクスリと微笑んでしまった。
「こらミクマ、お客さんに失礼だろ……ほら、涎拭いて涎」
タカヒコは穏やかに窘める。人前なので声を荒らげたくないようだ。
すると背後でハニヤがのそりと動いた。
「黙るだでな、エロ河童」
「ちょごのッ!?」
ハニヤは手にした九歯の鈀をミクマの脳天に振り落とした。
手加減せず重力を乗せた全力でだ。せめてもの情けで九つの歯を持つ先端部分ではなく、柄の部分で殴ったのは友情があるからだろう。
「痛ってえぇぇ……何しやがんだこのブタぁ!」
特大たんこぶのできた頭を抱えてしゃがんだミクマだが、怒りに任せて立ち上がると自分より頭ふたつ分は高いであろうハニヤへ食ってかかった。
「初めて会う人に懸想するでねえ。またサクヤの婆さまにドヤされるでな」
「知ったことか! 男の子は女の子への憧れを止められねぇんだよ!」
ミクマが反論してもハニヤは何処吹く風である。
甲板では何人かの男子が頷いていた。その顔触れを見るに女の子に弱そうな面子なので納得できる。特にナンパ野郎のランマルは最たる例だ。
狼狽えるタカヒコを尻目に騒ぎ出すミクマとハニヤ。
「すいません、騒がしくて……いつもこんな感じなんですが、今日は皆さんに会えたせいかミクマのテンションがおかしくて……やめろ二人とも!」
ついにタカヒコは大声で怒鳴りつける。
腹の底から発せられる良い声。気合いも聞き応えがありそうだ。
声が届いたのか、ミクマはピタッと騒ぐのを止めた。
「タカヒコ、おまえ……なに超グラマラスイケメンおっぱいお姉さんと仲良く話してんだよ!? ズルいだろ抜け駆けだろ許さんぞマブダチ!」
「ええぇ……そこでもヤキモチ焼くのぉ……?」
怒髪天を衝いて難癖をつける親友に、タカヒコは酷い顔で諦観していた。
真面目なタカヒコ、欲望に忠実なミクマ、達観しているハニヤ。
なんだかんだで良いトリオのようだ。
「お兄ちゃんたち~! はぁ、はぁ、はぁ……ただいま~!」
そこへ息を切らせた原初巨神の少女がやってくる。
その大きさゆえ彼女の目線は、ちょうど飛行母艦が浮いている高度。間近に迫ってくる巨大な美少女は何とも言い難い圧力があった。
するとタカヒコが片手で印を結んだ。
先ほどの分身術もそうだが、タカヒコの職能は仙人系らしい。
(※身外身の術は孫悟空が得意とする分身の仙術)
仙術、法術、気功術に長けているようだ。ツバサの弟分である仙道師エンオウに近いが、あいつは気功術に重きを置いて仙術や法術イマイチだった。
タカヒコは仙術と法術が得意と見た。
印を結んだ後、原初巨神の少女に向けて息を吹きかける。
途端に彼女の姿は大きな煙に包まれると、接近しつつあった巨大な質量が跡形もなく消えてしまう。そして、煙の中から小さな影が飛び出してきた。
現れたのは――人間大の女の子。
鎧を着込んで大斧を担いでいるビジュアルそのままに、尺寸が人間のものになっていた。身長は130㎝ほどで10歳前後の女の子に見える。
ハトホル一家のマリナやイヒコと同い年くらいだ。
タカヒコが仙術で彼女を人間サイズへ変化させたらしい。
空中に飛び上がった少女は慣性のままにタカヒコ目掛けてダイブ。
「ただいまお兄ちゃん!」
タカヒコも心得たもので両手を広げて迎えると、少女をしっかり胸で受け止めながら抱き締めていた。そこから高い高いするように持ち上げる。
「おかえりパンコ、よく頑張ったね。怪我もないし無事で良かった」
「うん、カネお姉ちゃんが鎧着せてくれたからなんともなかったよ。お母さんも色んな加護? とか強化? とか掛けてくれたし」
おつかいから帰ってきた幼女のように報告する原初巨神の少女。
しかし、パンコとは一風変わった名前だ。
帰ってきた妹と一通り兄妹のスキンシップを交わしたタカヒコは、パンコを降ろすと彼女の背中を押してツバサたちに紹介してくる。
「この子は俺たちの妹でパンコっていいます。ほら、ご挨拶して」
「……パ、パンコ・コノハヤサクヤです」
よろしくお願いします……とパンコはタカヒコの背に半分隠れたまま、彼の袖にしがみついて消え入りそうな声で挨拶をした。人見知りの気があるのか俯き加減で顔を合わそうとしてくれない。
キリンも気になるのか、チラチラと盗み見ていた。
だが、当のキリンは目を合わそうとしない。しかも意識してわざとだ。
原初巨神と起源龍――因縁があるのかも知れない。
しかし、初めて会う人と目を合わせられないのは、小さい子供によくあることだ。ツバサの内なる母性本能のわかりみが深い。
その態度を咎めはしない。むしろ別のことが気になった。
「コノハナサクヤ? それはサクヤ姫の名字と同じ……」
「はい、教授の娘です。それで俺たちの妹です」
ツバサが疑問を口にすると、遮るようにタカヒコが言葉を被せてきた。強引な割り込み方が気になるが、タカヒコに目を合わせると眼力で訴えてくる。
『そういう設定なんです! 察してください! お願いします!』
『……うん、わかった。察しよう』
ツバサでも気圧されかねない迫力に無言のまま従った。
