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第21章 黒き世界樹そびえる三つ巴の大地
第504話:類い希な技術は冷遇される運命か
しおりを挟む地政学的に考えれば、無理をして同盟を勧める意義は薄い。
大陸島も地下都市もあまりに遠すぎるのだ。
せめて五神同盟各国のように中央大陸へ居を構えているならまだしも、中央大陸から南海までは次元をも超える航行能力を有する飛行母艦ハトホルフリートを駆っても数日を要する。ここまで離れているとさすがに行き来が難しい。
だからといって――見過ごせない。
絶え間なく深きものどもの侵攻を凌ぎながら、資源を奪われる一方の大陸島に閉じ込められ、援軍はままならず補給も危ぶまれる一方の消耗戦。
籠城を強いられる地下都市を見捨てられわけがない。
艱難辛苦に耐え忍ぶ者たちへの同情や、弱きを助け強きを挫く義侠心から来る気持ちもあるが、蕃神どもの恣にされるのも腹正しかった。
とにかく、五神同盟として地下都市を捨て置けない。
地政学や交通の不便さなど「知ったことか」と一蹴するまでだ。
無論、同盟入りすれば空間転移の祠は用意させてもらう。
これで往来に関してはマシになるはずだ。
求められれば人員の派遣もするし、物資などの援助も惜しまない。
五神同盟としても還らずの都や天梯の方舟、それに源層礁の庭園などの制作に携わったドヴェルグ族を始めとした亜神族の力も借りたいところだ。
フレイも国交を結ぶことには前向きらしい。
ゴルドガドはこちらの提案へ明らかに乗り気であり、二大臣のステロペやメノムも好意的に受け取っていた。彼らは各種族の代表を務めているはず。
つまり、三つの亜神族は同盟加入に肯定的と見ていい。
しかし、フレイは「待った」を掛けてきた。
五神同盟へ加わることを渋るように二の足を踏んできたのだ。
『――おれたちは敗残兵だ』
バンダユウの言った通り、これまで五神同盟入りしてきた組織は何らかの理由で敵に襲われており、再起不能寸前にまで陥っていた例が多い。
穂村組、水聖国家、源層礁の庭園などがそれだ。
国としても組織としても建て直すのが難しいほどの大損害。
敗北を喫したところに五神同盟として救援の手を差し伸べ、仲間へ入るように促した側面がなくもない。端から見ていた口さがない人がいれば、弱みに付け込んで仲間に引き入れたと言い表されても文句は言えないだろう。
だが、地下都市アウルゲルミルは健在である。
深きものどもの襲撃に悩まされてはいるものの、魔法の兵器を造り出す技術力と魔除けの護符“旧神の印”の助けにより、国家として存続していた。
ハンティングエンジェルスの協力も大きい。
おかげで戦力的に拮抗しており、蕃神の眷族とも渡り合えている。
曲がりなりにも国力を保てているのだ。
先に挙げた地政学的に遠方という立地条件も合わさり、地下都市側としても同盟へ加入する意味を薄いと感じているのだ。「以後お見知りおきを」くらいの国交で事足りる。エンテイ帝国のような第三者機関になるつもりもない。
何より――国王であるフレイが警戒心を抱いていた。
決して口には出さないが、五神同盟への参加することにより地下都市が属国として扱われるような懸念をこれでもかと態度に表している。
そんな真似をするつもりは毛頭ない、とツバサが説明しても説得力はないに等しいだろう。水聖国家からヌン陛下でも連れてくればあるいは……。
現地国家を運営する王の言葉なら効き目がありそうだ。
それはそれとして――フレイの気構えは褒めてあげたい。
国家元首たる者、どんな提案であれ他国の腹の内を念入りに探るべきだ。自国に都合がいいからとホイホイ承諾するのは暗君への第一歩だろう。
甘言密語――美味い話には裏がある。
喉から手が出るほど欲しい好条件ほど疑ってかかるべきだ。
たわけと叱られていたがなかなかどうして。
亜神族たちの代表が“姫様”と敬うのも納得できる王の器である。
「――力を貸してほしいのは山々だ」
気怠げな頬杖をやめたフレイは背筋を正した。
バカ殿の仮面を脱いで、一国の王に相応しい面立ちとなる。
「私たちは魔除けの印章を掻き集めて安全地帯を確保することで、この緑豊かな山脈一帯を我が物とすることで生き存えてきた。水源の確保、食糧自給、木材などの植物資源の増産、鉱物資源の採掘……国民を餓えさせず渇かさせず、ひもじい思いをさせることなく国力を保ってきたという自負がある」
口調もガラリと変わって風格を備えていた。
「それでも……国ひとつにできることには限界があるのです」
ゴルドガドもフレイへ倣うように言葉を添えた。そこから彼女を説得する道を探しているようだが、フレイの弁舌は止められなかった。
「あなたたちのいた地球にも鎖国って政策を実施した国があると聞いたけど、他国との交流を完全に絶ったわけではないでしょう?」
チラリ、とフレイはハンティングエンジェルスを見遣る。
釣られるようにツバサも目を向けていた。
ドラコからレミィ、マルカ、ナナ、と順々にアイコンタクトを送ってみれば、「教えました」と言いたげな目線を返してきた。
ならばフレイがこの話を振ってきてもおかしくはない。
彼女たちから地球の情報も仕入れていたらしい。
ツバサは否定することなく、会話のキャッチボールを続ける。
「ええ、私たちが暮らした日本がかつて行った外交政策のひとつですね」
正確には諸外国との外交を著しく制限する対外政策である。
江戸時代――徳川幕府は鎖国を実行した。
他国との往来、流通、輸出入……人間や文物の交流を禁止する政策だが、フレイの言う通り完全に禁じたわけではない。有名どころでは中国とオランダの2つが許されていたが、それ以外の国ともいくつかは関係を保っていた。
(※江戸時代の中国は当初こそ明朝だが、西暦1644頃に清朝が中国を統一したため外交的に更新された。オランダは東インド会社と通商関係を長く続けた。他に交渉があったのは当時の朝鮮王朝と琉球王国)
他国との交流を避けることで余計なものを持ち込まない。
(※この場合、主に拒否していたのはキリスト教圏の文化や思想)
そして、自国の民を海外へ逃がさず他国の民を根付かせない
(※この時代、東南アジアとの出入国が激しかった)
鎖国の意図はこうしたところにあったのだが、結果的に日本を孤立へと追い込んだため、国際社会においてのグローバルな交流に思いっきり出遅れてしまった。
「だけど――他の国との繋がりはあったわけだよね?」
フレイの指摘にツバサは頷いた。
「辛うじてですけどね。資源的にも文化的にも流入をまったく絶つことは難しかったのでしょう。もしも完全にシャットアウトすれば、遠からず国が立ち行かなくなること請け合いです。自国だけでは富も文化も潤いません」
国交の遮断はいずれ人々の心まで閉ざしかねない。
だからなのか、最低限の異国文化は世相へ流れるようにされていた。
そして、実際には他の国々との関係はあちこちで続いていた。
たとえば北方や南方から密入国する人々がいたり、船が難破して日本に流れ着いた外国人がいたり、港を持つ藩が許可された以外の国と密輸入をしたり……。
いつの世も禁止されれば逆張りするのが人間の性である。
そうした例も何らかの影響を及ぼしたはずだ。
「それでもまあ鎖国された江戸時代の日本はかなり資源に困ったようでして……限られたものをどうにか使い回したそうですが」
「私らもやってる循環を重視した社会やインフラの構築か……」
循環に優れた閉鎖社会といっても限界はある。
鎖国期の日本は、限界までそれに挑戦させられた時代でもあった。
なにせ輸出も輸入もろくにできないから、日本にあるもので賄うしかない。かつかつの物資でやりくりする以外に道はなかったのだ。
このため江戸時代の日本は徹底したリサイクルを余儀なくされた。
屑紙を集めて再生紙にする、燃え残った蝋燭を集めて蝋燭を作る、人の糞尿や竈の灰を集めて肥料にする、着物は何度でも繕って着古す、壊れたら道具を直すための専門修理屋は数知れず……再生にまつわる仕事は山ほどあった。
必要に迫られてエコに挑み続けたのだ。
フレイは親近感をたっぷり込めたため息をついた。
「私たちもそう。遣らざるを得ないから循環型社会になっちゃってる」
排水、排気ガス、廃棄物……。
あれだけの工業都市だ。毎日大量に排出するだろう。
それらが国民の暮らしを脅かさないように、自然や生態系に農耕地帯へダメージを及ぼさないための配慮が目白押しだった。地下都市を中心とした山脈一帯の環境をコントロールすることで、完全な循環型社会を形成しているのだ。
勿論、廃棄物でも徹底的なリサイクルを忘れない。日本でも都市鉱山なんて言葉があったが、レアメタルの回収と再利用は最たる例だろう。
ステロペとメノムの単眼娘たちも項垂れる。
「望むと望まないとに関わらず、そうせざるを得ませんでした……」
「かつては多くの種族が疎開するように逃れてきた大陸島……いくつも点在した街や村、都市や国はあの魚めいた外来者たちに襲われてほぼ壊滅……」
「遺されたのは我ら地下都市一国のみ……」
悔しそうに膝を掴んだゴルドガドは呻くように呟いた。
恐らくは滅ぼされた国々の難民がこの都市へ流れ込み、現在の他種族国家めいた国に形を変えたのだろう。その時点で多少なりとも文物の流入があったかも知れないが、それらは滅ぼされた廃墟から回収されたものに過ぎない。
廃材処理で得られる資源など高が知れている。
手を取り合うべき他国はもう大陸島に存在しない。
造った商品を買ってくれる国も、欲しい資源を売ってくれる国もない。
唯一取り残された地下都市は深きものどもによって南海を包囲されたため、長きに渡る鎖国と籠城を強制されてしまったのだ。
「鎖国を強要された我が国は貧しい――これが厳然たる事実だ」
真面目な顔こそ崩さないフレイだが、ほんの少し少女っぽくムスゥ……と膨れっ面になって辛い事実を認めた。口にするのも嫌そうである。
「だから、君たちの申し出はとても有り難い」
一転して笑顔になったフレイは両手を広げて歓迎する。
「文武どちらでも優秀な人材を派遣してくれて、木材金属食料といった戦争にも生活にも必要な物資を援助してくれて、尚且つ新しい技術や情報も惜しみなく分け与えてくれる……その申し出には感謝の一言で頭を垂れるしかない」
フレイは言葉通り頭を下げるが、その角度は中途半端だった。
「だが――あまりにも美味しすぎる」
三白眼みたいな上目遣いでこちらを睨め付けてくる。
猜疑心はMAXフルパワー、山師を値踏みするに等しい眼だ。
「提案が美味すぎて怖いくらいだ。貧すりゃ鈍するを地で行く我らとしては食い付きたいところだが……あまりに話が美味しすぎておっかないんだよ」
「正論ですね。私でも躊躇します」
うんうん、とツバサはフレイの意見に同意の頷きを返した。
これが親しい間柄ならば「気が合うな」と軽く返すところだが、国家の代表として毅然と振る舞っておこう。
――彼女の言い分は大いに正しい。
いきなり現れた勢力から「人も物も惜しみなく与えましょう。だから仲間に加わりませんか?」と誘われたら全力で尻込みする。石橋を壊して鉄橋を架け、土手の護岸工事までやらないと向こう岸へ渡らない性分のツバサなら尚更だ。
フレイはミロと相通ずるアホの子気質。
だがしかし、女王として帝王学を学んだのか外交についての知識はあり、美味い話には裏があることを用心する慎重さがあった。
検討に時間を費やすのは論外だが、鵜呑みにせず熟慮するのは賢明である。
ミロがツバサの用心深さを学べばフレイみたいになりそうだ。
フレイを説得する立場のはずなのに、彼女に味方する発言をしたツバサに仲間たちは戦々恐々だった。「ツバサくん!?」「ツバサさん!?」とこちらの顔色を窺ってきたので、「ひとまず様子見」と目配せを送っておいた。
一方、地下都市サイドも大わらわである。
ドヴェルグ族、サイクロプス族、アマノマヒトツ族、それそれの種族トップでもあろう三大臣は五神同盟入りを望んでいる。だというのに彼らをまとめる国王のフレイが「まだ信じられないからイヤ」と駄々を捏ねているのだ。
「どういうつもりだこのたわけ……いえフレイ殿下!」
普段の調子で怒鳴りつけようとしたゴルドガドは言い直した。
「アニマルエンジェルスの皆様が即座に同盟入りしたことを鑑みれば、縁戚云々もあるでしょうが、それ以上に彼ら五神同盟が信じるに足る組織だという証! ここは国民のためにも、蕃神に対抗するためにも協力を……ッ!?」
怒気さえ帯びた白熱の説得を試みるゴルドガド。
そんな爺やをフレイは静かに上げた片手で制してしまう。
「黙っててゴル爺――これは私のワガママだ」
覇気を発するも王の威厳を醸し出す横顔。そんな屹立としたフレイの態度に気圧されたゴルドガドは押し黙るしかなかった。
「私の出した条件を呑んでくれないのなら五神同盟入りは無しだよ」
フレイはまっすぐにツバサを見つめたまま告げる。
「王が不審を抱いたまま同盟を締結したら色々マズいでしょ?」
この問いにツバサはやや逡巡する。
「人間同士ならばままあることですが……真なる世界では罷り通りませんね。特に私たちのような神族、魔族、亜紙族の間では成り立たないでしょう」
――真なる世界では契約が絶対となる。
たとえ口約束であろうとも契約を交わしたり誓約を述べれば、それが法則として世界に記録されてしまう。そして遵守しなければならない。
約束を破れば世界より制裁が下される。
神族や魔族であろうとも致命的なペナルティが発生するのだ。
ランプの魔神は解放してくれた者の願いを叶え、おとぎ話の妖精は人間との約束を破らず、昔話の鬼神や魔物でさえ決まり事ならば守る。
こうした人間界の伝承は真なる世界の法則に端を発するらしい。
「その不審を解くための5つの条件……というわけですね」
「話が早くて助かるよツバサさん♡」
こちらから確認を求めると、ハンティングエンジェルスから聞いたのか愛称っぽくツバサの名を呼んだ。星が煌めくウィンクのオマケ付きだ。
まだ五神同盟を信用できない――これがフレイの主張。
体面上の雰囲気はそのように振る舞っているが、フレイの本心は別にあることを既にツバサは見抜いていた。念のためにとビーズクッションみたいな座布団で遊び始めたミロにもアイコンタクトを取ってみる。
『フレイちゃんはアタシらを信用してるよ。でも同盟を怖がってる』
『同盟を……怖がっている?』
『うん、誰かに裏切られたり嘘つかれたりするんじゃないかって……それで自分が痛い目みるのはいいけど、国のみんなを傷付けたくないみたい』
ミロの固有技能――直観&直感。
未来予知みたいな勘働きをするばかりではなく、腹に一物背に荷物を抱えた人物の心理を読み取ることにも長けていた。
なるほど、とツバサは心中で得心させられる。
やたら五神同盟を挑発的に煽ってくる言動は、フレイに悪意を集めるため。彼女なりのヘイト管理なのだ。もしも五神同盟との関係が拗れた際、自分一人が泥を被るつもりである。いざとなれば地下都市と切り離すこともできよう。
もしもそうなった場合はどうなるか?