どうやらパンコは原初巨神であるものの、何らかの理由でサクヤ姫の娘となったらしい。そしてタカヒコたちは彼女のお兄さんだ。その関係性は義理ではなく、血の繋がった家族のように振る舞っているのだろう。
恐らくは――パンコのためだ。
そこを詮索するのは無粋なので、ここで触れるのは自重しておこう。
不意にツバサの横にいたミロが歩き出したかと思えば、パンコの前まで行ってしゃがみ込んだ。ビックリする彼女に構うことなく右手を差し出す。
「よろしくね、パンコちゃん」
ミロの朗らかさは心の壁を容易く取り払う。
屈託のない笑顔にパンコの警戒心も解けたのだろう。
「あ、あの……よろしく、お願いします!」
まだタカヒコの後ろに隠れがちのパンコだが、少しだけ身を乗り出すと差し出されたミロの右手と握手を交わした。そこから上下にブンブン振り回されるのは予想外だったのか、幼い少女は目を白黒させている。
そこから“お寺の和尚さん”みたいなリズムに乗った手遊びを始めたミロに、パンコもなんとなく付き合わされていく。
「「――せっせっせーのよいよいよい♪」」
楽しくなってきたのか、キャッキャとパンコは笑い始めた。
気付けばタカヒコの背中から出て一緒に遊んでいる始末だ。楽しそうな妹の姿を見下ろして胸を撫で下ろし、嬉しそうに顔を綻ばせている。
まだ揉めているミクマとハニヤも、後方腕組みで頬を緩ませていた。
ミロの人懐っこさはこんな時こそ役に立つ。
母親目線でミロとパンコの触れ合いをツバサが見守っていると、二つの陣営からの挨拶を静かに見守っていたアハウが前に出てきた。
つい先刻まで臨戦態勢だったため、全長3m越えの獣王神モード。
その巨体で影を作りながら少年たちに問い掛ける。
「タカヒコくんもそうだが、君たちもサクヤ教授のお弟子さんなんだね?」
まだ口喧嘩をしているミクマとハニヤがこれに反応した。
「このブタぁ! 猪八戒マネするなら黒豚だろって教授に言われたのになんでピンクのカワイイ顔してんだよ! ポルコ・ロッソかテメェは!? おまえ飛べるブタだから例のセリフでからかえ……え、なにイケメン獣王みたいな人?」
「オメエだって沙悟浄みたいと言われたからって色んな作品の沙悟浄インスパイアしてんでねえよ。オリジナル原本インスパイアしな。本家は赤い髪だっちゅうんに粋がって緑に染めて……ん? イケメンならぬイケケモのおじさまだでな?」
アハウに呼び掛けられて一時休戦する二人。
「……イ、イケメン?」
イケメンだ獣王だと褒められたアハウは、照れ臭そうに赤面しつつ視線を上にズラしてしまう。この人、褒め殺しで気が動転するタイプなのだ。
間を取り持つようにタカヒコが入ってくる。
「あ、こちらの獣王神の方はサクヤ教授のお知り合いだよ現実での。確か“逆神んとこの暴れん坊”といえばわかるって……サ゛カ゛ガ゛ミ゛ッッッ!?」
説明している途中にタカヒコは思い出したらしい。
素っ頓狂な声を上げた少年は、ぎこちない動きで振り返って確認する。
「まさか……あの逆神教授のお弟子さんですか!?」
「弟子というほどでもないが……まあ住み込みで世話になった教え子だな。恩師と呼べる人は何人かいるが、その一人に間違いない」
「「「ええええええええええええええええええええーーーッ!?」」」
アハウが逆神教授との関係性を明かすと、タカヒコは元よりミクマとハニヤも取っ組み合いの喧嘩をやめて仰天するまま絶叫を上げていた。
「あの地上最強の民俗学者の直弟子なんですか!?」
「野外調査中に百人殺しの怪物羆に襲われても返り討ちにしたあの!?」
「南の海で頬白鮫の群れに落とされても全滅させたっていうあの!?」
タカヒコたちは逆神教授の伝説を捲し立てていく。
「……端から聞いていると人間の所業じゃないな」
「地上最強の称号は伊達じゃないね」
ツバサとミロも呆気に取られるほどの偉業ばかりだ。
逆神教授の実の娘であるドラコと会った際、その最強伝説をいくらか聞かされたものだが、彼を知る人々の間でも話題沸騰のようだ。
地上最強という四文字のインパクトが大きいから仕方あるまい。
タカヒコたちくらいの少年なら憧れるのも当然だった。
「……そうだ、教授から聞いた覚えがある」
話しているうちに記憶を刺激されたのか、ミクマが思い出していた。
「逆神教授のフィールドワークは人生終わるほどのハードーモードすぎて、学生は誰もついていけないなんて伝説も打ち立てたっていうけど、たった一人だけ教授の旅に同行しながら生還できたスゲぇ学生がいるって……ッ!」
「そうそう、その人が“逆神んとこの暴れん坊”って言ってたでな!」
ハニヤも意気投合するように記憶を掘り起こした。
少年トリオの熱い視線が一身に集まる。
「ああ、うん……多分、それがおれだ……と思う」
注目されたアハウは湯気が立つほど顔を赤らめると、鉤爪の整った両手で顔面を覆って居たたまれないほど照れ臭そうだった。
スゲエエエエエエエエエーッ! とタカヒコたちは手放しで絶賛する。
「お会いできて光栄です! 握手してくださいお願いします!」
「バッカおまえタカヒコ! こういう時はサインをお願いすべきだろ!」
「取り敢えず俺とは握手でお願いしますだで」
「抜け駆けしてんじゃねえブタぁ! オレも握手からお願いします!」
ちょっとしたヒーローの握手会が始まった。
賞賛を受けることになれてないアハウは大きな身体を前屈みに縮めると、タカヒコたちの求めにしどろもどろで応じていた。
一騒ぎが落ち着いたところを見計らってミサキが横に並ぶ。
「アハウさんも人が悪い」
ミサキはジト眼でいじわるな笑みを浮かべていた。
「現実世界じゃ平凡な大学の非常勤講師とか言ってたくせに……その実アシュラ・ストリートも真っ青の過酷な修羅場を潜り抜けてきたんじゃないすか」
「過酷を通り越して壮絶……いや凄絶だったけどね」
自慢できることではないよ、とアハウは曖昧に誤魔化した。
アハウは承認欲求がそんな強くはないし、自らの武勇伝に尾鰭をつけるタイプでもない。それでも尚、逆神教授に同行した旅を詳らかにしなかった。
……これは余程の出来事があったのだろう。
ドラコやタカヒコたちが褒め称える逸話の影で、それが霞むほどの惨劇に見舞われたか、度し難い被害に遭ったのではないかと推測できる。
語らないし語れない――秘密にするべき暗部なのだ。
いずれ夏の夜に肝が冷える話として聞ければ御の字かも知れない。
「そうだ、ジャーニィさん」
ツバサはアハウに助け船を出すべく話題を切り替えることにした。
名前を呼ばれた駅長はひょいひょいといった足取りで近付いてくる。頭には重くないのかキリン少年を乗せたままだった。
「はいはい、なんでしょうか?」
「タカヒコくんたちには了承を得たので事後になってしまうのだが……」
ツバサはジャーニィに事情を説明する。
五神同盟の代表としてアルガトラム王に謁見するのはツバサを代表とした一団、それとは別にアハウを代表とした一団はサクヤ姫を訪問する。どちらも一国の主であることを強調して、二手に分かれても構わないかを訊いてみた。
黙ったままなのも心苦しいので明かしておくことにした。
了解を得ないまま独断専攻し、後で揉め事の原因になることを思えば、この場でオープンにしておくべきだ。マズいならこの時点で改めればいい。
「ええ、いいと思います。ボク的には助かるくらいですよ」
ジャーニィはあっさり了解してくれた。
ボク的には助かる――この意味がちょっと引っ掛かった。
その理由をジャーニィはコソコソ教えてくれる。
「アルさんはそんなことでは気分を害されません。その点は保証します。ただ、ここだけの話……サクヤ姫さんはちょっと気難しい方なので、会いに行く順番とかになると後でボクや他の仲間がお小言いわれたりするかも……」
それはどちらかといえば厭味に当たるだろう。
昔からよくあることだ。
たとえば隣国同士の二人の王へ使者が謁見に窺う場合、どちらかを先に訪問せざるを得ない。この時の順番で揉めた例がままある。
当然、先に訪問された王が「優先順位が高い」と見做されがちだ。
当の王たちが気にすることもあるし、王たちが「どっちでもいいよ」と鷹揚に認めてくれたとしても、その国に住む国民感情が納得しない時もある。結果、後々のトラブルに発展した歴史は枚挙に暇がなかった。
――同格の使者がぞれぞれの国へ同時に訪問する。
解決策は今回のような方法しかない。
サクヤ姫の性格を知るアハウの提案は最適解だったわけだ。
タカヒコたちを見遣れば「ありそう」と小声で囁いている。弟子がそんな予想するくらいだから、あながち的外れでもないのだろう。
アルガトラムは大らかだが、サクヤ姫はやや小煩いらしい。
年功序列とかこだわりそうなイメージだ。
「ですのでアルさんとサクヤ姫、両方の面目を保つように五神同盟の各代表が同時に訪問してくださるなら大歓迎という次第なんですよ」
ジャーニィは大手を振って全身で「大歓迎!」を表していた。
駅員帽に乗った起源龍キリンも身を乗り出す。
「僕たちも小言をいわれないで済むけど、その方がきっとアルも喜ぶからね。なにせ彼はサクヤ姫が大のお気に入りだから……」
機嫌を取っておきたいはず、とキリンも太鼓判を押してくる。
「アルガトラム王は……サクヤ姫を気に入っている?」
愛しているとか好きとか直接的な感情表現ではなく、その人品を認めているような言い回しが気になるところだが、それよりも注意点がある。
「あれ? アルさんとサクヤ姫って仲いいの?」
ツバサが尋ねるよりも先にミロが疑問を口にした。
双方の陣営で幹部クラスにあると思われるタカヒコたちとジャーニィたちがこれだけ打ち解けているのだから、そんなに不思議には感じられない。
ジャーニィたちは否定的な意見を言わなかった。
続いてサクヤ姫の教え子たちが見解を述べる。
「教授はアルさんのことを好きでも嫌いでもないというか……若造呼ばわりしているけど、その実力には一目置いているというか何というか……」
「ウチの教授は口さがねぇけど実力は認めてる感じっすかね?」