フレイが権威を司り――地下都市の評議会が権力を行使する。
政務はゴルドガドたち大臣が執り行えばいい。
五神同盟に不遜な振る舞いをしたフレイは女王の地位こそ保たれるが、政に口を出せない象徴的な立場になる。
現代日本における天皇陛下のような王様になるわけだ。
仮に地下都市が五神同盟入りした後、フレイの挑戦的な態度に遺憾の意を表した場合、同盟内で不利を被らないための布石。
うつけの振りをして自分で泥を被るつもり満々のようだ。
女王としての責任を垣間見た気がする。
彼女がどう出るか見届けたくなったツバサは付き合うことを決めた。
なので心構えを改めて姿勢を正した。
ツバサが目を眇めて彼女の瞳を覗き込むと、LV999の領域を越えた超越者の存在感に僅かながら怯むものの、フレイは意気軒昂に訴えてくる。
「――私から提示する条件は五つ!」
掌から広げた五指を突きつけると一本ずつ折り畳んでいく。
「ひとつ、我が地下都市に自治権を認めること!」
言われるまでもなく当然の権利だ。五神同盟に所属する国家、組織、会社、そのすべてに自治を委ねている。どこも目に余るような横暴を働いてはおらず、力に任せた暴力的な支配を課しているところもない。
各国の王も組織の長も基本的に穏やかで面倒見がいい。
他者を虐げて悦に入る性格もしておらず、権力欲に酔い痴れる者もいない。物欲、金銭欲、色欲……これらは多少あるけれど度が過ぎることもなかった。
新たに加入した国家を蔑ろにする輩などいない。
もしもいたら遠慮なくツバサに申告してくれればいい。血のションベンを垂れ流してガチ泣きするまでそいつを折檻するだけだ。
というわけで――五神同盟では条件付けするまでもなかった。
ある程度まで聞いたら「お言葉ですが」とこちらから訂正を求めよう。しばらくはフレイから出される条件に耳を傾けることにした。
フレイは勢いに任せて二本目の指を折る。
「ふたつ、物品の輸出入は公正に取引すること!」
言われるまでもないことの再来である。
通りすがりで観察したが、地下都市では独自の貨幣が使われていた。
これにより国内の経済を回しているのだろう。
五神同盟はようやく通貨制度に着手したばかりなので物々交換に近い取引がまだメインどころだが、そこに不公平感を出したことは一度もない。
何かを頂いたのならば相応の対価を支払う。
物品、労働、物資……どんな形であれ頂戴した分の代価をちゃんと相手に払うことを忘れない。今のところ取引で揉めた話は聞いた覚えがない。
ひとつめに続いて条件付けするまでもないことだ。
フレイは興奮気味に三本目の指を畳む。
「みっつ、地下都市の国民をイジメたり仲間はずれにしないこと!」
差別迫害以ての外! と念まで押してきた。
この発言にバンダユウが思い掛けずダメージを受けていた。
ツバサたちと並んで座っていたのだが、フレイの一言が矢のように飛んできたかと思えば「グフッ!」と咳き込んで胸を押さえていた。
かつて穂村組は現地種族を奴隷として酷使してきた過去がある。
当時顧問だったバンダユウは若頭補佐マリとともに奴隷廃止を組へ訴えたのだが、この事実を知ったツバサの大激怒を買ってしまったのだ。
その後、紆余曲折を経て奴隷制度は改善された。
苦い経験が罪悪感となってバンダユウの胸を痛ませるのだろう。
バンダユウが露骨に狼狽えたのを見付けたマルカは、眼を細めてジト眼になるとスススッ……と黒目を横移動させて祖父を睨みつけていた。
「……お祖父ちゃん?」
「な、なんでもない! お祖父ちゃん反対したんだから!」
簡潔に弁明するバンダユウ。嘘はついてないし、ツバサが関わらなければ穂村組の奴隷制度を廃止したのは彼の功績になったはずだ。
とにかく、この一件でツバサがブチ切れたことが五神同盟には広まっており、それまでも目立った現地種族の差別はなかったのだが、穂村組加入後はより一層その意識が強まることと原因となった。
幸か不幸か、人種間による差別や偏見への抑止力となっているようだ。
確かにモフモフの種族は一見すると動物と間違えやすい。
大きなネズミと勘違いされて一個人と認められないことを危惧したのか、フレイの気持ちもよくわかる。もしかすると過去に何かあったのかも知れない。
国民と三種の亜神族まで含めた言い方は気になるが……。
だが、これも五神同盟では疾うの昔に暗黙の了解となっていた。
またしても条件にするまでもない提案である。
フレイは気合いを入れて四本目の指を数えていく。
「よっつ! 地下都市の職人の造った物を使うなら敬意を忘れない!」
これまでとは少々趣の異なる条件だった。
工業地帯を軽く見学したので、職人の製造物というのは対深きものども用兵器や、ドヴェルグ族を始めとした亜神族の造った道具を指すのだろう。
地下都市ならではの特産品となるに違いない。
彼らの技術力に肖りたいのは本音であり、同盟加入後に地下都市の製品を買い入れるなら公平な取引を心掛けるつもりだ。外貨や為替の概念は五神同盟にもまだないので、フレイたちの要求する物資などとの交換になるだろう。
それらの品々は有り難く使わせてもらう。
しかし「敬意を忘れるな」というキツめお達しは何だろうか?
確かに現代人はどんなものであれ製作者に対する感謝の気持ちを忘れがちかも知れないが、怒鳴るほどの大声で提案する条件だろうか?