「教授は素直になれないお年頃だでな」
一方、タカヒコたちは微妙な愛想笑いで紛らわそうとしていた。
両陣営の交流風景を目の当たりにすれば、双方ともに悪感情を抱いていないのは丸わかりだ。その頭目同士が敵意剥き出しで啀み合っている様子もない。
合流せずとも協力関係を結んでいないのが不思議なくらいだ。
相容れないのは――彼らが抱える南方大陸の先住民。
先刻のタカヒコの弁を信じれば、それ以外に考えられなかった。
「まあ、百聞は一見に如かずというやつですよぅ」
語尾の伸びる口調が戻ってきたのは気を許した証なのか、ジャーニィは飛行列車の先頭に立つと、誘導するために車両をゆっくり発進させた。
「善は急げ、このままメガトリアームズ王国までご案内いたしますよぉ」
起源龍の少年もジャーニィの頭から降りる。
キリンは駅長の横に立つと、王国がある方角へ導くように指差した。
「初めてのお客様だ。アルもきっと喜ぶよ」
さあ、とキリンに促されたツバサは頷き返した。
「よし……じゃあアハウさん、手筈通りに」
「ああ、ここで二手に分かれるとしよう。ではタカヒコくん」
道案内を頼めるかな? とアハウが申し出れば、タカヒコと少年トリオはさっきまでのはしゃぎ振りをなかったことにして背筋を正した。
「はい! お任せください!」
拳で胸を叩いたタカヒコは張り切っていた。
帰るよパンコ、とタカヒコはミロと遊んでいる妹に声をかける。名残惜しそうなパンコだが、おずおずタカヒコの元へ戻っていった。
「バイバイパンコちゃん、また遊ぼうね」
「……うん! ミロお姉ちゃんまたね! バイバイ!」
見送るミロにパンコは元気いっぱい手を振り返した。
妹が世話になったことにタカヒコは笑顔で頭を下げてくる。釣られてミクマやハニヤも会釈してきた。後ろの二人はタカヒコと比べたら些か口が悪いものの、対人における礼儀はちゃんと心得ているようだ。
サクヤ姫の躾だとしたら教育が行き届いている。
ジャーニィの飛行列車が西へ向かうのに対して、パンコを背中に乗せたタカヒコを先頭に少年トリオは東にあるサクヤ姫の陣地へと進路を取った。
先導するタカヒコたちをアハウは追いかける。
獣王神モードのまま背中から三対の羽を生やしたアハウは羽ばたこうとするのだが、その前に同行を頼んだ侍娘レンと蛮族娘アンズに振り向いた。
既に戦闘は終わっている。
レンは愛刀ナナシチを背なの鞘へと収めており、遠距離攻撃特化のモンスターに変身していたアンズも少女の姿に戻っていた。
そんな二人にアハウは呼び掛ける。
「――良ければ乗っていくといい」
親指を立てたアハウは自分の背中を刺した。
「え……いいんですか?」
自分を指差したレンはアンズと目を合わせる。
アンズは申し訳なさそうにこめかみを掻いて苦笑した。
「あたし、大きな声では言えないけど重めなので辞退した方がいいかなーって思うんですけど……あ、レンちゃんはコンパクトだからOKです!」
「誰が豆粒コンパクトだおい!?」
アンズの余計な一言がレンの地雷を踏んでしまった。
まあまあ、とアハウはレンを宥めながら背中を進めた理由を語る。
「大丈夫、君たちくらいなら十人乗ったところでビクともしないよ。それに死闘というほど激しくはなかったが、さっきまであらがみの軍勢と戦っていたんだ。道中何があるかわからないから休んでおくといい」
飛行系技能も疲れないわけではない。
人間なら歩いたり走ったりするのと同じだから当然だ。
戦っていたレンやアンズは少なからず疲れているが、ショッカルンとの睨み合いに終始したツバサやアハウの疲労はそこまででもない。
彼女たちに体力回復を勧めるのは合理的だった。
レディファーストの精神から来るアハウの気遣いもあるが、再びトラブルに遭遇した時のことを考えての用心も働いていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて……失礼します」
「お邪魔しまーす♪ おおっ、思ったよりフワフワでモコモコしてる!」
前傾姿勢になったアハウの背に乗るレンとアンズ。
二人が背に乗ったのを確認してからアハウはミサキにも尋ねる。
「ミサキ君もどうかね?」
「オレもそんな働いてないからいいですよ」
疲れたらお世話になります、とミサキは笑いながら一足先に甲板を飛び立った。タカヒコたちの後ろへ付くように飛んでいく。
「……フッ、遠慮せずともいいのにな」
アハウも微笑みながら翼を羽ばたかせて飛び上がる。
振り返ってツバサたちに向かって軽く手を振りながら、タカヒコたちに案内されてサクヤ姫の元へと向かうアハウ一行。
そして、飛行母艦も滞空の待機状態から再発進する。
既に走り出したジャーニィの飛行列車と肩を並べるように飛んでいく。
ツバサたちは西へ――アルガトラム王に会いに行く。
アハウたちは東へ――サクヤ姫の元へと向かう。
一時的に別行動となり、それぞれ西へ東へと走り出した。
~~~~~~~~~~~~
ツバサも含めて甲板にいたメンバーは艦橋に戻った。