国民を差別するな! という条件と並んで過去に原因がありそうだ。
「そしていつつめ!」
「ちょっと待ってください」
フレイが最後の条件を口にする寸前――ツバサはそれを遮った。
伸ばした右手を突き出してお姫様を制する。言葉を投げ掛けたくらいでは止まらないと思ったので、静かな迫力を発してほんの少し圧倒させてもらう。
攻撃的な覇気をほんの一瞬発することで相手を威圧して黙らせるのだ。
ビクリ! と全身を震わせてフレイは止まった。
彼女が口を閉ざしたのを確認したツバサは穏やかな口調で提言する
「それらは――当たり前のことです」
殊更条件にして契約するまでもない、とツバサは差し止めた。
「えっ……条件呑んでくれないの?」
途端にフレイは王としての表情をかなぐり捨てると、年相応の不安に顔色を曇らせてしまった。顔を少しだけ左右に振って強気に言い募ってくる。
「……約束してくれないと安心できないんですけど?」
不貞腐れた顔に冷笑を浮かべるフレイ。
逆にツバサは表情筋を引き締めると眉をつり上げて威嚇する。
威圧感が闘気となって無意識に立ち上っていた。
「約束以前の問題です……フレイ嬢、あなたは私たちがそんな当たり前のことも守れない愚昧の輩だと見下しているのですか?」
それは俺の仲間に対する侮辱だ――はっきり明言させてもらう。
同盟入りした国へ無礼を働く謂われはないし、そこまで愚かな真似をする輩がいたら条件以前に五神同盟として教育的指導をするまでだ。
「今まで上げられた四つの条件、犯す者あらばツバサが許さない」
地下都市の人々を不快にさせることは有り得ない。
「そういう約束なら交わしてもいい。だが、こんな当たり前のことをいちいち契約に盛り込めば関係がギクシャクすること必定です」
それでもいいのか? とツバサは怒気を孕んだ眼で問い掛ける。
「えっ、で、でも……そうしないと……」
ツバサの迫力に気圧されたお姫様は言葉に詰まる。
自身を上回る強者の眼力にフレイもタジタジだった。ゴルドガドたち大臣もハラハラした様子で見守るが、庇い立てすることはツバサが認めなかった。
二人の間に割り込もうとしても素振りだけで牽制する。
これはフレイが挑んできたことだ。
どのような決着がつくにせよ、彼女に始末を付けてもらう。
しかし相手の未熟な言質を取り上げて、揚げ足を掬うかのように攻めるのも趣味ではない。ツバサは小さく嘆息して譲歩案を述べていく。
「もしも不満や問題点があれば逐一伝えていただきたい。すぐさま改善させてもらいます……そんな当たり前のことで事細かな契約を結んでいれば、後々面倒なことになりかねません……どうか御一考を」
「うっ……ッ!」
一瞬、フレイは息が詰まったように小さく呻いた。
目元を俯かせると悔しさも露わな小声で歯痒そうにぼやく。
「どいつもこいつも……最初はみんなそう言うんだ」
「……何かあったのですか?」
事此処にまで至れば尋ねずにはいられない。ツバサはフレイの心の深い場所まで踏み込む覚悟で訊いてみることにした。
しかしフレイは素直に口を割ろうとしない。
唇を尖らせてむくれるとプイッと顔を背けてしまった。
当人から聞き出すのは骨が折れそうだ。致し方ないので堀を埋めるように周囲のゴルドガドたちに問い質してみようとした時である。
「――逆に縛らない方がいい」
不意にミロがフレイへと話し掛けたのだ。
友達みたいに気安い言葉を放り投げられたフレイは、ハッと気付いたように瞳を見開くとミロを見つめる。アホの子は泰然自若としていた。
右へ左へ身体を傾けて、ビーズクッションの座り心地を楽しんでいる。
「ヘタに縛るといつかどこかで出し抜かれるよ?」
子供らしい身振りのまま覇王の目線で核心を突いてきた。
「詐欺師泣かせだなぁミロちゃんは」
クックックッ、と喉を鳴らして笑い声を漏らしたのはバンダユウだった。自分の領分と踏んだのか会話に参加してくる。いつもなら愛用の極太煙管を回しているところだろうが、国王への謁見の場に持ち込む失礼はしない。
「約束ってのはね――縄みたいなもんなんですよ」
フレイ姫、と礼儀を払って呼び掛けたバンダユウは続ける。
「相手を縛った縄をこっちが持ってるから安全、と思い込まない方がいい。あちらを縛られればこちらも縛られる、これが正解です。おれたちの生きた日本って国には昔っからこんな言葉が伝わっています」
――人を呪わば穴二つ。
悪辣な極道らしい笑みでバンダユウは迫った。
「呪いを掛けた穴には相手を落とし込むばかりじゃない。自分も落とす覚悟がなけりゃいけない……そういう格言なんですよ」
脅し文句めいた言い方だった。
「約束もまた呪、自他双方を結んで縛る呪いなんでさ」
どこかで聞いたような口上だった。
ツバサはふと思い出す。そういえば主従契約めいた話を乙将オリベや万里眼イヨとした時、よく似た話で諭されたことがあったはずだ。
(※第280~281話参照)
亀の甲より年の功――老組長も一家言あるらしい。
バンダユウは得意の幻術で縄を取り出したかと思えば、デッサンフィギュアみたいな味気ない人形も具現化して手元で弄んでいた。
瞬く間に人形を縄で縛り上げていく。
「約束っていう縄で縛っても安心しちゃあいけません。御覧の通り、雁字搦めにしたつもりでも、身体の自由が利くところはあちこちに残っているし、慣れた者なら手練手管を使えばスルリと抜け出せる……」
喋るがままバンダユウは人形に実演させて見せた。
完璧に封じられたと思った人形だが、手首や足首にその指先、腰や首に頭までと各部を動かしたかと思えば、あっという間に縄から抜けてしまう。
「――約束とて同じことです」
教訓を言い聞かせるようにバンダユウが凄む。
有利な条件を出して契約させるのは構わない。だが、相手次第では契約を交わした上で出し抜くこともできるのだと説明しているのだ。
「そうなると縛られるのは自分だ。相手は『約束したんだから守れよな?』と契約を盾にして無理難題を吹っ掛けてくる……こうなるといけない」
バンダユウはフレイの条件を参考に例を並べていく。
「たとえば――自治権を認める」
地下都市の自治権は認めよう。ただし、五神同盟へ加わるならば同盟のルールを守ってもらうと強権を発動させて地下都市を服従させることもできる。
自治権を認められても無いに等しい状況に陥るだろう。
「たとえば――商取引は公正に行う」
こちらはいくらでもごまかしが利く。複雑化した経済社会でも詐欺や横領なんて手口は枚挙に暇がない。況してや経済概念が廃れた現在の真なる世界では、本気で騙そうとすればケツの毛までむしり取れるはずだ。
「後にはぺんぺん草も生えませんぜ?」
詐欺師の素養もあるバンダユウが言うと恐ろしい事例だ。
「たとえば――地下都市の国民を差別しない」
ならば地下都市の国民には上級種族なんて称号を授けよう。
肩書きだけは高い地位を与えておけばいい。そこから飼い殺しにしようがこき使おうかは同盟の自由。差別はしない約束という態は守っている。
「たとえば……」
「ちょ! ちょっと待ってマルカちゃんのお祖父様!?」
せっかくの条件を台無しにしていくバンダユウに、フレイはあたふた狼狽えながら「待った!」を掛ける。円らな瞳は半泣きで潤んでいた。
「そういう悪さをさせないための約束なんだよ? 穴があるっていうなら、本番の契約ではもっと条件の項目を増やして誓約書を認めて……ッ!」
「――そいつぁ悪手ですぜ」
この反応を待っていた、とバンダユウの口角が釣り上がる。
幻術使いな組長の右手に現れるのは、現実世界で見掛けたことがある誓約書。薄っぺらい冊子仕立てのものだ。広げた左手にも現れるが、こちらも誓約書には違いないが百科事典を越える分厚さがあった。鈍器になるサイズである。
「おれたちの世界にもこんな誓約書が出回っておりました」
片やペラペラ――片やズッシリ。
左右の誓約書の違いを掌で転がすことで見せつける。
「交わすべき約束の内容をしっかり練り込んで条項を盛り込めば、約束の効力は高まりましょう……だが、それは互いを縛る縄を増やすだけです」
バンダユウの言いたいことを察したらしい。
「約束事が増えるほど……私たちを縛る縄も増える……」
眉根を寄せたフレイはため息をつき、認めたくない事実を口にした。
「縛る縄が増えれば増えるだけ、それをあなたたちに押し付ければ悪感情を買ってしまうし、私たちが守るべき些細な条件も増えて不利になる……どっちも特はしないし面倒臭いし、関係は息苦しいものになってしまう……」
やはりフレイは頭の回転と飲み込みが早い。
比喩を用いた組長の講釈をたちまちのうちに理解していた。
そういうこってす、とバンダユウは満足げに頷いた。
「国のため民のための気張りたいのはわかりますが、そう突っ掛からずとも宜しいでしょう。大丈夫、五神同盟はそのような無体をしませぬよ」
――我らが生き証人です。
バンダユウは座にいる仲間たちを紹介するように手を振った。
手妻師のセールストークが冴え渡る。
「まず私ことバンダユウ・モモチが率いる穂村組からして、他人を殴ってナンボの商売なヤクザ者の集まりです。世が世ならはみ出し者の徒党に過ぎませんが、五神同盟では傭兵や用心棒の斡旋を主として重宝されております」
横道者の集団ながらも真っ当に扱われてる、と熱弁アピールをした。
「……………………」
黙ったフレイは半信半疑の眼差しを向けている。
意に介することのないバンダユウの弁舌は止まらない。幇間持ちのような言い回しはとても滑らかだった。
「嘘だと思うならこの場にいるアハウ国王殿、ミサキ国王殿、ショウイ代表殿、そしてツバサ女王様にお聞きしてみなさい。極道者な我らを誰一人として不当に扱った王や長はおりませんよ。証人が足らぬというなら応援を呼んでもよろしいでしょうか? 水聖国家のヌン陛下を始めノラシンハ翁など現地の方々を……」
「え? ヌンにノラシンハって……まさか!?」
自分が挙げた英雄の名前を返されたフレイは驚いて目を丸くする。
伏せておいたとっておきの手札を勝手にオープンにされた気分だが、動揺させるようにフレイの気を引けたので良しとしておこう。
彼女が聞き返す前にバンダユウの膝を打つ音が鳴り響いた。
「なんにせよ、フレイ姫が心配するようなことはございません。そりゃ同盟の方針に協力するための約束事はありますが、他は『悪いことするな、仲良くしろ、楽しく暮らせ』ってスローガンを掲げて頑張っていくだけですからね。大丈夫、居心地はいいところだって保証いたしましょう」
(※同盟の方針=第145話にて軍師レオナルドが6つの条項に取りまとめ、第213話にてクロウが『人道に基づいた行動をすること』と7つ目の条項を加えた定款めいた行動方針。詳しくはそれぞれの話を参照)
――駄弁失礼いたしました。
語り終えたバンダユウは一礼すると話を締め括った。
彼が口上に交えたスローガンには、ツバサの隣に正座で座っているミサキがピクッと肩を振るわせていた。思うところがあるらしい。
実はこのスローガン――ミサキが立案したものなのだ。
五神同盟でいち早く他種族国家への道を踏み出していたミサキは、集まった国民の前で演説を行い、この三本柱なスローガンを打ち出したという。
彼の師匠でもある軍師レオナルドが「俺の愛弟子はスゴい!」的な弟子自慢をする度に話題とするので、自然と五神同盟に広まってしまったのだ。
今では同盟内のスローガンとして標榜されている。
レオナルドは公然と弟子自慢をする度、恥ずかしがるミサキから手加減なしの肘鉄やパンチにキックをもらってボコボコにされていた。
殴られても蹴られてもレオナルドは嬉しそうだったが……。
それを持ち出されたので気恥ずかしいのだろう。
ツバサの右にはミロが座り、左にミサキが座っていた。頬を赤らめて前髪で目線を隠そうとするミサキの頭を撫でてやる。可愛い。
「……えっと、その……あのね?」
フレイは思ったより懊悩していた。
放言めいた説得ながら、バンダユウの自由闊達な弁論は想像以上に効き目があったらしい。尚も食い下がろうとするフレイだが言葉が出てこない。
俯きがちに両手の指をモジモジさせて、こちらの様子を窺っている。
もう一手――彼女の心を動かす何かが必要だ。
「もう良い、フレイ……もう良いのです、フレイ殿下」
その時、見るに見かねたのかゴルドガドが動いた。
二段目に座していた国務大臣は素早くフレイの前へと移動する。姫を庇った爺やは床に手をついて額ずくほど頭を下げてくる。
詫びを入れるのはツバサたちに対してだ。
「大変失礼致しました五神同盟の方々……我らが姫が犯した非礼の数々、このゴルドガドが謝罪させていただきとうございます」
土下座するゴルドガドはそのままの姿勢で釈明を始める。
「ですが、どれもあなた方への悪意や敵意より生じたではございません。すべては我ら臣民を慮ってのこと……放埒な言動、どうかお許しくださいませ」
「ゴル爺やめて! 私は別に……ッ!」
「黙っておれこのたわけ! 王としてこれ以上の恥を晒すでない!」
自身の謝罪を止めさせようとしてきたフレイに、ゴルドガドは少しだけ振り向いて一喝した。次いで豪壮な顎髭から痛快な笑みを露わにする。
「――大人の我らにも恥を掻かせよ」
すべてを一人で背負うことはない。爺やの笑顔がそう物語っていた。
もう限界のようだ。
「……ッッ! …………ゴ、ゴルドガド……ごめん……ッ!」
フレイは目尻から大粒の涙をこぼすと両手で顔を覆い、声を殺して啜り泣いてしまった。彼女の涙を背にしたゴルドガドはゆっくり頭を上げた。
決意を固めた深呼吸した後、老臣は打ち明けてきた。
「フレイ殿下がたとえ皆様方に憎まれようとも嫌われようとも、あれほど同盟入りに際して慎重を期したのには理由がございます……」
「国民のため……と仰っておりましたね?」
ツバサの問い振り向いたゴルドガドは「左様」と答えた。
ドヴェルグ族、サイクロプス族、アマノマヒトツ族、
そして大型齧歯類と酷似した体格を持つモフモフした種族たち。
「――我らは冷遇された過去があるのです」
流血沙汰になるまでの差別ではなく、奴隷の如く扱われるほどの迫害ではないが、軽んじられた人権により種族単位で白い目を向けられたという。
身内の恥のようですが……ゴルドガドは前置きする。
「我らドヴェルグ族を始め、サイクロプス族もアマノマヒトツ族も鍛冶の匠。打ち出された武具は使う者の力を幾千倍にも高め、鍛え上げた防具は身にまとう者を守るのみならず身体能力の底上げする……それほどの逸品揃いでした」
ゴルドガドの声には鍛冶師としての自負があった。
使用者に力を与えるための武器、装備した者の命を守る鎧兜、手にした者に最大限の恩恵を与える道具や器物を作らんとする製造者の想いだ。
工作者たちの物作りへ懸ける情熱を思い出させる。
「しかし……使う者の多くは我らドヴェルグを蔑ろにしました」
両眼を閉じたゴルドガドは虚空を見つめるように顔を上げた。その寂しげな横顔からは過去に味わわされた無念を滲ませている。
過ぎたことは忘れたいが、心の奥底まで抉られた傷の跡は消えない。
そんな面持ちに哀愁を感じざるを得なかった。
「我らの打つ剣は神も魔も殺し、たとえ異邦の怪物であろうとも撃滅する……その触れ込みを聞きつけたタチのよろしくない悪神たちが、我らの先達を誑かして唆して騙くらかして……そうして出来上がった最高傑作を無料同然で奪い去っていったことがありました……そう、これが発端だったのです」
(※北欧神話において神槍グングニルや撃鎚ミョルニルといった名だたる神器の多くが、ドヴェルグ製といっても過言ではない。ただし、それらの大半が悪神ロキの奸計が原因で造られており、しかもロキの口車に乗せられて盗まれるみたいに巻き上げられているという酷い話ばかりである)
ドヴェルグ族最高の鍛冶師が造った窮極の武具。
それを手にした神族が蕃神(※当時は外来者たちと呼ばれた)を蹴散らしたことで、誰もがドヴェルグ族の武具を欲しがった。需要は急増したのだ。
しかし、最初の入手方法が不味かった。
「件の悪神がドヴェルグ族より巻き上げたと知った神族や魔族は、我らにまた無償で武具を打てとせがんできて……より強い武器を、より硬い防具を求めて……我らへの報酬は支払われず、文句を言えば言いくるめられ丸め込まれ……」
――お代だと? 真なる世界存亡の危機にそんなこと言っている場合か!