ジャーニィやキリンとの会話は通信を介して、艦橋のモニターでやり取りする。空の道行きに関して長男ダインや次女フミカと話し合っていた。
『ひとまず、このまままっすぐで大丈夫だと思いますよぅ』
「了解じゃ。妙な気流とかが蟠っちょる空域とかはないんじゃな?」
地球ではありえない超常的な天候現象も真なる世界なら当たり前だ。宇宙戦艦顔負けの飛行母艦でも轟沈しかねない嵐はまま発生する。
そこを案じたダインはジャーニィに航路について相談していた。
『もし空が荒れたら僕がわかるよ』
そしたら教えてあげる、とキリン少年は額に手を当てて人差し指を伸ばす。龍馬の時に見せた一本角を表しているのだろう。
あれは攻撃能力であり、ある種の感知器としても働くようだ。
遮るもののない空の旅でも油断は禁物。
況してやここは“未知なる南方大陸”。空にどんな危険が潜んでいるのかもわからないのだから、土地勘のあるジャーニィたちの意見に耳を貸すべきだ。
メガトリアームズ王国まで約一時間。
現在の速度ならばそれくらいで到着するとの見込みだった。
しばし空の旅を楽しむとしよう。
その間、戦闘で頑張ってくれたメンバーを労っておきたい。
ついでに栄養補給もしといてもらおう。
今回は給仕役となるメンバーがいないので、ツバサが軽食を用意すると若手衆はガツガツと頬張っていた。セイメイとバンダユウは晩酌には早過ぎる飲み会を開いていたが、働いてくれたのは確かなので大目に見ておこう。
「レンさんたちにも何か持たせてあげるべきでしたね」
調理を手伝ってくれた若執事ヨイチが思い出したように呟いた。
料理の専門家でこそないものの、執事系の技能としてある程度の調理はできるので手伝ってくれた。美少年で可愛げもあるなんて出来過ぎだろう。
ツバサは徐にヨイチの肩を掴んで抱き寄せる。
おっぱい!? とヨイチの小さな悲鳴が聞こえたが構わない。
「ああ、アハウさんたちを見送った後で俺も気付いた」
ツバサはそのためのフォローとして金翅鳥という分身の群れにお手製弁当を持たせると、アハウさんたちに届けるよう派遣したところだった。
それを抱き寄せたまま耳元で囁いてやる。
「ついさっき、無事に配達完了したと連絡があったよ」
「さすがツバサさん、おっぱ……いえデリバリーも完璧ですね!」
ちょっと乳房を押し付けただけで、ここまで動揺するくらい喜んでいただければ幸いだ。ツバサの悪戯心も内なる母性本能も嬉々としている。
そこへ賑やかな声が飛んできた。
「ツバサちゃんの女将さーん! こっちホッケの塩焼き追加ねー!」
「ツバサくんの女将さん、こっちは蛸わさと酒盗おねがーい」
「すいませーん☆ ボクはカプレーゼと蛸のカルパッチョたのみまーす☆」
「誰が女将さんだ! 黙らっしゃい呑兵衛ども!」
危機を切り抜けたご褒美にと飲酒を許したらすぐこれだ。
酔いどれ剣豪がいつも持っている魔法の瓢箪の神酒を聞こし召し、老組長バンダユウと輝公子イケヤがすっかり出来上がっていた。バンダユウも酒豪、イケヤは元ホストなので酒に強い。どちらも大酒飲みである。
酒ならいくらでも瓢箪から湧いてくる。だからおつまみを欲しがっていた。
それでも注文通りに作ってしまうのは料理好きの性なのか?
料理よりおつまみに近い品々を提供していく。
一方、仙道師エンオウ、鉄拳児カズトラ、武道家ランマルのトリオは食い気に走っているので、出された山盛りの料理を黙々と食べてくれていた。
手が掛からない分、こちらの方がマシである。
一段落ついたツバサは、調理用エプロンを脱いで窓へ歩いていく。
外の風景が一望できる大窓にミロとマリナが張り付いていた。電車の車窓を流れていく景色に魅入っている子供とあまり変わらない。
二人の後ろに立つと、同じ目線で外を眺めながら聞いてみた。
「どうだ、空から見る南方大陸は?」
「んー……やっぱりぺったんこだね。あんまり山が盛り上がってない感じ。でも谷とか川とかはチラホラあるみたいなんだけど……あれってさぁ」
ミロはしなやかな指で目立っている場所を指した。
そこはなだらかな丘陵地帯を真っ二つに引き裂いた土砂崩れ。
立派に生えたであろう大木が並ぶ森が一刀両断されたかのように、土砂崩れの後が太いラインを描いていた。山崩れを起こすほど傾斜がキツい山でもないのに、掘り返されたような剥き出しの土が太いラインを描いている。
あからさまに不自然だが心当たりはあった。
「あれ、超特大触手の暴れた後だよね?」
「ああ、連中は女王樹の根っこだといっていたが……本当に南方大陸の隅々にまで、あんな野太い根を這わせているんだな」
恐らく、女王樹の根が暴れた後なのだろう。
飛行母艦を叩き落としかねない太さと長さを持った根だ。山を薙ぎ払うのも森を土砂で埋没させるのも、たった一振りでやってのけるだろう。
それにしては違和感が付きまとう。
「でも思ったより緑がいっぱいですね。ほら、センセイ見てください」
マリナが小さな指で大地の様子を指し示した。
――最初に侵入した海峡。