――これで外来者たちを倒したら出世払いで払ってやるよ!
――最強の武具を造らねば家族がどうなっても知らないぞ!
――あの神族に勝る武器を造らなければ子々孫々まで追い詰めてやる!
老臣が覚えてる限りの心ない言葉の数々。
それを聞いたツバサたちは一様に怒りで表情が険しくなった。
「無茶苦茶ですね、そんな言い分が通るなんて……」
「あの頃は外来者たちによる侵略戦争真っ盛りでしたからな……道理よりも暴力が罷り通る時代でもありました……ゆえに余計そうだったのでしょう」
回想するゴルドガドに懐かしさへ浸る心情はない。
ただただ苦味を堪えるように髭に隠れた口元を食い縛っていた。
「しかし、我らの造りし武具で世界を守れるなら本望……とは思うものの、栄華と名声を授かるのはその武器を振るった使い手ばかりでした……」
使用者の代名詞となる神剣や魔槍はその名を轟かせた。
だが、それを手掛けたドヴェルグ族の鍛冶師たちの名は世に知れ渡らず、神族も魔族も奴隷よろしく新しい武器を造るよう責め立ててくる。
臍を噛むような声をゴルドガドは絞り出す。
「我らに栄光の輝きが当たることはなく、ただひたすらに武具を造らされて、冥く光の差さない地の底に闇の妖精として追いやられるばかり……」
そのためドヴェルグ族は「日の光を浴びたら石になる」という俗説まで生まれてしまい、地底に潜む偏屈者なんてレッテルまで貼られたらしい。
(※北欧神話のドヴェルグ族は「日光で石化する」と言い伝えられている。そのため地下世界から出てくることはないという)
大枠を話し終えたゴルドガドは長い吐息を付いた。
「……これが我々の冷遇されてきた歴史です」
迫害や差別というほど苛烈ではなく、むしろその技量は多くの人々に求められてきたが、武器を造るだけ造らされて見返りは与えてもらえなかった。
扱い的には軟禁された武器製造奴隷といった具合だろう。
傑作も、成果も、栄誉も、名声も、功績も――すべて奪われた。
残されたのは日の光を嫌って地下に潜み、鉱物を掘る闇色に染まった妖精という種族まとめて冷ややかな目で見られる蔑称だけである。
こうした経緯からゴルドガドは“冷遇”という単語を用いたようだ。
「あの……わたしたち一族も似たようなものでして……」
よろしいでしょうか? というおっかなびっくりに挙手しを上げたのはステロペだった。3m越えの女の子なので些細な動作でも目立ってしまう。
大柄な一つ目でも美少女と認識できる。
濁りや曇りがひとつない大きな瞳が美しいからだろう。
彼女も物憂げに目を伏せると、自らの一族の境遇を明かしてくれた。
「わたしたちサイクロプス族は、元を正せば天と地を司る神族の間に生まれたそうなのですが……天の神族である父に『醜い』と嫌われて地下深くに封じ込まれてしまったそうなんです……」
(ギリシャ神話のサイクロプス=キュクロプスは、天空神と大地母神の間に生まれたが、他の巨人ともども天空神に嫌われて奈落の底へ幽閉されていた。解放されたのはゼウスが主神として神々の霊峰を治めた時。以後は鍛冶神ヘパイトスの元で神々の武器を造るために働いたとされている)
皿のように大きな単眼を涙で潤ませてステロペは続ける。
「その後、とある神族の王様からの恩赦が出て地下から解放されたのはいいのですが……この見た目のせいか怖がられたり嫌われたりして、どんなにいい武器や道具を造っても、あんまりいい顔されなくて……ううっ」
涙ぐんでいたステロペは、とうとう単眼を両手で包んで泣き出してしまった。大きな瞳からこぼれる涙の量は全開にした蛇口のようだった。
「――お客人の前で泣くな馬鹿者!」
怒ったのはゴルドガドではなくメノムだった。
どうやら彼女の方が年上のお姉さんらしい。雰囲気からしてステロペの方が妹分である。泣くステロペを叱りながらも見守っていた。
仕方ない、と言わんばかりにため息をついたメノムが話を継いだ。
「私たちアマノマヒトツ族も似たり寄ったりです……外来者たちを屠るための武器を造れ、世界のためだから無償で武器を造れ、鉱山を見付けろ、鉱石を掘れ、坑道も整えろ……侵略戦争をお題目に反吐が出るほどこき使われてきました」
「ドヴェルグ族やサイクロプス族と大差ありませんね」
ツバサの合いの手に頷いたメノムは頷いた。
恨み辛みを思い出すのか、バレないように唇の端を噛み締めている。
「武器を使って勝利を収めた者は当然のように讃えられ、救国の英雄と持て囃されてきました。しかし、その武器を手掛けた我らには褒め言葉のひとつもない……」
忌ま忌ましさを隠さないメノムは単眼を鋭く細めた。
「……裏方仕事だと弁えても頭に来ることは多々ありました」
奉仕の要求された過去――正当に評価されない屈辱。
このふたつを彼ら三種族は“冷遇”の二文字に託して、鬱屈した想いを抱えてきたのだろう。とてもやるせない話だった。
ふとミロが大広間の片隅を人差し指で指し示した。
「じゃあ……モフモフさんたちも冷遇されたの?」
そこには給仕役のメイドさんたちが控えている。普通の種族も何人かいるが、その多くはモフモフした大型齧歯類めいた種族たちだ。
ドヴェルグ族を始めとした亜神族たちの苦難は知ることができた。
彼らとともに地下都市を築き上げてきたモフモフの種族も「似た者同士」みたいなニュアンスだったので、そこが気になったのだろう。
単眼を閉じたメノムは小さく小首を振って悲しげに囁いた。
「彼ら彼女らは……御覧の通り小さいのです」
種族的には地中の掘削や河川の治水などの才に恵まれているが、一個体としての膂力は弱く戦士としては非力だ。戦争では役に立たない。おまけに外見も他種族と比べればネズミ型の小動物と見間違いかねない有り様。
「そのためか我ら同様、蔑ろにされてきた歴史がありまして……」
場所によっては人権を認められなかった地域もあったという。
地球でも似た話があるから耳が痛いものだ。
「穴掘りに水の管理――鍛冶には必要不可欠ですからな」
再び口を開いたのはゴルドガドだった。
「鉱山開発を手伝ってもらったり、山を切り崩して土砂から鉱石を取り出すために川の流れを利用したり……我らは彼らの力を借りてまいりました」
どうやら地下都市の構造が見えてきた。
鍛冶に秀でた三種の亜神族が主導して国を切り盛りし、掘削や治水といった製造業になくてはならない才能を持つモフモフの種族がサポート役。
お互いに冷遇された身だからこそ分かり合える。
持ちつ持たれつの関係で上手にやってきたのが窺えた。
「! もしかして此処にいるのは……」
「お察しの通り……我らは逃げてきたのです」
あることに気付いたツバサが口を濁して尋ねると、ゴルドガドは今更隠し立てする意味もないからか、地下都市が大陸島にある理由を話してくれた。