あそこは南方大陸を三つに分ける大河のようで海峡めいた水路と思われるが、そこから見える大地は乾燥した砂地ばかりで生える植物もまばらだった。
しかし、大陸の西へ進むにつれて生い茂ってくる。
マリナが指差す先の森なんて、鬱蒼の二文字が相応しいくらいだ。
ただし植生がおかしい。少なくとも地母神であるツバサが過大能力を通して感じる生態系が「この地は異常だ」と警鐘を鳴らしていた。
疾うの昔に分析を始めた者たちが疑問を呈する。
「なんか……高温多湿な熱帯雨林のジャングルみたいな、春夏秋冬が目まぐるしい日本の山奥みたいな、霧が漂う北欧の森みたいな……林や森がモサモサしているのは間違いないんスけど生態系がいまいち特定できないッスね」
「こちらもです。多数の生物を確認できますし、強大な生命力が息衝いているのもわかるのですが、わかりにくいというか調べにくいというか……」
次女フミカも情報屋ショウイも困惑しきりだった。
二人の分析能力は微に入り細を穿つが、この地では正確に働かない。
その理由をツバサは地母神として感覚的に掴んでいた。
『それ多分――“気”のせいだね』
通信モニター越しにアドバイスをくれたのはキリンだった。
飛行列車の屋根に腰を下ろした起源龍の少年は、額からうっすらと幻影的な一本角を伸ばしている。そこから微弱な電波を飛ばしているようだ。
『元来、この地は噎せ返るほど“気”が濃い』
魅惑的な瞳でこちらを見つめながら教えてくれる。
『この世界にとって“気”とはなくてはならないもの。万物を象り、万象を形作り、森羅万象を脈動させるのは、これすべて“気”あればこそだ』
しかし、過ぎたるは猶及ばざるが如し。
薬も過ぎれば毒となり、酸素も濃くなれば人の身を害する。
『南方大陸を満たす“気”はあまりにも濃厚なんだ。生憎、僕はここ以外の土地はよく知らないけど……他の土地に流れる“気”が霧くらいだとしたら、南方大陸を覆っている“気”は粘り気のある水飴くらいじゃないかな』
「そんなの殺しに来てるようなもんじゃないッスか!?」
「霧に対して水飴!? そら窒息しろ言われるんと同じぜよ!?」
絶望的な“気”の濃度にフミカとダインが悲鳴を上げた。
「そうか……だから分析してもわかりづらいのか」
彼らより大人な情報屋ショウイはいくらか冷静に受け止めていた。だが、その頬には冷や汗が伝い、「フハッ!」と鼻息も荒々しい。
「濃すぎる“気”が分析や走査をぼやかしてしまうんですね……それこそ粘つく水飴で浴びせられて目鼻口耳といった五感を封じられるようなものだ。ですが……おかげで捕捉していたいくつかの奇妙な現象に合点が行きました」
「奇妙な現象? ショウイさん、それは一体……」
御覧ください、とショウイは新しいウィンドウモニターを開いた。
そこはミロが気に留めたライン上の土砂崩れ。
女王樹の根が振り下ろされた跡地なのだろう。見上げるほどの大木が並んでいた森が、土砂と倒木が攪拌されたごちゃ混ぜと災害現場となっていた。
そこに――草花が生え始める。
「早送りや高速再生はしてません……これはライブ映像です」
固唾を呑んだショウイとともに注目する。
崩された大地から瞬く間に草が生えて花が咲いたかと思えば、葛のような枝が生い茂り、苔やシダ植物が生え伸びてくる。やがてそれらを押し退けるように次から次へと若木が突き出てきたかと思えば、すぐさま背の高い樹に成長する。
土砂崩れの地は見る見るうちに森へと再生を果たした。
――それだけに留まらない。
その森を下敷きにして新た木々が芽吹こうとしており、あまりの成長速度に木々が追いつかず、幹が音を立てて割れたり、枝葉が腐れ落ちていた。
そこからも新たな植物が芽生えようとする。
割れた幹から別の樹木が生えて接ぎ木の様相を呈し、腐れ落ちた枝葉を苗床にして菌糸が群がるとすぐ腐り、そこを苗床にして新たな草花が芽吹く。
ツバサたちがモニターを観ていた数分の間。
その間に土砂崩れは跡地は消え、鬱蒼とした森が復活した。
なんなら三層くらい森が重なっており、土地は平らにも関わらず森林が積み重なった結果として緑の山脈が積み上がるほどだった。
親亀の上に子亀を乗せて子亀の上に孫亀を乗せて――。
そんなノリで積層構造な森の出来上がりだ。
「信じられませんが、これ……植物の成長速度が時間を超越しています」
震える声で呟いたショウイの気持ちはよくわかる。
たとえば過大能力や技能などで植物の生育するスピードに働きかけ、急成長させながら操るようなことはできる。これは神族や魔族だからこそできる力業であって、自然界ではありえない現象だった。
細胞分裂をするにしても、器官の構築まで相応の時間を要するもの。
過大能力はそこに働きかけることで、無理無茶無謀を押し通しているのだ。いくら真なる世界といえども、この成長速度は常軌を逸している。
何らかの力による介在を疑うほどだった。
「確かに“気”は動植物の成長を促進するが……これは異常だ」
濃密な“気”の成せる業だとしても、この成長スピードは尋常ではない。