「戦争を続ければあらゆる物資を消耗し、手を打たねばいずれ枯渇するのは目に見えております……我らは資源調達という大義名分とともに中央大陸から漕ぎ出し、伝説に聞いた南方大陸を目指しました……ここまでが建前ですな」
本当の目的は――新天地を目指すため。
「我らを冷遇する者のいない、我らによる我らのための我らの国家を打ち立てるため……この大陸島に住み着くようになったのでございます」
自分たちの国を造るため逃避行を決めたそうだ。
本来の目的地は、ツバサたちも目指している“未知なる南方大陸”。
何らかの事情により南方大陸は諦め、その手前に広がる南海にあった大陸島に身を寄せたらしい。この地も資源に恵まれていたから御の字だろう。
南方大陸へ渡らなかった事情も知りたいところだ。
「冷遇される技術者……世の常なのかも知れませんね」
唐突に声を漏らしたのはアハウだった。
制するように片手を上げれば大仏めいたポーズである。ビーズクッション座布団ふたつでも足りない獣王神の巨体なので迫力もあった。
失礼、とアハウはまず失言を詫びる。
「真なる世界において類い希な鍛冶師であるあなた方が冷遇されたように、地球の鍛冶師もまた冷遇された時代があったものですから……」
「地球でも……同じようなことが?」
ゴルドガドのみならず単眼美少女な二大臣も興味を寄せる。意気消沈になるあまり項垂れたフレイも怠そうだが顔を持ち上げた。
四人の好奇心を誘ったアハウは咳払いをする。
そして、大学で講義でも始めるみたいな調子で喋り出した。
「――鍛冶に限った話ではありません」
樹木を伐って削り出して木工品にする、鉱石を叩いて伸ばして金属にする、草花を溶かして漉いて紙にする、土を捏ねて焼いて陶器にする……。
「自然を加工して物を作ること、その行為自体が神秘的なのです」
その術を知らぬ者には不思議な技でしかない。
理解できない技や術は神秘的な秘術に他ならないのだ。
「ゆえに大昔は物が作れる技術者は特別視され、優遇された時もありましたが多くの場合は『理解できない技を使う』と敬遠されました」
これもまた冷遇と近似した扱いに違いない。
特に金属加工は重労働かつ専門的な知識が多いため、研究と研鑽に試行錯誤を繰り返さなければならない。
その果てに生み出される金属製品の威力は凄まじいものだった。
皮を裂いて肉を斬り骨を断つ刀剣、鋭い刃を弾いて身を守る鎧、硬い土に深々と刺さって邪魔な木の根も切り分ける鍬に鋤……。
「実用性のある魔術や魔法に恵まれない地球では、こうした技術こそが神秘性を秘めた魔術的なものとして目に映ったのです。それは貴賤なく人々を魅了すると同時に、どうしょうもなく恐れ戦くものとして遠ざけられました」
文明が発達した時代ならいざ知らず――。
ろくに知識というものが出回ってない時代、鍛冶師たちは石塊から魔法の武器を造り出す怪物のように畏怖の対象とされることも少なくなかった。
ある地方ではよく斬れる刀を打つ鍛冶師を恐れて鬼と呼んだ。
鬼が打った名刀だと現代にも何振りか伝えられている。
ある地方では炉の火を見つめすぎて片目を失い、炉の火力を上げる鞴を踏みすぎて片足を悪くした鍛冶師から一本だたらという妖怪を想像した。
(※鞴=空気の流れを作り出して火に酸素を送り込む装置。様々な種類があるが、昔は足で踏むタイプが多かったため、鍛冶師はこれを日常的に繰り返すから足を悪くするとされていた。だからなのか鍛冶を司る神は火を見つめすぎて片目を失うとともに、片足が無かったり片足が悪かったりするケースが多い)
「他にも鍛冶師を色眼鏡で見た例はたくさんあります」
鍛冶師が特別視された類例を上げたアハウは一息ついた。
「時代が下るに連れて金属加工の技術が進歩し、その仕組みが世に広まってくるとこうした妖怪扱いこそなくなりましたし、技術者によっては名工と尊ばれる職人も現れましたが……それでも神秘性を失うことはありませんでした」
畏怖さえ覚える神秘性は、差別や迫害といった待遇に変転しかねない。
やはり――地球の鍛冶師もまた冷遇された。
その経緯についてアハウは丁寧にフレイたちへ解説する
ゴルドガドたちと話を合わせるためにアハウは“冷遇”の二文字を用いたが、話を要約すればこんな感じである。
『地球の職人たちも一定の評価はされたが、やはり裏方で終わりました。刀剣から銃火器の時代に移り変われば廃業を余儀なくされたし、平和な時代になれば需要が極端に減って稼業が成り立たなくなっていった。職人の培ってきた技術は次第に忘れられていき、今や伝承に語られるのみとなってしまった』
――敗北国の奴隷として死ぬまで鉄を打たされた鍛冶師もいた。
――その刀剣は誰かを呪い殺すと忌避された鍛冶師もいた。
――武器を造るだけ造らされてから代金惜しさに殺された鍛冶師もいた。
鍛冶師のみに限った話ではない。
様々な物を作る職人はその腕こそ頼られたものの、必要な品さえ作れば後は用なしとばかりに無下に扱われた事例は歴史にいくらでも散見していた。
「そして、技術者の軽視はこれに留まりません」
アハウは獣毛が棚引くほど首を左右にフルフルと振る。
そこにはどうしょうもない人間への“呆れ”が表されていた。
かつて技術大国と呼ばれた――日本。
しかし、日本を大国へとのし上げた技術を開発してきた職人たちはその功績を正しく評価されず、称賛はおろかろくな褒賞すらも与えられず放置され、あまつさえトップシークレットにすべき大切な技術はどんどん海外へ流されてしまう。
口の上手い奴ばかりが上に立ち、資金を横から掠め取ることに終始し、肝心要の技術者や職人はこれでもかと虐げんばかりに酷使する。
愚かしい故郷の歴史もアハウは語り明かしていく。
「……新たな技術を開発するための予算さえ徹底的に渋る始末です」
獣王神は怒り肩を撫で下ろして嘆息した。
「そういえばIT系に就職した友人からよく愚痴を聞かされましたね」
技術者周辺からの情報も集めていたのか、ショウイがアハウの講義へ賛同するように意見を述べる。知人から直接聞いた話らしい。
「彼は所謂インフラエンジニアという仕事に就いていたんですが、昨今はプログラミングしかできない新人ばかりで困っていると、俺たちはもっと包括的にITインフラを組み立てられる人材を求めてるんだと……」
しかし、そこまで高度な技術を有するエンジニアは限られている。
プログラミングのみならず、IT全般に及ぶ膨大な知識がなければ務まらない職種なため、使える一人前になるまで時間が掛かる。
そのくせ現場は重労働を課して、人員を使い潰すことも厭わない。
「ネットワークを維持できなければ立ち行かないVR時代なのに、その土台を支えるITインフラの技術者を誰も大事にしない……って嘆いてましたね」
「アニメーターさんとかも大変って聞くよね」
ミロが茶々を入れるみたいに軽口を叩いたが、その業界も艶消しするほどのブラックな話しか聞かないので、あながち間違いではないのかも知れない。
小突いて黙らせるつもりだったが大目に見ておこう。
「そんなわけでして……地球でも腕の立つ技術者は軽んじられてきました」
いつの時代も技術者は冷遇される。
その果てに待っている破綻に思い至る者は限りなく少ないのだろう。
話のまとめに入ったアハウは誠実な笑みで訴える。
「同じ轍を踏んではいけない――私はそう愚考しております」
野獣も逃げ出す獣王の巨体で身を乗り出したアハウは、フレイたちを説き伏せるべく五神同盟に置ける技術者への待遇について説明していく。
「我がククルカン森王国には日之出工務店という工作者集団がおります」
日之出工務店 社長 ヒデヨシ・ライジングサン。
彼が率いる10人の工作者は、地球での本業こそ建築関係をメインとした大工だが、真なる世界に転移してからは様々な物作りに対応できるよう技能の幅を広げていた。全員揃えば大概の物は造ってくれるはずだ。
「侵略戦争により文明とともに技術を失った人々が多い中、物を作る術を再び教えてくれる彼らはとても尊敬の念を集めています……」
あなた方も例外ではないはずです――アハウは応援を手向ける。
今の真なる世界は技術者を求めていると力説した。
「もしも同盟加入が成立した暁には、是非とも地下都市の職人や技術者の方々を我々の国々に招聘させていただきたい。もはや誰もあなた方を冷遇しない。その研ぎ澄まされてきた腕に必ずや敬意を仰ぐことでしょう」
五神同盟加入――善処していただきますようお願い致します。
アハウは大型類人猿みたいな両の拳を床に付くと、武家のお侍さんが頭を下げるようにお辞儀をした。バンダユウに続いて説得に回ってくれた形だ。
フレイはまだ戸惑っているらしい。
小さな両手で顔を覆ったまま声を出さずに泣いていた。
既にゴルドガドは定位置に戻っているが、玉座に着いた姫君の様子から片時も目を離すことはない。すぐ対応できるよう注意深く見守っていた。
すん……すん……としゃくり上げる声が聞こえる。
「本当に……国民をいじめない?」
細い指の隙間から涙目を覗かせて、請うように問い掛けてきた。
ツバサはぼやけた視界でもわかるようにしっかり頷く。
「私たちもこの真なる世界に来て数年足らずの新参者……世が世なら現地の人々に馴染めず爪弾きにされていてもおかしくはありません」
お互い様ですよ、とツバサは親しみを込めて苦笑いで返した。
「同盟云々は後回しでも構いません。まずは国交を結んでから……ッ!?」
すると――不意にミロが立ち上がる。
ツバサたちが呆気に取られている隙にツカツカと玉座へ近付いていき、ステロペやメノムが制止するのも間に合わず、フレイの前へと立った。
ミロはしゃがんでフレイと視線を合わせる。
ん、と小さく唸るように喉を鳴らしながら右手を差し出した。
「友達から始めようよ――ね?」
損得勘定抜きの清々しい笑みで握手を求めるミロに、フレイは泣き腫らしていた顔を覆っていた両手をゆっくり解きほぐしていく。
「友達……からでいいの?」
「うん、仲良くやってこうよ。もしもフレイちゃんとその仲間たちをいじめるようなバカ野郎がいたら、アタシが全部ぶっ飛ばしてあげるから」
約束する! とミロは快活な声で言い切った。
口約束とはいえ神族が言葉にすれば契約は発動する。今後、地下都市の関係者に不逞な真似を為出かした輩はミロが処罰することになってしまった。
まあ――これでいいかも知れない。
他国に無礼を働く痴れ者は、少なくとも五神同盟には存在しない(……と思いたいのは山々だが、怪しいのが何人か思い当たるので心配だ)。
いくら申し開きをしても完全証明は難しい。そんなフレイの不安を払拭するため、ミロが一手に引き受けてくれたようなものだ。
この契約は発動せず日の目を見ない。
それでもフレイの心の隙間を埋める一助にはなってくれるだろう。
「……うん、わかった」
友達から……と呟いたフレイはミロと握手を交わす。
見守るゴルドガドが深い皺の刻まれた目元に涙を溜めながら拍手をすると、それを皮切りに大広間にいた大人たちからも拍手が上がった。勿論、ツバサもゴルドガドに次いですぐに拍手を打ち鳴らした一人である。
ひとまず地下都市の五神同盟入りは保留でいいだろう。
先に解決すべきことがありそうだからだ。
「そういえば……フレイちゃんが出してた条件」
五つめってなんなの? とミロは思い出したように小首を傾げる。
握手を交わしたまま片手で涙を拭っていたフレイは、濡れたままの顔でも真剣味を帯びると、しゃくり上げる喉を整えてから明かしてくれた。
「うん、五つめはね……半魚人どもを一匹残らずやっつけること」
「最後のだけハードル高くない!?」
四つめまでとは風向きがガラリと変わっていた。
深きものどもの完全なる殲滅――これが五番目の条件だという。
「四つめまでの条件は……私が国民を守りたくてお願いしたかったこと……でも、これは違う……あなたたちが心配だから……試させてもらいたいの」
――これは試練であり試験である。
フレイの口調は冒険者の力量を図りたい王様のようだった。
「これは南方大陸へ渡る資格があるかを見定める試験……あいつらを完全に退治できるくらいじゃないと、南方大陸へ行かせることはできない……」
せっかくできた友達――死地へ追い遣れるわけないじゃない。
困ったように眉の八の字にしてフレイは微笑んだ。
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記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
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異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
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彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
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※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
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