そして、ツバサは違和感に気付くことができた。
あらがみたちは言っていた――母鎮めの日は七日に一回だと。
母鎮めの日。これが女王樹の根が南方大陸全土で大暴れする日を指すならば、この大地はもっと荒れ果ててなければならない。いくら途方もないくらい土地があったとしても、あんな鬱蒼とした森が残っているはずがないのだ。
なにせ一週間ごとに超特大触手で薙ぎ払われるのだから――。
「違和感の正体はこれか……道理で植生もシッチャカメッチャカなわけだ」
「“気”も積もれば奇跡を起こすってか?」
『南方大陸在住のボクたちからすれば、ありがたくない奇跡ですねぇ』
ミロの戯れ言にジャーニィはアンニュイな表情で肩をすくめた。
『どんだけ女王樹の根に吹き飛ばされてもすぐ復活する森のおかげで森林資源には恵まれてますが……急成長の弊害か材木として使えるものは少ないですし、草木も花も果実も熟れすぎて酔っ払いそうなくらい発酵してるんですもの』
森は恐ろしいほど豊かだが、人々に恩恵をもたらさない。
ありあまる“気”がすべてを使い物にならないほど熟成させてしまうのだ。川や湧き水まで侵されているのか、酒みたいにアルコール臭が匂い立つという。
「それが滝なら養老の滝になりそうだな」
酒飲みのセイメイが珍しく蘊蓄めいたことを言った。
(※養老の滝=とある昔話。酒好きな父に孝行したい息子だが、どんなに働いても貧しいので酒が買えない。ある時、山の奥で見たこともない滝を見付けるとその水はすべて美味しい酒で、持ち帰って父親に飲ませたら若返るくらい元気になった。そこで老いを養うという意味から養老の滝と名付けられた)
「セイメイなら滝壺が枯れるまで飲み干すんだろ?」
「失礼な。ちゃんと汲んで帰ってきて、お年寄りたちに振る舞うぜ」
ツバサが茶化すとセイメイはケラケラ笑い転げていた。
こちらの馬鹿話もジャーニィは拾ってくれる。
『いやもうガチで本当の話、養老の滝とかあったりしますよぉ?』
「ガチィ!? 後で案内してくれる?」
案の定、酒好きなセイメイが腰を浮かせるほど食い付いた。
『ただもう醸造度数がヤバいところもあるんで気をつけてください。場所によってはスピリタス以上になってますから』
「スピリタスのアルコール度数で96%なんだけど!?」
スゲえなおい、と驚いたセイメイは手酌でグイッと神酒を煽っていた。
『そして勿論、影響を受けているのは植物だけじゃない』
キリンは長い人差し指で宙空を指し示した。
その指先にいるのは鳥の群れ。結構な速度で飛んでいる飛行母艦や飛行列車に追いつこうとしており、先頭の鳥たちが艦橋の窓に近付いてきた。
「おおーッ、速い速い! やるねぇ鳥さんたち!」
「こんなに群れで編隊を作って……渡り鳥でしょうか?」
艦橋の大窓に並んだ鳥たちを見つめるミロとマリナ。彼女たちを見つめる鳥たちの魚眼レンズを覗き込んでいるうちに表情が曇ってきた。
「「…………これって鳥?」」
どちらも怪訝になると息を合わせて首を傾げていた。
「……どう見ても魚にしか見えないんだが?」
「「ですよねー!?」」
ツバサが見たままを述べると、自分たちの目は節穴じゃなかったとばかりにミロとマリナが抱きついてきた。ちょっと不安だったらしい。
既知の魚類だと大型のヘラブナに似ている。
ただし、胸びれが異様に発達しており、皮膜まで備えているので大きな翼として使えるようだ。それで揚力を確保することで飛行していた。
空を飛んでいるのは魚だけではない。
「おいおい、イカまで飛んでやがるぜ……つまみになるのかあれ?」
バンダユウの視線の先には空飛ぶイカが舞っていた。
本体の大きさは人間大。触手の長さを含めた全長は3mを越える。全体的に平べったくて風に乗る凧のようだ。俗に「耳」と呼ばれる三角形状に左右へ張り出した部分が一際大きく、これが大気を捕まえる両翼の役目を果たしていた。
浮遊する力を求めたためか、身の食い出はなさそうである。
「イカなのに凧とはこれイカに?」
「おまえにしちゃなかなか上手いな。六十五点」
ミロの駄洒落に付き合ったツバサは採点してあげた。
――魚介類が空を飛ぶ幻想的な光景。
一匹の空飛ぶ魚がキリンの手元へ羽ばたきながらやってくる。
彼が細い腕を差し出すと、腹びれを変形させた足で器用に泊まった。
『強烈な“気”は生物への突然変異をも引き起こし、たった一世代でも親とまったく異なる進化をさせることも珍しくない……』
この子たちのようにね、とキリンは空飛ぶ魚の頭を撫でてやった。
ふと下界からは獣の嘶く声が轟いてくる。
眼下を見遣ればいくつもの大きな山が蠢いており、行く手にある森林をなぎ倒しながら南南西へと進んでいた。いや、よく見ればなぎ倒していない。
食っている――大地ごとすべての生命を貪っているのだ。
山と見えたのは巨大な生物。苔生した背中は土に覆われており、そこから木々も根付いたために動く山と見間違えてしまった。
『ああ、あれはヤマムシですねぇ。俺たちはそんな風に呼んでます』
「あの図体で虫……昆虫なのか!?」
種類的にはダンゴムシに近そうなので、正しくは甲殻類だろう。よく観察すると山となった背中に甲殻の合わせ目を見付けることができた。
『彼らは何でも食ってモリモリ成長し、1年足らずであの大きさになります。そこから一週間もしないうちに死んで、見たまんまの山となります』
死骸となったヤマムシを起点に新たな生態系が生まれてくるという。
それが彼らなりのライフサイクルらしい。
飛翔する魚介類にしろ巨大化の度が過ぎる甲殻類にしろ、従来の生物学からすると常識を疑いたくなる生態的地位の奪い合いが起きているようだ。
「いや、違うな……人間の常識、その了見が狭かっただけか」
真なる世界では有り得ない事象でも平然と起こる。
馴れてきたと思ったが、南方大陸の常識はそれを思い出させてくれた。
「う~ん……ドゥーガル・ディクソンの世界ッスね」
博物学的に世界のすべてを知りたいフミカは興味津々である。
南方大陸の状況を調査する片手間だが、見たことも聞いたこともない……それこそ誰も想像したことのない生物群の調査も進めていた。
(※ドゥーガル・ディクソン=スコットランドの学者にしてサイエンス・ライター。人類が滅亡した後の地球で生物がどのように進化するか? その可能性を追求した著書『アフターマン』や『フューチャー・イズ・ワイルド』で有名。空を飛ぶ魚や地上に進出したイカなど奇想天外な架空生物が描かれている)
『生物もまた強烈な“気”の影響で変容を免れない』
『ぶっちゃけ、昨日まで見掛けた生き物が今日になったら絶滅してたり、まったく見知らぬ新種に進化してるのもザラですからねぇ』
「ここでは生物学のセオリーが無視されそうッスねぇ……」
キリンやジャーニィの話を聞いて、フミカの笑顔も強張っていた。
調べる甲斐がありそう――と喜んでいるのかも知れない。
『そして、行き過ぎた“気”は生物の規範すら捻じ曲げてしまう』
キリンはため息をつくように空を見上げた。
そこにはいつしか大きな虹が架かっており、流れる雲の群れがいい塩梅で掛かっている。しばらく眺めていると、突然それらは激しく動き始めた。
雲の群れは鉤爪を伸ばして牙を剥き、虹に齧り付いている。
虹は蛇のように長い身体をくねらせると、群がってくる雲の群れを振り払ったり絞め殺したりと、必死で抵抗するべく暴れ回っていた。
どう見ても生物たちの捕食行動にしか見えない。
「あれは……虹や雲に擬態する生物……違う!? どんなに走査を掛けても、どっちも自然現象の虹や雲という結果しか出てこない……つまり!?」
『そう、あれは命を宿した虹と雲さ。濃すぎる“気”を浴びた成果物だよ』
耳を疑うような現実をキリンは淡々と述べた。
「自然現象にまで生命力を与えたっていうのか!?」
否定したくても目を疑いたくなる現実は眼前で繰り広げられているし、しつこく調べてもあれらは自然現象の虹と雲としか判定されなかった。
あんな生物的躍動感に満ちあふれているのに……!
モニターに振り返ったミロは、子供らしく素直にキリンへ尋ねた。
「あれもこれもそれも……みんな“気”のせい?」
『うん、強く濃い“気”がこの大地のすべてを狂わせているんだ』
キリンが肯定の意見を返したところで、艦橋にペタペタと裸足の足音が響く。黙したままセイメイたちと酒を酌み交わしていたノラシンハだ。
「なんぼ濃いたかて……こりゃやり過ぎやがな」
聖賢師は悲痛な面持ちで南方大陸の有り様を見据える。
「この地は元から“気”に満ちておったのやろう。それは三世を見通す眼で見ないでもわかる……ただ、その豊富な“気”とてあくまで常識の範疇、真なる世界における普通に留まっとったはずや……」
こない自然が爛れるほどやない、とノラシンハの声には嘆きがあった。
「じゃあ、“気”がスゴく濃くなった理由が他にあるんですか?」
恐る恐るマリナが訊くとノラシンハは首肯した。
「せやな……“気”ちゅうは土地によって濃淡……濃かったり薄かったりすることがある。その濃い“気”が流れる土地にゃあ“気”を統制する主みたいなもんが必ずいるはずなんや……神族でも魔族でもいい。最適なのは……」
――世界樹。
天と地を繋ぐまで生長する偉大なる大樹は、周辺地域の“気”を活性化するのみならず、それが行き過ぎないように調整する役割も果たしていた。
『この地には――あらがみの崇める女王樹が聳え立つ』
わずかながらキリンの声が敵意を孕んだ。
龍眼を宿した聡明な眼差しが鋭くなり、大陸の奥地を睨みんでいた。
『あれは世界樹と似て非なるもの。“気”の統制なんてしてくれない。それどころか、七日ごとに暴れては莫大な“気”を撒き散らしていく……』
ただでさえ強く濃い“気”に、止め処なく大量の“気”を負い被せてくる。
それは“気”の濃度を醸すように澱ませるばかり。
『女王樹の熟した“気”が――南方大陸を腐らせようとしてるんだ』
起源龍キリンは恐るべき未来を予見した。
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